職場でAI(人工知能)から仕事の命令を受ける時代はそう遠くはないのかもしれない。いわゆるAI上司である。AIはどんどん正しい判断や合理的な思考を獲得しているからだ。
そしてすでにAI面接官は存在している。ついに採用選考でAIに人材を選ばせる企業が現れたのである。
就活生は必死に採用面接の対策本を読み漁るが、今後「こう答えればAIに気に入られる」といったAI対策本が出てくるかもしれない。
採用を含め、企業の人材関連業務のことをHR(ヒューマン・リソーシズ)というが、このHRにITやAIなどのテクノロジーを搭載した「HRテックのいま」を紹介する。
大手に限ればAI採用選考はすでに25%
先ほど「ついに採用選考でAIに人材を選ばせる企業が現れた」と紹介したが、リクルートキャリアによると、何らかの形で採用選考でAIを使っている企業は0.4%にすぎない。
ところが従業員5,000人以上の大企業に限定すると、AI採用選考は既に25%に達しているという。携帯キャリア、飲料メーカー、生命保険会社などの名前が挙がっている。
AI面接官と聞くと未来を先取りしているイメージを持つが、人事担当者たちの声を聞くと、将来の社長を探すためにAIを使っているというより、膨大で煩雑な採用業務をAIにさせているといった印象だ。
大手企業になると、どうしても冷やかしで採用選考に応募する学生が増える。人事部の採用担当者がそのような「ダメ元」応募者の履歴書を見たりリクルート面談を行ったりするのは、徒労に終わる確率が高い。かといって届いた履歴書のすべてに目をとおさないと、ダイヤの原石を取りこぼすことになりかねない。
そこでAIを使ってフィルターをかけることで、徒労を減らそうというわけである。つまりAI面接官は、人事部長に「この人を採用すべきです」と提案するのではなく、人事部スタッフの仕事を減らしてくれるのである。
AIを使って書類選考をしている企業でも、AIが弾いた履歴書は人がすべて確認しているところもある。ダメ履歴書が本当にダメなのか、人の目で確認するためだ。
それでも、AIがよいと判断した履歴書の学生たちを自動的に次の選考ステップに進めさせることができるだけでも省力化できているという。
NECのAIは履歴書を読み込む
NECは2015年にAI人材マッチングシステムを構築し、現在はすでに採用面接すべき学生の数を半分に減らせるまでになっている。
NECのAIは、履歴書を読み込むエキスパートだ。最初に過去の応募者2,000人分の履歴書をAIに読み込ませる。次に2,000通の履歴書のうち、合格した履歴書と不合格になった履歴書をAIに教える。するとAIは、その会社が好む履歴書を選ぶことができるようになる。
例えば、AI人材マッチングシステムを導入した企業が、「仕事に粘り強く取り組むことができる人材がほしい」と考えたとする。AIにその意向を学ばせると、AIは履歴書の自己PR欄から「地道に成長していきたい」「裏方で活躍することが多かった」といった文言を拾い集めるようになる。採用担当者が注目した文言を学習したからだ。
面接すべき学生の人数を半減させることができたNECは、次は適性検査や1次面接を省略できるまで精度を上げていきたいとしている。
人型ロボット「ペッパー」が質問する
2014年設立のIT・AIベンチャーの株式会社タレントアンドアセスメントは、AI面接システム「SHaiN」を、ソフトバンクが開発した人型ロボット、ペッパーに搭載した。だからSHaiNを導入した企業の採用選考を受ける学生は、ペッパーから質問を受け、ペッパーに回答することになる。
まさにAI面接官が誕生したわけである。
SHaiNのユニークな点は、AIにあえて人材評価をさせないことだ。SHaiNを内蔵したペッパーが集めた学生たちの回答を判断するのはあくまで人である。
ではSHaiNは何をするのかというと、ただひたすら質問をしていく。
例えばSHaiNペッパーは学生に「学生時代に困難を乗り越えたことがありますか。『はい』か『いいえ』で答えてください」と聞く。
学生が「はい」と答えると、SHaiNペッパーは「どのような困難でしたか」と質問を続ける。
学生が困難の説明をすると、SHaiNペッパーは「どうやってその困難を乗り越えたのか」「どうして乗り越えようと思ったのか」とさらに深掘りしていく。
SHaiNペッパーが質問するのは、バイタリティやイニシアティブなどの11項目である。
SHaiNペッパーが集めた回答は、タレントアンドアセスメントの社員が点数化して、導入企業に提出する。
SHaiNをペッパーにではなく、スマホのアプリに搭載すれば、学生はSHaiNを使って1次面接を自宅で受けることができる。SHaiNは学生の回答をネットで集めクラウドに保存していく。ということは、学生は24時間365日、都合のよいときに1次面接を受けることができるわけである。
AI面接は採用側だけでなく受験する側の労力も減らすことができるのだ。
SHaiNに質問だけさせるのは、企業の実際の面接では面接官が意外に重要なことを聞き忘れることが多いからだ。企業規模が大きくなるほど面接官の数は増え、学生たちの潜在能力を「聞き出す能力」に差が出てくる。ということは、聞き出し方が下手な面接官に当たった学生はそのせいで落とされてしまうかもしれない。
SHaiNなら尋ね忘れることはない。AI面接は学生の潜在能力を均等に引き出すことができるのである。
AIによるHRは採用選考の次を見据える。「新人を辞めさせない」「適材適所配置する」
先ほど紹介したNECは、AI採用選考の次を見据えている。理想の採用選考とは、社内の全部署から人材ニーズを聞き取り、それに合致した学生を獲得することである。ところが、適切な人材を採用しているのに、新人社員を早期退職させてしまう企業は少なくない。
例えば、営業部が「ガッツがある人材がほしい」、経理部が「財務に興味がある学生がほしい」、開発部が「イノベーションを起こせる人を採ってほしい」という要望を持っていたとする。人事部は人を見る目があるので「偶然」、そのような人材をすべて採用できることはあるだろう。
しかし「偶然」採用できただけだと、入社後の配属先を決めるときに新人の素養と配属部署のニーズをうまくマッチさせられない。そうなれば新人も職場も「なんか違う」と感じることになり、早期離職を招く結果となる。
そこでNECは、ユーザー企業に在籍する優秀な社員の特徴をAIに覚えさせ、その優秀社員と似た学生を探させようとしている。この試みがうまくいけば、優秀社員に似た素養を持つ新人社員に、優秀社員と同じようなキャリアを積ませれば優秀な社員を量産できるわけだ。
採用から配属、キャリア形成までAIが管理できれば人材育成の無駄を減らすことができる。
歩数計で最強のチームづくりをする?
東大とヤフーは、社内で同じ歩き方をしている人を探し、プロジェクトチームのメンバー編成の参考にしようという取り組みをしている。
社員のスマホに歩数計のアプリをインストールして、歩数やよく歩く時間、歩くテンポなどのデータを集める。
すると、同じパターンの歩き方をしている人たちは、ともに行動していることが多いことがわかった。また、ランチを一緒に食べることは少ないが、夜は一緒に外食に出ることが多い、といったこともわかる。これにより部署の壁を超えた社内人間関係がみえてくるのだ。
「仲がよい」と判定できた人物を次のプロジェクトチームをつくるときに一緒にすればコミュニケーションが円滑にいき、パフォーマンスを上げやすい。
逆に、あまり同僚と一緒に行動しない人を、濃密なコミュニケーションが求められるチームに入れないでおくこともできる。そうすることで、同僚と一緒に行動しない人のストレスを小さくすることができる。
歩行パターンのデータは、少なくとも1日8時間分になる。それを全社員分集めることになるので、データは膨大な量になる。しかも人の歩くパターンは複雑だ。
そこでAIに歩行パターン分析をさせる。AIは膨大なデータのなかから法則をみつけるのが得意だからである。
まとめ~AIは人の能力を見える化できるのか
AIによってHRテックはさらに進化するだろう。AIのよいところは、人がAIを正しく教育すれば間違った判断をしないことだ。AIは偏見を持たず、教師(人)が教えてくれたとおりの仕事を淡々とこなす。
採用選考だけでなく、新人の配置や人事異動などのHR業務を担当する人は偏見を持ってはならない。面接官や人事部員や管理職の偏見は、ゆがんだHRを生み、企業内に不要な軋轢を生み、パフォーマンスを落とす。だからAIによるHRテックの普及が期待されている。
しかし「果たして人はAIを正しく教育できるのか」という問題が残る。もしその課題をクリアできたら、AIは人の能力を見える化できるようになるかもしれない。
<参考>
- 採用活動で活躍し始めた「AI面接官」(日経ビジネス)
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/060700137/?P=1 - AIが採用面接を代行 支援サービス「SHaiN」開始(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO18265070Z20C17A6000000/ - SHaiN(タレントアンドアセスメント)
https://www.taleasse.co.jp/shain/ - AI採用っていいじゃないか いや、弱点もある(ITmediaビジネス)
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1805/04/news010.html
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