広告はAIが作る時代?業界内でAIが重宝される理由とは

広告業界で注目を浴びるのがAI(人工知能)による自動化だ。なぜAIが業界で重宝されるのか、そこには業界特有の事情が垣間見える。

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製造業や食品業界、農業など、AI(人工知能)の導入は多岐にわたり検討されている。広告業界も例外ではなく、AIをすでに導入し実用段階に入った企業もあるなど、期待が高い。では、広告業界がAIを重宝する原因はどこに由来するのか。

ai(人工知能)-広告業界での使用例

代理店は広告業務の何を自動化出来るのか

広告とは何か

新聞やDM、インターネットなど、広告のメッセージが溢れる。広告を当たり前のように目にするため、逆に見えにくい部分があるだろう。そこで、広告やその業務について確認しておこう。

広告に必要なものは、その情報性や説得性だろう。「世界ではじめて有機ELを搭載したスマートフォン」のように製品の特徴を盛り込めば情報性が増すし、「従来の液晶に比べて有機ELならばこれだけ見やすい」という情報が写真とともに掲載されれば説得力を増す。ここに、インパクトの強いキャッチコピーやフォトジェニックな写真といった素材が加わることで、広告が構成される。広告は商品の売り上げに直結するので、ビジネスの規模が大きいのも頷ける。

広告制作において、広告主と広告会社との関係が見逃せない。広告会社は、広告主の要望に対し、計画を立案、広告を制作する専門集団だ。業界最大手の電通は、1999年の広告世界ランキングで売上高が約630億ドルにも及び、世界第5位だ。広告会社が、広告業界の今後を握っているといっても過言ではない。

広告業界が注目するAI

AI(人工知能)というバズワードのもつインパクトは非常に強い。その原因の一端が、Googleが開発した「アルファ碁」と呼ばれるコンピュータが、2016年初頭に囲碁の世界チャンピオンを破ったことだろう。アルファ碁に搭載されたディープラーニング(深層学習)はAIの代表的手法で、「AIならば人間を超えるパフォーマンスを発揮できる」という見識を広めた。その意味では、広告としてのインパクトが強い出来事であるともいえよう。広告業界の人間が、この歴史的イベントを黙って見逃すわけがない。「AIならば広告業界を変える」という見識をもつのに時間がかからなかった。

先述のように、広告を制作するまでのプロセスは長い。企画の立案から、メディアの選定、潜在的な顧客にあった広告の配信、広告に使用するコンテンツ選びから作成まで挙げるとキリがない。逆にいえば、AIを投入できるプロセスは無限に存在するともいえる。AIによって広告業界にパラダイムシフトが起きるのではと期待が高まるのも頷ける。

広告業界に限らず、関心事は「事業をいかに効率化できるか」だろう。少子高齢化により労働人口はいずれ減少の一途をたどる。2018年現在売り手市場であることから、人材が一部の業界に偏るなど、人材不足が深刻だ。広告業界も安閑としてはいられない。RPA(Robotic Process Automation)により業務を自動化するなどして、ヒトが従事する部分を減らすことが期待される。とりわけ「AIにより完全な自動化は可能なのか」が気になる点だ。

人材不足である一方で、AIによりヒトの職業が奪われるのではという危機感もある。タクシードライバーやデータ入力係など単純な業務はAIに奪われると考える識者は多い。クリエイティブな業務もその限りではない。Adobe Summit 2018で、Adobeが開発したAI「Sensei」がクリエイティブを制作し来場者を驚かせた。このほかにもキャッチコピーを制作するAIが登場するなど、クリエイティブな業種でもAIで実行可能なのは証明済みだ。だからこそ、「AIにより完全な自動化は可能なのか」が広告業界にとって深刻な問題となる。

広告業界でAIが注目される理由

広告業界でのAIの活用事例

AIによる顔認識で広告を適材適所に振り分ける―博報堂

業界第二位の博報堂は、早くからAI導入の検討を開始した企業だ。2016年秋に、マイクロソフトから「Cognitive Services」と呼ばれる音声認識などのユーザエクスペリエンスを紹介されたことが、AIの本格導入を試みたきっかけだという。

2017年3月に、クラウドAIと鏡とを組み合わせたターゲティング広告配信システム「Face Targeting AD」を発表した。鏡の前に立った人物の特徴や顔の表情を認識し、AIによってそのときの感情や状態を推論し、それに合わせて広告を配信するという。マイクロソフトのクラウドAIプラットフォームであるAzure AIには、顔認識と感情認識を行うAPIが用意されている。これを活用することで、鏡の前の人物の顔と感情を読み取るだけでなく、性別や年齢、眼鏡の有無や、怒りや喜びの感情の度合いまでわかるという。

Face Targeting ADにより、たとえば疲れているときにはエナジードリンクの広告を、悲しそうな表情のときには泣ける映画の広告を出すことが可能だ。

Face Targeting ADの試作品が完成したのは2017年1月だが、博報堂のAIへの取り組みはこれだけにとどまらない。国内のAIのスタートアップ企業としては先頭を走るプリファードネットワークスとも、2018年に業務提携を行い、「AIビジネス・クリエイションセンター」を新設した。AIを活用し、広告用のアニメーションの制作を手掛けるなど、博報堂の取り組みから目を離せない

インフォード型広告をAIで自動生成―サイバーエージェント

インターネットテレビ局である「Abema TV」やインターネット広告事業を手掛けるサイバーエージェントもまた、AIによる広告クリエイティブに活路を見出す。サイバーエージェントが注視するのが、「インフォード型広告」と呼ばれるクリエイティブ画像とテキストとが一体化した広告だ。インフォード型広告は従来の広告と比較し、ユーザの視認性が高いことから、表示回数が少なくても広告が潜在的顧客にリーチするという。その一方で、クリック率の低下やインフォード型広告の寿命の短さが懸案となっていた。

サイバーエージェントのAI Labは、広告クリエイティブの自動生成に取り組む。鮮度の高い画像や、イラストの自動彩色、スケッチの線画化といった創作活動が、ディープラーニングにより可能になったのも大きい。

AI Labが取り組むのは、動画広告や画像広告の分析と自動生成だ。約10万件にも及ぶ画像データや制作時の編集データ、配信実績などから、クリエイティブデータの分析、効果測定する。配信実績を予測するモデルは、広告制作の改善には欠かせない。画像広告の自動生成に関していえば、入力データから広告内容に応じてフォントやカラーを選定したり、クリエイティブ全体の構成を大まかに決めたりすることが可能だ。

活用するのは、AmazonのクラウドサービスプラットフォームAWS(Amazon Web Services)だ。AWSの画像認識サービスである「Amazon Rekognition」やGoogle Cloud Vision APIなど、SaaS(Software as a Service)環境によりデータを学習させたモデルが利用可能なのが大きいという。画像広告の自動生成は研究が始まったばかりだが、サイバーエージェントはすでにテキスト広告自動生成ツール「AI TD」を広告主に提供するなど、実用段階に入っている。

サイバーエージェントが取り組む広告画像や動画の制作の自動化に向けて、今後の進展が期待される。

広告業界において今後AIはどのように使われていくのか

広告業界におけるAIの影響は2種類ある。1つめは、AIによって業務の効率化が進む点だろう。マスメディアを媒体としたマーケティングから、WEBを中心としたデジタルマーケティングへのシフトも進んでいる。WEB上のビッグデータと、それを分析する機械学習との親和性は高い。AIにより広告制作の効率化が図られるだろう。

もう1点は、AIによって広告業界の職種が奪われる可能性だ。上述の例のように、動画や画像を活用し広告を制作する広告クリエイティブはもっぱらクリエーターにより行われてきたものだ。ところが、動画や画像の処理は機械学習が得意とする分野でもある。加えて、自然言語処理や音声認識も可能となれば、広告制作そのものがAIで自動化できるのではと考える人もいるだろう。事実、コピーライティングをAIによって行うシステムも存在する。

広告業界がAIに対し期待と恐れという相反する反応を示すのは、広告業界にはAIに疎い人が多いことが一因だろう。システム会社にAIを活用した広告システムの開発を丸投げするわけにはいかない。広告会社のような企業が企画をシステム会社にもちかけ、そこから実現可能かを検証する段階へとシフトする。ところが広告会社がAIに関する知識がなければ、システムが実用化するまで道のりが険しくなる。

現状広告業界とAIとの協働作業は手探りの状態で、ようやく実用化の道筋が見えてきたところだ。完全に広告制作が自動化されるのではなく、AIが制作したキャッチコピーをクリエーターが選定するなど、現状ではAIとヒトとが協働するケースもみられる。ともかく、AIと広告業界との距離が埋まることで、AIによりどこまで広告制作の自動化が可能かのロードマップが見えてくるだろう。場合によっては、AIにより広告業界の業務が劇的に変化しうる。

広告業務の自動化への道筋が間もなくかたちとなる

AIが広告業界に注視されるのは、AIに詳しくない人が多いのがその一因だろう。「AIならば何でもできる」と考える人は少なくなっただろうが、それでも機械学習で行えるのは何かを理解するには、システムを開発する会社との意思疎通が重要だ。

もちろんこれは、広告業界でのAI導入が限定的であることを意味しない。むしろ広告業界が大きく変わる可能性を秘めているといえよう。

今後はAIと広告業界との距離が埋まり、システムの実用化を通じて目に見える成果となって現れるのではないだろうか。


<参考>

  1. 広告代理店の世界ランキング:電通と四強を脅かす「デジタル」の新興勢力(ビジネス+IT)
    https://www.sbbit.jp/article/cont1/32562
  2. その広告、実はAIが作ってる? アドビのAI「Sensei」のすごい実力:Adobe Summit 2018 (Business Insider Japan)
    https://www.businessinsider.jp/post-164733
  3. Microsoft Cognitive Servicesの概要【第10回】 (IT Leaders)
    https://it.impressbm.co.jp/articles/-/14406
  4. AIにより検索連動型広告のテキスト広告を自動生成 広告自動生成ツール「AI TD(エーアイ ティーディー)」を開発・提供を開始(CyberAgent AD. Agency)
    https://www.cyberagent-adagency.com/news/434/
  5. アマゾン ウェブ サービス(AWS)とは?(AWS)
    https://aws.amazon.com/jp/about-aws/
  6. 「活用することで何が変わるのか」(企業と広告 2017年12月号)
  7. 「Cognitive Servicesで顔や感情を認識 判定結果に対して日本人向けに補正」(Nikkei Cloud First 2017年9月号)
  8. 「人工知能による新しい広告クリエイティブ」(人工知能 32巻4号)
  9. 『広告クリエイティブへの招待 : 実践的広告制作論』(深川英雄, 相澤秀一 著)