AI(人工知能)が日本人の日常生活に普通に浸透してきた。パソコンやスマホでインターネットを使っているときに、ふと「便利だな」と感じたら、それはAIがアシストしているはずだ。
AIが普通になってきた今こそ、AIに関する知識をブラッシュアップしておこう。AIはまだまだ進化するので、そのとき基礎知識を持っていないと、まったくのブラックボックスになってしまうからだ。
AI時代を生き残るには、AIを使いこなす側になるしかなく、そのとき知識は武器になる。
この記事では、AIの基本技術になっているニューラルネットワークの基礎知識について紹介する。
続きを読む基礎の基礎
ニューラルネットワークを最も簡単に表現すると「人の脳と神経の構造を模してつくったコンピュータ」となる。
人が考えて答えることができるのは、数千億個の神経細胞がネットワークを構築しているからだ。神経細胞は互いに電気信号を送り合っていて、外的刺激を情報にしたり、思考をして予測をつくりあげたりする。
「コンピュータも、神経細胞のネットワークのような構造にすれば、人のように考えて答えられるようになるのではないか」という発想でつくられたのが、ニューラルネットワークである。
神経細胞のことをニューロンといい、ニューラルとは「神経細胞のような」という意味である。
少し難しい基礎
基礎の基礎を押さえたところで、次に「少しだけ」専門用語を使ってニューラルネットワークを解説してみる。
層構造と重みと偏りがポイント
ニューラルネットワークがAIを賢くするのは「層構造」になっているからだ。
人がAIコンピュータに望む機能は、データを入力するだけで望ましい正解を出すことだ。しかしさすがのAIでも入力データを一発で正解にすることはできない。そこで、何層かにわけて検討を重ねることで、入力データから正解を割り出すことにした。
人の思考も、数千億個の神経細胞が電気信号をやりとりしている。
ニューラルネットワークの各層では、パラメータが設定されている。パラメータは「重み」と「偏り」から成る。重みとは、情報の重要性や貢献度のこと。偏りとは、好きと嫌いのことである。
データは無味乾燥なもので、いくら大量に集めてもまったく意味を持たない。意味がないものをいくら整理しても、意味のない情報しかできない。
そこでデータに、重みと偏りによって価値をつけるのである。
しかし、例えば1億個のデータに1個の重みと1個の偏りだけつけても、データは大きくは変化しない。そこでさまざまな重みと偏りをつけていくことになる。つまり、パラメータが何層も必要になるのである。
実際のニューラルネットワークでは、入力値に「重みをかけて」「偏りを足して」正解を出している。
自動学習
ニューラルネットワークのもうひとつの特長は、自動学習だ。
ニューラルネットワークAIがある答えを出したところ、それが不正解だったとする。不正解であることをAIに教えると、AIは自動学習するようになる。
各層のパラメータの重みと偏りを、正解に合わせて微調整するのである。
この技術を、バックプロパゲーションという。
不正解を示されたバックプロパゲーションが、重みと偏りを変更していく様(さま)は、まったく人の思考と同じである。
ある人が、いろいろな調査をして答えを出したものの、その答えが間違っていると指摘されたら「どこが間違っていただろうか」「どこまでは正しかったのだろうか」と検証する。このような検証をする人は、やがて正しい仕事をスムーズに遂行できるようになる。
ニューラルネットワークでも、「不正解→重みと偏りの微調整」を繰り返すことで、正答率を上げることができる。
ニューラルネットワークの種類
ニューラルネットワークにはいくつか種類があり、ここでは「ディープニューラルネットワーク」「畳み込みニューラルネットワーク」「再帰型ニューラルネットワーク」の3つを紹介する。
・ディープニューラルネットワーク
一般的になんの注釈もなしに「ニューラルネットワーク」と呼ばれているものは、ほぼすべてディープニューラルネットワークである。
・畳み込みニューラルネットワーク
畳み込みニューラルネットワークは、畳み込み層があるニューラルネットワークのことだ。
畳み込みニューラルネットワークは画像認識で使われることが多いので、ここでは「×(バツ印)」の形をした画像を、畳み込み層でどのように認識しているのかを紹介する。
手書きのバツ印は、人それぞれの形になり、コンピュータでは読み取りづらくなる。そこで畳み込み層では、「2本の線が使われている」「2本の線が1点で交わっている」「2本の線は大体直線、しかし曲線が駄目ではない」「2本の線は同じ長さでなくてもよい」といった複数の特徴について検討することができる。こうすることによって「いい加減に描いた×」も「十」もバツ印と認識できるようになる。
・再帰型ニューラルネットワーク
再帰型ニューラルネットワークは、時系列データが扱えるニューラルネットワークのことである。
通常のニューラルネットワークは、入力されたデータがA層に届き、A層での処理が済んだデータがB層に渡され、B層での処理が済んだデータがC層に渡され、といったように、A→B→Cと順番にデータ処理がなされていく。
しかし再帰型ニューラルネットワークでは、「以前に行った処理」を記憶している。
つまり、再帰型ニューラルネットワークでデータYを処理すると、次にデータZを処理するときに、「データYを処理した経験」が活かされる。
つまりAIが「そういえば以前にこんなこともあったな」と思い出すというわけである。
ニューラルネットワークの活用例
ニューラルネットワークを使ったAIシステムは、すでに数限りなく登場している。
そのなかで、なかなかコンピュータで評価ができなかった「香りの価値」の判別に成功したニューラルネットワーク搭載のAIシステムを紹介する。
アメリカのアナリティカル・フレーバー・システムズ社(以下、AFS社)は、ニューラルネットワークを搭載したAIで、「これから消費者が好むであろう」フレーバーを予測するシステム「ガストログラフ」を開発した。
食品や化粧品などの香りが重要な商品の開発では、これから流行するであろうフレーバーの予測がとても重要になる。
ガストログラフは、消費者の香りの好みに関するビッグデータをニューラルネットワーク型AIに分析させ、「これから消費者が好むであろう」フレーバーを予測する。
ガストログラフの特徴は、消費者の主観的な味覚の好みを重視している点だ。味覚の好みは移ろいやすく、また、その移ろいはランダムにみえるので、メーカーはとらえるのに苦労してきた。
しかしビッグデータを分析すれば、ランダムにみえた移ろいに、法則性があることが朧(おぼろ)げにみえてくる。ガストログラフはそのみつけにくい法則をみつけることができるのである。
ガストログラフを使うと、メーカーは次のようなことができるようになる。
・メーカーがターゲットとする消費者層が好むフレーバーを知ることができる
・ターゲット層の好みのフレーバーの変化を予測することができる
ガストログラフは化学的なデータを使っていない点がユニークとされている。なぜユニークかというと、フレーバーはすべて化学で決定づけられるからである。
しかし、化学的な解析では、消費者の「理由はないけど、この香りが好き」という意見を分析できない。
そこで、消費行動から消費者の好みの香りをリサーチすれば「理由はないけど」のなかに潜まれている理由をみつけることができる。
ただし、それをみつけるには膨大な量の「『理由はないけど』のなかに潜まれている理由」を分析する必要がある。その大量かつ複雑な分析を、ニューラルネットワーク型AIが成し遂げたのである。
まとめ~「これくらいは」の気持ちで
ニューラルネットワークは、ほんの数年前まで最先端技術だった。ところが今や、「普通にAIに搭載されている技術」になってしまった。
ビジネスシーンでAIに接触している人はもちろんのこと、「まだ」業務でAIに触れていないビジネスパーソンもニューラルネットワークの基礎知識くらいは押さえておいたほうがよいだろう。
なぜならあと数年もすれば、AIを使わない職種がなくなるからだ。AIから逃げられないのであれば、積極的に知りに行こう。
<参考>
- 脳のネットワークと動作原理の解明(京都大学情報学研究科 先端数理科学専攻)
https://www-np.acs.i.kyoto-u.ac.jp/research/teramae-01 - AIはなぜその答えを導き出したのか ~根拠を見える化する「説明可能なAI」~(富士通ジャーナル)
https://blog.global.fujitsu.com/jp/2018-12-27/01/ - VLSIシンポジウムが「AIハードウェア」シンポジウムになる日【後編】(PC Watch)
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/semicon/1197517.html - ニューラルネットワークと人間のバイアス(偏り)(M)
https://medium.com/@blog.cognirobo/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%81%A8%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%81%AE%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B9-%E5%81%8F%E3%82%8A-84e4b7e7c8f - 畳み込みニューラルネットワークの仕組み(POSTD)
https://postd.cc/how-do-convolutional-neural-networks-work/ - 再帰型ニューラル・ネットワークの徹底調査(IBM)
- 人それぞれ異なる味覚を理解し、味のトレンドを予測するAI(CORNESテクノロジーズ)
https://www.cornestech.co.jp/tech/products/products_analyticalflavorsystems-1/
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