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学校教育から人材育成まで幅広く行なわれる適応学習 〜教育分野におけるAI(人工知能)の活用事例〜

人工知能の教育分野での活用が目覚ましい。AIによりひとりひとりの個性にあわせた学習方法が盛んだ。そこで、人工知能を適応学習に活用する国内の事例のうち、現在進行形で開発・実用化しているものを2つほど紹介する。

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人工知能(AI)の活用事例は多岐にわたる。そのひとつに、教育分野での人工知能の活用が挙げられる。それが適応学習(アダプティブラーニング)と呼ばれる、ひとりひとりの個性にあわせた学習方法だ。従来では、教師がひとりひとりに適応学習を行なう方法には限界があった。しかしビッグデータの解析が人工知能によって可能になり、適応学習が再びクローズアップされている。そのため、企業も適応学習システムの開発に乗り出しつつある。

そこで、人工知能を適応学習に活用する国内の事例のうち、現在進行形で開発・実用化しているものを2つほど紹介する。

人工知能を活用して適応学習を支援する教育システムは、学校教育のみに限定されない。企業での人材育成を含めた幅広い範囲で利用可能だ。

適応学習に取り組む中学校・高等学校

学校教育の分野では、人工知能を活用した適応学習を支援する教育システムの開発・研究が盛んだ。大学受験産業を手がけるZ会が2017年3月から開始したAsteriaがそのひとつ。適応学習ソリューションを研究・開発するアメリカのKnewton社の協力のもとで、開発された教育支援システムがAsteriaだ。学習者が問題を解くごとに、これまでの学習履歴と理解度とを加味して、Asteriaは次の問題を学習者に出題する。つまり、学習者が習得しやすいように、学習が最適化される仕組みになっている。

AIを活用した学習支援システムの研究・開発は、Knewton社のような海外企業によってのみ行なわれているのではない。我が国においても、立命館守山中学校・高等学校がRICSというプロジェクトを立ち上げている。

RICSは、学習者の理解度と学習意欲を向上させることを目的とした学習支援用のSNSだ。RICSでは、教師と生徒あるいは生徒間のコミュニケーションを円滑に行なわせるSNS機能を実装することで、学習者間の協同学習を促進させる。

SNS機能以外にRICSに実装されているのが、「レコメンド」と呼ばれる適応学習機能だ。レコメンドとは、学習教材をデータベース化し、学習者に問題を出題する機能のことである。このレコメンド機能に人工知能が用いられている。つまり問題の正答率と過去の学習状況を考慮し、各生徒の理解度に応じた難易度の問題をAIが選ぶのだ。

このRICSのレコメンド機能の検証実験が、RICSプロジェクトに協賛している電通国際情報サービスによって報告されている。実験では、AIによってレコメンドされた問題と教師によってレコメンド(出題)された問題を、次の基準によって5段階で生徒に評価させている。

・おすすめ問題の難しさは自分に合っているか
・本機能を使って学習してよかったか
・本機能により、もっと学習したいという気持ちが強くなったか

        出所:「SNSによる協働学習と適応学習支援システムの開発・運用および検証」

報告によると、教師への信頼感からか、教師による問題の出題を高く評価する生徒が多いという結果が得られた。人工知能の世間への浸透は始まったばかりであり、人工知能による問題の出題を生徒が信頼する環境を整えるべきだと、報告は結論づけている。いずれにせよ、学校教育の分野での教育支援システムはますます浸透していくことになろう。

人材育成にも用いられる教育支援システム

人工知能を活用した適応学習の教育支援システムは、学校教育に限らない。企業での人材育成へも応用可能だ。

2017年9月20日に開催されたHRサミット2017では、適応学習を活用した効果的かつ効率的な人材育成に関する講演が行われている。

その講演の中で強調されているのが、人工知能による人材育成の効率化だ。講演を行なった東芝デジタルソリューションズの小野慎一氏によると、これまで人材育成で強調されてきたのは、スキルやコンピテンシー(業績優秀者の行動特性)、業務経験や知識といったものだ。これらの特性については、人によって管理できる。しかし人の本質をとらえる特性には、可視化しにくいものもある。そのため、価値観やモチベーション、性格といった特性をデータ化し、それを人材育成に活用する必要があるという。

東芝デジタルソリューションズが開発しているのは、人材育成のシステムである。企業内教育では、集合研修やeラーニング、動画、テストといった教育コンテンツを活用する。この教育コンテンツを取捨選択するのが人工知能だ。従来では、学習者が効果的な学習を行なえるような教育コンテンツを、人が選別していた。しかし、企業内教育では効率的に育成したいという要望が強い。東芝デジタルソリューションズが研究・開発したのは、まさに人工知能を活用した効率的な人材育成システムである。それがGeneralist/LMだ。

Generalist/LMが管理しているのは、次の3点である。

・過去に学んだコースや取得した資格、業務経歴がすぐにわかる

・従業員が必要な時に、いつでも学ぶことができる

・能力に合わせた学習教材が提供されるアダプティブラーニング(適応学習)

        出所:セルフ・キャリアドック制度とGeneralist®が幸せなキャリアを実現


つまり入社時期や役職に応じた教育コンテンツを用意し、AIが各受講者の能力にあわせた学習コンテンツを配布する仕組みになっている。

人工知能を人材育成システムに活用することもさることながら、Generalist/LMはPCやタブレットからの受講を可能にする。これにより、各受講者の都合のつく時間や場所に研修が受けられるという利点がある。

東芝デジタルソリューションズの開発した人材育成システムを実際に企業内教育に役立てている企業がある。日本初の医療事務教育機関として1965年に創業したソラストは、東芝デジタルソリューションズが開発した人材育成システムGeneralist/LMを医療分野の人材育成に活用している。

ソラストによると、Generalist/LMを導入する前は教育手法やコンテンツが統一されていなかったという。また受講するタイミングやスペースを確保することが困難なため、コンテンツを必要とする人に効率的に配分されなかった。Generalist/LMを活用したタブレットやPCでの研修は、まさに従来の企業内教育の難点を解消しているといえよう。

「学び」の場の提供と生涯学習

教育といっても、学校教育から人材教育までさまざまだ。人工知能がまだ十分に認知されていない現状では、AIによる適応学習に学習者が十分な信頼を置いているとはいい難い。

しかし、今後「学び」は世界的に生涯を通じて行なうものになっていくであろうし、人工知能を利用した適応学習の普及と発展が生涯学習に寄与するだろう。


<参考>

  1. 「なぜ勉強が必要なのか」子どもの質問にあなたならどう答えますか(東洋経済オンライン)
    https://toyokeizai.net/articles/-/153237
  2. Z会Asteria(Z会)
    http://www.zkai.co.jp/home/z-asteria/
  3. 全国から先生大集合、立命館守山の「ICT公開授業with Classi」(ICT教育ニュース)
    https://ict-enews.net/2017/07/02classi-2/
  4. ICT Education(立命館守山中学校・高等学校)
    http://www.ritsumei.ac.jp/mrc/education/feature/ict.html
  5. セルフ・キャリアドック制度とGeneralist®が幸せなキャリアを実現(月刊 人材教育)
    https://jinzaikyoiku.jp/acv_ad/magazine/ad_201611_k7.html
  6. 約2万4千人の医療・介護・保育現場業務を支える人材育成ソリューション(東芝デジタルソリューションズ株式会社)
    https://www.toshiba-sol.co.jp/case/case2017/sls.htm
  7. 「SNSによる協働学習と適応学習支援システムの開発・運用および検証」(河野碧、市川昌宏 著、日本教育工学会研究報告集(2016) 255−260.)
  8. 「AI(人工知能)を活用した人材育成の姿とは?〜アダプティブラーニングで効果的・効率的な人財育成〜」(人材教育(2017) 2017年11月号、59−61.)
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