AI医療

医療分野のAI活用国内事例(パート2)

医療分野で世界的にAIの自動診断の研究が進んでいるが、国内ではどのようになっているのだろうか。ある医療機器メーカーの見解や現状のAI適用事例、そして、国内の医科大学によるAI医療診断システムの事例を紹介する。

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1970年代の第1次人工知能ブーム期から活用が期待されていた医療分野で、ここ数年AIを臨床に応用していこうという気運が芽生えてきている。今回は大手医療機器メーカーと、医科大学の国内のAI活用事例を紹介する。

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シーメンスヘルスケアのAI事業の国内における見解と展開事例

医療用検査機器で世界的なシェアを持つシーメンスヘルスケアは、AIの活用を事業戦略にかかわる重点的な取り組みの1つとして挙げている。同社は病気の診断に使われる撮影機器や画像診断装置、それに関連する情報システムを主力にしている。

ここ最近、判断の難しい病変を医師に代わってAIが見つけ出すという事例が世界的に出てきている。これをシーメンスヘルスケアはどのようにとらえているのだろうか。日本では薬機法によりAIを活用した自動診断には制限があり、臨床研究や実用化についてはまだ緒に就いたばかりだ。シーメンスヘルスケアの社長は2018年4月の報道機関向け説明会で、ディープラーニング技術を使えば専門医をしのぐ正確な診断が行える可能性があり、各疾患において診断のアルゴリズムが定まりつつあると話している。海外では臨床研究を進めているが、日本人の診断には日本人のデータが必要だと指摘、いま日本では研究レベルで医療機関との取り組みを始めているところだという。シーメンスヘルスケアは国内のAI診断システムの実用化については、政府と調整しながらワーキンググループを作るなどして進めていきたいとしている。

AIの自動画像診断については国内の環境整備が待たれるところだが、現状、シーメンスヘルスケアではAIを検査撮影の際の労力や患者の負担を軽減する解析ツールとして用いている。ここで、同社が国内で実用化したAI技術を3点紹介しよう。

画像解析AIの「AutoLabeling」は、患部付近の部位をAIがラベリングして示してくれる。例えば、頚椎のCTやMRI画像にある椎体の1つ1つを自動でラベリングするので、撮影担当や診断医は常にどの椎体を見ているかがわかるため、見間違いをおこしたり迷うということがない。その結果、患部のマーキング等、検査技師の手間を削減したり、医師が画像診断にかける時間を短縮できるなど、臨床における各工程の負担を軽くできる。

シーメンスヘルスケアのX線CTの3Dカメラ、「FAST 3D Camera」に搭載されたAIは、検査時に横たわった患者の向きや体の大きさ、厚み、体型を自動認識し、被ばくを抑え最適な位置で撮影できるよう寝台の高さ調整まで行ってくれる。

同社の「BioMatrix Technology」 は、検査時の撮影品質のバラつきを抑える技術の総称で、「検査時に患者が息止めなどで検査装置の撮影に合わせるのではなく、検査機器が患者の状態に合わせる」というコンセプトでシステムが開発されている。AIに関するものとしては、患者の呼吸をとらえて撮影条件を自動最適化するAIがMRIに搭載されている。

シーメンスヘルスケアは国内外で事業を展開し、AI搭載の製品やサービスの販売は30品目以上、機械学習や深層学習の特許も多数取得しているという。これから国内でも医療機器にAIが標準搭載されるのが当たり前になるかもしれない。

自治医科大の自動診断AI「ホワイト・ジャック」

自治医科大学は僻地などの地域に医療を充足させる目的で設立された大学だが、こういった地域に必要とされる総合診療医療にAIの臨床適用を始めようとしている。この試みは2017年度に開始され、1~2年で実用化することを目論んでいる。

自治医大では双方向対話型の人工知能システム「ホワイト・ジャック」をコアとした、患者情報と総合診療医の経験知を統合した「総合診療支援システム」を開発中だ。ホワイト・ジャックは、患者が医療を受ける際の窓口受付や予診、問診、身体診察、検査、治療方針決定までの各段階で、AIとの対話形式で診療を進めていく。

詳しい流れとしては、患者が予診情報を入力すると、自治医大の地域医療のビッグデータを元に、機械学習によるAIがどの疾患なのかを解析。疑われる病名を罹患率で医師に示し、必要な検査や処方まで電子カルテに表示して医師の診断や診療をサポートする。また、予診情報の取得後、診察を行った医師が所見や検査結果を記入すると、ホワイト・ジャックが再解析して病名を推定し直すので、より精度の高い結果が得られる。処方薬については、一般的な医師の処方薬と、専門医なら選択する処方薬の両方を提示し、処方のサポートも行ってくれる。ただ、自治医大ではホワイト・ジャックは医師による最終診断の材料を提示する支援ツールだとのスタンスをとっている。

ホワイト・ジャックの機械学習の基礎となるデータは、病名鑑別の感度・特異度に関する論文や教科書、自治医大のレセプトを中心とした「地域医療データバンク」になる。一般的にはAIの機能進化はシステムの構築と用意されたデータ次第となり、今後のホワイト・ジャックの機能進化はさらなるシステム構築に加え、どのようなビッグデータを収集するかによっても決まっていく。そこで、自治医大では従来のデータバンクに加えて、各医療組織の医薬・副作用情報、患者のビックデータ情報を追加した「次世代地域医療データバンク」を構築中だ。患者のビッグデータは、各地にいる患者の健康状態や患者が置かれた環境といった情報を「時空ID」というタグで紐づけ、IOTでウェアラブル端末などとリンクして、リアルタイムで同大の多次元データベースに蓄積し、診療や健康管理に役立てようとしている。

ホワイト・ジャックは2018年には数か所の医療機関で試験運用を始め、その後は医療機関のモニターを公募する予定だという。ただ、AI診療支援システムの実用化は最終目標でなく、地域医療のデータベースを構築して各地域の医療向上や予防医学につなげたいと自治医大の教授は語っている。同大が目標とする地域医療の拡充に向けた取り組みの中では、AI活用は副次的な扱いとなるのかもしれない。

まとめ

国内事情により、世界的なトレンドのAI自動診断システムは実用化の見通しがつかない。しかし、自治医大の事例のように、医師の診断を補助するツールとしてAIを活用する例が見られる。また、検査のような定型業務であれば、AIによる省力化と患者負担の軽減が大きく見込めそうだ。将来的には、医療用検査機器にAIが標準搭載される日も近いのではないだろうか。

<関連記事> 

医療分野のAI活用事例 〜海外編〜


<参考>

  1. デジタルヘルス事例「医用画像診断にAIを本格展開」、シーメンス(日経 xTECH)
    http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/327441/040600493/?ST=nxt_thmdm_digitalhealth
  2. 2018国際医用画像総合展(ITEM 2018)CT装置見下ろすAIカメラ、患者に合わせ撮影最適化(日経 xTECH)
    http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/event/15/041100166/041900010/?ST=health
  3. 人工知能ニュース:医療分野のAIは自動診断だけじゃない、シーメンスヘルスケアが製品に順次搭載 (ITmedia)
    http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1804/12/news043_2.html
  4. 国際モダンホスピタルショウ2016 自治医大の人工知能診療支援システム「ホワイト・ジャック」開発の進捗を披露(日経デジタルヘルス)
    http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/event/15/063000072/072800029/
  5. 人工知能は敵か味方か 症状や検査値の入力でAIが瞬時に臨床推論《AI実用篇 その3》(日経デジタルヘルス)
    http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/011000049/011200005/?ST=health
  6. 自治医科大学地域医療オープン・ラボ NewsLetter 107(自治医科大学)
    http://www.jichi.ac.jp/openlab/newsletter/letter107.pdf
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