金融とテクノロジーを融合したフィンテック、ついに通貨すら使わなくなった仮想通貨、人が運転しなくていい自動運転車。これらはいずれも少し前のSF映画の題材だった。
未来を現実にしたのはAI(人工知能)である。もちろんITもIoTもクラウドもビッグデータも未来の現実化には欠かせない要素だが、AIは「人間を超える」点で、そのほかの技術と一線を画す。
AI市場で存在感を誇示しているのが、中国とアメリカである。今回はアメリカのAI企業5社を紹介する。
【1社目】JPモルガンは金融AIで契約業務を減らす
金融の世界でAIを駆使しているのが、アメリカの金融機関大手JPモルガン・チェースだ。「金融のAI」というと、株価や為替を予想したり、取引を自動化したりといったイメージを持つかもしれないが、JPモルガンが導入したのは、契約のAI化だ。
契約書を一瞬で読んで理解するコイン
JPモルガンが導入したAIは「コイン(COIN、Contract Intelligence)」という。コインは金融界で交わされている契約書のパターンを把握し、契約どうしの関連性を識別する。コインが融資契約書を読み取るスピードは数秒である。その数秒間に「どういう契約か」といった解釈まで行ってしまう。
もちろん法務の仕事が長い社員も、契約書を見て一瞬で「どういう契約か」を見抜くことはできる。しかしコインは一瞬で契約書の最初の1文字から最後の1字まで読み込み、契約相手の悪意も、自社が有利になる条項が欠如していることも、そしてミスプリントも見逃さない。
それだけではない。コインは「この契約を結ぶとJPモルガンはこういうリスクを背負うことになる」というアドバイスまで行うのである。
JPモルガンでは年間1万2千部の新規契約を結ぶ。これまで、弁護士や法務社員たちが「契約書の内容をチェックする業務」に述べ年36万時間を費やしてきた。コインによってその大半を効率化できるという。
JPモルガンは今後、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)や資産管理契約といったより複雑な契約でもコインを導入していく考えだ。CDSとは、社債や国債などに対して保険の役割を果たす金融派生商品契約のことである。
将来的には法解釈も。AIは優秀なコンサルタントになる
それだけではない。JPモルガンは法解釈にもコインを使うという。こういうことだ。
米連邦政府が新しい金融関連法案の検討を始めたとする。このときこれまでJPモルガンの幹部たちは、新法の影響や法案成立後に社が取るべき戦略を、弁護士や経済アナリストたちの助言を借りながら打ち立ててきた。
もしそのコンサルティング業務をコインが担えるようになると、弁護士や経済アナリストたちの助言は要らなくなるのである。
JPモルガンは2015年に、ビッグデータ、クラウド、ロボティクスを専門に扱うチームの拠点をニューヨーク内に設立した。AI投資にも隙がない。
【2社目】P&GはAIによる肌アドバイスで化粧品を売る
化粧品や日用消費財のメーカーとしておなじみのP&Gは、AIを駆使した「スキンケア・アドバイザー・サービス」というサービスを開始した。
顧客がスマホで顔写真を撮影し、専用のアプリから出される実年齢や肌トラブルなどに関する質問に答えて送信すると、アプリが肌年齢、ケアが必要な箇所、取り組むべきスキンケアの種類などをアドバイスしてくれる。
P&Gにはすでに顔の肌の写真が大量にストックされていて、分析も済ませている。顧客がスマホで自分の顔写真をP&Gに送信すれば、AIが大量の顔の肌の写真から類似ケースを探す。さらに肌に関する分析データから、顧客の肌トラブルを予測しアドバイスするのだ。
このスキンケア・アドバイザー・サービスは、2つの利益をP&Gにもたらす。
1つはもちろん商品の販売促進だ。「あなたの肌年齢は実年齢より15年老けていて、それは乾燥肌が原因と思われる。そのトラブルを改善するにはP&Gの〇〇という化粧品が効果的である」とアドバイスすれば、顧客はその化粧品に興味を示すだろう。
もう1つのP&Gのメリットは、顔の肌に関する情報を収集できることだ。顧客から送られてくる肌写真と肌トラブル情報は、P&Gの顔の肌のデータベースを一層充実させる。データベースが充実すれば、アドバイスの的中率も向上する。
【3社目】GEのAIは発電企業と地球環境の両方に貢献する
AIによるソリューションが得意なのは「大量」「難解」「複雑」が組み合わさった業務である。金融もその3条件に当てはまるからフィンテックが進む。人間のキャパシティを超えそうなとき、そこにAIビジネスのチャンスが生まれるのである。そして発電事業も大量の電気を大量の顧客に送り、そのシステムは難解で複雑である。
エクセロンは米イリノイ州の発電事業会社である。東京電力のような会社である。
エクセロンは電力の生産性と出力効率の向上を目指し、世界的な電気企業GEとタッグを組んだ。GEはエクセロンに、産業用IoT(インダストリアルIoT、IIoT)のサービスを提供する。
エクセロンは原子力、風力、火力、太陽光、水力の発電所で電力をつくっている。GEはこれらの発電所をすべてインターネットにつなぎ、サイト上でモニタリングと制御を行うことにした。このIIoTシステムを「プレディックス」という。
プレディックスは、発電所から集めたデータを使い、実際の発電所と同じ内容の仮想発電所を構築する。その仮想発電所でAIを使ってさまざまなシミュレーションを行い、最適な条件を探し出し、実際の発電所に応用するのだ。
プレディックスの効果はすぐに現れ、燃料効率が3%向上し、メンテナンス経費が4分の3に減った。仮想発電所のAIシミュレーションで「次にどこが壊れるか」が予測できるので、壊れる前に手当てができ、メンテナンス経費を削減できたのである。
火力発電で発電効果を1%向上させると、温室効果ガスの排出を2~3%減らすことができるといわれている。GEのAIシステムはエクセロンに利益をもたらしただけでなく、地球環境にも貢献する。
【4、5社目】ナイキやノースフェースなどはMITのAIで付加価値づくりに取り組む
昔、アメリカは繊維産業大国だった。その地位は日本や韓国に奪われ、いまや繊維といえば中国や東南アジア、東アジアが主役である。
ただ繊維産業のユニークなところは、機能がよくても価格が安くても、市場を独占できない点だ。なぜなら繊維は、というよりアパレル市場では、顧客がブランドをとても重視するからだ。
そのため、アメリカのアパレルブランドは、苦戦しつつも好業績を維持している。しかし苦戦していることは事実なので、付加価値をつけることで生き残りを図ろうとしている。
アメリカ政府は、国内の繊維産業の再興を狙って「高機能繊維コンソーシアム先端機能繊維プロジェクト(AFFOA)」を立ち上げた。ITとIoTとAIを活用して、高機能繊維を開発、製造、製品化し、さらにサービス面も強化しようというのである。
高機能繊維づくりやAIを提供するのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)や半導体のインテル、化学のデュポン、ネット検索のグーグルなどだ。AFFOAはアメリカの「知」を繊維に結集させた。
一方、アパレル側の布陣もそうそうたるメンバーである。
ナイキ、VFコーポレーション(ノースフェースやVANS、LEE、NAUTICAなどを保有)、リーバイスなどが名を連ねる。
例えばノースフェースはAIを使った対話型ショッピングサイト「エキスパートパーソナルショッパー(XPS)」をスタートさせた。実店舗の店員のサービスをAIに覚え込ませたもので、サイトの閲覧者はあたかも店員にコーディネートを相談するようにXPSと会話しながら商品を探すことができる。閲覧者が悩めば、XPSが商品を提案してくれる。
これだけのブランドと技術が結集するのだから、アメリカのアパレルは今後ますます魅力を増すだろう。
まとめ~有名企業も油断しない
ここに紹介したのは、日本でもおなじみのアメリカ企業ばかりだ。これだけ巨大で有名な企業もAI投資には余念がない。油断を見せたら終わり、はビジネスの常だが、それよりもAIの可能性の大きさが大型投資を決断させているとみるべきだろう。
<参考>
- 北米におけるIoT、AIの活用事例(日本貿易振興機構)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/55c1b79aaf9ce90c/20170126.pdf - 数秒で36万時間分の作業 JPモルガン、AIが金融取引解析(SankeiBiz)
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/170306/mcb1703060500004-n1.htm - P&Gとアメリカン・エキスプレスは、AIの活用にどう取り組んでいるのか(Harvard Business Review)
http://www.dhbr.net/articles/-/4852 - データ分析の準備をAIで自動化、米GEのIoT基盤「Predix」(日経×TECH)
http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/425482/080100282/
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