AI(人工知能)によって、レンブラントの新作が制作されて発表されるなど、これまでにない架空の画像を生成する技術が発達してきている。これは架空の人物写真を生成するところにまで発展しており、日本では架空アイドルを生み出すことにも成功した。
今回はこの架空アイドルを生み出した技術と、それによって始まる新しいサービスなどについて紹介していこう。
続きを読むAIが新たな人物を生成する仕組みとは
AI(人工知能)、特に現在主流のディープラーニングを利用した第3世代AIは大量のデータから学習して、何らかの作業を行うシステムと言って良い。従って、学習に必要なデータが大量にある、もしくは大量に用意できなければ、そもそも成り立たない。この第3世代AIが発展したきっかけは、インターネット上に存在の大量のデータから学習させることができるようになったことである。
さて、これは画像においても同様のことが言える。例えば今回の様に新たな人物を生み出すには、当然のことながら多くの人物の顔写真が必要となる。InstagramなどのSNSをはじめ、インターネット上に多くの写真データがある現在では、大量の人物写真を入手するというのは、さほど難しいことではない。Googleがネコやイヌの画像を学習させたのと同様、人間の顔もAIによる学習が可能だと言うことである。
ただし、注意しなくてはいけないのは、そのままの写真を流出させてしまうと著作権や肖像権の問題が発生してしまうという点である。AIの開発企業は、場合によってはモデルの写真を大量に撮影し、そこから学習データを準備しているところもある。
それらの写真データから、顔の各要素を抽出する。顔や髪、目の色といった色情報、顔の形、目、鼻、口、耳の形と位置、髪形など、顔を構成している要素毎に整理する。その上で、それらを合成して新たな顔を構成していくのだ。
2017年にはNVIDIAの研究グループが大量のセレブ写真をAIに学習させることで、自動的にセレブっぽい写真を生成するシステムを開発している。このシステムでは、耳の形や目の形など顔のパーツを少しずつ変えることで、どれをとってもセレブっぽく見える写真を生成することに成功している。この方法は大変シンプルに生成画像のバリエーションを増やす方法として提案されており、ベースは同じ顔であるにもかかわらず、細かいパーツに違和感なく変更を加えることで、別の人物であるように見せることができている。また、この「少しずつ変える」という作業を連続的に行うことで、人物のモーフィングを行うデモも行っている。男性から女性へ、人種も変わり、写真に写る顔のアングルも変化していく動画は、大変なインパクトがある。
A.I.dols Codebaseとは
「A.I.dols Codebase」というサービスは、ベンチャー企業のジーンアイドル社が2019年6月10日に発表したサービスである。同社は京都大学発ベンチャーのデータグリッド社、スイスのブロックチェーン関連企業ICOVO AG社、ゲームアプリ制作を手掛けるアマツ社の3社が共同で2019年4月に設立した企業である。
この「A.I.dols Codebase」というサービスはAIを活用して架空のアイドルの顔画像を自動生成できる。ただし、現時点ではβ版のサービスである。基本的にはNVIDIAの研究グループが行ったものと同じであるが、実在のアイドル画像約20万枚を学習させ、そこから生成している。
またICOVO AG社のブロックチェーン技術も活用し、生成したアイドル画像はブロックチェーン上のトークンとして扱われる。そのため、画像をユーザー情報とひも付けし、管理できるようになっている。ユーザーは生成したアイドル画像を他者に貸し出すこともできる。またゆくゆくは、架空のアイドル同士がユニットを組むことも想定している。このユニットでオリジナル曲を歌い(歌は別途何らかの形で収録する必要がある)、ライブ活動や、バーチャルYouTuber(VTuber)としての活動も行えるようにするとしている。
現在はβ版であるため、利用料は無料としている。まずは顔画像の生成機能、架空のアイドル同士の合成などの機能が提供されている。提供されているバーチャルアイドル同士をかけあわせ、自分の好みのアイドルを生成することができる。
ちなみに今後は自動で音声を生成する機能や、ボディまで含め全身を生成する機能の実装が予定されている。
アイドル育成ゲーム「Rosetta Stage」(仮名)
ジーンアイドル社は「A.I.dols Codebase」で生成したアイドル画像を使い、アイドルを育成する「Rosetta Stage」というゲームの開発も進めている。定期的にオーディションを開催し、通過したバーチャルアイドルをVTuberとしてデビューさせることも想定しており、生成したオーナーや、育成したプロデューサーには報酬を支払うことも検討しているという。
これまでに存在するアイドル育成ゲームと異なるのは、自分だけのアイドルを生成し、育成できることと、それをデビューさせることができるという点である。つまりゲームのユーザーは、単にゲームをプレイしているのではなく、芸能プロダクションの立場として育成をおこなうのだ。もちろん、単にこれまでと同様のアイドル育成ゲームとしてプレイすることもできるが、実際の報酬を手に入れることもできる。これができるのも、ICOVO AG社のブロックチェーン技術があるためである。AIとブロックチェーンの組合せが生んだ(もしくは生みつつある)新しいサービスだと言えよう。
その他の人物画像生成サービス
では、その他の人物画像生成サービスを紹介しよう。最初に紹介したNVIDIAの研究はオープンソース化され、GitHub上で公開されている。そして、そのコードを使用したサービスが「ThisPersonDoesNotExist.com」である。
実はNVIDIAのものも、前出の「A.I.dols Codebase」も、「GAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)」という技術を利用している。これは画像を生成するAIと画像を評価するAIを「敵対」させ、精度を向上させていくディープラーニングアルゴリズムである。それらしい画像を生成するAIと、合成であることを見破るAIとを用意することで、より見破られなくなる画像を生成できるよう、自動的に精度を上げていくのだ。ちなみに「GAN」はイアン・グッドフェロー氏が考案したモデルで、いわゆる「教師なし学習」の一つである。
このGANを利用した人物生成サービスには、アイドル以外の人物画像を利用できるサービスも展開されている。例えばイラストACや写真ACなどを展開しているACワークス社は、写真素材サイト「写真AC」の中で、AIで生成した実在しない人物の顔画像を「AI人物写真素材」として2019年5月20日に公開した。ただし現在は精度を上げる研究も継続しているとのことで、β版として公開している。
β版とはいえ、十分に使えるレベルの顔写真が数多く、すでに160以上の人物写真が提供されている。これらの写真はモデルの肖像権などがない写真として扱われ、商用利用や改変も許可されている。ただし会員登録をしている必要がある。また、会員登録をしていれば、最大50の新たな顔写真を生成することもできる。もちろん50の写真が全て満足するレベルで生成されるわけではない点は注意する必要がある。
また、ジーンアイドル社の設立母体であるデータグリッド社は、「全身モデル自動生成AI」を発表している。顔以外に全身像やポージングまでAIによる自動生成を行う事で、広告業界やアパレル業界での利用を見据える。もちろんバーチャルアイドルの全身像生成にも活用される見込みだ。
その他、実写ではないがアニメやゲームで利用できるキャラクターを自動生成するサービスを展開しているPreferred Networks社や、萌えキャラを自動生成するWebサービス「MakeGirls.moe」などもある。すべて「GAN」の技術が使われているところが面白い。
まとめ
生成側、識別側の2つのAI(人工知能)を用意し、対立させることで精度を上げていくGANは、架空の人物画像を精度良く生成できるようになった。今や一般人のみならず、架空のバーチャルアイドルを生み出すことにまで成功している。アイドル同士の顔を掛け合わせて、新しいアイドルを生み出すことにも成功している。そしてこの技術をもとに、生み出されたバーチャルアイドルをVTuberとしてデビューさせようという試みも始まっている。
今後、アイドルのみならず、俳優もすべてAIが自動生成し、CGではない俳優が演技を行う映画が制作されるようになるのかも知れない。少なくとも、今後、SNSのプロフィール写真が本当にその本人のものであるかを疑わなければならない時代がやって来るのかも知れない。
<参考>
- AIで「架空のアイドルの顔」を自動生成できるサービス登場 VTuberデビューも視野(AI+)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1906/10/news098.html - アイドルはAIが作る時代に!? 画像生成AIと人工遺伝子で「ユーザーが自分だけのアイドルをプロデュースして実世界でデビュー」目指す(ロボスタ)
https://robotstart.info/2019/06/11/aidols-codebase.html - 実在しないアイドル画像も瞬時に生成するAI「GAN」が賢すぎる!(講談社)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63615 - 実在しない人物の顔をAIで生成、フリー素材として公開 「AI人物写真素材」商用利用もOK(ITmedia)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1905/23/news072.html - 萌えキャラ生成AI、学習データを“ネットの海”からゲッチュするのはアリか?(ITmedia)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1711/28/news020.html - 実在しない人の顔写真を無限に生成できるWebサイトが公開。ディープラーニング技術を応用(Engadget日本版)
https://japanese.engadget.com/2019/02/17/web/ - AIで架空の人物の「全身」を作る技術が登場。実在の人間にしか見えない「全身モデルを自動生成AI」(日本企業)(カラパイア)
http://karapaia.com/archives/52273980.html - AIが自動生成する「セレブっぽい写真」が実在するセレブっぽ過ぎて見分けがつかないレベル(Gigazine)
https://gigazine.net/news/20171030-progressive-growing-gans/ - 「自分だけのキャラを作りたい」 AIで美少女を「無限生成」、若きオタクエンジニアの挑戦(ITmedia)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1904/26/news018.html - 萌えキャラ生成AI、学習データを“ネットの海”からゲッチュするのはアリか?(ITmedia)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1711/28/news020.htm
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