イギリスのオックスフォード大学や日本の野村総合研究所などが、こぞって「AI(人工知能)に奪われる仕事」を公表している。これらはニュースやネットなどで大きく報じられているので、これを聞いて「自分の仕事がAIに奪われるかもしれない」と危機感を覚えた人もいるだろう。
AIは相当賢いことで知られているし、AIは自分で学習するので今後さらに賢くなる。だからこれからますます仕事が奪われていくことになる。
しかし「しょせんコンピュータにすぎない」という考え方もできる。なぜならすべての仕事は客のために行うのであり、その客は人間なのだ。だから客が「すべてAIに任せたい」と言わない限り、人の仕事はゼロにはならない。例えばAIに好みの酒を選んでもらうのと、ベテランのバーテンダーにおすすめのカクテルをつくってもらうのでは、サービスの質がまったく異なる。
AIに絶対できない仕事はなんだろう。そしてなぜAIはその仕事を苦手とするのだろうか。
医者がAIを管理する時代が来る?
野村総合研究所は、AIに置き換えにくい職業として、医者、教師、研究員、観光ガイド、美容師を挙げた。
まずは医者について考えてみよう。
ただ医者のなかでも「一般の医者」はAIに置き換えやすいという分析がある。一般の医者とは、簡単な治療しか行わない医者と考えていいだろう。
ではAIに置き換えることができない一般ではない医者はどのような医者かというと、高い専門性を持った医者である。
ところがわずかな症状から診断をくだしたり、複雑な治療方針を立てたりすることは、いまは高い専門性を持った医者しかできないが、将来的にはAIのほうがより正確により速く実行できるようになるかもしれない。
というのもAIは、世界中の論文を苦もなく読み込むことができるからだ。つまり専門的な知識では、いつかAIにかなわなくなる時代がくると考えられる。
では、AIに負けない専門性とはなんだろうか。それはAIの下した判断が正しいのか間違っているのか判定する能力である。
例えば「AIが〇〇という病気であると判断し、□□という治療方針を示していますのでそのとおりにしましょう。AIはさらに、△△という薬を提示しているので、それを使いましょう」と言うだけの医者は消えてしまうかもしれない。
そうではなく「AIが〇〇という病気であると判断し、私もそのとおりであると考えます。そしてAIは□□という治療方針を示していますが、これも間違っていないでしょう。そして薬についても、AIも私も△△という薬がよいと考えます」と言える医者は生き残るに違いない。
なぜなら「AIが〇〇という病気であると判断し、私もそのとおりであると考えます」と言える医者は、「AIが〇〇という病気であると判断しましたが、それは間違っています。正しくは◎◎という病気です」とも言える医者だからだ。
AIは間違った判断をすることがあり、その間違いを見抜く力がこれからの医者に求められる。
AI医療が普及しても、治療の責任は医者が負う。医療においてAIは、あくまで補助道具にすぎない。AIを道具として扱い、医療の質を深めることができる医者は生き残る。
また小児科、精神科、高齢者医療、緩和ケアなどの分野では、患者や患者家族が「人間としての医者」に頼ることが多い。患者や患者家族のなかには、病気の治療だけでなく痛みをわかってほしいと求める人もいる。
例えば寿命は縮まるが快適にすごすことができるA治療と、痛みは増えるが寿命が延ばせるB治療があったとき、患者やその家族は、自分たちの願いや幸せを勘案して治療法をすすめてくれる医者と巡り会いたいと考える。
それができる医者をAIに置き換えることはできないだろう。
教師や研究員はなぜ安泰と言われるのか?
「教師がAI時代にも生き残る」と聞いて、意外に感じた人もいるだろう。なぜならすでに、大学の講義ですら自宅でタブレットやスマホなどを使って受けられる時代だからだ。通常のIT機器ですら「教えること」はかなり高度化しているのだから、そこにAIが加わればより高い学習効果が得られるはずだ。
しかしAI教師では、子供たちに学ぶ意義を教えることは難しいだろう。また、学ぶことの面白さを教えるのも、AIは苦手だ。
例えば、国語、数学、理科、社会、英語のすべてに興味を持っている子供であれば、AI教師のほうが向いているかもしれない。しかし社会が苦手な子供は、AI社会科教師を嫌いになってしまうかもしれない。
その点、人間の社会科教師であれば、子供に地理を学ぶ意義を教えることができる。地図の記号が読めるようになると、地球がみえるようになる、といったことを伝えることで、子供の社会嫌いは治るかもしれない。
教師の情熱は、AIはコピーできないだろう。
また大学の教師は、学生たちに研究テーマを授けることができる。これまで存在しなかったが、もしかしたら有益な存在になるかもしれないモノや事象があった場合、それを研究するよう学生に促すことは、恐らく人間にしかできない。
それは研究員にも同じことがいえる。すでに誰かが発見した事象を確かめる実験は「AI+実験ロボット」で可能になるかもしれない。しかし教科書を疑って「そうじゃない」というモチベーションで研究に取り組むことは、人にしかできない。
2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授は、「定説を覆す研究をしなければならない」「教科書は嘘だと思う人は見込みがある」と語っている(*)。このような態度は、AI研究員はとることができないだろう。
*https://www.sankei.com/life/news/181002/lif1810020003-n1.html
https://www.asahi.com/topics/word/%E6%9C%AC%E5%BA%B6%E4%BD%91.html
観光ガイドに求められるのは単なる案内ではなくなる?
観光ガイドもすでに優れたIT機器がある。例えば専用の機器を名所のほうにかざすと自動音声で解説する、といったものだ。だからIT観光ガイドにAIを搭載すれば、「あなたの趣味嗜好からすると、この店を訪れてはいかがでしょうか」と提案するようになるかもしれない。
しかし旅慣れた観光客は、そのようなガイドを好まない可能性がある。というのも観光はいま、モノ消費からコト消費に変わっているからだ。観光地にお土産やブランド品や食といったモノを求めるのではなく、体験や思い出や地元の人との交流といったコトを求めるようになっているのだ。
例えば、無人島に1泊するツアーの場合、客の安全を確保するため、その観光ガイドはサバイバル技術を有している必要がある。
また地方のあまり知られていない個人経営の職人工房を体験観光するとき、観光ガイドと職人が信頼関係を築いていることがカギとなる。職人が「この観光ガイドさんが連れてくる観光客なら受け入れてもいい」と判断するかもしれないからだ。
つまり、名所訪問や定期ルート巡りといった、一般的な観光ガイドならAIに取って代わられてしまうかもしれない。
しかしこれまでにない観光資源を生み出せば、それをガイドできるのは人だけだ。
まとめ~キーワードは「人と人のつながり」と「創造」
AIができないこととは、人と人のつながりと創造だ。この2つのキーワードを持つ仕事や職は、AIに置き換わりようがない。そうではなく一般的なことは、次々AI化されていくだろう。
まず、人と人のつながりだが、そもそも人と人なのだからAIが介入する余地はない。医療には「手当て」という言葉があるが、その「手」はAIの指示で動くロボットの手ではなく、血の通った手だ。だからAIではいかんともしがたい。
AIはそもそも「学習させる」必要がある。つまり誰かがAIに物事を教えなければならない。なぜならAIは、「自分は何を学習すべきか」と創造することができないからだ。
しかしAIとロボット技術が発展すれば、限りなく人のぬくもりに近いAIロボットや、人が思いつかない提案をするAIが誕生するかもしれない。つまりうかうかしていれば、いまはAIにはできない仕事をしていても、いつの間にかそれをこなせるAIが現れるかもしれない。
自分の仕事がAIに置き換えられないためには、AIによる省力化で生み出された余裕を使って新しいものを創りだしていかなければならないのかもしれない。
<関連記事>
機械学習を専門用語を使わずに解説する
<参考>
- 人工知能(AI)と医療(日本医師会学術推進会議)
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20180620_3.pdf - インフルエンザ検査の限界をAIで突破する新しい医療機器(グノシー)
https://gunosy.com/articles/RdFuy - AI時代でも「消滅せずに稼げる」職種10(プレジデントオンライン)
https://president.jp/articles/-/24068?page=2 - AI教師ロボットが誕生!?教育現場で人工知能が活躍する最新の学習サービスと導入事例(AIさくらさん)
https://tifana.ai/column/9566.html - 観光ガイドは「AIロボ」 大阪駅で周辺施設などを案内(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASLB24GZ1LB2PLFA00M.html - 人工知能時代 人間にしかできない仕事とは?(NEWSSALT)https://www.newssalt.com/6596
- 本庶佑・京都大特別教授(ノーベル医学生理学賞)(朝日新聞)
https://www.asahi.com/topics/word/%E6%9C%AC%E5%BA%B6%E4%BD%91.html - 「定説を覆す」「わが道を行く」研究の原動力は好奇心 本庶佑氏ノーベル賞(産経ニュース)
https://www.sankei.com/life/news/181002/lif1810020003-n1.html
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