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建築業界でのAI活用事例3選【設計業務は人工知能が行う】

建築業界は製造業と比べてICTの導入がなかなか進まなかったものの、BIMの登場により事態は変わる。AI(人工知能)はICT化した建築業界を支援する。

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建築業界のICT化は進んでおり、国土交通省もi-constructionなど、生産性向上に向けた取り組みを行なう。背景には建築の標準化があり、言語に依存しないBIMによる設計スタイルは、グローバル化時代に欠かせない。ではAIによりBIMに代表される設計技術に、AIはどこまで介入する余地があるのか。

AI(人工知能)-建築

建築業界におけるAI活用法とそのメリットとは?

CADからBIMという流れ

建築業界でICT(Information and Communication Technology)が導入されたのは、1980年代だ。自動車や機械といった製造業で実用化されていた3次元CAD(Computer Aided Design)が、建築業界に導入されたのが始まりである。コンピュータを活用し設計するCADが導入されたものの、製造業のように大量生産にそぐわない建築物に対し、CADは必要とされなかった。そのため、CADの導入はなかなか進まなかったという。

CADの普及には、そのアプリケーションソフトを作動させるOSの登場が重要な契機となった。1990年代中ごろに登場した32ビットのWindows OSにより、コストが抑えられるようになったのが大きい。加えて、グラフィック処理技術の向上が建築業界でのICT化を一気に加速させた。

ここ数年で急速に普及したのが、BIM(Building Information Modeling)だ。CADが手書きの図面をデジタルデータに置き換えたものであるのに対し、BIMでは壁やドア、部屋といったオブジェクトを組み合わせることで、図面を構成してゆく。基本的には手書き時代からCADの導入に至るまで、線に基づいて図面を構成していたことに鑑みれば、BIMの登場は大きなパラダイムシフトが起きたといえる。

BIMの普及の背景には、従来の手書きによる建築手法では、現在のスピード化に対応できないということが挙げられる。旧来の設計手法では、情報の欠落や伝達ミスが生じるなど、ボトルネックが生じる。加えて、生産性の向上が不可欠だ。製造業のように大量生産は難しくとも、建築物でも効率よく生産されることが望まれる。

我が国固有の問題としては、人材不足の問題が挙げられる。医者や弁護士同様、資格と専門的な知識が必要とされる建築士。簡単に就業できない業種のため、我が国の現状に鑑みれば人材不足は大きなダメージとなる。どの業種でもAIやロボットに業務を任せる方向にシフトするなか、建築業界も例外ではない。BIMにみられるICT化は、AIを導入するには格好の条件といえる。

これから設計業務を行うのはAI?

建築生産のプロセス

AIを導入可能な業務に言及する前に、建築生産プロセスを確認しておこう。

建築主や第三者が企画し、その企画を受けて、デザインやイメージを創造する基本設計を行ない、実際に工事を進める上で必要な実施設計へと移行する。設計と施工とは同時並行で実行され、地下障害の撤去など工事着工に向けての準備を行なう。

BIMは、基本設計や実施設計、施工に至るまで一挙に取り扱うことが可能だ。とくに建築モデルや構造モデル、設備モデルといった複数のモデルが実際の建設に向けて必要で、これらを統合的に扱えるBIMは、作業の効率化に欠かせない。

設計モデルの作成だけでなく、横断的に行われるプロセスの効率化のために、AIの導入が期待される。

AI(人工知能)-AI導入プロセス

AIが建築の仕事を奪う?

AIの導入というと、自動運転やスマートスピーカーに見られる音声認識といった単純作業の代替という印象があるかもしれない。ところが、コピーライティングやニュース記事や小説といったクリエイティブな業務もAIに作業させる試みが行われている。同じくクリエイティブな職能が求められる建築。これらすべてがAIに代替可能だとすれば、建築業界の人間にとって脅威だろう。

ただし完全にAIにすべての作業を任せるというわけにはいかない。単純に1つの建造物を完成させるだけなら、AIに任せられるかもしれない。ところがスピード化が求められる昨今でも、建築は大量生産されるものではなく、建築プロジェクトの一回性が強調される。デザインはもちろん、街の景観や、思想といった複合的な要素を総合し、作業が進められる。同じ設計図や仕様書に基づくプロジェクトは存在しない。複雑な作業に向かない現状のAIが、建築業務を一挙に引き受ける状況になるのではない。むしろ、AIによって建築業務の「質」が変化するといえそうだ。

建築業界におけるAI導入事例

施工計画の提案をAIで(鹿島)

鹿島は、「ArchiCAD」と呼ばれるBIMの導入を2016年度に、全施工現場に行なった。BIMで作成した3次元画面をもとに、建築と構造、設備の整合性がとられる。このBIMのシステムにAIを連動させるシステムを、三菱総合研究所とともに開発中だ。クレーンの配置を行なう仮設計画と、工程情報をもとに、機械学習により最適化を図ることが可能になるという。

一例だが、施工計画の提案をAIが行なう。建物に関するさまざまな情報をもつ3次元モデリング技術にもとづいて、AIが複数の施工計画を提案する。約400現場の施工計画を、機械学習により解析したという。現場管理者は、AIが提示した複数の施工計画をもとに、最適なものを選択する。通常、施工計画の作成には1週間かかるというが、AIならば数分で済む。

鹿島と三菱総合研究所が共同開発するAI施工システムは、2018年度中に試作版が完成する予定だ。

建機の作業を最適化(鹿島)

鹿島は設計だけでなく、実際の施工にもAIを導入する。建設機械の自動施工システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」の開発の一環で、神奈川県小田原市にさまざまな開発技術を検証する実験場「西湘実験フィールド」を整備した。ブルドーザーやダンプカー等を無人で自動運転させ、施工や運転制御の精度を上げるのが目的だ。加えて、AIを使って建機の作業手順の最適化を行なうという。

ブルドーザーの敷きならしは複雑な作業を要するため、技能者ごとに異なり、モデル化が難しいという。鹿島は建機の自動化のために、熟達技能者の運転を記録、そのパターンを解析したという。シミュレーターをAIで操作させて、指定された区域内に綺麗に敷き詰められると加点、遠回りや土のはみ出しがあった場合には減点とし、最適解を強化学習によって求めた。

鹿島は、ブルドーザーの敷きならしの自動化とその効率化を図るとしている。

ファシリティ・マネジメントにAIを(日本設計)

1970年代にアメリカで生まれたファシリティ・マネジメント(FM)は、オフィスビルを働きやすい環境に整え、労働者の生産性を上げることが目的だ。具体的には、映像管理や入退室管理、エネルギー管理などが実施される。

建築設計事務所の日本設計は、CADソフトウェアを開発・販売するオートデスクと2014年パートナーシップを締結、BIMソフト「Revit」を導入した。建物形態と性能や仕様の決定に、BIMを用いるという。性能や仕様の情報を、維持管理や改修といった建物のライフサイクルに活かすのだ。通常、建物の設計、施工が完了すると、ビルの維持管理、改修へとサイクルが移る。日本設計の試みは、設計段階で、ビルの維持管理や改修にも活用しようと、データを連携させる。

AIをBIMやFMに活用する道筋を、日本設計は模索している。オートデスクのプラットフォーム「Forge」を2017年から活用、BIMと連携し、維持管理に活用する。ForgeとBIMを連携させることで、ファシリティ・マネジメントのシステムとつなげられるという。

日本設計が行なおうとするのは、設計からファシリティ・マネジメントまで統合的に管理する試みだ。維持管理のビッグデータが蓄積され、人の感覚が加わることで、AIを活用して設計に応用させるロードマップを作成するとのことだ。

AIが変える建築業界の未来とは?

ビルの建築ひとつとっても、設計や施工だけでなく、アフターフォローとしての改修やファシリティ・マネジメントといったビルの維持管理まで、幅広い業務への対応が求められる。これらすべての業務がビッグデータにより一元化されると、効率化はますます進む。

現状、施工モデルの作成や施工作業の効率化、維持管理など個別でAIを活用する段階だが、一元化が進めば、統合的な設計が可能になることも予想される。

AIにより建築業務が奪われるのではなく、AIが設計を支援するというスタイルに業界がシフトするのではなかろうか。


<参考>

  1. 鹿島、AIと人間の知見融合 建築工事に自動ツール導入(日刊工業新聞)
    https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00431634
  2. 2017年に発表された建築業界のAI活用実例まとめ(18事例)(ミライスタイル)
    https://mirai-style.net/?p=5997
  3. 自動化技術の開発加速 西湘実験フィールド開所式(鹿島)
    https://www.kajima.co.jp/tech/civil_engineering/topics/170908.html
  4. オートデスクについて(Auto Desk)
    https://www.autodesk.co.jp/company
  5. 「グローバルスタンダードとファシリティマネジメント」(Re 2014年10月号)
  6. 「BIM概論」(冷凍2014年10月号)
  7. 「AI設計に敗れデジタルで再起」(NIKKEI ARCHITECTURE 2016年7月14日号)
  8. 「正しいBIMとの付き合い方」(NIKKEI ARCHITECTURE 2017年5月25日号)
  9. 「ブルドーザーの作業手順もAIが考える」(NIKKEI CONSTRUCTION 2017年10月23日号)
  10. 『ARCHICADでつくるBIM施工図入門』(鈴木裕二, 池田寛 著)
  11. 『建築生産』(古阪秀三 編著)
  12. 『よくわかる最新BIMの基本と仕組み : 設計・建設の生産性が飛躍的に向上 : 3D建築モデルBIMの概念』(家入龍太 著)
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