小売業界における発注はベテランが行っても予測が難しく、発注量が不足したり、逆に多すぎてロスが発生したりする。このデータ解析はAIが得意とするところである。AIを活用した需要予測は発注や製造の現場で活用され、物流や製造、そしてそれにかかるエネルギーコストの改革に繋がっている。
続きを読むAIによる需要予測が世の中か品切れをなくす
最近、AIを活用した無人店舗がテレビや新聞で紹介されるようになってきている。入店時に会員としての認証を行ってしまえば、店内に設置されたカメラが、どの商品を何個入手したのかを自動判別し、自動で会計をしてくれるしくみだ。支払はSUICAなどのICカードを使って行う場合もあれば、登録してあるクレジットカードから引き落とされる場合もある。
ここで重要なのは、これまでのスーパーやコンビニのレジとは異なり、「誰が、いつ、何を、どこで購入したのか」がデータとして残ることだ。これは大変重要な事を意味している。
これまで、買い物をしてくれた客の属性情報をレジで取得しようとすると、レジ係が「(たぶん)40代の女性」と、主観で判断して登録するしか無かった。ところが近年、年齢は見た目だけでは判断ができない。
一方、会員登録されている人物が買い物をすると、Amazonや楽天で買い物をするのと同じで、顧客の属性情報として溜まっていく。
小売業界で重要な「発注」業務は、需要予測をしっかりと立てられなければ「読み違い」を起こしてしまい、品切れや過剰在庫を発生させてしまう。これにより食品の廃棄やロスが発生し、今や先進国では大問題となっている。
これを防ぐためには、発注を行うのに必要な需要予測の精度向上が必要だが、そのために必要なのは、その日の天気や周辺のイベント、そして何よりも顧客属性の精緻化なのである。そしてこれらを精密に取ることができればできるほどAIは力を発揮し、適切な数量を発注することができるようになるのである。
また、この基礎となる需要予測は、製造側の「いつ、どれくらい製造する必要があるのか」を算定する上でも役に立つはずである。
需要予測の仕組みとは
では発注する際の需要予測は、どのように行ってきただろうか。まずは人間が行う場合を考えてみる。
基本的に、あるエリアでお店を出している場合、長年お店をやっていれば、毎日必ず売れるだろう一定の量は大体わかる。だから賞味期限のあるものにさえ注意をすれば、品切れを防ぐ発注というのは長年のデータから予測ができる。
そこに追加で必要になるのは、天気の情報や周辺で開催されるイベント情報だ。天気が良いと売れる物、特に行楽シーズンだと売れそうな物は、これも長年のデータでわかる。逆に天気が悪い場合に売れるものも同様である。地下街などは、雨が降ると客が増える傾向にあるため、発注を増やす必要があったりする。
また周辺でイベントが行われるのであれば、そのイベントから流れてくる人数がどれくらいか、購入しそうな物は何かを想定する必要がある。その需要を組み込んで考えることで、発注量を確定できる。もちろん自分たちがセールを行うなどするのであれば、その分を追加すれば、発注計画ができ上がる。
ここまでざっくりと需要予測の手順を書いてきたが、その全てに「データ」が絡んでいるのがおわかりだろうか。データの分析はAIが最も得意とするところである。つまり、これまでの発注実績や天気予報、そしてその地域で今後行われるイベント情報を収集・解析すれば、適切な発注量を見積もることが可能となる。これによって廃棄やロスを削減することができるし、人間は発注業務をAIに任せてしまうことで浮いた時間を使い、顧客対応に力を割くことが可能となる。
そして、もしこの情報を、小売という枠を超えて製造や物流にも展開することができれば、生産や流通をも最適化することができる。実際にそのようなソリューションも開発されつつある。
AI導入で欠品がなくなった
NECは「需要最適化プラットフォーム」という小売から卸、製造向けのソリューションを開発し、提供している。このプラットフォームの特徴はNECが独自に開発した「異種混合学習技術」を導入したAIエンジンである。
このAIエンジンは、単にこれまでの発注実績から発注数を決めるわけではない。気象情報やイベント情報を収集することで、何故その発注数なのかという理由を明確にしている。また、人口統計などのデータをプラットフォーム内に保持する事で、セキュアなデータ連携が可能な環境を用意している。
日本スーパーマーケット協会はこのプラットフォームに会員企業の協力で準備したデータを取り込ませ、来店客数の1年以上にわたる予測を実施した。そしてその結果、1日の平均客数実績3890人に対して、予測の誤差は1日あたりで264人と、誤差率7%を達成した。
これだけの予測精度であれば、発注に対する誤差も少なくなるはずである。実際にヨーグルトで約3ヶ月にわたって実施。その結果、人間の発注では発注量が少なくて売り切れてしまった欠品日数が2日、平均ロス数は1日あたり18.1個だったのに対し、AIの予測による自動発注では欠品日数はなく、平均ロス数は1日あたり12.5個だったという。特に価格情報を入れた時に精度が向上したという。
またCS-C(シーエスシー)は、名古屋大学発AIスタートアップのトライエッティングと組み、飲食店向けに同様のサービスを提供している。こちらのサービスでも同様に食材発注を自動化し、同時に人員配置の最適化も行っている。このサービスでは人口だけではなく、地域の人口構成、所得水準なども利用している。
ベテランの勘をAIが完全に再現する
今度は発注を受ける側の例も紹介しよう。同じくNECのプラットフォームを使って、需要の予測を行っている企業がある。アサヒビールもそうである。
アサヒビールでは需要予測をベテラン社員に頼ってきたが、人材育成に時間がかかるという問題を抱えていた。しかし、ビールは鮮度が命なので、できるかぎり新鮮なものを届けたいという想いはあるものの、在庫を余らせたくない物流側と、商品を切らしたくない営業側とで需要予測に対して見解が一致しないことが多かったという。
そこで、NECのプラットフォームにこれまでのデータを組み込み、小売の時と同じように必要量を「需要予測」として利用することで、判断基準を定量的で、明確化することに成功した。これにより流通在庫の適正化を図ることができるようになった。
当初は試行錯誤を繰り返したものの、現時点では予測と実績との誤差は10%程度にまで絞り込むことに成功している。しかし全てをAI任せにするのではなく、安定した需要予測をAIに行わせ、その予測に対し人間の経験値を加味して、突発的な需要変動にも対応しようとしている。
まとめ ~発注時の課題はAIが解決する~
小売業界にとって発注業務というのは業績を左右する重要な業務である。しかしそれを経験と勘だけに任せる時代は終わろうとしている。消費のサイクルが早くなったために、売れ残りはそのまま廃棄に繋がり、大量のロスを生み出している。消費期限がないものであれば値下げによって在庫を一掃できる可能性もあるが、食品などは全てが廃棄・ロスに繋がる。
これらの問題をAIは蓄積された販売実施データに天気予報やイベント情報など、発注業務に必要と考えられるデータを組み合わせ、解析を行うことで、ロスの少ない発注を行えるようにまでなってきた。その精度はベテラン社員が行うよりもより精度の高い水準に達している。
そして同じ需要予測のしくみを使えば製造側のロスも減らすことができる。もちろんこれらの予測にはデータが必要であるが、人口構成や所得水準、購買層の詳細なデータまでが使える様になれば、精度をより高めることが可能となる。
さらに業界を超えて製造や物流にまでこれらのデータを共有できれば、製造・物流・小売と一貫した需要予測ができるようになるかもしれない。そしてこれは日本全体、ひいては世界全体で製造から販売までを効率化することにつながってくるかもしれない。このことはエネルギー配分の適正化をもたらし、省エネにも繋がるだろう。ひいては、地球温暖化対策にもつながるかも知れない。
AIを提供する側はNECや富士通などの大手も参入しているが、そこに必要なデータを取得し、蓄積するところについてはまだまだできていない所が多い。使えるデータを準備するところに参入できれば、この需要予測革命に参入することは可能だろう。
<参考>
- AI、小売り戦略支える、ヨーカ堂、需要予測し発注、ファミマ、出店の可否判断。(日本経済新聞)
https://messe.nikkei.co.jp/rt/news/138027.html - AI/機械学習を活用した、需要予測の高度化アプローチ「動的アンサンブル予測」とは?(IT Leaders)
https://it.impressbm.co.jp/articles/-/15831 - 安定と高精度で需要予測の進化を牽引するAIバリューチェーンと社会の課題解決に貢献(NEC BUSINESS LEADERS SQUARE wisdom)
https://wisdom.nec.com/ja/events/2018071101/index.html - AIと気象情報による需要予測で食品廃棄を削減 – NECとJWA(マイナビニュース)
https://news.mynavi.jp/article/20180301-591416/ - シーエスシー、AIで飲食店の売り上げ予測
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36209200V01C18A0FFR000/
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