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販売業はAIを活用すれば売上向上間違いなし

人件費を削減できるだけでなく、売り上げの向上に貢献するAI。今回は、販売業でのAIの活用を数例確認する。

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AIやIoTの登場以来、ECサイトだけでなくリアル店舗でもICT革命が起きている。少子高齢化による人材不足が叫ばれる中、AIが販売業に介入する余地はどの程度あるのだろうか。

今回は4つの事例を通じて、多種多様にAIを販売業に活用できるシーンを紹介する。

AI 販売

販売におけるAIの活用法

販売業ひとつとっても、AIの活用範囲は広い。本稿では、下記の4業種を取り扱いたい。

AI 販売

在庫管理

在庫量を適正に保つことが、販売業においての課題である。出庫や棚卸といった作業やデータ管理を管理者が行なうものの、在庫量を適正に保つまでは至らない。あるいは、受発注システムや生産管理システムで在庫量を一部においては適正化できるものの、効果が十分発揮されていないという。需要変動や在庫補充を適正化するシステムが十分に機能していない、そのシステムが十分に管理者に理解されていない等の問題が残るためだ。

これらの現状を打破するために、現時点での在庫量や在庫実績、回転率などを可視化する必要がある。可視化されたデータをAIが学習するのだ。

AI接客

GoogleホームやAmazon AlexaといったAIスピーカーが普及した現在、呼びかけや命令を理解し、適切な応答をするAIアシスタントに関しては、周知のことだろう。言語認識の分野は、AIが力を発揮する恰好の場だ。販売業では、顧客との対話が必要になるが、それをAIで代替しようとする動きがある。

インフォメーションカウンターなどに、AIを搭載したロボットを設置し、訪問客の質問に応答する「案内係」を設ける試みがなされている。交通機関だけでなく、商業施設や官庁などで利用されているという。日本語だけでなく、中国語や韓国語、英語といった外国語にも対応できることは、インバウンド産業が盛んになる昨今において強みだろう。

需要予測

販売業において、ビジネスを左右する重要な位置を占める需要予測。市場にモノが飽和し、消費者が取捨選択する時代へと移り変わった結果、需要を正確に予想することはますます困難になっている。さらに少子高齢化の影響が追い打ちをかけ、需要予測に関する業務を遂行する人材の確保が緊喫の課題となっている。熟練者に需要予測を頼ってばかりでは、多様化する需要予測への対応は困難だ。

過去の実績はもちろんのこと、商品のライフサイクル等に関するデータをAIが学習し、既存の商品や新商品の需要予測が行なわれる。

データ分析(購買意図の分析)

伝統的なマーケティングでは、テレビや新聞などの広告を通じて、不特定多数の消費者に訴え、市場のシェアを増大させるマスマーケティングが主流だった。ところが消費者のニーズが多様化したため、消費者個々に異なるメッセージを送る必要がある。

そこで登場するのが、デジタルマーケティングだ。ECサイトにたどり着いた経路や、コンバージョン率(成約率)等のデータに基づき、消費者の心理を掴むことで、市場のシェア増大が期待される。機械学習は、消費者の心理を読むためのデータを分析する道具だ。

AIによるマーケティングは、一歩進んでリアル店舗にも適用される。リアル店舗にカメラを設置することで、消費者の心理を読むためのデータを収集すれば、デジタルマーケティングが適用可能になる。

在庫管理の具体例

鮮度が味に影響を及ぼすと考えられるビール。過剰在庫を減らし需要ロスを防ぐ必要がある。大手ビールメーカーであるアサヒビールは、ビールの在庫管理を効率化するために、AIを活用した需要予測に取り組んだ。

予測精度を上げるために、NECの開発する異種混合学習を活用したという。機械学習にかけるビッグデータには、多種多様なデータが混在する。このデータを1つの法則にまとめ上げると、予測精度が落ちてしまう場合がある。異種混合学習では、ビッグデータを複数のグループに分け、多数の規則性を発見しようとする。これにより、分析するデータに応じた精度の高い規則を自動で発見し、その規則に基づいて状況に応じた最適な予測が可能になる。異種混合学習は、食品の需要予測や、保守部品の在庫最適化に活用できる。

アサヒビールは、カレンダー情報や気象情報、競合商品などの情報を異種混合学習にかけたという。平日の場合や土日の雨の場合など、複数のパターンの予測モデルを自動で生成できるのが、異種混合学習の強みだ。

予測と実績との乖離を示す予測誤差率は、小さく、それゆえ在庫量が最適化される。アサヒビールによると、2018年4月の段階で平均予測誤差率は10から15パーセントだという。この数値は、熟練者による需要予測に匹敵するレベルだ。

アサヒビールは、2019年春に、AIを本格導入するとしている。

AI接客の具体例

大手メガネチェーンのJINSは、2016年11月から「JINS BRAIN」を提供している。「JINS BRAIN」は、ユーザーがオンライン上で選んだメガネが似合っているかを判定するサービスだ。

約200タイプのメガネを数百人が装着した画像6万点を用意し、JINSのスタッフが似合うか似合わないかを評価した。連日来店客にメガネが似合う・似合わないかをスタッフが判定するだけあって、その判断能力は高い信頼性をもつ。このデータを機械学習にかけたというのだ。その結果、お世辞を言わずにメガネをレコメンドする接客AI「JINS BRAIN」が完成した。

JINS BRAINでは、ユーザーの顔写真を自撮りし、目や鼻の位置を微調整する。6種類のフレーム別に用意されたメガネを選択すると、1、2秒で数値化されたマッチ度が表示される。

JINS BRAINはお世辞を言わない接客AIながらも、非利用者と比較して成約率が10ポイントも高いという。

JINSによると、さまざまなタイプの人による判定に基づいたレコメンドサービスの提供を展望している。すでに女性スタッフの評価に基づく「JINS WOMAN」と、男性スタッフによる「JINS MAN」の2種類が用意されている。これを応用すれば、面接官の評価に基づいたメガネのリコメンドが可能になるという。

需要予測の具体例

コンビニ業界でもAIの導入で、Amazon Goをはじめとしたレジ係のいない無人コンビニが登場した。日本でも、コンビニにAIの導入を試みる企業がある。それがコンビニ業界大手のローソンだ。

POSレジや電子マネー等の分野でのITの発達は目覚ましいものの、価格設定に関する業務では昔とあまり変わっていないという。市場調査をもとに定価を設定し、その価格は原則的に変更されない。他方、家電などの高額品の場合、インターネットなどで価格を比較するサイトが価格の決定に影響を及ぼす。

ローソンが試みるのは、AIを活用した値付けだ。電子棚札とICタグを導入し、無線信号により商品名と価格とが自在に変更可能になる。さらに消費期限の情報をICタグに書き込むことで、自動的に値下げが可能になる。従来では消費期限が迫ると商品が破棄されたり、手動で値下げに対応していたが、システムの導入により人手が節約される。

この値付けシステムを、ローソンは動的な価格変更に活用しようとする。比較サイトなどのデータをAIで学習し、顧客が満足する価格に値付けしようというのだ。競合よりも安く売り上げが多くなる価格戦略が、今後の新潮流となるであろう。

データ分析(購買意図の分析)の具体例

不特定多数を対象としたマスマーケティングから、個人の行動に対応したデジタルマーケティングへと発展を遂げているマーケティング業界。店舗で得られるデータを蓄積し、そのデータをAIで分析することで、小売りに活用するがABEJAだ。

ABEJAは、「ABEJA Insight for Retail」と呼ばれる、リアル店舗での顧客の行動などをデータとして可視化するシステムを開発した。アマゾンをはじめとするECサイトならば、サイトへの訪問者数のうちどのくらいのユーザーが購買したのかを設定するのは一般的だ。どのような経路でECサイトで商品を購入するに至ったかや、購入しなかったユーザーがどの段階で離脱したのか等の情報に基づき、ECサイトのデザインや決済方法を運営者が変更できる。

他方リアル店舗の場合、POSデータで販売時点での客数は把握されるものの、入店時の客数までは把握されないという。そこでABEJA Insight for Retailでは、店舗のカメラを設置し、来客者の分析が実施される。来客数のカウントはもちろんのこと、AIを活用した画像解析から年齢や性別の推定、来客者の滞在率等を分析し、店舗の改善にデータが活用される。

ABEJAによると、ABEJA Insight for Retailを導入する業種として、雑貨やアパレル、商業施設等が挙げられる。過当競争も激しいことから、AIを活用したシステムによる店舗の改善が期待される。

まとめ

ECサイトに代表されるように、WEB上でのデータを機械学習にかけ、それを販売業に活用する手法は従来から見られたが、舞台はリアル店舗に移行している。リアル店舗に設置されたカメラなどを活用し見える化することで、取得データが機械学習にかけられる。

現場だけでなく、データを分析する人材の確保はどの業種でも課題だが、AIを活用することで問題がクリアされることが期待されよう。


<参考>

  1. 異種混合学習(NEC)
    https://jpn.nec.com/ai/analyze/pattern.html
  2. 「人工知能を搭載した対話型接客システム「AIさくらさん」の可能性」(SC Japan TODAY  2018年7&8月号)
  3. 「在庫管理もAI活用の時代」(流通ネットワーキング 2018年9月10日号)
  4. 「異種混合学習技術を活用した日配品需要予測ソリューション」(NEC技法 Vol.68 No.1)
  5. 「安定した予想精度と運用効率化を両立するAI需要予測」(FUJITSU. Vol.69 No.4)
  6. 「お世辞を言わない接客マシン」(Nikkei Business 2017年6月26日号).「支援ツールが充実 問われる活用力」(Nikkei Computer 2018年1月18日)
  7. 「タクシー、ビール… 需要予測で時機つかむ」 (Nikkei Computer 2018年5月24日号)
  8. 「新しいチェーンストア理論」 (販売革新 2017年2月号)
  9. 「人工知能を活用した店舗解析「ABEJA Insight for Retail」」(販売革新 2018年10月号)
  10. 『まるわかり!人工知能2019 ビジネス戦略』(日経BPムック)
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