AI(人工知能)が様々な分野に次々と進出している。将来はAIによって取って代わられるだろう職業一覧も公開されている。
薬剤師は代替されにくい職業であるとされているが、だからといってAIが入ってこないわけではない。調剤についての情報や薬歴情報などが蓄積されているので、そこからAIが導入されてくると考えられる。
続きを読む薬剤師の大まかな仕事
薬剤師の仕事は就職する先によって変わる。私たちが普段接するのは病院や薬局で働いている薬剤師である。しかし製薬会社、食品メーカー、化粧品メーカーの研究員などとして働いている薬剤師もいる。他にも学校や保健所にも薬剤師はいるし、薬局などへの立ち入り検査や指導を行うのも薬剤師資格を持っている者でないと務まらない。
とはいえ、最も多いのは病院や薬局で働いている薬剤師であるため、その仕事を紹介しよう。薬剤師には大きく分けて3つの業務がある。
まず1つ目は調剤業務である。これは病院で発行された処方箋を元に薬を調剤する業務である。処方箋には基本的に先発品が記載されているが、患者が希望している場合には後発医薬品、いわゆるジェネリック医薬品を処方する。場合によっては複数の薬剤を調剤して患者に提供する。
2つ目は服薬指導業務である。これは患者に処方した医薬品について、服薬の方法を説明する業務である。一日の中でいつ飲むのか、その際にどの程度の文量を服用するのかなどを説明する。薬の飲み合わせや副作用がある場合にはそれも説明する。例えば「眠くなる可能性がある」などは事前に説明することで、患者が服用後にやってはならないことや注意すべき点を説明する。
そして3つ目は薬歴管理業務である。患者ごとに処方状況や次回の調剤タイミングについての情報を保存・管理する。これは在庫を適正化する上でも重要である。またヒアリングで得た情報を整理した上で管理する。これにより、処方箋に書かれている情報だけではなく、薬が患者に合っているかどうかなども判断できるようになっている。
AIに取って代わられそうな分野とその際にAIはどのように使われるのか
では、この薬剤師の仕事の内、AIに取って代わられそうな部分はどこだろう。そしてそこでAIはどの様に活用されるのだろうか。
人工知能が最も得意なのは大量のデータが存在する部分である。このデータ処理をしっかりと行えるのが強みである以上、データが存在しない部分は苦手だ。薬剤師の仕事でデータが蓄積されているのは、先に紹介した業務である調剤と服薬指導、薬歴管理の中で言えば調剤と薬歴管理部分である。特に調剤に関しては製薬会社からのデータがあるため、それを上手く組み合わせるのはAIの得意分野になり得る。錠剤であれば指定のもの(またはその先発品のジェネリック)を人間が用意するわけで、少なくとも検索の部分は自動化を進めやすい。
ところが一回に飲む種類が多い場合、薬局では複数の薬を調剤し、粉薬としてそのまま出す、またはオブラートに包むかカプセルに入れて出す。塗り薬やシロップ・液体の薬も同様で、これも混合して出すことがある。この場合に薬同士の組み合わせがあるため、それを知っていないと処方した薬が危険になる場合がある。例えば液体の場合だと、調剤した結果強い酸性やアルカリ性になってしまうと、そのまま飲むことができないため、かならず中性になるよう中和を行う必要がある。
このような組み合わせについては、AIが大変強い味方となる。処方箋から最適な組み合わせを提示してくれれば、薬剤師は調剤作業のみに注力できるようになる。また、新しい薬が追加になった場合も、これまでの薬歴管理データを持っているため、組み合わせを考えやすい。そのうえ、ここから服薬指導のデータも作成できるため、薬剤師の仕事のかなりの部分をサポートできるようになるのだ。
AIに薬剤師の仕事は奪われるのか
では最終的に薬剤師の仕事はAIに奪われてしまうのだろうか。実のところそう簡単に仕事が無くなるようなことはない。というのは、薬剤や薬歴管理のデータを用意してAIで処理できるようにしたとしても、すべての調剤業務が行えるわけではない。特に複数の薬剤を調剤するのは薬剤師の仕事である。つまり、データ上のヴァーチャルの処理はできたとしても、実際に調剤を行うというフィジカルの部分はロボットのようなものが必要となる。ところがこの人間の手の代わりになるような、力加減をうまくできるロボットというのはまだまだ実現のハードルが高く、調剤部分は人間の独壇場である。
また、服薬指導や薬歴管理データの作成には患者とのコミュニケーションが欠かせない。ここもいずれはAmazon EchoのようなAIスピーカーに代替される可能性もあるが、AIスピーカーに患者とのコミュニケーションが可能なまでの精度はない。逆に言えば、他の職業と同じく、対人コミュニケーションが必要な部分はAIが人間に取って代わるのは難しく、ここは薬剤師の出番となる。
だが、気をつけなければならない面もある。薬や調剤に関する知識や技能は最低限必要であるが、対人コミュニケーションの部分が薬剤師にとってより重要な要素となるということは、コミュニケーション能力の低い薬剤師にとっては死活問題となる。もちろん研究職など、患者と対面しない職場に就職することも可能であるが、薬局などで働く場合には、これからはコミュニケーション能力の向上に努める必要があるということだ。
薬剤師業界において今後AIはどのように使われていくのか
さて、薬剤師の仕事やAIに代替される可能性について、現時点での方向性や可能性を紹介してきた。ここからは、実際に薬剤師の業界において、AIがどの様に使われていくのかを考えてみよう。
2019年2月の時点で、人工知能を活用したAI薬剤師が大々的にサービス提供されているという状況にはない。しかし、以下の業務については近い将来、AIによって代替される可能性が高い。
まずは調剤業務である。調剤作業自体は薬剤師が行う必要があるが、薬の飲み合わせなど、処方箋から患者に提供する薬をどうするのかは、AIがやってくれるようになる。また、患者の来局タイミングも薬歴管理がしっかりとできていれば予想が可能なため、薬剤の在庫管理も発注まで含めてAIに代替されると考えられる。
次に服薬相談業務である。薬局では薬剤師が対面での説明を行うだろうが、飲み方を忘れてしまった場合には、現在では電話による問い合わせが主流であろう。が、今後はインターネットを利用し、チャットボットによる自動応答が可能になるだろう。これは薬歴管理がしっかりできてさえいれば、そう難しい話ではない。しかも24時間365日、休みなしで相談に応じることができるため、対応のための人員を配置しなくても良くなる。そのうえ問い合わせ履歴も管理できるようになれば、人工知能が学習するためのデータが更に増えることにもなるので、一石二鳥である。
もちろんこれは人間が電話で対応する場合にも役に立つ。コールセンターに導入されている、かかってきた電話相談の内容から、可能性の高い回答選択肢を提示できる仕組みに薬の情報や薬歴情報を連動させておけば、普段自分が対応していない患者であっても、薬剤師が自分で検索する前にAIが対応方法を教えてくれるようになる。これは薬剤師のみならず、患者にとってもすぐに知りたい情報が得られるという点で利便性の高いサービスとなる。
このように、AIを業務のサポートに使いながら、薬剤師は人間同士のコミュニケーション部分や、ロボットで代替できそうにない部分を行う。このような協力関係が今後の薬剤師業界におけるAIの使い方となるだろう。
ただし、遠い未来、本当に人間とコミュニケーションのできる人工知能が開発された場合には、薬剤師はすべてAI薬剤師に取って代わられるかも知れない。
まとめ
今回は薬剤師の業務である「調剤」「服薬指導」「薬歴管理」の業務において、AI薬剤師が人間の代わりになり得るかを考えてみた。
結論としては、調剤に必要なデータはAIが準備できるようになるだろうし、そのための在庫管理などもAIが行う様になるだろうが、調剤自体は薬剤師の仕事として残る。
また服薬指導も、電話による問い合わせの部分についてはAIがサポートしてくれる様になるだろうが、基本的には対人コミュニケーションに優れている人間の薬剤師が行う業務となる。
そして薬歴管理も自動化は進んでいく。もちろんそのために患者からヒアリングする部分はまだまだ人間の薬剤師の出番だろうが、いつかAI薬剤師が取って代わるかも知れない。いずれにせよ人間はAIを上手く活用しながら、患者とのコミュニケーション能力を磨いていく必要がありそうだ。
<参考>
- 調剤の手引き(千葉県薬剤師会・千葉県病院薬剤師会)
http://www.c-yaku.or.jp/medical/160210_tebiki_TOTAL.pdf - AI×薬剤師!未来の医療は人工知能によってこう変わる!(AIZINE)
https://aizine.ai/job-1217/#toc3 - 「将来性のある薬剤師」になるためには?雇用飽和状態、AIの時代に生き残るヒント【2018年版】(ファルマスタッフ)
https://www.38-8931.com/column/jobchange/future.php - えーっと。AIの進化と医者や薬剤師の仕事の親和性について(More Access! More Fun!)
https://www.landerblue.co.jp/36350/ - 薬剤師がAIに仕事を奪われる可能性は1.2%!?(キャリアアドバイザーコラム)
https://www.cbcareer.co.jp/column/102012 - 【進学】薬剤師の将来性はない?AIに代替される?安定した生活を送れるという誤解【就職】(薬剤師のメソッド)
http://method-of-pharmacist.hatenablog.com/entry/stable - 薬剤師の仕事内容って?18種類の職場別に給与・働き方をまとめてみた!(HOP!薬剤師)
https://www.hop-job.com/pharmacist/job/ - 特集AI時代の医薬品情報のあり方を考える(1) Jpn.J.DrugInform.,19(4):N5~N9(2018).
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/19/4/19_N5/_pdf - これからの医療を担うのは,AIか人か?(医薬ジャーナル 2018年4月号(Vol.54 No.4))
https://www.iyaku-j.com/iyakuj/system/dc8/index.php?trgid=34347
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