就職や旅行や住まいや中古車など、あらゆるビジネスを情報にするのがリクルート・グループ(以下、リクルート)のビジネス・モデルである。
したがってリクルートには情報の巨人というイメージはあっても、ITの巨人というイメージを持っている人は多くはないだろう。
しかし今、リクルートが開発したAI(人工知能)が注目を集めている。その実力とリクルートの野望を探った。
続きを読むA3RTとは何か、なぜ無料なのか
AIを開発しているのは、リクルート・グループの株式会社リクルートテクノロジーズ(本社・東京都千代田区、以下、リクルート)だ。
リクルートは11種類のAIを無料で公開している。ある企業がAI開発を乗り出すとき、リクルートのAIを使えばコストを大幅に抑えることができる。
リクルートは11種類のAIのことを「API群 A3RT」と呼んでいる。
APIはアプリケーション・プログラミング・インターフェースの略で、独自開発したソフトウェアやアプリケーションを、第三者がネット経由で利用できるようにしたサービスのことだ。
A3RTはリクルート独自の名称で、Analytics & Artificial Intelligence API via Recruit Technologiesの略。リクルートはこれで「アート」と読ませている。日本語にすると「リクルートの独自技術による分析とAIのAPI」といったところだ。
それではA3RTをひとつずつみていこう。
A3RTとは11種類のAIのこと
A3RTには次の11種類のAIがある。
それぞれどのような特徴があるのか簡単にまとめてみた。
<01 リスティング Listing API>
企業がリスティングを使うと、顧客に商品やサービスをレコメンドできるようになる。リスティングAIは、顧客の行動記録から顧客が次に求めるものを予測する。
<02 イメージ・インフルエンス Image Influence API>
イメージ・インフルエンスを使うと、例えば、おいしそうな肉の写真を選ぶことができる。
ただイメージ・インフルエンスを使う前に、AIに肉を学習させる必要がある。AIに多くの肉の写真を登録して、人がそれぞれの写真を点数で評価する。おいしそうに見える肉は10点、まずそうな肉は1点とつける。すると、まったく別の肉の写真をイメージ・インフルエンスに「見せる」と、イメージ・インフルエンスがその肉のおいしさ度を点数で評価できるようになる。
<03 テキスト・クラシフィケーション Text Classification API>
テキスト・クラシフィケーションを使うと、世の中に流布している無数のニュース記事をジャンルごとに分類することができる。例えば、日本経済新聞のサイトには、トップページだけで約100本の記事が掲載されている。これらを日本株、海外株、日本政治、国際紛争といったようにわけていくことができる。
AIが記事を「読み込み」、内容を「理解して」同類の記事をみつけていくのである。
<04 テキスト・サジェスト Text Suggest API>
テキスト・サジェストを使うと、文章をつくることができる。AIが膨大な文章を読み込み、文章をつくるスキルを身につけたわけだ。
<05 プルーフリーディング Proofreading API>
プルーフリーディングは、人がつくった文章の間違いを指摘する機能を持つ。例えば「ここは視覚を活かせる職場だ」という文章があったとする。もちろん、「見る力」である視覚を活かせる職場もなくはないが、しかし「資格を活かせる職場」と考えるのが自然だ。プルーフリーディングAIはこうした間違いを探すことができる。
<06 トーク Talk API>
ネット通販をしている企業がトークを使えば、通販サイトにチャットボット機能を搭載させることができる。チャットボットとは、チャットをするロボットのことだ。LINEは人と人がチャットをするアプリだが、チャットボットでは人の話し相手がAIになる。
顧客がチャットの要領で「この服にSサイズはありますか」と入力すると、チャットボットが「Sサイズは現在切らしております」と文章で回答する。
<07 イメージ・ジェネレイト Image Generate API>
オリジナルの画像をつくることができるイメージ・ジェネレイトについては、後段で詳しく解説する。
<08 イメージ・サーチ Image Search API>
画像とテキストを結ぶことができるイメージ・サーチについても、あとで紹介する。
<09 テキスト・サマライゼイション Text Summarization API>
テキスト・サマライゼイションは長文を要約する機能だ。長文をAIに読み込ませると、短い文章にまとめてくれる。
<10 SQLサジェスト SQL Suggest API>
SQLは、特殊なプログラム言語で、大量のデータを処理するときに使われている。
SQLサジェストを使えば、プログラム言語を覚えていない人でもSQLを扱えるようになる。
<11 ネイムド・エンティティ Named Entity API>
ネイムド・エンティティは、品詞を識別することができる。例えば、長い文章のなかから固有名詞だけを抜き出したり、地名だけを抜き出したりすることができる。「固有表現抽出機能」という。
無料公開する理由
リクルートは11種類ものAIを無料公開している狙いについて、次の2点を挙げている。
1)AIのオープン・イノベーションに貢献する
2)A3RTの存在感を高める
オープン・イノベーションとは、自社開発の技術をあえて無料で公開することで、それを使ったイノベーションを引き起こす企業戦略である。資金力に乏しい個人の開発者や起業家やベンチャー企業は、こぞってその無料の技術を使うようになる。技術を無料公開している会社が彼らを支援すれば、彼らと新しいものを生み出すことができる。つまり、優秀な人材や大化けする可能性を秘めたベンチャーにリーチできるようになる。
そしてA3RTが個人の開発者や起業家、ベンチャー企業から強力な支持を取り付けることができれば、AI開発分野においてA3RTの存在感が高まる。
インターネットが世界中のビジネスと生活を変えたように、AIも今後、世界をガラリと変えるだろう。A3RTの知名度が高まったときのリクルートのメリットは計り知れない。
イメージ・ジェネレイトはオリジナルの画像をつくる
先ほど解説を保留してイメージ・ジェネレイトについてみていこう。
イメージ・ジェネレイトはAIがオリジナルの画像をつくる技術だ。例えば、AIに100種類のネイルアートの画像を登録したとする。人がこのうちの3枚の画像を選択すると、イメージ・ジェネレイトはその3枚の画像からオリジナルのネイルアートの画像をつくる。
これは、ネイルアートを始めたばかりの人が、ネイルアートの写真集をみてデザインを覚えるようなものだ。
リクルートではイメージ・ジェネレイトのデモを公開している。そのデモを体験すると「すごさ」が一瞬で理解できるだろう。下記のURLからアクセスできる。
https://a3rt.recruit-tech.co.jp/product/demo/imageGenerateAPI_demo1/
イメージ・サーチは画像とテキストを結ぶ
イメージ・サーチは、画像とテキスト(単語や言葉や文章のこと)の関係を学習することができる。イメージ・サーチのスキルを身につけたAIは、ビッグデータのなかのテキスト情報を、画像を使って検索することができる。もしくは、ビッグデータのなかの画像を、テキストで検索することができる。
画像にタグをつければ、AIを使わなくてもテキストで画像を検索することはできる。しかしその場合、もし間違ってリンゴの写真にミカンというタグをつけてしまうと、ミカンで検索したときにそのリンゴの写真も検索結果に出てしまう。
しかしイメージ・サーチでは、AIが「自分の目」で写真を「見て」リンゴを探す。
中古車情報アプリ「カーセンサー」にもAIを搭載
リクルートのベストセラー雑誌に中古車情報を掲載した「カーセンサー」がある。カーセンサーはいま、スマホ・アプリでも展開していて、ここに画像解析機能を持つAIが搭載された。
街中で格好いい自動車をみつけて興味を持っても、車種がわからないことがある。そのときスマホで自動車を撮影し、カーセンサー・アプリで検索をかけると、カーセンサーの膨大な中古車情報のなかから、その車種の情報を表示させることができる。
アプリ・ユーザーは自動車情報を簡単に入手でき、カーセンサーは中古車の販売につなげることができるというわけだ。
まとめ~本業でないからできること
リクルートは情報の巨人であってITの巨人ではない。しかしこの企業特性が、リクルートのAIの差別化につながるかもしれない。
リクルートのAI開発責任者はネット記事のインタビューで「無料公開しているAIは、リクルート・グループの内部で利用してきて、一定の成果が出ていると考えられているもの。社外の方々にこれらを利用してもらい、フィードバックを頂くことで、グループ内で利用するロジックやAIをさらに洗練していける可能性が高まると期待している」と答えている。
IT企業であれば、開発したAIを販売して売上を確保しなければならない。しかし情報企業のリクルートは、自社で大量の情報を裁くためにAIが必要だった。AIをIT企業から買ってもよかったのだが、内製してしまったのだ。つまりリクルートはAIで儲ける必要がなく、自社開発のコストは情報ビジネスで回収すればよいのだ。
そしてリクルートは情報会社なので、AIのヘビーユーザーでもある。AIのニーズや重要性をどの企業よりも知っている。そのリクルートがAIを開発すれば、実用的なAIを生み出すことができるはずだ。
<参考>
- リクルートが社内で育てたDeep Learning/機械学習API群「A3RT」を無料で公開した理由(@IT Special)
https://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1703/30/news007.html - PRODUCT(A3RT)
https://a3rt.recruit-tech.co.jp/product/ - Image Generate API(A3RT)
https://a3rt.recruit-tech.co.jp/product/demo/imageGenerateAPI_demo1/ - API群「A3RT」を通じた 機械学習のビジネス活用について(A3RT)
https://speakerdeck.com/rtechkouhou/apiqun-a3rt-wotong-zita-ji-jie-xue-xi-falsebizinesuhuo-yong-nituite?slide=34 - リクルートテクノロジーズ(リクルート・グループ)
https://www.recruit.co.jp/company/group/recruit-tech/ - リクルートテクノロジーズ独自のディープラーニングサービスを活用 カーセンサー・アプリに新機能登場(PR Times)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000230.000010032.html
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