実機によるオフラインでのゲームから、スマートフォンやPCからオンラインで接続するソーシャルゲームへとトレンドが移行しつつある。GREEは日本で早い時期からオンラインゲームに参入している企業だ。
ゲームの発展とともに複雑化するため、商品化するには人工知能(AI)などの最新技術が必要である。そこでGREEのAIへの取り組みの背景にある品質保証(QA)やゲームAIの導入、そしてその課題について取り上げたい。
続きを読むゲームの品質管理にAI技術の応用をすすめる
商品化に欠かせない品質保証(QA)
ゲームを商品化するまでの工程として重要なもののひとつにQA(Quality Assurance:品質保証)がある。バグ取りのようなプログラムに内在した欠陥を取り除くだけでなく、ゲームをユーザーが楽しめる難易度になっているかなどのチェックが行われる。
バグにはいくつかのレベルが存在する。わずかなグラフィックの不具合などゲームの流れに影響を及ぼさないものから、フリーズやサウンドエフェクトなどの欠落といったものまで広範に及ぶ。中程度以上のバグは修正され、開発者に連絡がわたるという。
バグのチェック等QAに携わるのはもっぱら人間である。QAエンジニアと呼ばれる業種が存在するなど、この工程作業は専門化している。製品としての品質を保てているかのチェックは食品業界や製造業など、あらゆる産業で要請される工程だが、ゲーム業界も同様だ。QAが時間をかけて、ゲームの品質チェックを行なう。
日本で開始したQA
実を言うと、QAが始まったのは日本だ。QAはソニーなどで重視されているという。QAでは、人間と自動プレイが均衡しているかのチェックや、複数のハードウェア構成での互換性のテスト、認証試験にパスするかのコンプライアンステストや海外で販売できるよう言語やゲームの対象を変更するローカリゼーションテスト、プレイヤーがゲームに満足できるかなどのユーザビリティテストなどが行われる。
これらのQAはもっぱらエンジニアが長い時間をかけて行なう。ところが、AIの活用も実施されつつあるのだ。たとえば、文字が適切に表示されているかなどのチェックなど、人間では見落としやすいだけでなく、時間もかかる。またアルファベットや数字などの通常の文字だけでなく、ゲームだけで通用する特殊文字が使われていることもある。そこでミスのない高品質なチェックを行なうために、AIの導入が検討されている。
ソーシャルゲームでAIが活用されているシーンとは?
ゲームはオフラインからオンラインへと移行
インターネットが普及した結果、SNSなどのネット空間上でのソーシャル化が一気に加速した。これはゲームにおいても当てはまる。ビデオゲームが登場した当初は実機でオフライン環境にてゲームをプレイするのが通常だった。ところがゲーム機がネットワークに接続されることで、オンラインのゲームが可能になった。それに伴い、ネットワークに接続したユーザーがゲームに参加するソーシャルゲームが主流になっていった。とりわけ、ゲーム機だけでなく、スマートフォンやタブレットなど高性能な端末を所有する人が爆発的に増加し、ゲーム人口の増加に貢献した。
ソーシャルゲームに限らず、ゲームにはAIが用いられている。ただしゲームにおけるAIは、ディープラーニング(深層学習)といった近年流行のAIに限定されない。むしろ、ゲームにおけるAIは、ディープラーニングが登場するずっと以前から存在したのだ。AIの定義は決まっていないが、人間が行なう作業を自動的に実行できる機械を指す。この観点からいえば、ゲームにおけるAIは本来の意味と変わらないといえよう。
多岐にわたるAI活用
GREEに限ると、ソーシャルゲームでAIの活用は以下の4つで行われているという。
ユーザーが多くゲームに参加するソーシャルゲームにおいて、どのようなユーザーが参加しているか等の情報も重要だ。ユーザーが離脱すればゲームの進め方に影響が及ぶ。そこでオンライン情報からユーザー情報を取得し、ゲームから離脱等の他ユーザーの行動を予測してPush通知を行なう機能などが盛り込まれている。
またゲームのレベルデザインなども重要な役目を果たす。適切なレベル設定が行われなければ、難易度がプレイヤーに合致しないこともあるだろう。とくに将棋や囲碁、リバーシ(オセロ)といったアナログのゲームに比べて、ゲームの複雑さや取りうる戦略の数は膨大になっている。そこで複雑なゲームを把握し、適切なレベル設定を行なうためにAIが用いられている。
近年流行のディープラーニングなどの最新AIもゲームに活用されている。たとえばQAに話を戻すと、特殊文字などの判別をエンジニアが行なうのは困難だ。これをディープラーニングなどを活用してチェックできれば、作業の省人化が可能になる。とりわけディープラーニングは画像認識などパターン認識で強みを発揮する。もともと画像認識コンテストで圧倒的なスコアで優勝したことで知られるディープラーニング。ゲームのQAにも活用できるわけだ。
パターン認識で述べると、言語認識もディープラーニングは得意だ。高い言語認識能力を活用しているのが、チャットボットなどの自動会話システムだ。自動会話システムは、昔からRPGなどで用いられてきた。しかしルールベースで行われるため、会話の範囲が狭かったり、また選択肢があらかじめ用意されているなど、現実世界のようにはいかなかった。しかし今では、入力された文章を学習することで、プレイヤーの意図を把握できる。そこで、現実世界に近いかたちで、対話システムがゲームに導入可能になっている。
AIの導入における課題とは?
ゲームへのAIの課題として、何が挙げられるだろうか?一番大きな問題は、AIの投入に見合うだけの結果がえられるかだ。
ゲーム業界におけるAIの歴史は古いが、第3次AIブームによって注目を浴びているのは、ディープラーニング(深層学習)だ。ビッグデータを収集し、それを学習することで、人間の作業を上回るパフォーマンスがえられる。ビジネスの世界でも、業務の効率化を図り、生産性を伸ばそうとディープラーニングが使用されている。その一方で、ディープラーニングをうまく活用できないケースが多々みられる。ソフトバンクもまた事業の効率化のためにAI導入したものの十分な効果がえられず、失敗経験をもとにAIを導入するうえでの「壁」を公開するなど費用対効果は重要な問題である。
日本の場合、輸入に大きく依存することなく国内市場だけでも経済が回る。そのため、「ガラパゴス化」と呼ばれる国内でしか通用しない商品が近年多く生み出されている。日本のソーシャルゲームでは広く受け入れられてい「ガチャ」も、海外では人気がない。このような背景もあり、日本のゲームは簡単にヒットしなくなっているという。
ディープラーニングなどの先端技術を手掛けるベンチャー企業などはハイリスクハイリターンを狙い、費用対効果の高い事業に参入する傾向がある。またGoogleなどIT巨大産業は優秀なAI研究者を囲い込む。そのため、ゲーム業界にAI研究者の人材は集まりにくい。世界規模でこれら優秀な人材を集めることで、ゲームとAIとの真の融合がみられるだろう。
ファンドを設立して最先端技術を持つスタートアップ企業に投資をすすめる
GREEは、VR/ARやAIといった最新テクノロジーに対する投資ファンドGFR Fund IIを北米のスタートアップ向けに設立した。AIのスタートアップ企業はアメリカが群を抜いて多いだけでなく、ユニコーン企業へと成長する企業も多い。そのようなAIスタートアップと連携することで、GREEにもたらされるリターンも大きいと予想される。
このようなスタートアップの意義は、研究開発のリスクを負うことなく、技術を吸収できる点にある。企業がスタートアップと提携して最新技術を開発、事業化するビジネスモデルが近年注目を浴びている。日本の場合ベンチャーキャピタルの規模は小さいため、北米のスタートアップとオープンイノベーションを起こせるようファンドを設立することは、費用対効果を考えるうえで大きいだろう。
まとめ
AIはあらゆる産業に効率化をもたらす。ゲームの進化とともにディープラーニングなどの最先端AIが不可欠になるものの、優秀なAI研究者は集まりにくく、費用対効果も期待しにくい。だが世界に散らばるスタートアップ企業から最新技術を吸収することで、ゲームにイノベーションを起こすことは可能だ。GREEによる北米ファンドのように、これからは日本を超えたグローバルな戦略がますます重要視されるだろう。
<参考>
- 総額30億円超を目指すグリーの「GFR Fund Ⅱ」、北米でVR/ARやAI、eSportsに出資(Tech Crunch)
https://jp.techcrunch.com/2019/03/07/gfr-fund-%E2%85%A1/ - ゲームの品質管理にAI活用、バナー文字などを画像認識 グリーが産学連携(ITmedia)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1903/01/news124.html - グリーを支えるAI技術】AIチーム発足から半年でAI機能を複数リリース!DWHを整える事が精度向上の鍵(AINOW)
https://ainow.ai/2017/11/06/125472/ - 『オープンイノベーションの教科書』(星野達也 著)
- 「ミクシィ、DeNA、ガンホー、任天堂…スマホゲーム市場に忍び寄るバブル崩壊」(『ZAITEN』2015年11月号)
- 「ポケモンに負けないコンテンツを育てる」(『Voice』2016年11月号)
- 「脱ガラパゴス化へ、日本企業の新たな戦略」(『りそなーれ』2011年3月号)
- 「世界規模の大競争に備えDeNA、グリーが海外展開加速」(『日経エレクトロニクス』2011年5月16日号)
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