「高齢化する」日本の道路をAIで守る

日本の道路の総延長は120万kmもある。地球と月の間(38万km)を1.5往復できる距離だ。これだけの道路をメンテナンスするには、それこそ天文学的な数字の費用が必要になる。そこでAI(人工知能)の登場である。より安価に効率的に、そしてより正確に道路の状況を見極めていく「AI道路チェック」の実力を紹介する。

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日本の道路が「高齢化している」と言っているのは、国土交通省の社会資本整備審議会道路分科会である。審議会の分科会とは官僚の集まりではなく、専門家集団である。道路分科会では、道路と経済の専門家たちがそれぞれの分野で集めた知見を持ち寄り、国交省に「こうしたほうがよい」と意見を述べている。

「道路の高齢化」とは、修繕とつくり直しが必要であるという意味だ。道路分科会は「最後の警告、今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切れ」と命令調で国交省に檄を飛ばしている。この荒い言葉がそのまま、報告書に掲載されている。それくらい、日本の道路は危機に瀕している。

日本の道路の総延長は120万kmもある。地球と月の間(38万km)を1.5往復できる距離だ。これだけの道路をメンテナンスするには、それこそ天文学的な数字の費用が必要になる。

そこでAI(人工知能)の登場である。より安価に効率的に、そしてより正確に道路の状況を見極めていく「AI道路チェック」の実力を紹介する。

120万km、70万橋、トンネル1万本をどうするか

まずは日本の道路の状況についてみておこう。「道路の高齢化」はどれほど切羽詰まった状況なのだろうか。

日本の道路修繕問題が深刻化しているのは、1950~1970年ごろの高度経済成長期に一気に道路をつくったためである。一気につくったので、一気に老朽化したわけだ。

社会資本整備審議会道路分科会は2002年から、適切な投資を行って道路を修繕していかなければ、近い将来大きな負担に膨れあがると警鐘を鳴らし続けてきた。

しかし2002年といえば、バブル崩壊後の「失われた20年」の真っただ中で、日本全体がデフレ不況に飲み込まれていた。

2005年には道路関係4公団が民営化され、高速道路の管理費は30%削られた。さらに2009年にはときの政府与党によって「事業仕分け」が行われ、国が管理する直轄国道の維持管理費も最大20%削減する方針が示された。

直轄国道の維持修繕予算は、2004年は3,202億円だったが、2013年には2,515億円にまで減った。

その「ツケ」は凄惨な事故という形で支払うことになる。例えば2012年には中央自動車道笹子トンネルで天井が落下し9名が亡くなった。

日本の道路は、アスファルト路面だけでも120万kmあるが、そのほかに70万橋の橋梁と1万本のトンネルもある。

道路の修繕が進まないのは、国や自治体の財政状況が厳しいことと、大量にあることだ。つまり日本の道路高齢化問題の解決には、安い工法と大量にさばく技術が必要になってくる。

NECと福田道路が共同開発したAI道路診断システム

IT大手のNECと道路関連インフラメーカーの福田道路は2017年、AIを活用した「舗装損傷診断システム」を発表した。

AIの心臓部は、NECの最先端AI技術「NECザ・ワイズ」を搭載した「NECアドバンスアナリスティック・ラピッド機械学習」である。

自動車に搭載したビデオカメラで撮影した道路の動画を、NECのAIが解析する。

AIは画像から路面のわだち、ひび割れを検出し、アスファルトの劣化レベルを評価する。さらに道路の撮影時にGPSを使って位置情報も得ているので、パソコン上の地図で道路の損傷部分を簡単に検索することができる。

従来の道路チェックでは、道路の専門技術者の目や専用の機器が頼りだった。NECと福田道路は一般道でAI舗装損傷診断システムの実証実験を重ね、路面のわだちとひび割れの検出レベルが、専門技術者の目と同等であることを確認した。

ただこれだけでは損傷部分を発見しただけである。両社は今後、道路の補修計画づくりや補修工事の実施、工事後の評価まで、すべてAIによって最適化していくことを目指す。道路の「高齢化の見える化」と「健康回復の見える化」を同時に行おうというのである。

NTTコムウェアは安さを追求

NTTグループのAI・クラウド部門であるNTTコムウェアも、NEC・福田道路連合と似たAI道路チェックシステムを開発した。システムの名称は「AI道路不具合検出システム」である。

NTTコムウェアの狙いは、安さだ。そのため、普通の車両と市販のビデオカメラで得られる動画情報だけで道路をチェックすることにこだわった。

走行に支障をきたしかねない道路の不具合は、自動車を運転しているドライバーならほぼ100%確認できる。しかし日頃から車を運転している人であっても、車載カメラで撮影した「道路だけの動画」を見せられたら、きっと多くの道路の不具合を見落とすだろう。それは、自分で運転する自動車で走りながら見える道路と、ビデオが撮影した道路では見え方がまるで異なるからだ。アスファルトの見た目は、光と影の具合やアスファルトの質、天候などによって日々刻々と違ってくる。

道路の診断は、実は相当難しい。

NTTコムウェアは、道路管理の専門家をAIの「教師」にした。AIは「教師」がどのような道路を「補修が必要」と判断しているのかを学習する。学習時間が一定時間をすぎると、AIは道路管理専門家並みの選別眼を獲得することができる。

NTTコムウェアのAI道路不具合検出システムも、GPSを使うことで自治体が持つ道路補修履歴地図と合体させることができる。これにより自治体の補修計画づくりが格段に効率化させるという。

NTTコムウェアは警備大手のALSOKと組んで社会インフラ維持管理ビジネスを拡大させていく方針だ。

まとめ~安く大量にという無理な注文

日本の工業技術は、安くつくることを得意としてきた。また大量につくることも日本企業は得意である。AIは安さと大量処理を実現し、なおかつ正確さと効率性も追求できる。

道路のチェックにAIを導入することは自然な流れといえるだろう。


  1. <参考>
    国土交通省
    http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s202_douro01.html
  2. 道路の老朽化対策の本格実施 に関する提言 (国土交通省)
    http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobo10.pdf
  3. 福田道路とNEC、AI技術を活用した舗装損傷診断システムを開発 (NEC)
    https://jpn.nec.com/press/201701/20170131_01.html
  4. 首都高速道路 来年度から「i-DRAEMs」を本格導入 (道路構造物ジャーナル)
    https://www.kozobutsu-hozen-journal.net/news/detail.php?id=221&page=1https://www.nttcom.co.jp/news/cf16113001.html
  5. NTTコム
    https://www.nttcom.co.jp/solution/