皆さんは「レンタル移籍」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。レンタル移籍は、株式会社ローンディールが提供する、大企業の人材をスタートアップのプロジェクトに参加させることで、大企業にイノベーションを起こせる人材を育てる仕組み。
関西電力の田村博和さんがレンタル移籍した「チカク」は、TVに専用機器を接続して、家族の写真や動画を共有する「まごチャンネル」を展開するスタートアップです。レンタル移籍から半年が経ち、チカクの代表である梶原さんや田村さんが得たものや気付きについて、角勝がうかがいました。ライターは宮内俊樹さんです。文末には、ローンディール原田社長直々のコメントも掲載しております。
2万人の社員の中からチカクにレンタル移籍した田村さん
角:調達おめでとうございます。4億円とか。
梶原:いやいや累計で4億円です。今回は1.2億円です。
角:すごいびっくり!
梶原 いやいやプレッシャーばかりが(笑)。
角:すごいわ。そもそもね、お金の話じゃなくてもそうじゃないですか。ハードウェアの起業って大変ですよ。普通の人がやろうと思わないもん。
梶原:大変ですよね。馬鹿ですよ(笑)。
角:でもこれから高齢者の問題は広がっていくから。あとテレビを使うのもうまいと思いました。
梶原:とんでもありません。
角:では早速、今回のレンタル移籍に至った経緯を、改めて田村さんにうかがいたいのですが。
田村:関西電力は約2万人の社員がいるのですが、会社の推薦で私が選ばれました。関西電力の中長期計画の中で、新規事業の柱、成長するイノベーションの柱を確立していこうっていうのがありまして、それを今後拡大していくためには人材の育成が必要じゃないかってことで、白羽の矢が立ったのが、私が所属しているイノベーション推進グループだった。「DENTUNE!!」もやらせていただいたチームの、しかも担当者ということで選ばれたのかなという。私自身も自分の能力を試したい、成長させたいという思いもありました。
(注:「DENTUNE!!」は関西電力主催のビジネスアイデアコンテスト。フィラメントも企画協力など深く関わっている)
角:すごいですよね、2万人のうちの1人ですから。
田村:スタートアップで働けるとは全く思ってなかったので。まず驚きましたね。で、その現実に直面したときに、自分の今の能力って何なのか、それがどう活かせるのか。さらにはその後、関西電力にどう活かせるのかってところまで考えると、結構プレッシャーが強かったです。
角:まず驚いた、次にプレッシャーって感じですね。行き先を「まごチャンネル」のチカクにしたのは?
田村:それはローンディールさんからの提案で。この会社であれば能力として成長ができる、会社としても成長しているというのを明確にご提案いただきました。
角:関西電力との事業親和性とかは考慮されてるんですかね。
田村:今後という面では当然考慮されていると思うんですけど未定です。いまのところ子会社で出資をしてとか、そういうのは全くなく。
角:相当プレッシャーだったと言うことですが、入社までにはどんな心構えで?
田村:梶原さんにこういう本を読んだほうがいいっていう、課題図書を5冊ほどもらいまして。1週間くらいで読まないといけなかったです、仕事をしながら。
角:どんな本だったんですか?
田村:一番薦められたのは「リーン・スタートアップ」でした。大企業、しかも関西電力のようなインフラ企業にいると、そういう概念に全く触れていないので。
角: リーンも何もない。維持するんだよインフラを、ってくらい違いますからね(笑)。
田村:なかなかバイブル的な本になりましたね。
大企業とスタートアップ、レンタル移籍で気づいた2つのズレ
角:梶原さんがレンタル移籍を導入しようと思ったきっかけは?
梶原:もともと人づてにローンディールの原田さんをは紹介していただいていて、レンタル移籍をこれから始めますみたいな時だったんですよね。やろうとされてることは面白いと思ったし、自分たちはまだまだアーリーステージのベンチャーなんで、やっぱりやりたいことに対してリソースがすごく足りないわけです。という中で、例えばインターンを取ったとしても名刺の出し方から何から教えるっていうのはちょっとやってられない、けど人は欲しいなあっていう。
角:その点は、大企業の人であれば。
梶原:そうです。基本的な所作とか動き方とかコミュニケーションとか、そういったことは間違いなく担保されているだろうし。かつ、何かしらその企業で専門性をお持ちなんだったら、我々の会社としてはすごいありがたいなと思って。なのでいい候補者がいれば是非ご紹介してくださいみたいな感じでした。
角:日経に出ていた記事をFacebookでシェアしたんですよ。いい話だし面白いし、これがどんどん増えればいいなと思ったんで。そしたらその時にコメントがあったのは、「スタートアップは忙しいのに大企業から来たやつのお守りとかできないだろう」みたいなネガティブな反応もあって。そういう見方もあるのかもしれないけど、ちょっとそれはトゲがありすぎるんじゃないかって僕は思ったんですよね。実際そこはどうなんでしょう。
梶原:確かにおっしゃる通り、手取り足取り全て四六時中ついてやるってのはもともと無理だなってのは思っていたので。でも一方で、新卒で学生で何もできませんて人では全然なくて。田村さんはもともと新規事業の開発、その前は経理畑にいたので財務・経理ってある意味専門で。僕らなんかはCFOがいるわけでもないし、お金周りは自分が銀行とのやりとりから何から全部やっているわけで。そういうところがすぐにでも力になってもらえるのはありがたいんですよね。
一方で当然彼がやったことないある意味0→1の部分っていうのは、経験はないだろうけど、最初に面談をしたときに明らかに本人はすごい成長意欲を持っていたのと、とてもまっすぐな性格で、かつ体力ありそう(笑)。野球部でしたよね。こういうセルフスターターの方であれば、シチュエーションを用意して都度メンタリングしていけば、まあ結構自分で動けるんじゃないのかなあって思ったんですよね。今回、関西電力からの研修派遣という形ですが、こちらとしても育成し甲斐があるなと。
角:予期していなかった部分で言うと?
梶原:まあ半分予想はしてたんですけど、自分も外資系ではあるんですけど大きな会社にいたんで分かるんですけど、やっぱりスピード感という部分は全然ダメで、最初はギャップが大変だった。例えばとあるプレゼン資料作ってくれみたいなお願いをして、結構僕もバタバタしていたんで、3日ぐらいしてそういえばアレどうなったって聞いたら、いやまだ仕掛かり中ですみたいな。「なるほど、でも3日経ってるよね、だからできたところまで見せて」っていったら、「いやまだ見せられるレベルではありません」といわれてしまい。じゃあわかった、と。今から1時間あげるんで、1時間でできたところでいいから見せろと、多分1時間でできなかったら何日かけてもできないから、できるところまでで良いからやってって言って。それででてきた物に対してその場で相談をして、それをまとめて完成しようみたいな流れにして。
1時間でいいんですっていうスピード感。クオリティー的にも。1時間かけて60点取るのと、3日かけて85点取るのとだったら、60点でいいから1時間で早く出してほしい。そしたらお互いにブラッシュアップしながら、そのまま出してもいいし、用途に合わせてもしかしたらもっと時間かけてもいいかもしれないし、そこでいろいろ判断できるんで。それをフィードバックしたら、本人的にも「いや、すいません」と(笑)。
彼が偉いのは、ちゃんと自己分析して修正できるところ。大きな会社だったら、上司の貴重な時間を無駄にしないためにもちゃんと準備をして、ここはどうなってるのっていわれないように資料化して行かなきゃいけないから、ある意味無意識にそういうふうに動いていました、と。でも、僕ら的には1分1秒が大事なので、そういう意味でもそこのスピード感が最初はずれていて、揃えなきゃいけない場面は結構ありましたね。
角:役所も同じですからすごいよくわかりますよ。田村さんはそれまでにプレゼンを作ったことってあったんですか?
田村:上司のプレゼンを作る事はありましたけど、大体筋道ができていて、その一部を作るっていうことをしていたくらいなんです。自分で発表するプレゼン資料の作り方は分かっていない。
角:大企業で20代だとなかなか経験ないですよね。まごチャンネルでの資料作りはめちゃめちゃ勉強になったと思いますよ。僕らだったらプレゼン作るのが仕事だったりするわけですよ。というか、そこから仕事にするのが仕事ですから。
梶原:もうひとつの例としては、話の結論が出るのが最後なんですよ。前段からずっと説明をされると、相談したいのか情報共有なのか、意思決定を求めているのか、結論なんなの、そこ先に言ってくんない? みたいな話をしたら、また「すいません」と(笑)。
田村:ほんとに無意識なんですよね。半年経った今は結論を先に言うべきなのは理解してるんですけど、いまだにそれが抜けてしまう時があるくらい癖になってると思います。それをいつも意識しているようにしていたら、プライベートでも結論を意識しながらしゃべるようになってしまったくらいで。そういうところから改善していこうと思って、まだまだ改善中です。
梶原:でもきちんと自己管理もできるし社外の人とのコミュケーションも取れるし、資料作るにしてもなんにしても、仕事に対しての責任感ってものはすごくちゃんとしている。そこは自分もすごく反省点があるんですけど、納期とか目的とか期待する成果物ってものを明確にしないまま走ってるとずれるんですけど、そこさえちゃんとしていればきちんとやり切るっていうところはしっかりされている。頼れるところは大きいですね。
もう一つは専門性の部分で。僕らはハードウェアをやっているから、コスト分析ってやんなきゃいけないんだけど結構後回しで、ちゃんとできてなかったりするんですよね。で、銀行と融資の話をするのでコスト構造を含めて1回きちんと精査しておきたいとお願いしたときに、ばーっと資料が出てきて。うちの会社で今のメンバーでは、絶対出せない資料だな、と。それで銀行との話もうまくできたりとかして、もともと持たれていた専門性を、そのまま僕らの中で生かしていただけたのは非常に良かったなあと思います。
大企業がスタートアップにレンタル移籍するときに必要な3つの認識
田村:梶原さんと面談させていただいて、認識を持ったのは大きく3つでして。1つは圧倒的な当事者意識を持ってやること、2つ目はスピード感、3つ目は結果にコミットすること。
角:この3つに大分類するところが、すでにロジックツリーになってて成長を感じさせますね。
田村:そこを意識して仕事をしていくのを強く言われたので。
角:大きい会社だとあまり意識しないところじゃないですか。自分だけ早く動いてもしょうがないって勝手に思ってしまいがちだし、アウトプットも自分一人では出せないから、全然そんな感覚じゃなかったと思うんですよね。2万人の組織の1人だったのが、今は20人の中の1人だから。1人倒れたら会社の20分の1が止まるわけですよね。
田村:意識は全く違いますよね。そこをキャッチアップするのがいちばん自分の中でもプレッシャーだったと同時に、1〜2ヶ月ぐらい大変だった。マインド的にも。
梶原:ある自治体向けの資料作ってもらった時に、自治体のその部署の人の意向がもし事前にわかれば内容をピンポイントに作れるじゃないですか。そういうのはできないですかねって言ったら、「いや、できません」って口ごもっちゃって。その部署の人が具体的にどんなことに悩んでいるかヒアリングできればいいじゃないですか、できないかもしれないけど、できるかもしれないわけで、ありとあらゆるツテを使ってそこにリーチできないかやってみればいいじゃん、と。今の時代ってHowの部分のやり方なんて考えればいろいろあるわけで、試して駄目だったらこの資料だけでいいけど、やるだけやればいいじゃんっていう。
ありがちなのは、仕事の枠組みを自分で無意識に制約しちゃうこと。ノミを例えにすると、本当はここまで飛べるのに、小さい箱に閉じ込めると少ししか飛べなくなっちゃうって言いますよね。そういうこと。自分でできることだけで考えちゃって、可能性を摘んじゃうというか、個人資本だけでダメなら他人資本を使うという考え方がないですよね。自分ができないことでも人の助けを借りればできるかもしれない。そういうマインドセットを意識してやればいいのにって思う。
角:できないというバイアスをかけているのは、実は組織の中の人っていうことってありますね。僕もよくソーシャルキャピタルって言ってるんですけど、僕は何もできないんですけど周りの人がいっぱい助けてくれるから、むしろお願いしまくるっていう。カジケンさんもそういうのすごく得意じゃないですか、Amazonで募集したほしい物リスト、すごい集まってましたもん。
田村:もっと言うと、Facebookっていうのはプライベートのためのツールっていう認識でしたね。年末にまごチャンネルの実証実験に協力してくれる方を探すっていうミッションをもらったんですけど、それもできなかったんです。見つけられなかった。最終的には梶原さんが見つけてくれたんですけれども。その時に梶原さんは何をしたかっていうと、自分がいけそうな人のリストを全部Excelに確度まで書いてまとめて、最終的にダメだった場合の担保をしっかり考えて。
梶原:10人ぐらい実証実験に協力しますって言ってくれた人がいたんですよね。でもほんとにできるかどうか、いろいろ確認とってみたらやっぱりだめでしたってことが全然あり得るわけですよ、いつまでに終わらせたいっていう期限が決まってたので、それを待ってダメだったら間に合わなくなるから、この人がダメでもこの人で何とかなるとかいうのをリストにして、どれぐらいの確度でいけそうか、いつ返事をもらえそうかっていうのを管理して。それぐらい結果にコミットするってのが大事だから。がんばったけどできませんでしたとかではなく、がんばらなくてもできたほうがいい(笑)。プロセスの評価とかはどうでもよくて、結果ができたほうがいいって話なので。
田村:自分のアセットを全部使ったのか。Facebookで呼びかけたのかって言われて。自分はがんばったつもりなんだけれども、何の戦略もなく、表面だけでやってる自分がいたんだなていうのはすごくそこで学んで。そういう執念が僕には足りてないってのを改めて認識できました。
梶原:もったいない。ほんとにいろんな可能性持ってるはずなのに、自分で制約を作るのはもったいない。
角:ほんとにケンカに勝ちたいのかっていうことですよね。極論、正々堂々とかよりも勝たなければ意味がない。
マインドが変わったきっかけ
角:マインドが変わっていったきっかけってなにかありましたか?
田村:さっきの専門分野を買われて会社のコスト構造をまとめるというタスクをやったときですね。僕は人間関係をすごく重要視しているので、いちばん最初にすることとしては周りとコミュニケーションをとっていち社員として認めてもらうってことを大事にしている。関西電力にいる頃から。タスク的にいろんな人とコミュニケーションを取らないと数字が見えてこないので、結果として小さいけれどもこの会社に対して貢献できたっていうのは、いちばん大きい経験でした。
角:それにしてもスタートアップって少人数じゃないですか。だからコミュニケーションというよりも、同じ方向を向いてできているのかもすごく大事だと思うんですよね。大体フィラメントもリファラル採用なんですよ。お前のやってることが面白そうだから一緒にやりたいっていう人が来ると、すごいうまくいく。そこがレンタル移籍にはないと思うんですよね、少なくとも最初はアサインされてくるので。そこは梶原さん、不安はなかったんですか?
梶原:そこはあんまりなかったです。もちろんビジョンとか会社として成し遂げたいものに対しては確かにわからない部分がある。そこはもう田村さんの志向もあるし、一回会ったぐらいではわからないってのはそれはもうおっしゃる通り。
でも最初に話したときに成長したいっていう意欲をすごく感じたんですよ。若いスタートアップとうちが違うのは、僕も外資系ではあるけど大きな会社にいて、一応管理職で部長までやってきたので、そういう機会を与えてどういう風にすれば人が伸びるかってのが自分の中にもあるし、だから成長したいのであればその機会は提供できるかなと思っていて、そこに関してはあんまり心配してなくて。もう嫌というほど経験させてあげる(笑)、という意味で自信はあったんですよね。
角:半年たつともう同じ釜の飯も食いまくった状態になってると思うんですけど。チカクの方からこんな人くれっていうのは言ったりしたんですか。
梶原:それは伝えていたと思いますけど、正直言うと忘れました(笑)。多分職種的なところだったと思う。事業開発と、エンジニアと、ファイナンスとで、それぞれ人が欲しいですとお願いをしてて。田村さんとしても事業開発で0→1をやりたい、特に顧客接点を関西電力さんの場合はなかなか経験できないので、お客さんと直接コミュニケーションするような経験を積ませたいってのはもともと言われてたんですよね。それはまさに僕らが一番得意とするところなので、うまくマッチングした。
角:例えばもし延長申請したいですってなったときに、1年やったとしたらもう田村さんがいないと困るって状態になってる可能性もあると思うんですよ。その時に田村さんは戻るのか、戻らないのか。こんな伸びしろあるハードウェアのベンチャーにいれるってチャンスはなかなかないですよ。
田村:まあ正直ハードウェアベンチャーも楽しくは感じますよね。だから期限が半年なんだと思います。
角:僕が公務員を辞めたプロセスでいうと、一回そういう流れの速い波を楽しんじゃうと、ゆるい波だと楽しめなくなる。さざ波が立たない、安心して仕事をしたいって人もいるけど、つまんないじゃないですか。一回外に出てラフティングみたいな流れを乗り切る楽しさを感じると、湖には戻れなくなる。
梶原:そうだよね。井の頭公園でボート漕いでいられるかって気分だよね。
角:もちろん、スタートアップという出島から文化を持ち帰って関西電力のイノベーションにつながれば、それはそれですごくいいことではあるけど。
田村:当然そうですね。
優秀な人は大企業のいちばん奥のほうにいる
梶原:優等生的な発言に聞こえるかもしれないですが、僕は外資系企業での経験が長く、アメリカってすごいんだけど、別にアメリカのやり方が全てだとは思っていないんで、日本人の良さを生かした働き方や起業のあり方って全然あると思うんですよ。コンプレックスで、アメリカだ、シリコンバレーだって、そういうのは学べばいいと思うんですけれど、全部が全部を学ばなくてもいいと思っていて。
日本は日本なりの人材の動き方とか、大企業とスタートアップの関係であっていいと思う。大企業とスタートアップがせめぎ合って新陳代謝を起こしていくっていうアメリカ的な考えは、それはそれで正しいとは思うんだけど、日本でそれが実際にできるかできないかで言ったら、大企業がたくさん潰れたらそれはそれで社会不安になりますよね。それでもいいんじゃないかって考え方ももちろんあるんだけど、大企業の中にいながらスタートアップ的な何かを学んで、大企業を変えていくっていうのだって、日本的なあり方としてそういう事例が増えてきても全然いいなと思っていて。
だからローンディールさんがやろうとしていること自体、僕はいいことだなと思っていて。ベンチャーから大企業、大企業からベンチャーでも、もっとテンポラリーに人材がどんどん行き来するってムーブメントが起きたらいいと思う。その成功事例になれるんだったら僕らとしても意味があるなあってのは、結構本気で思ってますね。
ハードウェアスタートアップやってる僕らからすると、大企業のいちばん奥のほうに、いちばん優秀な人がいるんですよ(笑)。ハードウェアのエンジニアとか、僕らは会うことすらできないというか。そういう人って中でひたすら楽しいので、そもそもアクセスすらできない。大企業の壁の浸透圧がちょっと緩くなってその人が外に出てくるみたいな、そういうことがもっとないかなあと。勤めるか辞めるかっていう0か1かではなくて、その間にいろいろな働き方があったらいいんじゃないかなって思う。
角:そもそも優秀な人はいっぱいいるんだけど、100%稼働できているかっていうと、時期的には70%くらいだったりもする。それってもったいなくない?、そのリソースをテトリスのようにはめていければすごく日本のためになると思うんですよね。これから日本は労働人口が少なくなるんだから、絶対あったほうがいいと思います。
梶原:そういう意味では、田村さんが戻って関西電力の中で成功事例だったねってことになってくれるのが、こういう動きを加速させるきっかけになるよね。関西電力の中で出世してくれるのがいちばんありがたかったりする。パイプにもなるし。
角:信用経済って、そうやって出した方が返ってくるっていう考え方もあるしね。顧客セールスもやったりしたんですか?
田村: 大手企業さんのサービスの実証を中心に担当しています。
梶原:店頭で売り子をやったりとかも、ね。
角:お客さんの反応が見えるからめちゃおもしろいでしょ。
田村:めちゃめちゃ面白いですね、ほんとに。いろんな課題とかも見えたりして。関西電力でも顧客志向っていうのは必ずいわれるんですけど、それって本質的に何なのかってことは全くわかっていなかった。そこが全く抜けたまま仕事をしていたなっていうのはすごく実感したことがありました。プレゼンするにしても、誰がキーマンで誰にプレゼンをするのか、その人が何を考えているのかという意識が薄くて、独りよがりのプレゼン資料作ったりだとか。そういうところは梶原さんにご指摘いただいてすごくわかったところです。
角:DENTUNE!!での経験と、まごチャンネルに入ってからのギャップっていうのはありますか?
田村:DENTUNE!!では、非常に優秀な上司の下で担当させていもらいまして、その上司が責任者として戦略や内容を決めて、僕はその一端を担ってゴールに向かっていたんですよね。グリップをしているわけではなかったので、当事者意識ってのもその上司がいての僕だったってのはありますし、当然スピード感も意識してやれていなかった部分もあったかと思います。結果へのコミットってことでは、DENTUNE!!をやるっていうことが目的ならば結果にコミットできたんですけど、本質的にはオープンイノベーションのための施策なので、ビジネスアイデアが出て、それが最終的に形になってサービス化するってところまでが目的ですよね。だからギャップはすごくありました。
角:取引先に行くときは、どう説明してるんですか?
梶原:いや半分ネタにしていて、レンタル移籍って知ってますか? みたいな。ローンディールさんにお金もらいたいくらいなんですけど(笑)。スタートアップの僕らからすると、関西電力さんとの今回のレンタル移籍で、取引先にも信用されやすくなると思うし、そういう受け入れができるクラスの会社なんだと思ってもらえるのはいいとことかなあと思ってます。それで嫌がられることは実際ありませんし。
角:やっぱりネタとして面白いですからね。
梶原:うちも人事に言ってみようかなあとかね、そういう話になりますね。
角:場がなごみますよね。それにまごチャンネルを関西電力を契約の家庭にタダで配るとかになるといいのにね。関西電力の一発買い上げで。
梶原:田村さん、よろしくお願いします(笑)。偉くなっていただいてね。
田村:やっぱり大きい組織の中だけじゃなく、違う組織で自分の課題をぶつけてみてもっと成長したい、そういう人に、このプログラムは薦めたいですね。
角:関西電力の上の人も、ちゃんと人選してるなーって思いましたよ。
梶原:それ、思いました。今回田村さんをこのプログラムに推薦した過程に関わっている人が、本当にすばらしいと思います。
田村:本当にそう思います。
角:さすがDENTUNE!!を実現させた部隊です(笑)。
今回のレンタル移籍について、ローンディール原田未来社長からもコメントをいただいておりますので、ご紹介いたします。
「ローンディールは「日本的な人材の流動化」ということを標榜しています。その意図は、まさに梶原さんが指摘されているように、日本企業には日本企業のやり方があるということです。
人材の流動化が必要だということはもうずいぶん前から言われているけれど、その手段は転職しかありません。
大企業での「出戻り」という事例も少しずつ出てきてはいますが、日本企業の価値観がガラッと変わるわけではないし、転職という形での流動化を促進することは、企業としてなかなか踏み込めないことでした。
しかし、今、イノベーション創出という課題に対して有効ではないかという期待から、企業が流動化ということに関心を持ち始めています。
そこで、社外経験をした人材が、戻ってきて組織にその知見を還元するという前提の新しい流動化の選択肢としてレンタル移籍という仕組みを提唱しているのです。
チカクさんのように大きなビジョンと志を持ったスタートアップの存在があり、一方で大きな組織の中で、組織を変えたい、もっと挑戦をしたいという想いをもった田村さんのような方々の存在があり、このレンタル移籍という仕組みは成り立っています。スタートアップ、大企業の人材、立場は違えど、挑戦を志向するたくさんの方々の存在に感謝しながら事業に取り組んでいます。
私たちは必ずしも、スタートアップを礼賛したいわけではなく、両側を知っている人材が大企業の中にいることこそ貴重なのだと思っています。
願わくば田村さんのような方が、一つのきっかけとなって、大きな組織の可能性をどんどん広げていってくれる、そんなことが起こっていけばいいなと思っています。
私たちローンディールとしても、個人に対して成長のきっかけを提供するということについてはある程度の確信を持てるようになってきました。
今後は、その個人の変化をどうやって組織に還元するか、そんなことに取り組んでいきたいと考えています」
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