直接的にコンピュータに関わる仕事をしていないビジネスパーソンでも、業務や取引先との会話の中でAI(人工知能)の話題が多くなっていると感じているのではないだろうか。
そのAIの未来に欠かせないのが量子コンピュータだ。ビジネスの基本知識として「量子コンピュータとAIの関係」は押さえておきたいところだ。
初心者でも理解しやすい量子コンピュータの入門書を5冊紹介する。
1冊目 量子コンピュータが人工知能を加速する
●書名:量子コンピュータが人工知能を加速する
●著者:西森秀稔、大関真之
●出版社:日経BP社
●価格:1,500円(税別)
「日経BPが出している本」というだけで「とっつきやすそう」と感じる一般ビジネスパーソンも多いだろう。値段も手ごろである。
しかも執筆陣は豪華。著者の2人は量子コンピュータに使われている量子アーニング方式の研究で多くの功績を残している。その「量子コンピュータ界の大物」が、初学者にわかりやすく解説しているので信頼感もある。
一般の人は、量子コンピュータに対して、次のような疑問を持っているだろう。
なぜ量子コンピュータは、量子で計算できるのだろうか。量子コンピュータがAIの能力を飛躍的に高めることができるのはなぜなのだろうか。この分野の開発で日本がリードするにはどうしたらいいのか。
本書はこのような基本的な疑問に答えてくれる。
西森氏は東京工業大学理学院教授。東京大学理学部物理学科を卒業後、アメリカと日本で研究に従事。日本IBM科学賞や仁科記念賞などを受賞している。
大関氏は東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授。
2冊目 入門量子コンピュータ
●書名:入門量子コンピュータ
●著者:ゲナディ・P・ベルマン、ゲーリー・D・ドーレンら。松田和典訳
●出版社:パーソナルメディア
●価格:2,800円(税別)
「多少、数学力がある」という人向け。数式が出てくるので、まったくの初心者や「文系人間」を自認している人では読み進められないかもしれない。
しかし、多少でも数学力がある人なら、本書を読めば量子理論の基礎を身につけることができる。
著者のベルマン氏は、ロスアラモス国立研究所の職員で、量子力学の専門家。量子計算の論文も多数著している。
そのほかの執筆陣は、原子物理学や複雑系、磁気共鳴などの専門家。
3冊目 量子コンピュータ入門(第2版)
●書名:量子コンピュータ入門(第2版)
●著者:宮野健次郎、古澤明
●出版社:日本評論社
●価格:2,500円(税別)
物理的な仕組みから量子コンピュータの原理を学びたい人向けの書。第2版を出すほど評価の高い良書である。またこの第2版では図を多く使ってビジュアルにも配慮している。
高校の数学と物理を理解していればすらすら読める。かみ砕いた解説が好感できる。
本書では量子計算が「重ね合わせ」と「エンタングルメント(複数の状態の絡み合い)」に依存していることだけでなく、さらにその「依存の原理」がわかる。
本書の章立ては以下のとおり。
第 1 章 古典計算機と量子計算機
第 2 章 量子ビットを担うもの (1):光子
第 3 章 量子ビットを担うもの (2):スピン
第 4 章 量子論理ゲート
第 5 章 ショアのアルゴリズム
第 6 章 量子エラーコレクション
第 7 章 光を用いた量子情報処理実験の例 -量子テレポーテーション
第8章 量子コンピュータ研究の現状と展望
数学が苦手な人でも「第1章 古典計算機と量子計算機」「第4章 量子論理ゲート」だけは読んでおこう。ここで得られる知識をきっかけに、次のステップに進むことができる。
第1章と第4章の節タイトルは次のようになっている。
第 1 章 古典計算機と量子計算機
1.1 なぜ量子計算機か
1.2 計算の複雑さ
1.3 量子計算機が扱う情報:量子ビット
1.4 量子計算機の働き
第 4 章 量子論理ゲート
4.1 古典論理ゲート
4.2 量子論理ゲート
4.3 さまざまな量子論理ゲート
4.4 絡まった状態
4.5 量子テレポーテーション
4.6 ドイッチ-ジョサのアルゴリズム
4冊目量子コンピュータとは何か
●書名:量子コンピュータとは何か(文庫)
●著者:ジョージ・ジョンソン
●出版社:早川書房
●価格:720円(税別)
量子コンピュータについて「ぼんやりと全体像をつかみたいが、まだそれほど深く知る必要はない」という人向け。文庫の手軽さもよい。
通常のコンピュータは0と1を切り替えて計算しているが、0と1が同時に起こったときの計算はどうするか、それを解決するのが量子コンピュータである――といったことから知ることができる。
いい意味で大雑把に解説しているが、正確さは犠牲にしていないので安心して読み進めることができる。
文体はいたって平易で、ときにエッセー調。ところどころで「現実社会にどう応用するか」といった視点が盛り込まれ、著書の世界観に吸い込まれる。一気に読み進めることができる。
この軽さと確実さを実現できているのは、著者のジョンソン氏がニューヨークタイムズ紙の科学担当記者であることが大きいだろう。ニューヨークタイムズ紙は科学専門紙ではないので、読者は一般の人。普段から難しい科学事象を、一般の人にやさしく解説する記事を書いているのだろう。
5冊目 量子コンピュータがわかる本
●書名:量子コンピュータがわかる本
●著者:赤間世紀
●出版社:工学社
●価格:1,900円(税別)
ビジネスパーソンが知りたいのは、量子コンピュータと、現行のノイマン型コンピュータは何が違って何が同じなのか、ということではないだろうか。
本書はまずその点から整理してくれる。
量子力学の基礎や、ノイマン型の理論、量子コンピュータの実用化への課題など、多くの視点を用意してくれている点も「広く浅く知りたい」人にはうってつけ。
多少難解な部分もあるが、今後、量子コンピュータについて勉強を進めていくうちに専門用語が頭に入ってくるので、その時点で再び本書に戻ってくれば、著者の説明の仕方の合理性がわかる。
第1章 【序論】情報とは何か
第2章 コンピュータのモデル
第3章 量子力学
第4章 量子コンピュータ
第5章 量子コンピューティング
第6章 量子コンピュータの将来
著者の赤間氏は筑波大学大学院システム情報工学研究科客員教授。
東京理科大学理工学経営工学科を卒業し、富士通に入社した。後に工学博士号を取得している。
まとめ~腰を据えて勉強しよう
この5冊に目を通すと、AIのエンジニアや専門家と会話できるようになるだろう。
一般ビジネスパーソンでAIについて知っている人は多くいるが、量子コンピュータにまで踏み込んでいる人はそう多くない。スキルの差別化を考えている人には、絶好の「教科書」になるに違いない。
<参考>
- 量子コンピュータが人工知能を加速する(日経BP社)
https://eb.store.nikkei.com/asp/ShowItemDetailStart.do?itemId=D2-00P51890B0 - 入門量子コンピュータ(パーソナルメディア)
https://www.personal-media.co.jp/book/comp/192.html - 量子コンピュータ入門(第2版)(日本評論社)
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7061.html - 量子コンピュータとは何か(早川書房)
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/90361.html - 量子コンピュータがわかる本(工学社)
https://www.kohgakusha.co.jp/books/detail/978-4-7775-1514-1
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