AIが現代日本のビジネスの現場特有の問題にも対応
日本のベンチャー・FRONTEO株式会社の提供する「KIBIT」という人工知能(AI)がある。
このAIは、ビジネスの現場におけるさまざまな作業を自動化し、ビジネスマンのサポートを行うものだ。
たとえばマーケティングにおける調査やお客様からの問い合わせなどの分析といったAIにとっては定番的(?)業務はもちろん、
より現代的、現実的なニーズにも対応する。
たとえば論文や特許の検索支援といったサービスや、社内の内部不正やハラスメント検知までも行うのだ。
不正やハラスメントといったリスクの兆しを、早期に検知して未然にリスクを回避するためにもAIを活用できるという。
FRONTEO社の旧社名は株式会社UBICというが、訴訟大国アメリカで培われたノウハウがあるという。
日本は人口に対しての弁護士数が非常に少ないので、訴訟大国にはなっていない(日弁連の2016年の資料(*1)によると、国民数に対しての弁護士数は諸外国に比べて1/3程度しかいない)ので、訴訟大国になれるべくもないだろうが、昨今のコンプライアンスを問われる世情を考えると、FRONTEO社のサービスは非常にありがたいタイムリーなものではないだろうか。
公式の資料を読み解いてみると、FRONTEO株式会社のAI「KIBIT」は、特にテキストに対する分析を得意としているのがうかがえる。
それが、FRONTEO社が独自に開発したAI「KIBIT」を、これだけビジネス現場の広い分野に活用できる秘密のひとつなのだろうと思われる。
ビジネスチャンスを逃さないAI
もちろんKIBITの対象の広い分野のうちのひとつに、営業活動への支援を行うものもある。
特に営業を管理する立場、管理監督者を支援するものだ。
ビジネスの現場には、どこにどんなチャンスが転がっているかわからない。
管理監督者がそのチャンスを逃さず拾うために、AIを活用できるという。
では、具体的にはどのようにAIはビジネスチャンスを見逃さないようにできるのだろうか。
営業現場における情報のやり取りは、たとえ1日だけに限ってみてもかなりの量になるだろう。
普段人間はそれらの情報をさまざまな表現方法を駆使してコミュニケーションをとり、より改善できるようにしているはずだ。
動画や画像、口頭(音声)でのやり取り、メールやチャットのテキストなど、多くのコミュニケーション手段がある。
また、その職員の位置などの情報による分析も可能だ。
しかし、大抵の場合、それらの情報は特別なセンサーによってデータを収集しなくては、分析することはできない。
カメラを常設したり、小さなIoT機器を肌見放さず携帯しなくてはならなかったりする。
その環境を整えるには、多額の費用と設備が必要になりがちだ。
先に述べた通り、FRONTEO株式会社では、テキストの分析を得意としている。
テキストであれば動画や位置情報とは違い、改めてセンサー機材を用意する必要はない。
なにしろテキスト入力は普段からどの職場でも日常に行われていて、わざわざセンサーに入力をしているようなものだからだ。
それが広い業務分野をカバーできるKIBITの秘訣のひとつだと思われる。
しかし、ひとくちにテキストを分析するといっても、そんなに簡単なことではない。
日々、管理者は報告メールやの営業日報を管理者がチェックしているだろう。
経験豊富な管理者であれば、その中に潜在的に隠れているチャンスの兆しを見抜き、部下の営業マンに適切なアドバイスができるかも知れない。
しかし、どんな管理者であれカラダは一つであり、有限だ。
どうやってみんなで協力して成果をあげることができるか、それが管理者の仕事・・・。
しかも、インターネットやスマートフォンなどの普及で、人ひとりが扱う情報量は増えてきている。
「朝出勤すると、まずするのが毎日何百通も届くメールのチェック。本来やりたい仕事は夕方のちょっとだけしかできない」
という仕事のルーティンは、よくある話だ。
そのギャップを埋めて営業管理者の支援を行うのがKIBITだということだ。
どうしてKIBITはこれだけ対象が広くできるのだろう?
従来のAIであれば、何らかのひとつの正解・理想のようなものをトップダウンで押し付けるようなイメージもあったかも知れない。
しかし、現在のAIは事情が違う。経験豊富な管理者は、若手の営業マンにその経験を伝えることが難しい。それまでの深い経験を、短い言葉でそう簡単に伝えることなどそもそもできないのだ。
しかも、その経験豊富な管理者だって、自分自身のことをどれだけ知っているかも微妙だ。
経験によって培った自分自身の知識の中にある常識のようなもの、すなわち「暗黙知」を自分自身で気づき、相手にわかりやすく表現するのは難しいからだ。
AIにしてももちろん万能の神様ではないので、ある程度できることは限られている。
AIに管理者の「暗黙知」を理解させるには、実際の膨大なデータをAIに読み込ませることで行う。これは人間では難しいことだ。
「営業とはこうあるべき」などという一律で他者と差のできないようなものを押し付けるのではない。その職場独自の経験値やセンス、機微をAIに学ばせることができる。
膨大の情報の波からAIが自動でスコアリング・序列化し、有用なものを管理者がチェックすればいいのだ。
膨大な情報量から、管理者の暗黙知、機微による発見の一部をAIが代わりに行い、大幅に病無の効率化を果たすという。
FRONTEO社では,tf-idf(term frequency–inverse document frequency)という自然言語処理での技術のひとつを重視し、テキストをスコアリングする。
TF-TDFは、自然言語の文書を分析する統計的手法だ。
tf-idfはテキストを分析する比較的単純な統計的手法だ。
tf(term frequency)は、ひとつの文書内での語(形態素)の出現頻度を表し、idfはその語が出現する他の文書の割合だ。
tf(term frequency)をidf(inverse document frequency)で割り、その語の固有度を算出するのがtf-idfだ。
td-idfは、単純で断片的な統計的テキスト分析手法。
しかし、思いのほか使える・・・!?
ある特定の文書に頻繁に出てくる単語が他の文書にはあまり出てこないのであれば、その単語はその文書の特徴を表す単語だと言えるだろう、というわけだ。
tf-idfは単語(形態素)の出現回数を基準にするため、あくまで文書の一断片を汲み取る手法ではあるが、FRONTEO社はSVM(サポートベクトルマシン。ディープラーニング登場でやや存在が霞んでいるが、かつては非常に注目されていた分類手法)などとも性能を比較し、さらに独自のtf-idfによる自然言語処理技術を深化させていったようだ。
先に書いた通り、営業管理者が扱う情報は、情報の価値の高いもの、低いもの含めると、膨大だ。
しかし、KIBITでは、20~30件程度の文書の教師データを作るだけで学習し、あとはAIが数万件のデータを自動で推論をするという。
一般的に教師あり学習の場合、教師データを作る工程が非常に手間がかかり、効果と見合うかどうかの判断が必要だ。
しかし、一部の「機微」であれ20~30件程度でAIが機微を読み取り任せられるのであれば、より現場の実情に適したAIではないだろうか。
とくにパワハラ、コンプライアンス重視の昨今、中間管理職の多忙さは日々ニューステキストに表れている時代だけに・・・。
tf-idfでは、特定の単語や文書の特徴を表すという面の他に、分母となる多数の文書の選び方によっても値が変わってくるという面もある。
一般的には特徴ある語である業界用語も、業界文書だけを分母にした場合、特徴的な業界用語が一般的と解釈され、tf-idfでの特徴量としては低くなる。
その辺りが、営業現場での特徴あるデータ(チャンスやリスク)の兆しを少ないデータで発見できる秘密なのかも知れない。
そもそも、KIBITの名前の由来は・・・
KIBITとは、人間の心の「機微」と情報量の単位ビットを組み合わせて名付けられたという。
AIが人間の機微を読み取るために使う表現媒体として選ばれたのが、これもあらゆる業務の場面で使われるテキストだ。
KIBITが機微を読み取る精度を向上できるなら、人間が行うビジネス全般のあらゆる場面でも汎用的に使うことができる。
チャンスとリスク管理、不正検知や特許・論文検索、営業管理者の経験を活かす場面まで、さまざまなビジネスの現場業務にKIBITが適用できるというのも、納得だ。
<参考>
- 弁護士等の実勢 諸外国との弁護士・裁判官・検察官の総数比較 (日本弁護士連合会)
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/1-3-5_tokei_2016.pdf - 人工知能「KIBIT」搭載 テキストデータ解析ビジネスソフトウェア・ソリューション (FRONTEO)
http://www.kibit-platform.com/ - 受注機会・失注リスクの抽出|FRONTEO 人工知能「KIBIT」搭載 ビジネスソフトウェア・ソリューション (FRONTEO)
http://www.kibit-platform.com/solution/sales-support/ - RESEARCH & DEVELOPMENT REPORT 2015 研究開発報告書2015 (FRONTEO)
https://www.fronteo.com/ir/ir-data/pdf/FRONTEO_RD16_JP.pdf - RESEARCH & DEVELOPMENT REPORT 2017 研究開発レポート2017 (FRONTEO)
http://www.fronteo.com/corporate/resources/collaterals/pdf/RD17_JP_forWeb_20170926s.pdf - 独自開発の人工知能応用技術でビッグデータを解析する日本発ベンチャー (UBIC)
https://www.fronteo.com/ir/ir-data/pdf/20140306_Technology%20briefing%20for%20investors_6Mar2014_Web.pdf - 『AIによる大規模データ処理入門』 (小高 知宏著)
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