AI(人工知能)を利用したサービスの開発が世界中で進んでいるが日本ではかなり遅れている。そこには人材不足そして投資不足が大きく影響している。だが、ここへ来て政府はこの現状を打開すべく、高校、大学、大学院などで人材を育成する方策を示した。さらにそのためには高校生以上にはAIについてのリテラシーを持たせる必要があるとして、必須科目にAIの活用を盛り込む予定である。
続きを読むすべての高校生、大学生を対象にAI戦略-AIリテラシーを学ぶ機会を与える-
AI(人工知能)を利用したサービスの開発がどんどん加速している。日々、新しいサービスが発表され、日本経済新聞ではAIに関する記事がない日を探す方が難しいくらいである。
ところが、日本のAIに対する投資は諸外国と比較すると周回遅れであり、世界はもっと先に進み、日本との差はどんどん開きつつあるという。また日本においてはAIの開発を担える人材が非常に少ないことも、その一つの要因となっている。
そもそも現在主流の第3世代AIについて理解するには統計学が必須である。またビッグデータの解析を行うのにも統計学は欠かせない。しかし、日本には数学を得意としている人材は多いはずなのに、その層は医学部に進学してしまい、AIの開発現場にはやって来ない。
またAIを使いこなす、またはAIを実際の世の中に適用するには社会の仕組みや人間の心理などを理解しないといけないため、文系の能力も必要とされる。つまりリベラルアーツ的な能力を持っている人材が必要なのだが、日本では高校・大学で文系と理系に分けられてしまい、そのような人材が育ちにくいという欠点がある。まずはここを是正しないことにはAI人材は増えず、これが政府の問題意識にもなっている。
AI分野で活躍できる人材を2025年までに25万人育成するAI戦略を発表
日本政府は「Society5.0」構想を打ち出し、IoT(またはIoE)によってセンサーが収集したデータを5Gでリアルタイムに共有し、それをAIが解析する事で人間にとって住みやすい環境を整えようとしている。そのためにはAI開発は是が非でも推し進めなければいけない政策なのだ。もちろんこれによって、Society5.0の仕組みを世界に広げることで、産業競争力のアップを狙ってもいる。
そこで、何としてもAI分野で活躍できる人材を育成するとして、施策を発表した。まず、教育面ではAIリテラシー教育を行うとしているが、その規模は「高校生・年間100万人」「大学生・年間50万人」そして「社会人・年間100万人」という大規模なものだ。
これによってリテラシーを身につけた上で、AIを利用できる人材を育成しようというのだ。実際、AIを活用するにはデータサイエンスや数学系のリテラシーを持っている必要がある。その上で初めて、高度なAI活用能力を持つ人材となる。先ほどの高校生、大学生、社会人の合計250万人から、各専門分野でAIを活用できる人材を年間25万人育成するとしている。ちょうどリテラシーを身につけた人数のうちの1割である。ちなみに年間25万人は、2025年の年間育成目標である。政府はこの年間25万人のAI活用可能人材を、アメリカや中国の後塵を拝している日本の産業を活性化させる起爆剤にしたい考えだ。
そしてこれらの人材は「健康・医療・介護」、「農業」、「国土強じん化」、「交通インフラ・物流」、「地方創生」の5つの分野で重点的にAIを導入するとしている。これによって、従事者の負担を軽減し、生産性を向上させる。
さらにAIに特化したエキスパート人材を2000人育成する方針
しかし、AIを利用するリテラシーが身につき、AIを利用できる人材がいれば良いというわけではない。それらAIを使った商品開発ができる人材を育成する一方で、さらにはAIそのものを開発できる人材も必要となる。政府はAIを開発できるエキスパート人材を大量に育成する方法を考えている。
もちろん、これはリテラシーを持った人材250万人、AIを活用できる人材25万人の上に存在する。具体的には博士号をもつ人材などであり、エキスパート人材として年間2000人を目標に育成を行う。さらにそのうちの100人はトップクラス人材として定義している。
このエキスパート人材にはイノベーションの創出に取り組むことのできる環境も整備する。例えばAI×各専門分野高度人材を育成するため、産業界と連携した教育課程を大学や大学院に設置し、研究開発インターンシップに取り組む。その上で、民間団体が実施するコンテストも大学教育に取り入れる。さらに国際的なAI関連学会を誘致する。
AI人材は各国が注力!日本に足らないのは教育と投資?
とはいえ、当面の間、日本国内ではAIを開発できる人材も、AIを活用できる人材も大幅に不足している。そこで海外から外国人人材として受け入れようとしているが、それも上手くはいっていない。例えば、アジアから優秀な人材を受け入れようとした場合、日本語は使えなくても英語だけ使えれば良いという条件で探したとしても、新卒で1000万円以上を支払わなければAIを開発できるような人材は日本へはやって来ない。何故なら、それ以上の給与をアメリカや中国の企業が支払うからだ。従って、日本が海外からのAIエキスパート人材を受け入れる場合には、アメリカや中国をはじめとする、世界の各国と採用合戦を繰り広げなければいけない。
では日本人を採用すれば良いようなものだが、日本では教育の改革が遅れているために、なかなか人材が育たない。だが、それは政府が主導して改善しようという動きが出て来た。すると次に足りないのは、投資である。人材を得るためには、高い給料を払うことができるようにならなければならない。例えば、現状でも数学オリンピックで優勝するレベルの、優秀な数学センスの持ち主は数多くいる。しかしそれらの人材はより稼げる医療業界に行ってしまう。AIをはじめとするIT系の開発企業にはそれだけの給与を出せないために敬遠されてしまうのだ。もしここにしっかりと投資ができ、「稼げる」業界に変貌すれば、現状でも人材不足はかなり解消されるはずである。
AI戦略-高校の授業でデータ分析を学ぶ-
さて、政府はAI人材を高校時代から育成する具体的な方針を打ち出している。統合イノベーション戦略推進会議は「AI戦略2019」をまとめている。その内容を見ると、これまで「読み・書き・そろばん」と言われていた、識字と計算能力に加え、現代社会で生きていく上では情報教育、数理、データサイエンス、AIに関する教育など、「情報とデータを取り扱う能力」が重要な要素であると規定している。そこで、「情報I」などの授業でこの能力を向上させる考えだ。
素案では2025年までにすべての高校生が情報の取扱に関する基礎的なリテラシーを修得するものとしている。その際、実際の事例を基に問題を発見し、それを解決することで実践的な能力として身につけることを前提としている。つまり、暗記してテストで点が取れるような能力は求めないと言うことである。実際、社会でデータを扱うには、暗記で済むような能力はまったく役に立たないため、実践的な教育がしっかり行われるのであれば、現役労働者としては大変ありがたい。できればリカレント教育などで、社会人も受講したいくらいだ。これらによってデータサイエンスやAIをそれぞれの業界で活用できる人材を年間25万人養成するわけだ。
また、「情報I」ではITパスポート試験の出題内容を新学習指導要領に盛り込み、この科目を必修化することで、高校卒業生が全員、ITパスポート保持レベルになることを目指している。それとは別に、更に高度な人材の育成のために、データサイエンスやAIを活用できる「IT部活動」を展開するとしている。
だが、実のところこれらの下地をつくるには、小学校、中学校時代の教育が重要である。そのため、6月末に出された「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」では、児童生徒が1人1台タブレットを持って学習し、その学習ログデータを収集、AIを活用して個々人に最適な学習提供できる環境を作るとしている。その際に問題となるのは現場の教員がしっかりと対応できるかどうかだろう。実際、データの読み方を理解している教員はほとんどいないため、ここで現場をしっかりとサポートできなければ、かけ声倒れになってしまうだろう。
まとめ
AI(人工知能)を様々な分野に導入し、活用することが、産業競争力を向上させるのに欠かせない状態になっている。ところが日本ではこれまで人材の育成は行われず、投資も行われてこなかった。そのためアメリカ、中国の後塵を拝する状態になり、その差はどんどん開きつつある。
この現状を打開すべく、政府は年間250万人のリテラシー保持者、25万人のAI活用人材、そして2000人のエキスパート人材を育成することとした。この人材は「健康・医療・介護」、「農業」、「国土強じん化」、「交通インフラ・物流」、「地方創生」の5つの分野でAIを活用して、生産性の向上を図っていくこととなる。
ただし、教育現場のサポートをしっかり行わなければ、教科や科目を整備してもかけ声倒れになってしまうので、どこまで人員をはじめとする資源の投入をできるかが重要となる。
<参考>
- AI戦略2019(統合イノベーション戦略推進会議)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/pdf/aisenryaku2019.pdf
- 【経産省×日経新聞】日本AI戦略最前線 ── 足りないのは“教育”と“投資”(Ledge.ai)
https://ledge.ai/aisum-interview/
- 政府「AI戦略」を発表 、新たなAI人材教育を業界はどう見る!? ーすべての高校生・大学生がAIの基礎を習得へー(AINOW)
https://ainow.ai/2019/03/29/166629/
- AI戦略 2025年に年間25万人育成目指す(NHK政治マガジン)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/18468.html
- 高校でデータ分析の学習を充実 政府、AI戦略で素案(教育新聞)
https://www.kyobun.co.jp/news/20190612_04/
- 「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」について(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/other/1411332.htm
- AI戦略(有識者提案)及び人間中心のAI社会原則(案)について(首相官邸)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/dai4/siryo1-1.pdf
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