ロボットは人間が行ってきた作業を代替してきた。しかしそれはあくまでもプログラミングされた動作だけであった。しかし頭脳をAIとすることで、人間にしかできなかった複雑な作業を代替するようになってきた。今回はディープラーニングの基礎と機械学習との違い、そしてAI搭載ロボットの活躍する業種などを紹介する。
続きを読むディープラーニングとは?
AI(人工知能)の開発は1950年代から始まっているが、2010年代に入り第3世代が開発されるに至って、大きくその性能を伸ばしてきている。その切り札となっているのが「ディープラーニング(深層学習)」技術である。
この技術は人間の脳の構造を模した「ニューラルネットワーク」をコンピュータ上で再現しているのが最大の特徴である。知っての通り、人間の脳は脳細胞が複雑に絡み合い、その中で電気信号をやりとりすることで記憶と情報伝達を司っている。これをコンピュータ上に再現しようという試みが「ニューラルネットワーク」であり、入力された情報は複数の階層で階層ごとに特徴量が抽出される。階層を多くすることで特徴量の抽出が複数回行われるため、より本質的なところに目が行くようになっていると考えられる。ただし、どの様に特徴量抽出をしているのかは分からない上、特徴量抽出に人為的に介入することが難しい。そのため、ディープラーニングによるAI(人工知能)はブラックボックスであると言われることも多い。
ディープラーニングは機械学習とどう違うのか?
上記で説明したように、ディープラーニングは機械学習の一種である。機械学習は大量のデータからパターン認識を行う手法を指しているため、その手法としてはこれまでにも様々なものが開発されている。最もシンプルな線形回帰から、ロジスティック回帰、ランダムフォレストブースティング、サポートベクターマシンなどがある。それらの一つとしてディープラーニングは位置している。
特にディープラーニングが他の機械学習と異なるのは、データから特徴量を自分で見つけていく点である。これが「ブラックボックスである」という批判にも繋がっているのだが、人間の脳内も同様にブラックボックスであるため、「システムなのに判断基準がわからない」という点が不安を呼び起こしているだけだと考えても良いだろう。
いずれにせよ、ディープラーニングは2012年に開催された画像認識コンテスト「ILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)」で、ヒントン教授らのグループがエラー率大幅な削減に成功したのがブレイクスルーとなった。ここで使われたのがニューラルネットワークを用いたSupervisionである。1年前の優勝記録のエラー率25.7%から、何と約10%も削減した15.3%を叩きだし、桁違いの精度で圧勝した。これによってニューラルネットワークを用いたディープラーニングが、一気にAIのメインストリームとなった。
ただし、機械学習では人間がある程度学習の方向性をコントロールできる。それに対し、ディープラーニングでは場合によって意図しない方向に学習が進む可能性もあるのは事実である。それについては、どのようなデータをどれくらい読み込ませるかを慎重に選択すれば、より効率的にコンピュータが学習できるはずだという考え方もある。筆者はIBMのWatsonのNLC(自然言語処理エンジン)を利用しているが、読み込ませる学習データを少しずつコントロールして、Watsonの学習の癖を把握しようとしている。その上で、ある程度は想定通りの学習結果を示すことがわかってきている。
そして、このディープラーニング技術は、ロボットの制御にも活用されつつある。
ロボットへディープラーニング技術の導入が進む
ロボットという単語を聞いたときに真っ先に思い浮かべるのはなんだろうか。ASIMOのような人型ロボットやAIBOのようなペットロボット、ルンバのような掃除を行ってくれる自動機械や、工場で製造に携わる工作機械など、様々なものが想定される。
工場で製造に携わるロボットは、もともとは単純な作業の繰り返しを人間に代わってやるものであり、少品種大量生産が主流であった初期の頃には、それぞれの工程に専用のロボットを用意していた。しかし、それから多品種少量生産の時代になると、工程毎の専用ロボットは費用対効果が悪くなる。そのため、アームの先端を工程毎に取り替えて作業を行うロボットが開発されている。
とはいえ、すべての作業をプログラミングするのは非効率この上ない。そのため、人間の動作をカメラなどのセンサーで「観る」ことで学習するロボットというのも出て来ている。匠の動作や判断基準を様々なセンサーデータを基にして学習し、ロボットに覚え込ませるのである。これによって、中小企業の宝である匠の技を次世代に伝承できるようになる。
またそれだけではない。今後は人材不足が進むにつれ、AIにロボットというボディを与え、人間の代わりに働いてくれるようになる。その際に重要なのは、ロボットに環境を合わせて作られた現在の工場の様な場所ではなく、住居や生活道路、畑のように人間の活動環境に合わせて動作できる能力である。
もちろん二足歩行だけが答えではないので、畑であればドローンによる自律制御も選択肢となるし、ホテルでは車輪で自走するタイプで構わない。また警備ロボットも自走タイプで問題はない。また、住宅自体をAIで自動制御できるようになれば、ある意味、住宅自体がロボットだと言えるようになるかも知れない。
ディープラーニング技術が導入されたロボットとは?
では実際に、ディープラーニング導入したロボットにはどの様なものがあるのだろうか。幾つか紹介したいと思う。
まずは将棋の第三期叡王戦で振り駒を担当した人協働ロボット「COBOTTA」である。基本的には人間の腕の部分をロボット化したものであるが、アーム部に6つの軸を設けることでどの様な動きにも追随できるようになっている。またプログラミング不要で、人間が腕を動かした通りに動作を記憶することができる。さらに粉体の秤量のような不定形物を対象とする作業を、ディープラーニングで学習させることに、デンソーウェーブとエクサウィザーズの共同開発チームが成功している。
この腕型ロボットにはMoley Rotics社が開発しているロボットシェフや、Mark Shakr社が開発しているロボットバーテンダー「Nino」がある。特にNinoは踊るような動きを再現するための教師データとして、イタリア人振付師のマルコ・ペレ氏の動きを撮影したものを用いているという。食品や飲料を作るのに必要なデータ以外のものも持っているのだ。
さらに、このタイプは医療現場でも活用されている。開発されている自動手術ロボット「Smart Tissue Autonomous Robot(STAR)」は、過去の手術データから縫合箇所を的確に判定し、自動的に縫合を行う。ただし現時点でもまだ人間の精度には届いておらず、人間と共同することで人間が行うレベルの精度と手術時間を短縮化ができるとされている。
これら、移動をすることがない腕型ロボット以外にも、何らかの形で移動を行うボディを持ったロボットも開発されている。例えば車輪などを使い地面を移動するものとしては、警備ロボットやホテルでのサービスロボットなどがある。前者はSEQSENSE社の「SQ-2」が三菱地所の施設で導入実験に供されている。後者はフロントから部屋までモノを届けてくれるという、渋谷ストリームエクセルホテル東急が導入するSavioke社の「relay」がその例である。
OPTiM社のAgri Droneは、AIによって農作物についた害虫を認識し、必要な場所にのみピンポイントで農薬を散布できるドローンである。ドローンを高高度に上げることにより、広い農場であっても近赤外線カメラやサーモカメラによって撮影された画像を分析し、害虫を発見すれば降りて害虫に直接農薬を散布するのである。
それ以外にも物流で使われているロボットもある。例えば倉庫における業務を自動化するものである。このロボットは商品のピッキングや移動を自動で行う。そして必要な商品を従業員の元まで運ぶことによって、作業効率の向上に貢献している。また、この情報を蓄積することで、同時に注文されやすい商品を近くに置いておくなど、効率的な配置が可能となる。
それ以外にも建設現場で活躍するもの、家庭のプログラミング教材として使われるものなど、様々な用途のロボットが考えられ、提供されつつある。
まとめ
AI(人工知能)はロボットを動かす頭脳としての開発も進んでいる。主に画像認識、音声認識を使い、環境から動作を学習してボディを動かす。場合によっては環境を測定する様々なセンサーからの情報も使い、最適な動作を作り出す。
これによって、工場内での作業のみならず、警備、飲食、物流、介護、医療、農業、建設など、様々な業種で利用が進みつつある。人手不足の業種を中心にこれからも開発が進み、人間とともに作業を行い、また、危険な作業は人間に代わって行うようなロボットが次々と出てくるだろう。
<参考>
- ディープラーニング×ロボットの最前線 5/27開催セミナー(日本ロボット学会
https://www.rsj.or.jp/info/robotnews/12059/ - AI・人工知能が搭載されたロボットまとめ(AINOW)
https://ainow.ai/2018/09/05/145287/ - 人の動作を真似るディープラーニング技術でリコーが新手法開発、ロボット事業にも参入へ(日経XTECH)
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/mag/rob/18/012600001/00015/ - 学習済み動作を組み合わせてロボットの制御を行う深層学習技術を開発(MONOist)
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1806/20/news010.html - 「機械学習」と「ディープラーニング」は何が違うのか?(MUFG INNOVATION HUB)
https://innovation.mufg.jp/detail/id=93 - COBOTTA(デンソーウェーブ)
https://www.denso-wave.com/ja/robot/product/collabo/cobotta.html - ロボットのバーテンダー「Nino」とちょっと未来な夜を過ごしたい(GIZMODE)
https://www.gizmodo.jp/2018/06/robot-bartender.html - 医師の代わりに自動で手術してくれるロボットが開発中、実際に手術する様子のムービーはこんな感じ(GIGAZINE)
https://gigazine.net/news/20160509-autonomous-robotic-surgery/ - デジタル化された“匠の技”を収集/活用するシステム(日立ソリューションズ)
https://www.hitachi-solutions.co.jp/smart-manufacturing/sp/column/detail1_2/2.html - デリバリーサービスロボット Relay by Savioke(MACNICA)
https://service.macnica.co.jp/contents/122029 - SEQSENSE
https://www.seqsense.com/
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