ヒトとコミュニケーション可能なロボットは続々と登場する一方、人工知能(AI)を搭載したペット型ロボットの歴史は約20年にも及ぶ。ソニーが開発したAIBOは、現在のAIブームを大きく先取りしたペット型ロボットだった。だがロボットを機能させるビッグデータを収集するセンサー技術や、それを処理するディープラーニング(深層学習)の発達により、ペット型ロボットは新しい段階へと進化した。
そこでペット型ロボットとは何かや、最先端技術を駆使したペット型ロボット「LOVOT」について紹介していこう。
続きを読むAIペットとは?
イヌやネコといった動物の代わりになるペットが、AIが搭載されたペット型ロボットである。近年のAIの発達により、動物に近づいている。
ロボットとは?
ロボットの特徴をおさらいしよう。ロボットとは、自律的に動作する機械を指す。ただし行動すべてがプログラムされているのではなく、機械が自分で「判断」できる点が、単なる機械とは異なる。ただし、ヒトや動物のような容姿をもつ必要はなく、自律的に動作するならば、工場で作業するアーム型の機械でも、ロボットといえよう。
ロボットの脳をつかさどるのが、人工知能(AI)である。カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授が考案したディープラーニング(深層学習)によってAIが大きく前進したのは周知の事実だろう。2012年には世界画像認識コンテストで圧倒的な誤認識率の低さで優勝したのを皮切りに、2016年には囲碁のプログラムAlphaGoが囲碁の世界チャンピオンに勝利した。このように画像認識から意思決定に至るまで、ディープラーニングは応用可能である。このような応用可能性の高いAIはロボットにも搭載されており、すでに実用化されている。
第3次AIブームよりも先だったペット型ロボット
ただしペット型のロボットの登場は、これよりもずっと早い。1999年にソニーがイヌ型のロボット「AIBO」を販売開始した。AIBOが開発された当時はAI冬の時代だった。第2次AIブームをけん引したエキスパートシステムは、ルールを記憶させて推論を行なうシステムだった。だが、ヒトのような暗黙知を扱えないという理由で、次第にブームは下火になったのだ。そのため、AIは役に立たないものと考えられていた。
AIBOはその「役に立たないAI」を活用して作り上げられたペット型ロボットである。エキスパートシステム、つまりAIBOには原則がプログラムされていて、それに従い行動する。時には反抗的な態度や憎まれ口を利くなど、ペットらしい振舞いをしたという。ただし時代が早かったのか、2006年を最後に一旦終了した。
人工知能搭載なのでより高度なコミュニケーションとれる
AIの進化で復活したペット型ロボット
先述のように、AIの進化によってペット型ロボットは再び注目されるようになった。ディープラーニングをはじめとするAIの特徴は、暗黙知を取り扱える点にある。ビッグデータさえ用意すれば、それを学習することで、規則性を見つけ出し、最適な回答を与えることが可能になる。画像認識や音声認識、言語認識といったパターン認識でディープラーニングは威力を発揮する。
とくに自然言語処理技術の向上には目を見張るものがある。スマートスピーカーなどに搭載されたAIアシスタントは、ユーザーの呼びかけを解釈し、適切な会話を行なえる。このような高度な言語解釈技術を生かし、ヒト型のロボットにもAIが搭載されている。
12年ぶりに復活したaiboの進歩
ただヒトとペットとは異なる。ヒトは言語でコミュニケーションを取るのに対し、ペットは鳴いたりしっぽを振ったりするなどの行動でコミュニケーションを取ろうとする。たとえば2018年に復活したaiboの場合、しっぽを振るなどの動作を行なうアクチュエーターが22個もボディに搭載されている。耳を動かすなど、可愛さが表現できるという。
また搭載したセンサーを処理できるようになったのも大きな進歩だ。センサーから外界の情報を取得すれば、それを学習することで、ロボットの移動経路や障害物を避ける判断にも応用さできる。クルマなどの自動運転にも活用されるAIだが、ペット型ロボットも原理的には同様である。
このように、センサーやアクチュエータ-、それを動作させるAIのおかげで、より高度なコミュニケーションを取ることが可能になったのだ。
可愛がれば可愛がるほど懐くAIペット「LOVOT]
AIなど最先端のテクノロジーを導入したペット型ロボットがLOVOT(ラボット)だ。
人間型ロボットPepperの開発経験を活用
LOVOTは愛(LOVE)をはぐくむ家族型のロボットである。人間型ロボットPepperの開発に携わった林要氏がGROOVE Xを2015年に立ち上げ、ペット型ロボットの開発に取り組んだ。
Pepperはソフトバンクが手掛けた感情認識ロボットだ。PepperはクラウドAIが搭載されている。クラウド上に情報を送信し分析することで、フィードバックしている。学習するほど賢くなり、利用者の状況に応じてPepperが変化するのも特徴的だ。人の顔の表情や声帯の緊張度合いを組み合わせて、喜怒哀楽を判断しているという。
学習によってペットらしさが増幅
LOVOTにも、Pepperで培われた技術が応用されている。カメラを搭載することで、個人が識別可能である。その人の前まで移動し、顔を見上げながら声を出すなど、本物のペットと遜色ない愛くるしい行動を取るという。
可愛いだけではなく、飼い主の邪魔をするようプログラムされているのも、本物のペットさながらである。このような行動はAIが目指す「効率性」とはかけ離れているかもしれない。だが、このような「飼い主の邪魔をすること」を目指すことで、生き物らしさを表現しているという。
LOVOTに使用されるAIは主に、個人を識別したり障害物を認識して移動するといった画像認識に当てられている。ただし自動運転のクルマ同様にAI処理にはリアルタイム性が求められるため、AIを処理するチップがLOVOTに搭載されている。これにより、ネットワークを介してクラウドでAI処理することなく、ローカルでLOVOTが判断可能になる。このようにペット型ロボットといってその性能は侮れず、センサーやAIチップなど最新鋭の技術が搭載されたハイテクロボットなのだ。
見た目の好みで選ぶ方法もOK
LOVOTは顔やボディの色をカスタマイズ可能だ。顔の色は2種類で、SOLOが茶色、DUOがこげ茶色だ。服は色、形ともに豊富で、好きな服に着替えさせられる。このほかにも、メガネやしっぽカバーなど、LOVOTをカスタマイズするアクセサリーが数多く用意されている。一旦LOVOTを購入しても、改修可能なので安心できる。
言葉を認識するAIペットなら楽しくおしゃべりも可能
LOVOTはヒトの言語を認識し、それに合わせて行動する。ヒト型ロボットと異なり、日本語のような言語でコミュニケーションを取れないが、これはペットとしての役割しか果たさないことを意味しない。
セラピーにも応用可能なペット型ロボット
ヒト型ロボットやペット型ロボットが担う役割のひとつに、高齢者や介護用ロボットの役割が挙げられる。高齢者の福祉コストを減らすために、ロボットセラピーが進んでいる。動物にはヒトの心身に与えるポジティブな効果が多数報告されており、アニマルセラピーは福祉施設におけるレクリエーションや精神医療を補完する役割が担われている。その一方で、衛生や安全性の観点から、動物を使ったセラピーは限界をみせた。代わりに登場するのが、ペットAIによるロボットセラピーだ。実際の動物を使用するよりも衛生的で安全なため、AIBOの登場以降注目されているのだ。
見守り機能を搭載したLOVOT
LOVOTに話を戻すと、赤ちゃんの見守り機能や高齢者の話し相手にも役立つよう設計されている。LOVOTには動画を撮影するカメラが搭載されているので、遠隔地でもその動画を確認できる。単なるペットとしての役割だけでなく、ロボットらしい利便性ももちあわせている。高齢者向けには、LOVOTとどのように接したのかや就寝時間などを記録するダイアリー機能が搭載されている。ウェアラブルデバイスに代表されるように、ユーザーの健康状態を記録し、それを分析することで、健康的な生活支援にも役立てられるのだ。
このようにペット型ロボットには、動物にはない可能性が秘められており、今後さらに発展することが予想されるだろう。
まとめ
ペット型ロボットの歴史は、我が国では古い。ディープラーニングが登場する以前からAIBOが開発され、さまざまな活用法が検討された。ペット型ロボットの開発は一時中断されたものの、AIの進化により、ペットらしいだけでなく利便性も兼ね備えたペット型ロボットが誕生した。ヒトのつながりが希薄になるなか、代用的な役割としてのペット型ロボットの発展に期待したい。
<参考>
- やたら手が掛かる上に高価、なのに売れまくり――人に懐く「LOVOT」はなぜ、約88億円もの資金調達に成功したのか(ITmedia)https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1906/12/news031.html
- LOVOT
https://lovot.life/ - インタヴュー:LOVOTをつくった林要が考える、ロボットの「新しい宿命」(WIRED)
https://wired.jp/2018/12/18/lovot-groovex-interview/ - 「情報革命で人々を幸せに…感情認識パーソナルロボット「Pepper」が実現する30年ビジョン」(『ProVISION』No.83)
- 「ペット型ロボットを用いた認知症高齢者を対象としたロボット・セラピー」(『計測と制御』2012年7月号)
- 「役に立たないAIBOが、こんなに売れたわけ」(『日経エレクトロニクス』2001年7月16日号)
- 「aiboの設計」(『日経ものづくり』2018年4月号)
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