欧米の先進国と比較して、日本は1人当たり、あるいは1時間当たりの労働生産性が低いのが現状だ。RPAは業務効率化により労働生産性を上げるためのソフトウェアである。類似のソフトウェアとしてAIやbotが挙げられるが、これらの違いはどこにあるのだろうか?また各ソフトウェアがどのような業務に向いているかなどについて、RPAの動向を中心に述べていきたい。
続きを読むRPAとAI、botとは?
RPAとは?
RPAはRobotic Process Automationの略語である。できて間もない用語であるため、RPAの定義は定まっていないのが現状だ。ただ、従来人間が行なってきた事務作業を代行するソフトウェア手法というのがおおよその見解である。
RPAには、いくつかの段階が存在する。第1段階はExcel等の表計算ソフトに手書き文字を入力するといった、定型的な業務を単純に自動化する段階である。第2段階は、会議室の予約など判断を伴うような定型作業を、過去の事例データを学習し自動化する段階だ。第3段階は、AIを搭載し、業務分析や改善、意思決定の自動化といった、高度な自律化の段階である。
現状では、第1段階の定型業務の自動化が中心のRPAだ。しかし今後、上記の段階を経て発展すると予想される。
AIとは?
AIもまた、人間の操作に頼らなくとも、自律的な判断を行なえる。そのため、RPAとの違いが分かりにくいかもしれない。先述のように、過去のデータを学習する第2段階や、意思決定等の自律的な判断(第3段階)のために、AIが必要とされる。これらAIの役割は、学習による自律的な判断に主眼が置かれている。一方、第1段階のRPA、つまり現在RPAの中心にあるソフトウェアは、ルールベースで定型作業を自動化するという点で大きく異なっている。
botとは?
botの正式名称はチャットボットであり、chat(おしゃべりする)とrobot(ロボット)からなる造語だ。自動で会話を行なうソフトウェアであり、ビジネスにも応用可能なことから、RPAとみなすことも可能だ。botは進化しており、以前はルールベースで会話を続けるソフトウェアも存在したが、現在では会話データをAIが学習し、回答を推論するチャットボットも登場している。RPAもチャットボットも、単なる定型作業の自動化から学習にもとづく高度な判断へと段階がある点で似ている。だがRPAの発展は現代進行形なのに対し、botは最終形態まで進化したものまで存在する点で異なっている。
RPA・AI・botはどんな業務に向いている?
RPA
RPAは事務作業に特化したソフトウェアだ。そのため、問い合わせメールの自動返信やスキャンした書類のPDF化、給与台帳といったレポートの作成など、パソコン上で行なう単純作業に向いている。裏を返せば、例外処理の多い業務など繰り返しだけでは対処しにくい業務には向いていないともいえる。またパソコンの操作を記憶させてRPAに代用させることも可能だ。
AI
これに対しAIは、デスクワークなど単純作業に限らず活用できる。ただしディープラーニング(深層学習)といった最新のAIは、学習に必要なビッグデータがなければ、安定したパフォーマンスを発揮できない。。逆にいうと、ビッグデータさえあれば、画像認識や言語認識といったパターン認識を自動化できるだけでなく、IBMのWatsonのように経営等の意思決定支援にもAIが活用できる。
bot
botは会話に特化した自動化システムだが、ビジネスへの応用範囲は広い。ヘルプデスクや社内用のマニュアルをbotで代用することも可能だ。ルールベースのbotでは、会話の範囲が限定されていたり、会話が不自然だったりするなど、問題もあった。だがAIが導入されるようになり、ビッグデータさえあれば適切な会話が行なえるほど進化したbotも存在する。とはいえ、学習させるビッグデータが少なければルールベース型のbot同様に不自然な会話になることもありうる。
RPAが導入される背景にあるものは?
デスクワークに限らず、ビジネス一般において、コンピューターやICT(インターネット通信技術)が活用されるのは、今に始まった話ではない。では、なぜ近年RPAが注目されているのか?
働き方改革とRPA
働き方改革は、政府が主導する生産性を向上するための取り組みである。日本は欧米と比較して、1時間当たりの労働生産性が高くなく、OECD諸国の平均を下回っている。労働生産性を高めるためには、生産される付加価値を多くするか、生産に必要な労力を小さくするしかない。労力を小さくするためには、働き方の「ムダ」を省くしかない。長時間労働を是正し、効率よい働き方に変えれば、労力は小さくできる。日本よりも1時間当たりの労働生産性の高いドイツでは、1日の労働時間が8時間を超えてはいけないという罰則規定が設けられた。
また労働生産性を高めるためには、ICT技術の導入が欠かせない。単純な作業ならば人間が行なう必要もなく、機械に自動的に行なわせたほうが効率的だ。人間はクリエイティブな作業や複合的な作業に取り組めば、生産される付加価値が高くなり、結果として労働生産性が向上する。RPAにはAIが必ず必要ないが、情報通信(ICT)技術の発達により、単純作業を代替できるソフトウェアが誕生したのも大きい。もともと2014年頃にヨーロッパで始まったRPAが、日本にも伝わったという背景もある。
最後に日本における人口動態だ。少子高齢化により、人材が集まる職種に偏りが生じている。とくに地方の過疎化による地元中小企業への影響は深刻だろう。少ない人材で多くの仕事をこなすためには、RPAに頼らざるをえないというのが実情だろう。
RPAの内部事情
今度はRPAというソフトウェアの側面から、なぜ導入が検討されるのかを確認しよう。ICT技術はRPAに限らない。AIやbotといったほかのツールも存在する。なぜAIやbotではなくRPAがここまで注目を浴びているのか。
ひとつには、教育コストが少なくて済むことが挙げられる。AIと異なり、プログラミング等の専門的な知識がなくても利用可能なRPAツールも登場している。もちろんRPAツールの操作方法を覚える必要があるが、一般スタッフでも扱いやすいのが大きい。
設備投資コストの低さも魅力的だ。通常、業務効率化を図る際には大規模な投資やシステムの改修が必要になる。たとえばAIによる業務効率化に取り組む企業が後を絶たないが、投資に見合った成果が出にくいのが側面もある。自らの体験をもとに、ソフトバンクが「AI導入の壁」と呼ばれる参入障壁を公開するなど、「AIならばなんでもできる」というのではない。投資に見合った効果がAIで得られるかが重要になる。一方RPAの場合、既存のシステムをそのままに、ソフトウェアをインストールするだけで導入可能だ。
業務の変更が少ないのも大きい。従来のやり方を大幅に変更すれば、システム利用者の負担が大きくなる。結果として、トラブル発生の原因となる。RPAは、一部の業務を機械に行なわせるだけなので、仕事の流れをほとんど変更せずに、業務効率化が可能になる。
RPAの導入例
以下では、日本で導入事例の多いRPAツールのうち、3種類をピックアップして紹介する。
Blue Prism
Blue Prismは2001年に設立されたイギリスのブルー・プリズム社によりRPAツールだ。RPAツールとしてはBlue Prismは老舗で、日本での市場拡大を狙い事業展開している。
Blue Prismはサーバー型に分類される。サーバー型とは、個々のソフトウェアがサーバーで集中管理されるシステムを指す。暗号化や監視機能が搭載されているので、安心して利用できる。
Blue Prismは金融や医療分野を中心に導入されている。保険金の請求処理で、データの記録や電子化に用いられている。たとえば、金融業も手掛ける楽天は口座解約の自動化にBlue Prismを利用しているという。
BizRobo!
BizRobo!はRPAテクノロジーズが提供するツールで、日本での人気が高い。BizRobo!は複数のロボットを同時に稼働可能だ。WebやExcel等の処理が並行して行なえるという。
BizRobo!は金融分野だけでなく、旅行や運輸、製造、医療、政府など幅広い分野で活用されている。企業にも人気で、NTTコミュニケーションやパナソニック、HISなど幅広い業種で導入されている。たとえば長崎県天草市では、公共料金や健康診断に関連する自治体業務の自動化にBizRobo!を活用した実証実験を実施。52.4パーセントから87.1パーセントもの稼働時間の削減に成功している。
WinActor
WinActorはNTTアドバンステクノロジが開発したRPAツールだ。Windowsで動作するあらゆるアプリケーション操作が自動化できる。WinActorはクライアントPCにインストールするクライアント型の製品である。そのため、サーバー型と異なり、シナリオを人間のオペレーションによって起動する必要がある。その一方で、シナリオを開発する際にプログラミングの知識は特に必要とされない。
WinActorは金融機関や商社などで活用されている。関西を代表する私立大学である立命館大学はWinActorを導入し、支払い手続きなどの定型業務を自動化しているという。
まとめ
RPAの導入は欧州から始まり、日本でも活用されるようになった。とりわけ少子高齢化や労働生産性がOECD諸国で高くないことなどから、RPAの導入は急務である。AIやbotなど類するソフトウェアがあるなか、RPAの特性をしっかり把握しておきたいところだ。
<参考>
- 我が国における労働生産性をめぐる現状と課題(参議院)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2018pdf/20180601041.pdf - 楽天の導入事例で見えたRPAは「ソフトウェア開発」というリアル(Think IT)
https://thinkit.co.jp/article/15954 - BizRobo!とは(RPAテクノロジーズ)
https://rpa-technologies.com/products/first/ - ジャパンシステム、天草市にて「BizRobo!」による『自治体業務のRPA適用実証実験』を実施(ジャパンシステム)
https://www.japan-systems.co.jp/news/2019/190319.html - キーワードは「定型」「定期的」「大量」。 RPAは大学の業務との相性が抜群(NTTデータ)
https://winactor.com/case/winactoruse/5531/ - 「真の働き方改革とRPA」(『流通ネットワーキング』2019年3月4日号)
- 「どこまでやれる!? RPAを活用した働き方改革の推進」(『近代中小企業』2018年5月号)
- 「多岐にわたるRPAツール 主要5製品を徹底比較」(『日経コンピューター』2018年2月1日号)
- 『いちばんやさしいRPAの教本』(遠藤圭 著)
- 『図解でわかるRPAいちばん最初に読む本』(神谷俊彦 編著、堀川一、湯山恭史、木佐谷康 著)
- 『徹底解説RPAツールWinActor導入・応用完全ガイド』(清水亮、枡田健吾、近江幸吉、仲井誠明、渡辺泰志、橋本勝巳 著)
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