ウェブサイトだけでなく、LINEなどでも自動で会話できるチャットボットが設置されている。人工知能(AI)によって自然な会話が実現可能になったチャットボットだが、その歴史は古い。そこでチャットボットの仕組みや、どのようにAIが活用されているのか確認したい。
続きを読むbotとは?
略してbot(ボット)と呼ばれることが多いが、正式名称はチャットボットだ。chat(喋る)とrobot(ロボット)の造語であるチャットボットは、まさに自動的に喋るシステムだ。
チャットボットが注目を浴びるのは、ビジネスなどあらゆるシーンで応用可能なのが大きい。たとえば、カスタマーサポートに設置されたチャットボットは、顧客やユーザーの問い合わせに対し、自動的に答えてくれる。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が近年注目されているが、チャットボットはRPAの役割も果たす。このような側面から、さまざまな企業がチャットボットやそのベースとなる自然言語処理に力を入れている。
チャットボットに取り組む代表的な企業として、マイクロソフトやIBMが挙げられる。マイクロソフトのPC用OS「Windows」には自動会話システムのCortanaが標準装備されている。Cortanaは音声によるチャットボットだが、このほかにも国内で人気のSNSであるLINEともコラボレーションし、女子高生ボットのりんなを開発している。またIBMはAIコンピューターのWatsonでチャットボットが作成可能なAPIを提供している。
このように、チャットボットはAIの進化のおかげで、ビジネスなどへの応用可能性から、企業も力を入れている。
チャットボットの別名は「人工無能」
人工無能の歴史
チャットボットに類するシステムは古くから存在している。それが「人工無脳(無能)」と呼ばれるシステムだ。英語のArtificial Idiot(人工無能)に由来する用語で、知能を作り込まなくとも、人間のように見せかけられる。
とはいえ、人工知能と人工無能とは大きく関連がある。人工知能学会によると、人工知能は2種類に大別される。
・人間の知能そのものをもつ機械を作ろうという立場
・人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする立場
人工知能研究者は後者の研究に従事するケースが多いという。つまり、人間の会話を機械にさせる「人工無能」は、人工知能の1つともいえよう。
最初の人工無能
人工無能の始まりは、1966年にジョセフ・ワイゼンバウムによって開発されたプログラムの「ELIZA」だ。ELIZAは、世界で初めて機械と人間との対話を実現しようとしたことで有名である。相手の発言を質問文にするルールと、会話が都合の悪い方向に行かないように会話の流れを変える発言が、ELIZAにプログラムされている。要するに、相手の発言を疑問文で返すのだ。ELIZAは多くの人間に「知能」があると思い込ませたという逸話が残るという。
チャットボットの仕組みは?
ELIZAは非常に単純なシステムだが、チャットボットの仕組みはルールをあらかじめプログラムしておき、それに基づき会話を続けるのが基本だ。ELIZAの場合は、「相手の発言を疑問文に変換する」がルールのひとつである。だが自然言語処理研究の発展により、多くのルールが考案された。たとえば、1980年代に登場したビデオゲームで、ルールベースの人工無能が採用されている。RPGで、テキストや選択肢が表示され、プレイヤーが回答するシステムは、まさに人工無能だ。
しかし、人工無能のシステムは進歩する。それが「辞書型」と呼ばれる人工無能だ。ユーザーから与えられる文を予測し、その分に適した応答文をあらかじめ用意するのだ。ただし人間が応答文を用意していたのでは手間がかかるため、自動的に作成する手法が提案された。たとえば、単語の接続の統計情報から単語をつなぎ合わせることで、新しい文が作成できる。ある単語と次の単語の接続だけでは全体として意味不明な文章が生成される可能性があるため、さらに次の単語の接続まで考慮して自動的に文章が作成されるのだ。この手法はN重マルコフ連鎖と呼ばれ、自然言語処理ではスタンダードな方法だった。
チャットボットは4種類
チャットボットは4種類に大別される。
・Elizaタイプ
Elizaタイプは、先述のELIZAに使用された人工知能のアーキテクチャを指す。心理療法をもとにELIZAは考案された。クライアントの聞き役に徹し、相槌や内容を深化したり、話を要約したりすることで、クライアント自身が自身の悩みを解決し自信を深めてゆく「傾聴」という技法がELIZAに応用されている。
・選択肢タイプ
人工無能の別の潮流は、ゲームに由来する。1976年頃に発売されたテキストベースのアドベンチャーゲームである「Colossal Adventure」において、選択式で会話が進んでいくシステムが採用された。会話自体はゲームのシナリオに沿うものの、キャラクタの役割や人物像、行動が生き生きと描かれていることから、人工無能に影響を与えた。
・ハッシュタイプ(辞書タイプ)
先述のように、ユーザーから与えられる文を予測し、その分に適した応答文をあらかじめ用意するのが、ハッシュタイプと呼ばれるものだ。旧来の人工無能と比較すると、自動化できるようになったのが大きい。それに貢献したのが、N重マルコフ連鎖のような確率を使ったシステムである。ディープラーニング(深層学習)が登場する以前は、このような確率を用いた人工無能が主流だった。
・ログタイプ
Elizaタイプと選択肢タイプの中間に位置するのが、ログタイプだ。従来の人工無能では、会話が続かなかったり、ユーザーの求める会話と異なる回答がなされたり、時にはユーザーを怒らせるといった問題があった。2003年頃から制作された人工無能ロイディは、会話ログを利用することで、この難点を克服しようとした。ユーザーから受け取った入力文字列に最も近い文のある行を検索し、一人称や二人称を会話に即して変換することで、文脈を理解しているかのような会話が実現可能になった。
AI利用のチャットボットも
従来主流だったN重マルコフ連鎖のような確率を使ったシステムに取ってかわったのが、人工知能(AI)を利用したチャットボットだ。学習用に大量の発話ペアのデータを準備し、機械学習によってユーザーが入力した文字列に最も類似した発話ペアを決定する。これが回答として出力される。
AI利用のチャットボットの利点は、従来のルールベース型のシステムと異なり、わざわざ人間がルールをシステムに記憶させる必要がない点だ。どんな回答を出力するかは、AIが自動的に判別する。AI利用のチャットボットは、単に機械が自動的に行なうだけでなく、パフォーマンスの高さから主流になっている。
先述のマイクロソフトのりんなやIBMのWatsonは、AIを用いた代表的なチャットボットだ。
チャットボット導入によるメリットとデメリットとは
メリット
まず、作業の効率化が挙げられる。カスタマーサポートのような作業がチャットボットによって代替可能だ。人件費が削減されることで、人材をほかの作業に割り当てられる。
ユーザーとの接点も大きいだろう。マイクロソフトのりんなに代表されるように、ユーザーが馴染みやすいチャットボットが増えている。デジタルネイティブ世代が増えているなか、チャットボットが窓口となって、ユーザーとの接点を増やすことが期待される。
さらにチャットボットでえられたデータの活用も考えられる。対人的なコミュニケーションと異なり、チャットボットは対話に不快感をもつといった感情をもたない。そのため、気軽にコミュニケーションが行なえる。従来のコミュニケーション手法では引き出せなかったデータが収集され、マーケティングへの応用が期待される。
デメリット
チャットボットのデメリットとして挙げられるのは、投資に見合うだけの効果がえられるかどうかである。AI全般に主張できることだが、投資に見合った効率化が実現されるとは限らない。AI型のチャットボットの場合、どれだけ会話をシステムに学習させるかが重要になる。中途半端な学習では、円滑なコミュニケーションは期待できないだろう。ヘルプデスクの代わりにチャットボットを導入しても、使用されないのであれば意味がない。
AI型に限れば、チャットボットの誤作動の問題も挙げられよう。マイクロソフトが開発したチャットボット「Tay」がヘイトスピーチを行なったことは記憶に新しいだろう。チャットボット(AI)自体は、自らの発言が誤りだと認識できない。そのため、誤作動の処理には人間の力を借りる必要がある。
まとめ
チャットボットの歴史は長い。簡単なルールで動作したELIZAから50年経ち、AIによって発達した。だがAI処理したチャットボットに全面的に信頼を寄せることが難しい。費用対効果を考慮しつつも、人間とAIチャットボットとの共存が重要だろう。
<参考>
- 人工知能って何?(人工知能学会)
https://www.ai-gakkai.or.jp/whatsai/AIwhats.html - ついに明かされる「りんな」の“脳内” マイクロソフト、「女子高生AI」の自然言語処理アルゴリズムを公開(ITmedia NEWS)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1605/27/news110.html - 「人工無脳(会話ボット)」(『画像ラボ』2010年12月号)
- チャットボットでマーケティングはどう変わる?種類やメリットを詳しく紹介
https://kotodori.jp/strategy/chatbot-marketing-change/ - 「コンピューターに話が通じるか」(『情報管理』2017年1月号)
- 『夢みるプログラム : 人工無脳・チャットボットで考察する会話と心のアルゴリズム』(加藤真一 著)
- 『人工知能・機械学習・ディープラーニング関連技術とその活用』(情報機構 編著)
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