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スシローと無印良品のビッグデータ活用術とは?

「ビッグデータを活用すれば儲かる」とはよく聞く話だが、実際ビッグデータはどの程度企業業績に貢献しているのだろうか。回転寿司のスシローと無印良品の事例を紹介する。

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「ビッグデータを活用すれば儲かる」とはよく聞く話だ。アマゾンもフェイスブックも、ビッグデータを収集、解析することで巨万の富を得ている。しかしFAGA(フェイスブック、アップル、グーグル、アマゾン)の話はいささか巨大すぎる。もう少し「身近な事例」をみてみないと、「そもそもビッグデータとは」がみえてこない。日本企業は本当に、ビッグデータを活用して業績を改善させているのだろうか。もし業績が改善しているのであれば、ビッグデータはどの程度、売上高に貢献しているのだろうか。

一般企業の中には、ビッグデータを確実に売上アップに結びつけているところもある。今回は回転寿司全国チェーンのスシローと、生活ファッションの無印良品のビッグデータ活用術を紹介する。

データ活用術の画像

スシローは客が食べる量を予測できる

株式会社あきんどスシローは従業員約4万人、店舗数約500店の国内最大級の回転寿司チェーンである。回転寿司とビッグデータは意外に相性がよいことが、スシローが開発した「回転すし総合管理システム」をみればわかる。

回転すし総合管理システムで2つの目標を同時に達成

スシローはこの回転すし総合管理システムで客の「食べる」データを解析し、客の食べる量を予測した。その結果、廃棄ロスと機会損失の両方を下げることに成功した。

これは、相反する2つの目標を同時に達成した「すごいここと」といえる。なぜなら通常は、廃棄ロスを減らそうとすれば供給量を減らさざるをえず、販売機会を失うことになる。逆に客の満足度を高めようと大量に供給すると売上高は増えるが廃棄量も増えるので結局は利益が思うように伸びない結果になる。廃棄ロスと機会損失の両方を下げることは、それくらい難事業ということである。それをスシローはビッグデータを使うことでなし遂げたのである。

システム導入から10年で1,000億円企業に成長。廃棄量は4分の1に

スシローはこの回転すし総合管理システムを2002年から導入した。かなり早い段階で決断したといえる。データを使ったビジネス展開こそが、群雄割拠する回転寿司業界で生き残るすべであることに気がついたのだろう。システム導入から10年後の2012年に年間売上高が1,113億円となり、初めて1,000億円超えた。2017年も年間売上高は1,564億円と堅調である。しかも廃棄量を4分の1に減らすことに成功したのである。

皿からデータを集める

それではスシローの回転すし総合管理システムの仕組みをみていこう。まずは、データ収集から始まる。寿司皿にICチップを取りつけ、「どの寿司」が「いつ」「どれくらい」食べられたか、といったデータを自動で収集する。このデータにより、売れ筋の商品がわかる。日付データと気象データを組み合わせれば、季節や天候で売上が上下するネタを見つけることができ、ネタの仕入れを調整できある。店舗ごとの人気のネタもわかるから、どの店にどのネタをいつ運べばよいのかがわかる。

ICチップ皿はさらに、皿が回転レーンを何メートル走行したかも計測する。乾いた寿司がいつまでも回転レーンを流れていたら、客は鮮度が落ちた寿司を食べさせられることになる。かといって店員にずっと回転レーン上の寿司を観察させると人件費がかさむ。そこでスシローでは、寿司を乗せた皿が350メートル走行したら、自動的に回転レーンから外れて廃棄する仕掛けを導入したのである。データを収集する仕組みを使って、顧客満足度を高めることに成功したのだ。

優秀な店長を「大量生産」

ビッグデータは集めるだけでは価値を持たず、それを活用しなければ意味がない。回転すし総合管理システムが集めるデータ量は、年間10億件に及ぶ。これだけのデータがあれば顧客の食欲を予測することくらい簡単にできそうな気がする。しかしデータ解析だけでは、正確な食欲予測はできない。種類が異なるデータの関連性をみつけなければならないからだ。

回転すし総合管理システムを導入していなかったころは、店長が顧客の食欲を読んでいた。優秀な店長は、来店客数や客の体格、待っている客の人数などを観察し、握る寿司の量や回転レーンに流すネタの種類を割り出して店員に指示していた。スシローの食欲予測が正確なのは、膨大なデータ量と優秀な店長のノウハウをドッキングさせた成果である。数字の持つ意味を把握できて初めてビッグデータは売上高に貢献できる。スシローのビッグデータには「優秀な店長」が入っているようなものだ。スシローは優秀な店長を「大量生産」できるのである。

無印良品はアマゾンを活用している

・ブランド名がどこにも書かれていない商品
・強い主張はないのにセンスを感じるデザイン
生活雑貨から家具、食料品まで手掛ける無印良品ブランドは、株式会社良品計画が運営している。無印良品もビッグデータを有効活用している企業なのだが、その詳細をみる前に、同社の経営の順調ぶりを紹介しよう。

4期連続増収、利益は2.4倍に

無印良品は純国産ブランドだが、店舗数は国内454店、海外474店と、海外のほうが多くなっている。完全なグローバル企業になっている。また年間売上高は2013年の1,883億円から2017年の3,332億円まで4期連続で増加。純利益も2015年だけわずかに前年割れしたものの2013年の109億円から増加傾向を維持し、2017年には258億円を叩き出した。258億円は109億円の2.4倍である。

ビッグデータで17%アップ

無印良品の好業績を支えている要因の1つが、ビッグデータの有効活用だ。ビッグデータを導入した直後の2013年の年間売上高は、前年比17%増になった。そして2013年以降の好調ぶりは先述した通りである。

年10億件のデータの解析を外注化

無印良品の公式サイトの登録者は460万人、さらに公式アプリ「MUJIパスポート」の会員は220万人になる。こうした無印良品ファンが起こすアクションは1日200万件以上にのぼる。これを1年間集めると、10億件に達する。

「無印良品ファンが起こすアクション」とは、具体的には次の4点である。
・商品の購入
・サイトやアプリへのアクセス
・実店舗販売やネット販売でのポイント「MUJIマイル」の獲得
・クーポンやキャンペーンの利用
こうしたアクションが年10億件も集まれば、これまでとは比べ物にならないくらい顧客の動きを正確に把握できるようになった。

無印良品は、年10億件のビッグデータの解析を、トレジャーデータ株式会社という企業に依頼した。トレジャーデータ社は無印良品だけでなく、キリン、JT、パルコ、スバル、セゾンカードなどのデータ解析も行っている。

アマゾンのデータウェアハウスを活用

そのトレジャーデータ社は、さらにアマゾンの技術「アマゾンレッドシフト(AmazonRedshift)」を使っている。アマゾンレッドシフトは、アマゾンが提供しているクラウド型データウェアハウスで、ソフトウェアとハードウェアで構築される。データウェアハウスは「データの倉庫」という意味で、データを収集、分解、整理、格納、解析、統合するサービスだ。データウェアハウスは通常のデータベースでもデータを収集、分類、整理、格納までは可能だが、データウェアハウスはさらに「解析、統合」まで行う。データウェアハウスはデータを解析、統合することで、データの価値を高めているのだ。

アマゾンのビジネスモデルは、トレジャーデータ社のようなデータ解析企業にアマゾンレッドシフトというデータウェアハウスを格安で提供することだ。「格安」はいかにもアマゾンらしい。アマゾンによると、アマゾンレッドシフトの利用料は、従来のデータウェアハウスの10分の1ほどという。

外注化することの意味とメリット

さて、無印良品のビッグデータ戦略を整理するとこうなる。
・無印良品には大量の顧客データがあるが自社では解析しない
・トレジャーデータ社は無印良品のような大企業からビッグデータの解析業務を受注する
・トレジャーデータ社はアマゾンのデータウェアハウスサービス「アマゾンレッドシフト」を活用している

一見すると煩雑な印象を持つ。無印良品が自社でデータウェアハウスを構築し、自社のビッグデータを自社で解析すればいいのではないか、という疑問もわく。しかしこの3社、つまり無印良品とトレジャーデータ社とアマゾンは、いずれも自社の得意分野に集中できるメリットを享受している。

無印良品は、ビッグデータが持つ意味を知りたいだけである。ならばビッグデータの解析を外注してしまえば、自社のマンパワーを本来業務に集中させることができる。

トレジャーデータ社はアマゾンを活用することで、自社でデータウェアハウスを構築しなくて済む。新たなハードやソフトを自社製作しなくてよい。データウェアハウスの拡張も更新も、アマゾンに支払う利用料金を増額すればいくらでも可能だ。トレジャーデータ社は、無印良品などのクライアントに提出するレポートの作成に集中できる。例えばトレジャーデータ社が「サイト内の見えない動き」を発見すれば、クライアントに喜ばれる。

またアマゾンは、データウェアハウスサービスの提供という、新たなビジネスモデルを構築できる。このようにビッグデータの活用では作業を分業することで、クライアント企業は本業を拡大できるし、IT企業(トレジャーデータ社やアマゾン)はビッグデータビジネスという新たな産業で儲けることができる。これが分業の最大のメリットだろう。

ビッグデータの活用は簡単ではない

スシローと無印良品の事例からは、ビッグデータの収集と、その解析と、その利用法はそれぞれ別の作業であることがわかる。その3つの仕事をリンクさせた企業が、ビッグデータで利益を確保できるのだろうか。


<参考>

  1. 会社概要(スシロー)
    https://www.akindo-sushiro.co.jp/company/profile.php
  2. 財務情報(スシロー)
    https://www.akindo-sushiro.co.jp/company/financial.php
  3. スシロー、ビッグデータ分析し寿司流す 廃棄量75%減(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK24009_U4A120C1000000/
  4. 企業情報(良品計画)
    https://ryohin-keikaku.jp/corporate/
  5. 財務ハイライト(良品計画)
    https://ryohin-keikaku.jp/ir/finance_info/
  6. MUJIパスポート(良品計画)
    http://www.muji.com/jp/passport/
  7. 「オンラインとオフラインを、コストパフォーマンスよく繋げられる点が抜群ですね」株式会社良品計画WEB事業部長奥谷孝司様(トレジャーデータ)
    https://www.treasuredata.co.jp/customers/muji/
  8. お客様事例一覧(トレジャーデータ)
    https://www.treasuredata.co.jp/customers/
  9. Amazon Redshift(アマゾン)
    https://aws.amazon.com/jp/redshift/
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