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アメリカは確信する、AI小売業は巨大ビジネスに成長する

アメリカの小売業で、AI(人工知能)が目覚ましい発展を遂げている。メジャー級のIT企業が参入し、消費者も「AIでの買い物」を歓迎している。

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日本でも小売業のAI(人工知能)化は進んでいるが、アメリカの小売業はそれをはるかに凌駕している。
アメリカはいわば「AI本家」なので、世界的な企業がこぞって「小売はこう変わります」とアピールしている。
世界1の経済規模を誇るアメリカは、世界1の消費大国でもあるので、AI小売業は巨大ビジネスに成長するポテンシャルを秘めている。
キャッシュレス化が進むアメリカでは、支払いをスムースに済ませることが「クール(かっこういい)」とされていて、ITな国民はAI店舗を歓迎している。

ai(人工知能)-小売

無人コンビニ「アマゾンGO」の実力

ネット通販世界最大手のアマゾンが2018年1月に、アメリカ・シアトルに無人コンビニ「アマゾンGO」を開業した。一応、実験店とはしているが、商品を置き販売し売り上げを上げている。
これが2~3年前のことであれば、「ネットのアマゾンが、なぜリアル店舗に進出するのか」と話題になっただろうが、アマゾンがネット店舗とリアル店舗の融合に執心なのはすでに有名は話だ。
また、無人コンビニは、中国にも日本にもすでに登場している。
ではアマゾンGOは「大したことない」かというと、もちろんそんなことはない。ジェフ・ベゾス氏(アマゾンCEO)が普通の無人コンビニをつくることはない。
アマゾンGOはなんと、人だけでなくレジまでなくしてしまったのだ。
客は、アマゾンGOのなかに入って、商品をピックアップして、そのまま店の外に出るだけだ。
その仕組みをみてみよう。

ai(人工知能)-アマゾンGO

必要なのは3つだけ

アマゾンGOの外観と内装は、日本のコンビニとほとんど変わらない。イートインスペースもある。
アマゾンGOで買い物をするときに必要なのは次の3点だけだ。
・スマホ
・アマゾンGOのアプリ
・ネット通販サイトのアマゾンのアカウント

客は自分のスマホにアマゾンGOのアプリをインストールしてから店内に入ることになる。
また、アマゾンのアカウントがあるということは、クレジットカードを使った「アマゾンへの支払いルート」が確立していることを意味している。これが、後ほど解説する、アマゾンGOの支払いのスマートさにつながる。

入店と同時に「客情報=入店情報=支払い情報」が紐づけされる

客はアマゾンGOに入店する前に、自身のスマホのアマゾンGOアプリでQRコードをスキャンしておく必要がある。
アマゾンGOの入り口には鉄道駅の改札口のようなゲートが設置してあって、ここに先ほどスキャンしたQRコードをかざすと入店できる。
これで「客の個人情報」と「アマゾンGOの入店情報」と「支払い口座(アマゾンのアカウント)」が紐づけされるので、客が商品をピックアップすれば、客に代金を請求することができる。

アマゾンGOは無人コンビニだが、アルコールコーナーには店員がいる。アメリカでは21歳未満はアルコールを購入できないので、店員がチェックしているのだ。
ここはまだIT化、AI化できていないようだ。

客が商品をピックアップすると、スマホのアマゾンGOアプリの「仮想買い物かご(バーチャルカート)」に商品が入る。
買い物が終わったら、後は何もせず店を出るだけだ。
客が出口付近で立ち止まり、センサーのチェックを受ける必要もない。

無人コンビニがピックアップした商品を認識する仕組み

アマゾンGOが、「客がアマゾンGOで商品を買った」ことを認識するのは天井や商品棚などに設置された監視カメラとセンサーとAIだ。
商品を布に隠して取り上げても、商品を手にしてからしばらくして商品棚に戻しても、買ったものと買わなかったものを認識する。

AIカメラは、人の動きと商品の動きを区別して認識している。さらに複数のカメラがあるから「人が商品Aを取った」ことと「棚から商品Aがなくなった」ことも照合できる。
人、人の動き、商品、商品の動きを認識するAI技術はかなり進化していて、例えば空港のAI監視カメラなら、「30代の女性が突然うずくまったので体調不良かもしれない」という注意を警備員に伝えることもできる。

無人コンビニを2,000店展開する予定

アマゾンは無人コンビニ・アマゾンGOをアメリカで2,000店展開すると公表している。
アマゾンの開発力と財力があれば、難しいことではないかもしれない。
というのも2016年にアマゾンが無人コンビニを試験したときは、一度に入店できる客数は数人に限られていた。それ以上入店させるとAIが監視しきれなかったのだ。
それがわずか2年後の2018年のシアトルのアマゾンGOは、一度に70人まで入店できる。「AIコンビニ店長」は確実に成長し、収益に貢献し始めている。

アメリカにはAI小売を受け入れる土壌がある

アメリカに在住している、ある日本人コンサルタントは、アメリカの小売業界は「日本の『上』をいっているのではなく、『斜め上』をいっている」と表現している。これはアメリカ小売業が、単に日本の小売業を凌駕しているだけでなく、日本の小売業界の常識ではとらえきれない方向に向かっている、ということを言い表している。

例えばアマゾンは、売り上げは右肩上がりなのに、利益は長らく横ばいが続いている。これは儲けの多くを投資に回しているからだ。無人コンビニもそのひとつである。
ITとネットの巨人企業がいわば採算度外視で小売業を変えようとしている。

売り方を工夫する企業とそれを歓迎する消費者

またアメリカ国内のスターバックスとマクドナルドでは、スマホでオーダーすることが一般的になりつつあるという。
アメリカの巨大スーパーマーケットチェーンのウォルマートは、「セービングキャッチャー」という仕組みを導入している。これは、ウォルマートで商品を買った人が「他店のほうが安かった」と申告すれば、その差額をキャッシュバックしてくれる制度だ。

またアメリカの若い消費者には「現金で支払うのは格好悪い」という意識があるという。スタバでコーヒー代金を支払うときに小銭入れから硬貨を出すのは「いけてない」行為で、スマホを使ってキャッシュレスで支払うことが「クール」なのだという。

このような国民性は、小売のIT化やAI化の土壌としては理想的といえる。では日本人はどうかというと、現金信仰が根強い。キャッシュレスが進まないと、せっかくITやAIで効率化しても支払い段階で時間と手間を取ってしまう。
アメリカのAI小売の進化のスピードが速く、日本の進化スピードが遅いのは、技術的な要因だけではないかもしれない。消費者が強くAI小売を求めているかどうかも、AI普及に影響するに違いない。

AI小売はまだ拡大する余地がある

アメリカの調査会社は、同国の小売業界内におけるAI関連事業が、2017年の9億9,360万ドル(約1,115億円)から、2022年には5倍の50億ドル(約5,611億円)に拡大すると見込んでいる。
この急拡大の最大の要因は、非AI小売がAI小売にシフトすることだ。

調査会社がポイントとしたのは、クラウドのさらなる進化だ。5Gの導入などで通信環境が改善されれば、スマホやタブレットはさらにクラウド化しやすくなる。
買い物や支払い(決済)に多用されるスマホやタブレットがクラウド化するということは、消費者の消費行動のデータが小売企業により一層集まりやすくなることを意味している。
ビッグデータは今後、メガデータになるだろう。データ量が増えれば増えるほど、AIはますます賢くなる。つまり、AI小売はますます便利になるわけだ。

AI買い物コンシェルジュも、精度を高めるだろう。
というのも現代のAIリコメンドは、まだまだ「幼稚」という印象を受けることもある。
例えば「AIを使っている」という触れ込みながら、AIが顧客の好みを言い当てる前に、顧客に質問をすることがある。顧客がAIの質問に対し「こってりしたものが食べたい」と回答し、さらに顧客のスマホのなかにハンバーガーの購入履歴がたくさん保存してあった場合、AIが「昼食にはハンバーガーがいいでしょう」と推薦しても、その顧客は「AIはすごい」と感じないだろう。

「こってりしたものが食べたい」という音声を認識することも、スマホのデータのなかから食品情報だけを抜き出すことも、AIでなければできないことなのだが、2018年の消費者はもうそれくらいでは驚かなくなっている。
だからこそ、アメリカの未来のAIコンシェルジュには期待してしまう。

また先ほどの調査会社は、リアル店舗もAIの恩恵を受けるだろうと推測している。
リアル店舗の業務のうち、仕入れ、在庫、販売管理、顧客の意向調査は、AIによって飛躍的に省力化・高度化するものと考えられている。
産業分野ではすでに、AIを使ったコストダウン手法や生産性向上の方法を指導するコンサルタントが存在するが、AI小売業にもそのような「AIアドバイザー」が出現するだろう。

まとめ~アメリカの小売業がAI一色になる日

アメリカ小売業のAI化で注目したいのは、リアル店舗を大切にしているところだ。小売業がAI一色になっても、「冷たい世界」にならずに済みそうだ。
それはAI企業が、リアル店舗が持つ買い物の楽しさを重視しているからだ。
アメリカの小売業の「AIチーム」には、アマゾンやグーグル以外にもマイクロソフト、IBM、インテルなどもプレイヤーとして参加する。IT界のメジャーリーガーがAI小売業に参入してくるのだから、「何かすごいこと」が生まれないわけがない。


<参考>

  1. 驚きのコンビニ革命「Amazon Go」のすごい仕組み、魔法のようなAI技術の真実(BUSINESS INSIDER)
    https://www.businessinsider.jp/post-162108
  2. アメリカの小売業界は日本の「斜め上」を行っている(BLOGOS)
    http://blogos.com/article/279215/?p=2
  3. 小売業のAI市場が2022年までに50億ドル市場に成長か?(DX LEADERS)
    https://dxleaders.com/business/583
  4. Microsoftが無人小売店舗を開発中?Amazon Goに対抗姿勢か(Ledge.ai)
    https://ledge.ai/microsoft-amazon-go/
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