AI(人工知能)が人間の仕事を奪うという研究が世間を騒がせ続けている。そして2045年にはAIに人間が支配されるとまで言われているが、それは本当なのか。
続きを読む2045年問題とは
AI(人工知能)の進歩は大変速い。数年前にはまだまだ精度が低くて使い物にならなかったのに、いつの間にか十分な精度を持って人間を代替するようなAIがどんどん生まれてきている。このままAIが進歩するとどうなるのだろう?
これについて考えたのが、アメリカの発明家であるレイ・カールワイツである。彼は2005年に「シンギュラリティは近い(The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology)」という文章の中で「シンギュラリティ(Technological Singularity)」にまつわる「2045年問題」を発表した。
「シンギュラリティ」とは「技術的特異点」と訳され、人間、そして人類全体よりも優れたAIが誕生し、そのAIが自分を上回る能力をもったAIを自ら設計・開発することで、加速度的にAIが賢くなり、人間には想像もつかないような超AIとも呼べる存在が生み出されるようになる時点を指す。カールワイツはそれが2045年にやって来ると考えたため「2045年問題」と呼ばれるようになったのだ。
実際にはあと25年ほどでやって来ることになるわけだが、本当に2045年に人類全体を上回るようなAIが誕生するのかどうかはわからない。しかし、どこかのタイミングでやってくるだろう事は想像に難くない。
ではそもそも「人間を上回る」とか「人類全体を上回る」というのは具体的にどういう状態なのだろうか。そこに至る道筋から考えてみよう。
2020年問題とは
まず、AIを進歩させる社会的な圧力として、日本には「2020年問題」というのがある。日本では少子高齢化の進展で人手不足が深刻化する上、オリンピックが終了してしまえば多額の投資が行われる案件が減る。そしてAIが本格的に企業内に普及し、人間の行ってきた単純作業を奪っていく。これが2020年問題と呼ばれているものだ。
もちろんAIが人間の補助を行い、人間が仕事をするのを助けるのだという考え方もある。AIを使ったソフトやシステムを開発している企業も、少なくとも今のところはそういうスタンスであることが多い。人材不足が深刻化しているわけだから、外国人人材に頼るというのも一つの手だが、IT化を進め、AIやRPAを利用して単純作業を省力化してしまえば、その分、人間は人間が行うべき仕事に割ける時間を増やすことができる。そのため、AIの導入というのは企業にとっては成長のためのエンジンとなる可能性がある。
一方、単純作業をAIやRPAに任せるということは、そこに従事していた労働者の仕事がなくなることを意味する。もちろん教育や研修を行ってAIにも行えるような単純作業から人間が行うべき、AIが対応できない仕事に配置転換ができれば良いわけだが、AIに代替できない仕事というのはコミュニケーションやクリエイティビティといった高度なスキルを必要とするため、そう簡単に職種転換が行えない可能性もある。そのため、AIの導入がそのまま労働者の失業に繋がる可能性も高い。
このことは特に2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーンが出した「雇用の未来」や、2014年にデロイト社が出したレポートでも、ルール化やマニュアル化が進んでいて、その通りに行えば誰でも行う事ができる仕事はAIやロボットに置き換えられる可能性が高いとされている。これはAIが更に進歩するであろう2020年代にはかなり進むと考えられているし、政府もそれに対応できる人材を育てるために、小学校でプログラミング的思考を育てる教育を、まさに2020年度から始める。ただし、この教育を受けた子ども達が社会人となって働き出すのは2030年代になってからとなる。ということは、今すでに単純労働で働いている人々に対しては、何らかの手を打たなければ、そして自ら高度なスキルを学ぶという選択肢を採らなければ、数年後にはできる仕事が無くなっていくということになる。すでに待ったなしに突入しつつあるわけで、2020年問題はそのことを暗に示しているのだ。
技術的特異点シンギュラリティとは
しかし、AIの発達は人間の対策の遅れなど待ってはくれない。オズボーンの予想では、2029年にはAIが人間の能力を超えるとされている。今はまだ単純な作業を行うのと同時に、人間をサポートしてくれる存在であるAIが、個人の能力を超えてくるのだ。この「人間の能力を超える」というのがどの様なことを意味しているのかは判断が難しい。人間のみが持つ思考力、判断力、問題設定力をAIが身につけられるのかどうかというところには興味がわく。研究者は「現在のディープラーニング技術は数学的に統計処理をしているだけなので、思考力や問題設定力は発現しない」と言っている。だが、ディープラーニングの次の技術が10年の間に出て来ないという保証は無い。
そしてAIの進歩はそこで止まるわけではない。2029年から16年後の2045年には、AIが人類全体の能力を超えると考えられている。そしてAIがさらに優秀なAIを自分で設計する。そして設計・開発されたAIが更に優秀なAIを設計・開発するのだ。これが技術的特異点(シンギュラリティ)と呼ばれている。
もちろんこれとて「人類全体を超える」というのが何を指すのかはまだわからない。そもそも人間は人間(の脳や思考力)のことを、驚くほどわかっていないからだ。
人工知能が人工知能をプログラミングする未来がくる?
ただし、シンギュラリティで考えられていることが実際に起こるとするならば、2045年頃にはAIが、より高度なAIの開発を始めるのではないかと考えられている。実際に、現在でも簡単なプログラムをAIに開発させようという計画は進んでいる。
2016年にはMITでソフトウェアのデバッグを自動化するソフトウェアを開発しているし、2017年にはゲームメーカーのHEROZが、本格的にデバッグやテストをAIで自動化するために資金を調達している。
この流れは、ソースコードを大量に解析させれば、少なくとも単純なアプリであればディープラーニングの延長線上で、AIを使った自動開発が可能なのではないかと考えさせる。自動開発までは無理でも、そのあと人間が若干手を入れるだけでリリースできるレベルになる可能性は十分考えられる。
もちろん、今のAIを作っているソースコードを大量に学習したところで、今のレベルのものしかできないわけで、より優秀なAIを開発するには、もっと別のアプローチが必要だ。そしてMIT、IBM、ディープマインド社はやはり次のアプローチを見つけようとしている。
MITのジョシュア・テネンバウム教授率いる脳・知性・機械センターのチームは、「ニューロシンボリック・コンセプト・ラーナー(NS-CL)」と呼ばれるプログラムを開発した。これはディープラーニングのように人間が学習データを用意するのではなく、子どもが周囲を見回したり話したりしながら学習していくように、(まだ簡易版ではあるものの)世界を見渡しながら学習する。人間が行う学習過程を、コンピュータ・プログラムで実現しようとしているのだ。人工知能がより高度な人工知能をプログラミングするには、このような今はまだ単純なプログラムが、AIレベルのソフトとして開発されていく事が必要となる。
人間が人工知能より優れている点は?
とはいえ、上記のようなアプローチで人間を超えられるかどうかはわからない。先にも書いたが、そもそも「人間とはどの様なものなのか」を人間自身がまだ理解していない。我々は脳がどの様にして学習をし、思考力や課題設定力、コミュニケーション力、他者への共感力がどのようにして生み出されるのかを理解できていない。これは脳科学の分野で議論されていることで、10年以上前から重点研究課題とされている。しかし、未だに人間の脳が何故、どうやって人間の脳の特徴を持つに至ったのかは解明されていない。逆に言うと、解明されていないものはディープラーニングのアプローチではAIに学習させることはできないということだ。
人間はその思考力が最大の武器なのだ。従って、単純作業のような思考力を必要としないものではなく、その思考力を最大限に活かすことのできる仕事を行うべきだという事を意味している。そして思考力やその応用スキルを仕事で使えるレベルになるまで伸ばすためには、それなりの学習や訓練が必要だ。これは「21世紀型スキル」と呼ばれ、2000年頃から文部科学省でも学校教育に取り入れようと躍起になっている。2020年度からのプログラミング的思考を身につける学習が始まり、大学入試改革が行われるのも、このスキルを伸ばすための施策である。
まとめ
AI(人工知能)は年々進化しており、今や企業でも活躍するようになってきた。これから人材不足が進む日本ではAIが単純作業を行う人間の仕事を代替し、どんどんと自動化していく。
この流れは2020年問題を受けて更に加速すると考えられる。AIはその後も進化を続け、2045年には人類全体の能力をも超えるシンギュラリティがやって来ると言われている。
だが、それには新たなAI技術が必要になるし、そもそも人間は人間のことがよくわかっていない。そしてその「わかっていない」部分がAIには取って替わられることのない「AIに対する人間の強み」なのである。
<参考>
- 2045年AIが人間を超える!シンギュラリティという最悪の未来(AIZINE)
https://aizine.ai/ai-singularity-0812/ - シンギュラリティとは?AI(人工知能)は嘘をつく?人間が人工知能より優れている点(AI研究所)
https://ai-kenkyujo.com/2017/03/14/singularity/ - 人工知能が人工知能をプログラムする時代がやってきた(TechCrunch)
https://jp.techcrunch.com/2017/01/20/20170119ai-software-is-figuring-out-how-to-best-humans-at-designing-new-ai-software/ - 2020年までにロボット・AIの発達で500万人が失業?AIと共存する世界とは?(INVALANCE)
https://www.invalance.jp/knowledge/knowledge_08.html - デバッグやテストをAIで自動化―HEROZが2億円を調達してハーツユナイテッドと提携(TechCrunch)
https://jp.techcrunch.com/2017/07/31/heroz-heartsunited/ - シンボリック実行を利用したバグ検出が簡単に、MITらの研究チームが新システムを開発(CIO)
https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/idg/14/481709/052700220/?ST=cio-appli&P=2 - 深層学習の限界突破へ、MITなどが「ハイブリッドAI」を開発(MIT Technology Review)
https://www.technologyreview.jp/s/135091/two-rival-ai-approaches-combine-to-let-machines-learn-about-the-world-like-a-child/ - 国内外における脳科学研究の現状と問題点について(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/shiryo/attach/1236327.htm - 脳科学の3つの課題(MIT Technology Review)
https://www.technologyreview.jp/s/7844/three-grand-challenges-for-brain-science-that-can-be-solved-in-10-years/
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