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AI導入で中小企業は飛躍する

AIの導入を検討すべきなのは、大企業に限らない。中小企業でもAIを導入することで、業務の効率化が大幅に見込まれる。

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少子高齢化の影響で労働者不足により、中小企業は苦境に立たされている。業務の効率化や自動化など、あらゆる施策が必要になるだろう。

人工知能(AI)もまた、中小企業を助けるツールのひとつとして考えられる。AIがなぜ中小企業を助けるのか、そこには大企業も取り入れる重要な手法が背景にある。

AI_中小企業

中小企業の持つデータをAIにより活かす方法

少子高齢化による人材不足

少子高齢化の影響により、日本の総人口は減少の一途を辿っている。人口問題研究所によると、総人口は2030年には11,662万人、2048年には1億人を割ると推計されている。労働者人口に関していうと、人手不足の傾向もありここ数年増加傾向にあるが、2024年以降は減少に転じるという報告もある。

このような背景から、中小企業は人材面でますます苦境に立たされることが推察されるだろう。これまで以上に、業務の見直しが図られることが予想される。

トヨタが始めた「見える化」

では、中小企業の業務の見直しで重要なポイントは何だろうか。キーワードとなるのが「見える化」だ。「見える化」を最初に提唱したのは、トヨタ自動車であるといわれている。物事の本質を見極めるために現場に足を運んで生で見る「現地現物」が大事だと、2006年に当時社長だった渡辺捷昭氏が、年頭所感のなかで述べている。現地現物とは、問題を特定し、それを見えるかたちにすることであると語られている。

この「実際に行って現物を見る」を、データに当てはめたのが、現在「見える化」と呼ばれるものの本質である。データを集め、それを眺めていても、知りたいことが見えてこない。ところがグラフや図にすることで、直観的に理解しやすい形になると、データの本質が見えてくるようになる。「見える化」とは、単にデータを記述することだけでは不十分で、それを「調理」する方法が必要になる。この調理する方法こそが、グラフ化といった背後にある「法則」を顕在化させることである。

見える化を後押しする図示化

GDPや株価といった経済指標の推移も表を眺めているだけではわかりにくいが、折れ線グラフにすることでその推移を直観的に理解できた経験があるだろう。見える化に役立つ手法は、棒グラフや円グラフといった図示化だけではない。ヒストグラムでデータの分布を見たり、相関分析によって2つの特性の関連性を調べたりするなどさまざまだ。いずれにせよ、データを「見える化」することで抱えている問題が明らかになり、問題を改善するヒントとなる。

勘のいい方なら、AI(人工知能)が見える化に役立つと察しがつくだろう。機械学習をはじめとするAIは、ビッグデータからヒトには検知できない「法則性」を見出すことに、強みをもつ。上述の株価の予想なども、AIを活用し、過去のパターンを分析し、ひと月後の株価を予測できるシステムも開発されている。

見える化がビジネスを助ける手法であることは浸透してきたが、AIを活用することでさらに業務が効率的になる。人材不足に嘆く中小企業にとっては、渡りに船だろう。

AI導入により期待される効果とは

企業がもつ見える化できるデータ

中小企業には、活かされていないデータが山ほどあるといわれている。これらビッグデータを機械学習によって「見える化」を実施し、問題が明らかになれば、業務を改善できるようになる。

では、どのようなデータを「見える化」し、機械学習にかけるのが望ましいのか。

まずは、見える化できるデータから考えてみよう。企業は、売り上げの向上や新製品の開発、業務の効率化や生産ラインの生産性の向上など、さまざまな目的をもって日々活動する。これらに付随する問題を解決するために、見える化を実施する必要がある。

具体的には、

  1. 事務や管理などの業務プロセス
  2. 企業がターゲットにする市場
  3. 工程に潜むリスク
  4. 工程で慢性的に発生する不良
  5. 品質の特性に関する最適設定
  6. 顧客のニーズ
  7. 業務で活かされるアイディア

に関するデータを、中小企業が保有する。

これらのデータから潜在的な要素を目に見えるかたちにすることで、問題が改善されると考えられる。そのなかでも特に機械学習で役に立ちそうなデータは、業務プロセスやマーケティングにかかわる市場やニーズ、製造にかかわるリスクや慢性不良、品質の最適設定等だろう。経営管理等の業務内容の効率化はすでにIBM Watson等のプラットフォームが用意されているし、マーケティングに関してもAIの導入が研究・開発され、実用化段階に入っている。

機械学習から見た強み

今度は、機械学習の側から見たときに、どの点に強みがあるかを見よう。機械学習が得意とする処理に、次のようなものがある。

  1. 画像から特徴を抽出する画像解析
  2. 翻訳や校正、要約などの自然言語解析
  3. 音声を文字化する音声解析
  4. 過去のデータから将来値の予測
  5. クラス分類(データを指定した項目に分類)
  6. クラスタリング(データを特徴で分類)
  7. データからヒトが判別しやすいように簡素化する次元削減
  8. 過去の購入履歴から推奨品を提案するレコメンド分析

もちろん、企業によって業務内容が変化するので、その一部だけを活用することになるだろう。それでも、業務プロセスの効率化や、円滑なマーケティング、製造工程の効率化や人員の補助的役割をAIが担うことが可能である。

とくに製造工程に関していうと、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を駆使し、センサーなどからデータを抽出、機械学習にかけ業務を効率化させることも考えられる。

中小企業におけるAIの導入例

IoTAIで養蜂の効率化をめざす(はつはな果蜂園)

はつはな果蜂園は、養蜂業を営む広島県の中小企業だ。代表の松原秀樹氏は15年間日本IBMで営業職に従事したのち、地元広島で農業を営むことを決意したそうだ。東京と地方とのあいだに、情報技術の活用に格差があることを感じたこともその一因だという。

高齢化や後継者不足により、養蜂作業ひとつとっても苦労が伴う。隔週で巣箱を点検する必要があるなど、作業の負担は大きい。松原氏は日本IBMでの経験を活かし、IoTAIを最大限に生かし、作業を効率化することを決意したという。

松原氏が導入したシステムが「Bee Sensing」だ。アドダイスにシステム開発を委託した。開発資金をクラウドファンディングで集め、約240万円資金調達したという。

Bee Sensing」の特徴は、巣箱に温度や湿度を測るセンサーを取り付け、データをスマホアプリで確認できるようにする。温度や湿度を自宅などの遠隔地から確認できることで、リアルタイムで蜜蜂の健康状態をチェックできる。データの「見える化」には、IoTの導入が欠かせない。眠っているデータを呼び起こし、可視化することで、業務の効率化に活かそうというのだ。

温度や湿度など巣箱から得られたデータを、クラウド上のAIに解析させることで、巣箱の異常を知らせるなど、業務の効率化を図る。加えて、AIに作業の助言ができるよう機能拡充することも、視野に入れているという。

はつはな果蜂園は年間700kgほどハチミツを生産しているが、今後はその量を1tにまで増やすことを目指している。

AIを活用しソリューションの自動化(ゼネリックソリューション)

ゼネリックソリューションは社員が20人からなる、ベンチャーから出発した中小企業だ。小西亮介氏は慶応義塾大学大学院在学時に企業を決心したそうだ。

ゼネリックソリューションが開発した「GS8」は、ビッグデータをAIで処理し、顧客一人ひとりの状況に応じて、適切な結果を返すことができるシステムだ。今まで気づいていない事実をビッグデータから発掘し、潜在的なニーズを発見できるという。

たとえばGS8を活用すると、ビッグデータからリスク許容度や取引経験、投資余力やタイミングといったターゲットを抽出し、これらの基づき既存の業務を効率化したり、新しい収益機会を見出したりすることが可能になるという。

ゼネリックソリューションが大切にするのは、取引先一つひとつとのつながりだ。GS8を導入するのは、中国銀行や愛媛銀行といった地方金融機関が多い。社員20人の小規模では、サポートできることが限られるため、継続してGS8が活用されることを望むとしている。

AIで「見える化」することで業務が改善

中小企業のAI導入について、システムを導入する立場と、システムを開発する立場からみてきた。どちらの企業も、「見える化」を大事にしている。はつはな果蜂園の場合、センサーからデータを取得するなど、IoTAIを駆使して、養蜂業務の効率化を求めた。他方ゼネリックソリューションの場合、ビッグデータから潜在的な特徴を「見える化」し、それに基づき個々の顧客に対し、適切な結果を与えるようにした。小規模の企業だからこそ、既存の契約を大事にする点も見逃せない。

中小企業にとって、人材不足はIT技術者にも及ぶ。どちらの企業もITに精通しているため、AIに着目し業務を効率化することにリソースを注げた。しかし、AIIoTといった最新テクノロジーに疎い経営者も多い。規模が小さいからこそ、経営者が主体的にAIに関心をもって、システムの導入を検討すべきだろう。

AI-人工知能-効率化


<参考>

  1. 2030 年までの労働力人口・労働投入量の予測(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
    http://www.murc.jp/thinktank/economy/analysis/research/report_180312.pdf
  2. Genchi Genbutsu(現地現物)
    https://www.pmaj.or.jp/activity/sig/itbm/journal/0904.html
  3. 年頭所感(TOYOTA Global Newsroom
    https://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/1268182
  4. 株式相場騰落「的中率9割」 AI予測の実力(日経ビジネス)
    https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/081900050/
  5. 企業理念(アドダイス)
    http://ad-dice.com/company/
  6. 「ビジネス変革の鍵を握るビッグデータ活用」(信金中金月報 201711月)
  7. AI導入を成功に導く2つのポイントと3つの事前準備」(KinChu 20185月号)
  8. 「中小企業経営における新しいテクノロジーの導入」(税務弘報 20181月号)
  9. 「到来するIoT社会と中小企業⑤」(信金中金月報 20175月号)
  10. 『目標を達成する7つの見える化技術』(今里 健一郎 著)
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