ブリヂストンはAIで生産性と品質向上【社員の教育時間は3分の1に】

ブリヂストンのAI(人工知能)化した工場が製造業で注目を集めている。性能競争とコスト競争の2つの戦いに挑むグローバル企業の取り組みを追った。

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タイヤメーカーのブリヂストンが製造工場にAI(人工知能)を導入した、と聞いて意外に感じる人もいるだろう。なぜならAIは大量のデータを瞬時に読み込み、瞬時に分析することが得意だからだ。

AIは、囲碁や将棋の勝負や、空港内に潜んだ犯人の特定や、経理業務などで実績を残していて、どちらかといえば精密、緻密なイメージだ。

一方、タイヤ工場といえば、大量のゴムを型に流し込んでドーナツ型の製品をつくる場所である。そしてタイヤは、100キロを超える猛スピードでアスファルトに擦りつけられながら、何年も持ちこたえなければならない製品で、精密さや緻密さから遠いイメージがある。

しかしブリヂストンがAIにかける意気込みは相当なもので、AIは同社にとって世界戦略に欠かせないツールになっている。タイヤとAIの意外な関係を解き明かしていく。

AI(人工知能)-タイヤ

なぜタイヤづくりにAIが必要なのか

まず、タイヤに関する誤解を解いておこう。タイヤはドーナツ型のゴム製品で、とても単純な形をしている。そしてタイヤが使われる環境は猛スピード下だったり、灼熱の地であったり、極寒の場所だったり、大抵は粗野な場所だ。

ところが現代のタイヤは、そして特にブリヂストンがつくっている高性能で高品質なタイヤは、単純さや粗野とはほど遠い製品である。

自動車の性能がどれだけ向上しようと、タイヤの性能向上がそれに追いつかなければ、自動車はその性能を発揮できない。なぜなら自動車は、タイヤに力を伝えて、タイヤが地面を「押し出して」走る機械だからだ。

自動車の性能はタイヤの性能を超えることはできないのである。

また自動車の走行は、数トンの鉄の塊が100キロ以上のスピードで走ることを意味する。制御を失えば瞬時に「殺人機械」になる。日本では年間3,000人ほどが交通事故で死亡している。

自動車の制御で最も重要なのは「止まること」だが、タイヤは停止性能を大きく左右する。

そしてかなり前から自動車業界には環境問題が課せられている。自動車はエコでなければならず、タイヤの性能は燃費に大きく影響を及ぼす。

つまり現代のタイヤは、走行性能、安全性、環境性能の3つの難題を突きつけられているのである。この課題をクリアして世界最高水準を維持しているブリヂストンのタイヤは、単純で粗野な製品でないどころか、厳密で精密な高機能自動車部品なのである。

ブリヂストンがAIを採用した理由

では世界最高峰のタイヤをつくっているブリヂストンが、なぜいまAIを使ったタイヤ製造に着手したのだろうか。もちろん直感的には、AIを使って工場を制御すれば生産性が向上して利益が増える、ということはわかる。しかしブリヂストンにはさらに深刻な事情がある。

ブリヂストンが危機感を持っているのは、すべての消費者が世界最高峰のタイヤを求めるわけではないからだ。

中国や韓国などの安い「アジアタイヤ」がそこそこの性能を持つようになったことで、ブリヂストンのタイヤでなくても十分という消費者が増えてきたのである。

つまりブリヂストンは、ミシュランなどの高級タイヤメーカーと高性能競争を展開しながら、価格競争にも戦線を広げなければならなくなったのである。

AIを導入する前のブリヂストンの様子

ブリヂストンは一気に工場のAI化を図ったわけではない。というより、どの分野の製造業でも、AI工場をつくりあげるにはIT化という土台がないと進めることができない。

ブリヂストンはアジアタイヤに危機感を持ち、1990年代後半からタイヤ製造の成形工程の完全自動化に乗り出した。自動化はコストを大幅に削減できる。

またブリヂストンはこのころから人手不足に悩み始めていた。工場の自動化は省力化にも貢献する。

このころはまだAIは使われていないが、それは当時は「使えるAI」が世の中に存在していなかったからだ。

ブリヂストンはその代わり、工場にITをふんだんに盛り込んでいった。

例えば成形工程のなかに数百のセンサーを設置し、製造機械の運転状況をモニタリングする。これにより製造機械の消耗部品を交換するタイミングや、機械に潤滑油を補給する時期などを正確に把握できるようになる。

ブリヂストンはセンサーが集めた情報を消耗品メーカーなどと共有し、ベストのタイミングで部品交換や油の補給を行えるようにした。

AI(人工知能)-ブリジストン

ゴムシートの加工から検査までを自動化

ブリヂストンは2002年に、世界で初めて部材工程から検査工程までの自動化に成功した。

部材工程では、ゴムシートを、タイヤを構成する部材ごとに加工していく。タイヤは、路面と接するトレッド部とタイヤ側面のサイドウォール部、タイヤの骨格となるカーカス部などの部材にわかれている。

部材工程の次は成形工程となり、部材を貼り合わせてタイヤの形にしていく。この状態のタイヤのことを「生タイヤ」という。

その次は加硫工程で、生タイヤを金型に入れ、加熱、加圧(合わせて加硫という)してタイヤに弾力性を持たせる。このときさらに、トレッド部に溝を彫っていく。

加硫工程が済むと検査工程でキズやゆがみなどをチェックする。

ブリヂストンはこれらをすべて自動化したというのである。

こうした「IT土台」ができていたブリヂストンは、世の中に「使えるAI」が出回り始めると、すぐにIT工場のAI化に取り組むことができた。

EXAMATIONとは

ブリヂストンは工場にAIを導入した時期を公表していないが、ただ2016年にはAIを搭載したタイヤ成形システム「EXAMATION(エクサメーション)」をマスコミに公開している。

最初にエクサメーションを導入したのは、同社の彦根工場(滋賀県彦根市)の、乗用車と小型トラック向けのラジアルタイヤをつくるラインだ。

タイヤづくりには、次の3つの要素が必要になる。

・高分子やゴム、複合体などの材料の加工

・生産工程

・作業員が培ってきた技術とノウハウ

材料加工と生産からは、人では処理しきれない大量の情報やデータが発生する。そして作業員の技術とノウハウは再現性が難しい。

ところがAIは、大量の情報とデータの取り扱いも、人間の高度な技術とノウハウの吸収も得意である。

しかもAIは一度スキルを獲得すると、忘れることも劣化することもない。さらに、熟練工(人間)は1人育成するのに莫大な時間を要するが、AIはコンピュータなのでコピーすることができる。

エクサメーションはすぐに結果を出し、製品の完成度のバラつきは減り、より精度が高いタイヤをつくれるようになった。

例えば、タイヤは「本当の円」になるほど性能が向上するのだが、円の完成度を表す真円性(ユニフォーミティ)はAI化以前より15%向上したという。

AIは賢い頭脳だ。しかしいくら賢くても判断材料が少なくては頭脳を活かしきれない。

そこでブリヂストンはエクサメーションに480ものセンサーを取り付けた。480個のセンサーは、AIに次々とデータを送信する。AIはそれらの情報を瞬時に分析し、最適条件を割り出す。そしてリアルタイムで機械を制御していく。

機械の制御が正確かつスピーディーになったことで、生産工程を工夫する余地が生まれた。

従来の成形工程では、タイヤの部材を順番に貼り付けていたが、これではある部材の貼り付けが終わらないと次の部材を貼り付けることができない。

ところが複数の工程を同時に制御できるようになったので、複数の部材を同時に貼り付けることができるようになった。

これにより生産性が2倍になったという。

EXAMATIONが生む価値とは

エクサメーションの価値は、これまでよりも高性能・高品質のタイヤを、これまでよりも低コストでつくれるようになったことだ。

「安くてそこそこの性能の製品」VS「高性能だけど高い製品」の戦いでは、ブリヂストンの分が悪かった。

しかし「安くてそこそこの性能の製品」VS「高性能なのに安い製品」の戦いでは圧倒的にブリヂストンに有利だ。

エクサメーションが生んだ価値はそれだけではない。

AIは疲れを知らず、忘れず、衰えない。仮にAI工場と人間の作業員のスキルが同じだとしても、人間は疲れ、忘れ、衰えるので、必ず技術継承が必要になる。そして後輩作業員が先輩作業員並みになるには、長い年月と厳しい訓練が必要になる。

つまりAI工場は、製造業の長年の夢であったスキルレス化を実現するのである。スキルレスとは、「技術不要」という意味で、AIがここまでできれば人の作業員が苦労してスキルを獲得する必要はない。そしてAIには自己学習機能が備わっているので、AI工場の習熟度を高めるには、データを与えるだけでよい。

なぜスキルレス化が製造業の夢だったかというと、人材の高齢化や人手不足、人材の流動化(転職の増加)によって、スキルや技術を工場内に蓄積することが難しくなってきたからである。

まとめ~AIがブリヂストンにもたらしたメリット

ブリヂストンのAIは、すでに工場を飛び出している。鉱山では数百トンの鉄鉱石や石炭を一度に運べる巨大トラックが活躍しているが、ブリヂストンはその巨大トラックのタイヤを製造している。

巨大トラックのタイヤに、パンクするなどの支障が起きれば大きな損失を生む。

そこでブリヂストンはタイヤにセンサーをつけ空気圧や温度などを随時計測するAI搭載システムを開発した。その結果、運ぶ鉱物の違いやタイヤを装着する位置によって、タイヤの寿命が異なることを突き止めた。それがわかると、パンクする前にタイヤ交換できるので、ロスを最小限にすることができる。

もちろんこのAIタイヤ監視システムもビジネスになる。

つまりブリヂストンはAI工場で培ったAI技術を使って、新しいタイヤビジネスを構築してしまったのである。

AIがビジネスを拡大させるよい事例といえるだろう。


<参考>

  1. 次世代の低燃費タイヤ技術(ブリヂストン)
    https://www.bridgestone.co.jp/saiyou/recruit/technology/ologic/index.html
  2. 【図解・社会】交通事故死者数の推移(時事通信)
    https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_tyosa-jikokoutsu
  3. ブリヂストン、国内生産でも勝てる「AI工場」(東洋経済)
    https://toyokeizai.net/articles/-/153287
  4. ブリヂストン、人工知能(AI)を実装した最新鋭タイヤ成型システム「EXAMATION」(Car Watch)
    https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/759037.html
  5. タイヤ製造(つばきグループ)
    http://www.tsubakimoto.jp/power-transmission/application/tire-making-index/tire-making-mix/
  6. ブリヂストンの変革 「タイヤを売らずに稼ぐ」ビジネスとは?(ITmediaビジネス)
    http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1804/04/news022.html
  7. 伸び縮みするゴムを最適管理、ブリヂストンが日産2万本のタイヤをAIで生産へ(MONOist)
    http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1701/10/news035.html