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金融分野でのサイバーセキュリティにおけるAI活用事例(国内)

今、もっともAI化が進んでいる業界の1つと言っても過言ではない「Fintech業界」その際に欠かす事が出来ないサイバーセキュリティーに関するにおける国内の金融機関の事例を紹介する。

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人工知能による構造改革が最も進んでいる業界の一つが金融業界だ。銀行をはじめ、お堅いイメージでテクノロジーとも程遠く、昔からの紙ベースの業務を守り抜いてきた金融分野だが、昨今の海外勢との激しい競争をきっかけに最新技術を用いた構造改革を急速に推進している。

ファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を掛け合わせ、フィンテックと呼ばれているのがそれだ。読者の皆さんはもしかしたら、フィンテックを起因とするメガバンクの大規模な人員削減のニュースなどの形で、フィンテックという言葉を聞いたことがあるかも知れない。

本日はそのフィンテックにおける国内の金融機関の事例のうち、特にサイバーセキュリティーに関する事例を紹介する。

サイバーセキュリティーの画像

不正なカードの利用をAIが暴く – SMBCグループ –

三井住友グループはクレジットカードの不正な利用を検知する目的で人工知能によるディープラーニングを導入した。その結果、不正な取引である疑いがあると判断された取引のうち、本当に不正であった取引の比率が5%から95%に向上したそうだ。従来のやり方では人が作成した判定アルゴリズムに従って不正な疑いのある取引を洗い出していた。

より具体的には、顧客ごとに取引の頻度や金額、利用する場所の傾向を割り出し、その傾向からの乖離率等を参考にして不正な取引を洗い出していた。例えば、ある顧客は一週間に一度、2~3万円程度の金額をATMから引き出すような取引が中心だったのに、ある日、100万円を一括で引き出しているといったような、通常とは異なる取引を手動で検知する方法だ。人工知能導入後は当該プロセスをディープラーニングで実施することにより、不正だと判断される取引の精度が圧倒的に向上したのである。

これにより、これまで必要としていた各取引の不正の確認作業に要する金融機関の負荷が減ることはもちろんのこと、カードによる不正取引を抑制することができればカード会社の保険料負担も減るため、その分をサービス向上に当てることができる可能性もある。このようにフィンテックは金融機関だけでなく、その利用者にも恩恵があるのだ。

手ぶらで銀行取引を手軽に – イオン銀行 –

株式会社イオン銀行は生体認証を手がけるフィンテックベンチャーの株式会社LIQUIDと共同で新しい認証システムを導入し、新しい銀行の形を模索している。

銀行での手続きとなると、通帳、キャッシュカード、印鑑、身分証など様々なものを準備しなければならず、それらを準備していったとしても以前の住所がわかる身分証が必要、家族の関係を示す公的な書類が必要、などと言われ結局手続きできずに帰ってくるという経験をした方も多いのではないのだろうか。そういった煩わしさをなくし、より利便性の高い銀行サービスを提供するためイオン銀行はLIQUIDの指紋と静脈を用いた認証システムを導入した。このシステムにより、顧客は手ぶらで銀行に行ったとしてもATMからの出金、住所変更やカード再発行といった手続きを行うことができる。便利なシステムだが、よくよく考えてみると指紋認証を用いたATMはこれまでにもあったし、一体どのような点がフィンテックによる変革なのか疑問に思った方もいるのではないのだろうか。

それはこうだ。セキュリティーの堅牢さと認証のスピーディーさは一般的にトレードオフの関係にある。すなわち、セキュリティーを堅牢にすればするほど、より厳格なチェックとなることから認証に時間を要してしまう。これまではチェックのスピーディーさや正確さの都合により何かと組み合わせての指紋認証、静脈認証までが限界だった。そのため、よく見る銀行ATMでの指紋認証は暗証番号との組み合わせとして利用されていたのだ。従ってこれを手ぶらにするためには厳格なチェックを素早く終えることが必要となる。LIQUID社はこれを解決するため、人工知能によるディープラーニングを導入している。

これにより、従来より厳格でスピーディーな認証を可能とし、そのことで手ぶらな銀行手続きを実現したのである。

顔認証を導入して社員のなりすましを防ぐ – セディナ –

最近、多くの企業で社員ID証を導入しており、読者の皆さんも自分の会社の社員ID証をお持ちかも知れない。会社の入り口での認証、オフィスへの入り口での認証、先進的な会社では個人用のパソコンへの認証にも利用しているかも知れない。なくすと大変だ。

不正利用を企てる第三者の手に渡ってしまった場合、オフィスまで簡単に入ることができ、情報が盗まれてしまう懸念がある。初期対応に失敗すると、情報保護にうるさい現代ではニュース沙汰になってしまうかも知れないし、取引先との信頼関係も損ねてしまう恐れがある。従って多くの企業では社員ID証の紛失に罰則規定を設けていることだろう。

そういった懸念を技術によって解決したのがセディナである。セディナではNECのAIによる顔認証技術を導入し、社員ID証に代わる社員の認証を実施している。これにより、会社側にはより厳格なチェックが実施できるという恩恵があり、社員にとっては社員ID証を常に携帯する煩わしさから解消されるという恩恵がある。NECによるAIを用いた顔認証技術はセディナでの事例のほか、コンサート会場での入場時チェックや出入国管理など幅広い分野で利用されている。

本稿では金融業界での人工知能活用事例として3社の例を紹介した。フィンテックとも呼ばれる新しい技術を用いた金融業界の改革はまだ黎明期であり、これからも私たちを驚かせてくれる新しいサービスが続々と誕生していくことだろう。そしてそれは、紹介した事例のように金融機関だけにメリットをもたらすものではなく、私達のような一般の消費者にもメリットをもたらすことになるだろう。


<参考>

  1. 「カード不正利用」の検知精度、深層学習で劇的向上 (日本経済新聞)
    https://r.nikkei.com/article/DGXMZO11999520T20C17A1000000
  2. キャッシュカード、暗証番号なしでATMが使える――Liquidの生体認証をイオン銀行が導入 (TechCrunch Japan)
    https://jp.techcrunch.com/2017/11/27/liquid-aeonbank/
  3. セディナ、業務端末ログインにNECの顔認証技術を採用 – 約8,000台を対象 [事例] (ITSearch)
    https://news.mynavi.jp/itsearch/article/solution/3647
  4. セディナ、NECの顔認証技術を採用し、新たな生体認証システムを構築 (NEC)
    https://jpn.nec.com/press/201804/20180416_02.html
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