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小売業界でのビッグデータ活用事例4選【日本国内編】

小売業界におけるビッグデータの活用事例を4つ紹介する。それぞれ、自社の持っている売上に関するデータを収集・分析することで、ビッグデータとして活用している。そこから、販売戦略にまで繋げているところは興味深く、これからビッグデータ活用を考えている企業の参考になると考えられる。

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AI(人工知能)の活用には多くのデータが必要となる。そのビッグデータこそが今後のビジネスを推進する上で、重要な鍵となる。今回はビッグデータを事業に活かしている企業の事例を4つ挙げ、データを集める際に重要なポイントを紹介する。

AI(人工知能)-ビッグデータ

ローソンでの活用事例

まずはコンビニ業界第3位のローソンの事例から。コンビニに限らず、小売業界では以前から販売データをPOSで取得していた。それをベースに発注内容を決めたりしていたわけだが、POSデータからは「いつ、何が売れたのか」しかわからない。

会員カードであるPontaを導入した後も、「どの会員(顧客)が」という情報が付け加わるだけで、実態がわかるようになったわけではない。また、全員がPontaカードを所持しているわけではないため、それだけではPOSデータ以上の情報を集めるのには難がある。

そこで、ローソンはどのような情報を集め、解析するべきなのかを考えた。そしていくつかのポイントをまとめた。

「何が必要な情報なのかを考え、やみくもにデータを集めない」

「データは生ものであることを理解し、何を見つけるか知恵を絞り、連携・共有する」

「データ解析によって実態把握を実施する。そして顧客を理解し、信頼関係をどう築くかを考える」

「データを解析できる人材を育成する」

つまり、顧客の実態把握のために必要なデータはなにかを考え、それを集めて解析するということである。ごく当たり前のことであるが、ここにビッグデータを利用し、AIなどを使って解析する極意がある。

ローソンではPOSデータ、Pontaからの購買履歴データで、例えば「ほろにがショコラブラン」という商品は、その売り上げの6割は、たった1割のヘビーユーザーによるものだということをあぶりだした。このように、一つの商品にこだわる「こだわり派」や、新商品やサービスが好きな「エンジョイ派」があることが見えてきた。またレジでも対面型を好む「触れ合い派」や、逆に自動決済などの効率を求める「効率派」があり、さらに同一人物であっても、時と場合によってスタンスが変わることなどもわかってきた。

こういったビッグデータ活用を通して、店舗作りや仕入の最適化を進めている。

GEOでの活用事例

GEOはリアル店舗の「GEOショップ」やオンラインでの宅配レンタル・宅配買い取りサービスを展開している。在庫のコントロールを行うには、どの店舗でどの様なものが売れるのかなど、販売傾向データが大変重要である。

GEOは会員証を兼ねるスマートフォン用アプリ「GEOアプリ」をリニューアルすることでビッグデータを取得できるようにした。その際、SAPジャパンの「SAP Predictive Analytics」を基盤として導入し、導入支援・サポートはデータマイニングやデジタルマーケティングなどに関わる支援事業を手がけるブレインパッドが行った。

このアプリから集まってくる情報をビッグデータとして活用し、会員を「趣味別」や「売上貢献別」にクラスタリングし、どの様なものをどの程度購入するのか、購入タイミングはどうなっているのかなど分析している。その分析結果を基に、顧客へのアプローチを行っている。例えば趣味に応じたクーポンの発行を行い、またタイミングを見計らってメールを送付するなどしている。これらを通して売上の向上を測っているのだ。

また新作DVDの仕入れについても、GEOは全店舗のものを一括で仕入れることによって価格交渉力を持つことで有名であるが、これらのデータを基に仕入枚数を最適化し、販売元との仕入枚数交渉に利用している。

楽天での活用事例

日本発のeコマース大手である楽天は、Amazonとは異なる戦略を取っている。特に日本国内の様々な商品を取り扱うことで差別化をしている。これらの中には少量生産だが、すぐに完売するようなものも存在する。それらを上手くコントロールするにはロングテールを前提としたビッグデータ活用が必要となる。

通常、eコマースサイトではレコメンド機能を活用するだけで30%の売上が向上するとされているが、楽天は更新頻度の短縮と、ジャンルの細分化を試みて大きな成果をあげた。ビッグデータを利用する際に、ロングテールを考慮に入れた上で分析を行ったところ、ランキング頻度が高いほど、ジャンルが細かいほど全体の売上が増加するという結果が出たことで、それを前提とした改善を行ったのである。その際にわかった重要なポイントとして、商品のロングテールはeコマースで重要視されてきたが、これまで考慮されていなかったのが、顧客のロングテールである。つまりマニアックなジャンルであっても、それを求めるコアな顧客がいるということである。これはローソンの「ほろにがショコラブラン」に通じる考え方である。

ロングテールの考え方

ロングテールの考え方

一方、顧客も商品もロングテールの存在を前提としての商品構成を考えられるのであれば、顧客の詳細なプライバシー情報は必要ない。その人の購入傾向さえしっかりとわかっていれば、商品の品揃えの方向性はわかる。特に大量消費されるものでなく、少量でも高額で確実に売れるようなものの傾向がわかれば、そういうものをうまくリコメンドすることができる。つまりプライバシーを尊重し、個人情報を使わずに、入手できるビッグデータだけを活用しながらサービスの発展を目指すことができるのだ。楽天は、小売業界でも顧客のプライバシー情報を集めることなしに、売上を伸ばす方法をもっと業界全体で考えても良いと考えている。

ヤクルトでの活用事例

最後はプロバイオティクス飲料メーカーであるヤクルトだ。ヤクルトの商品は数が多く、1つのカテゴリに150点も存在している。それらの商品がお互いに店頭で顧客を奪い合っていた。が、どれがどの様に売れているのかを分析して最適化しようにも、それぞれの商品を社員が独自で作っている表でバラバラに管理されていた。

そこでアナリティクスパッケージ「Spotfire」(TIBCO Softwareが提供)を活用し、これらのデータを1箇所に集め、一元管理して分析してみた。すると、ヤクルトの15本パックと7本パックは購入する顧客層が異なり、そのため並べて販売すると両方の売り上げが増加するということを発見した。

それ以外にも、オランダの現地法人では、公開および非公開の両方のデータを幅広く集めて分析するということも行った。オランダではスーパーマーケットで商品を販売しているが、商品の売れ方を特定してみたところ、オランダ法人の売り上げは、ただ1つの商品に支えられていることなどもわかった。

「Spotfire」を利用したヤクルトの解析結果は、小売店からもアクセスできるようにデータへのアクセス権限を与えている。そのため、必要に応じてその場でトレンドや売り上げの分析を提示できる。それを基にして棚割を変更した場合の効果を小売店に実験してもらうこともできる。つまり、既存のビッグデータを基礎にはしているものの、売上のシミュレーションにも使えるようにしている。そこが、これまで紹介してきた3社とは異なるところである。

まとめ

日本国内の小売業界を中心に、4社のビッグデータ活用事例を紹介した。どの企業も、自社の販売に必要なデータは何であるかをしっかりと考え、必要なデータをしっかりと蓄積できるような仕掛けを作っている。ローソンやGEOは、何が必要なのデータであるかを見極める戦略を採っている。

また小売業界ではレコメンドなど、個人情報に近いところの情報で勝負することが多いが、楽天はプライバシーにも配慮したデータの取り扱いに移行しつつある。個人情報の利用についても、実店舗を持っていない分、上手く配慮した扱いができるということを示している。

そしてデータを1つのシステムに集約することでビッグデータとして使い易くする工夫をしている。ヤクルトはバラバラにデータを持っていたためにできていなかった解析を、データの集約を行う事で実行し、小売店の売り場の改革にまで繋げている。ここでもデータを取り扱う上での戦略性が見える。

今後、ビッグデータ活用を検討している企業には、是非、戦略性を持ってデータの収集と解析を行うことを第一に考えて欲しい。

<関連記事>
ビッグデータ活用事例4選【海外編】


<参考>

  1. ビッグデータ活用事例15選| 売上向上・コスト削減方法とは(LISKUL)
    https://liskul.com/wm_bd10-4861
  2. コンビニ内分析で購入率をどう高めているか、ローソンのビッグデータ活用(ZDNet Japan)
    https://japan.zdnet.com/article/35101097/
  3. ゲオ、データ分析基盤導入し“個客”指向を強化(IT Leaders)
    https://it.impressbm.co.jp/articles/-/12617
  4. 楽天の執行役員がビッグデータでEコマースの売上げを急伸させた秘策を公開 ――流通システム標準普及推進協議会 2014年度通常総会――(流通BMS.com)
    http://www.mj-bms.com/special/article/103
  5. [ビッグデータ]「Suica」「ヤクルト」がアクセス集める、実際の成功・失敗例に強い関心(日経XTECH)
    https://tech.nikkeibp.co.jp/it/article/COLUMN/20131217/525321/
  6. ヤクルトの売り上げを大幅に伸ばしたデータアナリティクスの秘密(ITmediaエンタープライズ)
    http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1512/16/news017.html
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