【この記事は約 7 分で読み終わります。】

ビッグデータ活用事例4選【海外編】

海外では2013年頃から小売業界でビッグデータ活用が本格化している。近年はさらにAIを導入することで、顧客の購買行動に対する利便性を上げることにもつなげているが、これもビッグデータをしっかりと活用できるだけのポリシーを持っているからだと言える。

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する

今回はAI(人工知能)を活用するにあたって必要なビッグデータを活用したものとして、海外の事例を紹介する。

AI(人工知能)-ビッグデータ

<関連記事>
AIを支えるビッグデータの歴史と今と今後

スーパーマーケットオプティムアイ (Tesco)

イギリスの小売大手のTESCOは、日用品や食品を中心に扱い、世界に7000以上の店舗を展開しているスーパーマーケットチェーンである。彼らは会員システムを持っており、1990年代から、そのシステムから得られるデータをビジネスに活用してきた。

特に1995年に導入したTESCOクラブカードは、3800万人ものメンバーがいて、そのうち1600万人がアクティブユーザーであるとされている。これらの会員にそれぞれに合わせた広告をeメールで送信するのにも使われている。

さらにここから得られたデータと、天候データ、売上データを併せて解析する事で、夏の食品の廃棄ロスを金額にして900万ドル以上減らした。また店舗運営の最適化で製品全体の廃棄額を4700万ドル、倉庫の在庫も7800万ドル分を削減した。これは在庫の適正化も含め、無駄なコストを大きくカットできるという意味において、発注業務の効率化にもつながっている。

それだけではない。2013年、TESCOは小売店舗内にAmscreen社の開発した「OptimEyes screen」というデジタルサイネージ用のディスプレイと、とある解析をするための映像を取り込むカメラとで構成されるシステムを導入した。このディスプレイには商品広告を映すのだが、スクリーンに付いているカメラは、その広告を見ようとモニターの前に立った顧客の性別や年齢を解析するのだ。そうすることで、過去の購買データから、同性同年代の人がよく購入している商品などの広告を提供するという取組を行っている。これもクラブカードからの情報をビッグデータとして解析した結果の応用である。

このように、これまでの購買データをビッグデータとして活用することで、発注や在庫管理の適正化をTESCOは行っている。

ファッションデパートNordstorm

2つ目の事例は、アメリカの高級ファッションデパートで、225以上の店舗を構えるNordstorm社である。同社は2016年に145億ドルの売上を出している。同社は1901年の創業以来、ビッグデータを含む、新しいテクノロジーの採用を積極的に行ってきた。

同社がビッグデータで行っているのは、高度な需要予測や接客のパーソナライズ化といった、先進的な小売店へ進化させることである。例えば、オンラインショップと実店舗の在庫データを統合し、顧客が来店前にオンラインで欲しい商品を確認できるようにしている。もちろんそれがどの店舗で、いつ試着・購入が可能なのかを把握することもできる。そのうえ、顧客が来店した場合は、スタッフにどういう対応をするべきか、オンラインでの操作内容を通知している。

当然、在庫管理にもビッグデータは活用されている。同社は化粧品なども扱っており、顧客の購買サイクルと購買商品を解析し、どのタイミングでどの商品がどれくらい売れるのか想定している。これを基に仕入を行う事で、最適な在庫を確保できるようにしている。

また、顧客へのリコメンドにも利用している。これまでに購入した服の配色を解析することで、その顧客の好みに合わせた服をリコメンドするが、それだけではなく、その色に合ったコーディネートを行える配色の服もリコメンドしている。もしその顧客が流行に敏感であるという結果が出ていれば、その時の流行の商品をリコメンドする。つまり、顧客に「私のことを良く理解している」と感じてもらえるような戦略をビッグデータを利用することで実現しているのだ。

オフィス用品を扱うStaples

3社目の事例は、アメリカでオフィス用品を中心に扱う小売チェーンのStaples社である。アメリカ国内ではAmazonに次ぐ2番手のオンラインストアを運営している。同社は2013年に、オンラインショップの顧客購買率を上昇させる、「Runa」というソリューションを提供するビッグデータ解析企業を買収している。

それ以外にも、既存店舗の過去の販売実績、立地属性などを解析する事で、最適な出店候補地を選定している。その結果、数百万ドルの閉店コストを削減することに成功している。これは先の2社では展開していない、少し異なるアプローチの利用方法であるが、日本国内で行われているコンビニエンスストアの出店場所のマーケティング解析を高度化したものだと考えれば良い。

また2016年には、自社が展開するビジネス向け発注ソフトウェア「Easy System」上でIBMのWatson Conversationを活用。発注のためのオンデマンド環境を顧客に提供した。これにより、いつでもどこでも、好きなデバイスにより注文できる環境を提供することに成功した。実際、Watsonの機能を利用することで、同社はEasy Buttonという音声入力式のスマートデバイス、スマートフォン用アプリ、Facebookメッセンジャー、Slackbotなどの、様々なオンラインにつながる環境で、顧客にシームレスな注文インターフェースを提供できるようになった。補充品を迅速に再発注する、出荷品を追跡するなど、カスタマーサービスについても、チャットもできるようになった。当然ここで発注されるデータもビッグデータとして蓄積され、活用される。

ファッションを扱うOtto

最後に紹介するOttoグループはヨーロッパに本拠を持つ、世界では2番目、ファッションやライフスタイル関係部門の小売りでは、ヨーロッパ最大のオンラインストアを展開している。メールオーダーも手がけていた。

同社はWebtrends社をソリューションパートナーにし、自らのブランド認知度、顧客の嗜好、購買傾向の変化をリアルタイムに把握可能なツールを導入した。このソリューションはソーシャル、モバイル、Webを横断的に計測し、顧客の理解と顧客とのやりとりのイメージを描くことに成功している。

Ottoグループは当時、グループ全体で120ものブランドがあり、それぞれのブレンド認知度や市場でのポジション変化を高スピードで把握する技術を求めていた。そのため、このソリューションを活用し、それぞれで異なるKPIを含む100以上のレポートを作り、分析結果をプロモーション施策の検討やウェブサイトの最適化に役立た。

そして、近年はAIを導入し、ビッグデータの解析を行っている。対処ボリューム、スピード、そして正確さといった面において、AIは人間のキャパシティをはるかに超えた作業効率を実現する。

しかし、Ottoでは顧客のこれまでの購入履歴や天気情報など、膨大な量のデータから各要素を分析し、顧客がどの商品を購入するかを事前に予測している。これは「Blue Yonder」というテクノロジーで、90%の確率で30日以内に売れる商品を予測する。このテクノロジーがあるおかげで、同社は毎月20万種類の商品を第三者のブランドから人間の介入なしでオーダーし、管理する事に成功している。それにより余剰在庫をそれまでの20%にまで減少させ、返品数も年間200万個以上削減した。この効率化が商品の配送速度向上につながり、さらにそれが顧客のリピーター率を上げることにつながっている。

Ottoのケースは、顧客管理のさらに一歩先を行き、ビジネス的な判断もコンピューターが自動で実施している。これは同業他社でも活用できる技術だといえる。

まとめ

このように、今回はビッグデータの海外における活用事例を4つ紹介した。どの企業もこれまでの購買履歴から、発注量の自動算出や在庫の管理につなげているところはほぼ共通していることがわかる。

その先に、TESCO社は店舗内で顧客に提示する広告をパーソナライズ化している。同じようにNordstorm社もパーソナライズ化されたリコメンドを出す様な活用方法を取っている。この2社が顧客に対して攻めのアプローチを採用しているのに対し、他の2社は少し異なる使い方をしている。Staples社は出店場所の割り出しに使っているのと、自然言語処理系のAIを利用することで、顧客が注文しやすい環境を構築している。Ottoグループは膨大なデータをAIで解析する事で、在庫の適正化を極限にまで高める施策を打っている。特に同グループは扱う商材の数が多く、人間では管理しきれないところにAIを活用しているのが特徴である。

AI(人工知能)-ビッグデータ

これらを考えると、とにかく多くの顧客が購入した様々な種類のデータを取得・整理し、それをどの様に利用するのかをしっかりと戦略を立てて集めていることがわかる。もちろん、取っていたら別のことにも使えることを発見した例もあるだろうが、これらの企業の実例を基に、データの活用イメージをしっかりとつくっておくことが、ビッグデータを使う際の基本であり、成功するために必要な要素だと言うことができる。
<関連記事>
スシローと無印良品のビッグデータ活用術とは?


<参考>

  1. ビッグデータ活用を活用した広告成功事例20選(ITiger)
    https://itiger.jp/case/593.html
  2. 小売・流通業界におけるビッグデータの活用事例20選(ITiger)
    https://itiger.jp/case/569.html
  3. IoTとビッグデータで何ができるか–世界の活用事例10選(ZDNet Japan)
    https://japan.zdnet.com/article/35061544/
  4. AMSCREEN – Products(AMScreen)
    http://www.amscreen.eu/products/
  5. Tesco’s plan to tailor adverts via facial recognition stokes privacy fears(
    Support The Guardian)
    https://www.theguardian.com/business/2013/nov/03/privacy-tesco-scan-customers-faces
  6. Tesco and Big Data Analytics, a Recipe for Success?(DATAFLOQ)
    https://datafloq.com/read/tesco-big-data-analytics-recipe-success/665
  7. How Fashion Retailer Nordstrom Drives Innovation With Big Data Experiments(DATAFLOQ)
    https://datafloq.com/read/how-fashion-retailer-nordstrom-drives-with-innovat/398
  8. 顧客第一主義の老舗百貨店ノードストロームが明かす、デジタルでも成功を収める理由(Adobe)
    https://www.adobe.com/jp/insights/170601-digital-success-nordstrom.html
  9. Staples Acquires Runa to Drive Big Profits from Big Data(Merus Capital)
    http://www.meruscap.com/blog/2013/10/staples-acquires-runa-to-drive-big-profits-from-big-data/
  10. WatsonのAIボットをクラウドで作成–カスタマー体験の新展開(ZDNet Japan)
    https://japan.zdnet.com/article/35091188/
  11. アナリティクスの高速化でビッグデータを迎え撃て!
    https://www.sas.com/content/dam/SAS/ja_jp/doc/event/sas-user-groups/usergroups12-g-02-a-08.pdf
  12. Otto uses Webtrends to gain real-time business insights across 120 global brands(webtrends)
    https://www.webtrends.com/about-us/client-success/otto-group/
  13. ドイツのOtto社に見る人工知能(AI)の活用方法~欧州原子核研究理事会の研究が小売企業にもたらした効果とは(OrangeEC)
    https://ec-orange.jp/ec-media/?p=20877
シェア

役にたったらいいね!
してください

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する