「AI(人工知能)が子供たちの学習現場に入ってきた」と聞いてどのような印象を持つだろうか。
AIには「とてつもなく賢い」というイメージがある。賢いから、子供たちの勉強をサポートすることくらい簡単にできそうだ、と思うだろうか。
AIには「高効率」という長所がある。したがってAIを使った学習は効率的に進めることができそうだ、と思うだろうか。
その印象は間違っていない。AI教師は驚きの効果を上げている。
AI教師が優秀なのは、AIが子供を徹底的に分析するからだ。子供1人ひとりに合った学習指導を提供できるところが、AI教師の強みだ。
AI教師が学習指導を行い、人の教師が教育を行えば、子供たちの可能性はさらに広がるだろう。
続きを読むなぜAIが学習を指導できるのか
AIはコンピュータ技術である。それがなぜ子供たちの学習を指導できるのだろうか。そしてなぜ、従来のコンピュータ、つまりAIが搭載されていないコンピュータでは、子供たちの学習をここまで指導できなかったのだろうか。
「人の心が読める」から
AIは、「人の心を読んでいるのではないか?」と思わせるような能力を有する。例えばAIは、ある人のネット検索ワードを分析して、その人の趣味嗜好を言い当てることができる。
もちろんAIは人の心を読んでいるわけではない。AIはただ、膨大な数のネット検索ワードから傾向をつかんでいるだけだ。人が生み出すネット検索ワードには、自分の心や気持ちが反映される。だから、ネット検索ワードの傾向と人の心が似てくる。
したがって、AIがネット検索ワードの傾向をアウトプットすると、それは人の心と同じようにみえるのである。
AIによる人の分析は、「すごくない」部分と「すごい」部分がある。例えば誰かが「私はチョコレートが大好きだが、梅干しも同じくらい好きだ」と言ったとする。その人に、ビター味のチョコレートをプレゼントすれば、その人は喜んでくれるだろう。梅干しが好きなことから砂糖が苦手であると推測できるから、甘さを抑えたビターチョコレートを選択できる。
AIが行っている分析の基礎はこれと同じなので、その点ではAIは「すごくない」。
しかしAIは膨大な量の情報を用いて人を分析するから、その人の好みが「抹茶味の一口サイズの砂糖を使っていないチョコレート」であることを正確に探り当てることができる。その人は「確かにビター味のチョコレートも好きだが、抹茶味の一口サイズの砂糖を使っていないチョコレートが一番好きだ」と驚くだろう。
したがってAIは「すごい」。
子供の理解度を見抜くことができるから
人のスイーツの好みを分析できるAIは、子供たちの得意な教科と苦手な教科を分析することもできる。しかしそれくらいであれば、人の教師でもできるので「すごくない」。
AIは、ある子供が、小数点は理解できているがパーセントは理解できていないことまでも見抜く。したがってAI教師は、その子供にパーセントの基礎問題を次々出題する。
AIはさらに、パーセントを理解できなかった子供が、パーセントを理解した瞬間を見逃さない。そうなるとその子供にはもうパーセントの基礎問題をさせる必要がないから、AI教師はより難易度が高い問題を出題する。
これがAI教師の「すごさ」である。
非AIコンピュータではできないことができるから
スマホやタブレットを使った学習は、従来の非AIコンピュータでも可能だ。問題を難易度ごとにわけ、ユーザーに難易度別のコースを選ばせれば、ユーザーは自分のレベルに合った問題を解くことで知識を効率よく蓄積することができる。
しかし非AIコンピュータでは、難しい問題に挑戦することを回避して易しい問題だけをたくさんこなして勉強をしているつもりで満足しているユーザーを見抜くことはできない。非AIコンピュータは、ユーザーが出した答えの正誤は判定できるが、ユーザーの答えの傾向を分析できないからだ。
AI教師は、子供の知識の現状を把握して、簡単には解けないけど頑張れば解くことができる「絶妙なレベルの問題」をその子供に出題し続ける。
したがって、AI教師は子供の学習をより効率的に指導できるのである。
教育分野でAIはどのように活用されているのか
AI教師として今最も注目されているのは、株式会社コンパス(COMPASS、本社・東京都品川区)が開発したキュビナ(Qubena)だろう。同社はこのシステムの特許を取得し、各種マスコミが紹介している。
キュビナは一見すると、タブレットを使った普通のコンピュータ学習システムだ。そしてキュビナで学習している子供たちも、普通のコンピュータ学習システムで学ぶのと同じ感覚で学ぶことができる。
ではキュビナの何が「すごい」のだろうか。
子供の学習レベルと解答スピードに合わせることができる
同じ学年の子供たちでも、学習レベルと解答スピードは1人ひとり異なる。学習レベルが高い子供に易しい問題を解かせてもモチベーションが上がらないし、学習レベルが低い子供に難しい問題を出題すると勉強が嫌いになる。
問題を解く時間を与えれば解ける子供にその時間を与えなければ、その子供は「問題が解けない子」と間違って判断されてしまう。次々問題を解いていきたい子供にゆっくり出題していたら、その子供はフラストレーションを感じてしまう。
したがって、子供の学習レベルと解答スピードに合わせて指導することはとても重要なのだが、学校のような集団学習の場では難しい。
しかいキュビナはそれができる。
キュビナに搭載されているAIは、その子供が「今解くべき問題」を瞬時に判断して出題する。
しかもキュビナは、その子供が過去につまずいた単元も覚えているから、「なぜ今この問題が解けないのか」も把握できる。そしてキュビナは、つまずいた単元を復習させながら、今解くべき問題へ誘導していくのである。
高効率
コンパス社が、新中学1年生のグループに5日間にわたってキュビナで学習させ、キュビナを使わずに普通の学習をした新中学1年生のグループとの学習理解度の差を調べた。
5日後に振り返りテストを行ったところ、キュビナを使ったグループの平均点が、使わなかったグループの平均点より10点上回った。
この結果も確かに驚異的だが、注目したいのはキュビナ学習の効率のよさだ。
キュビナを使えば、学校で1学期(14週間)かけて学ぶ学習範囲を2週間で修得することができる。つまり学習効率を7倍に高めることができるのだ。
これができるのは、キュビナのAIが1人ひとりの子供の理解度を正確に把握して、すべての子どもに「徹底的に教える」ことができ、「無駄なく教える」ことができるからだ。
AIが代行できる教師の業務とは
AI教師は、人の教師の業務をどこまで代行できるのだろうか。
子供の理解度に合わせて学習指導することは人の教師の重要な仕事で、キュビナは、AIがそれを代行できることを証明した。
株式会社すららネット(本社・東京都千代田区)が慶應義塾大学と共同開発した「AIサポーター」は、子供たちの学習意欲を高めるという、やはり人の教師の重要な仕事を代行できるかもしれない。
AIサポーターは、対話型の学習システムだ。
AIには対話機能がある。人がAIコンピュータに話しかけると、AIがその話の内容を理解して、どのような回答をするべきかを考え、音声で回答することができる。AIサポーターはこの対話機能を使っている。
AIサポーターもキュビナ同様に、子供たちの理解度に応じて出題する問題の難易度を調整する。
そしてAIサポーターはさらに、子供が問題を解き終えたとき、音声で褒めたり、努力を促したり、雑談をしたりする。
1,153人の生徒にAIサポーターを使わせたところ、対話数の合計は1日2,500回を超えたという。生徒たちはAIサポーターとの対話を楽しんだのである。
AIは確実に、学ぶことの面白さを教えたり、学習意欲を高めたりする、人の教師の仕事を担いつつある。
人の教師は教育に集中できる
AIがどれほど進化しても、人の教師による教育の重要性は失われないだろう。AI教師は勉強を教えることはできても、人の道を教えることはできない。AI教師は、学ぶことの面白さをすでに知っている子供の学力を伸ばすことはできても、勉強嫌いの子供に学ぶことの意義を説くことはできない。
そして子供の学力や勉強意欲は、右肩上がりに上昇していくだけではない。勉強にはつまずきや挫折がつきものだ。AI教師では傷ついた子供の心をケアすることはできない。
AI教師が子供たちの分析を詳細に行い、1人ひとりの子供の学習到達度を見える化すれば、人の教師はそうしたデータを使って教育することができる。
人の教師がAI教師の学習サポート機能を有効活用すれば、1人ひとりの子供に将来の指針を与えることができるようになるだろう。
まとめ~「武器を持った」と考えよう
子供の可能性は無限大だが、可能性を殻に閉じ込めたままでは、それを拡大させることはできない。AI教師は易々とその殻を割ることができそうだ。
AI教師は子供たちに寄り添うことができる。子供が「わからない」といえば、基礎固めに力を貸してくれる。子供が「わかった」といえば、よりチャレンジングな課題を与えてくれる。しかもAIはコンピュータだから疲れることを知らない。子供たちが疲れるまでずっと勉強をみてくれる。
AI教師が進化すると人の教師は要らなくなるのか、と心配する人がいるが、不毛な議論だろう。AI教師は学習ツールである。人の教師はAI教師を強力な武器と考えるべきだろう。AI教師に任せられるところを任せてしまえば、人の教師は人育てに専念できる。
人の教師がAI教師を使いこなすことができれば、子供はその翼をより大きくすることができるはずだ。
<参考>
- 株式会社COMPASS(コンパス)
https://qubena.com/company/ - その先にある未来へすべての子どもたちに最適な教育を(コンパス)
https://qubena.com/ - 満足度 97.4% 飛躍的な教育効果を実感(コンパス)
https://qubena.com/voice/ - レベル・スピードを合わせてくれる自分だけの先生(コンパス)
https://qubena.com/function/ - 会社概要(すららネット)
https://surala.jp/company/ - 「AIサポーター」正式運用を4月16日より開始(すららネット)
https://surala.jp/image/press/d3287-144-pdf-1.pdf
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