2016年4月の電力自由化以来、同一地域であっても複数の電力事業者が電力を供給するようになってきた。また自然エネルギーの活用も進み始めたことにより、供給量に対する発電方法の組み合わせの最適化も必要となる。ここはAIを導入しての省力化が、電力事業者によっては欠かせなくなる。
電力業界におけるAI活用法とそのメリットとは?
様々な分野・業界で活用の始まっているAI(人工知能)。今回は電力業界での活用について紹介しよう。
AIの強みは言わずと知れた、多くのデータに裏打ちされた学習である。では電力業界で学習に使えそうなデータにはどのようなものがあるだろう。大きく分けると、設備の管理と電力の提供という2つの方面で活用されることが期待されている。
まずは設備の管理である。電力中央研究所は、IoT技術を利用したビッグデータとAIの組み合わせで、設備の劣化診断、異常検知、そして余寿命推定を行うべく研究を行っている。これは電力設備の保守点検の自動化を進め、それによってコストを削減することで収益率を上げようとする取り組みである。そのためには「計測技術」「通信技術」「蓄積技術」「解析技術」の4要素が必要であるとされ、AIはこのうちの「解析技術」に相当している。蓄積されたデータを基に、通常とは異なるシグナルを検出すれば、異常があることになる。また、異常なシグナルはなくても、データの変化度合いから設備の劣化進行度を知ることができれば、メンテナンスタイミングの特定を行うことができる。そうすれば最適なタイミングでのメンテナンスを行う事ができるため、効率化に繋がる。そしてこれの先に余寿命推定がある。
もう一つの電力の供給という面では、AIによる「需要予測」をベースとして発電量、特に石油価格などに影響を受け、運転コストに大きな影響を与える火力発電所の「稼働効率の最適化」をすることができる。ここにももちろんAIを導入している。運転コストを抑えることができれば、電力の低価格化に繋がるため、競争力を増すことができる。
AI導入でビックデータ活用
実は電力業界は以前からデータの蓄積が進んでいる。電力会社系のインターネットプロバイダが、電力事業者が情報伝達に使用していた光ファイバー網を利用してサービスを提供しているのだ。例えば関西の有力プロバイダであるケイオプティコムの「eo光」は、関西電力の光ファイバー情報網を利用している。
これらの情報網を利用して集めているのは、発電所の立地場所が、電力の消費地から遠く離れる事になり、発電所、高圧電線、大容量変電所、配電用変電所など、巨大で複雑になってしまったシステムの運用に必要なデータである。例えば設備トラブルが発生すると、場所の短時間での特定が重要になる。可能であればトラブルの発生を未然に防ぐ事ができればより良い。そのため、各設備の稼働状況をモニタリングすることで、定常状態にあるかどうか、異常なシグナルが出てはいないかどうかを判定するためにデータを蓄積してきたのだ。
そしてさらにはスマートメーターの普及が始まったことにより、供給側のみではなく、消費側の情報が手に入るようになってきている。このデータはビッグデータとしての活用が可能なデータであり、AIをその解析にまわすことで、需給の調整に利用できるようになる。これは家庭での電力使用の省エネアドバイスや、電力網自体のスマートグリッド化を目指す上でも、大変重要である。
電力業界でのAI活用シーン
電力業界におけるAI導入事例
では実際にAIを導入した事例を紹介しよう。まずは株式会社パネイルが投入しているのが、クラウド型電力小売り基幹システム「パネイルクラウド」である。顧客管理、需給管理、そして電源調達といった人間が行っていた部分でAIを活用することで省力化を実現したソリューションである。省力化のために必要なデータは、パネイルが全国7地域に展開している、100%子会社の電力小売り事業者の実績から得ている。このデータを蓄積し、AIの学習データとして活用しているのだ。
そしてこのデータを活用したパネイルクラウドは電力小売りの支援を行うシステムとして、電力事業の新規参入者にも提供をしている。さらにはデータ入力などの定型作業をRPAで自動化した情報処理システムを開発。こちらも東京電力エナジーパートナーと共同出資した電力小売り事業者の株式会社PinTでも導入されている。
同様の動きは大手の電力会社にもある。中部電力はABEJAと協力し、スマートメーターからの情報を活用して省エネアドバイス機能を提供しようとしている。これについてはパネイルの動きと同じ様な動きである。このサービスは一般家庭用のWebサービス「カテエネ」に組み込まれる予定だが、既存の使用量や料金確認以外にも、省エネアドバイスを行う様にする予定だ。そのためスマートメーターのAルートデータから30分単位でデータを取得することによって、家電の動作状況まで推定し、アドバイしに繋げる予定だ。本来ならば30秒単位のBルートデータの方がより精度が高いが、家電によって推定精度がバラバラであったためと、Aルートデータでもそれなりの精度が確保できたためだとしている。
また関西電力はAIとIoT技術を組み合わせた早期異常検知システムを導入し、オーストラリアのブルーウォーターズ発電所の遠隔監視を行っている。この遠隔監視サービスを含めたエンジニアリングサービスを「K-VaCS」とよび、いずれはこれを国内外における火力発電所の計画・設計・建設・運営に対して、展開していくものと考えられる。
AIが変える電力業界の未来とは?
先にも述べたが、今後、スマートメーターの導入により、各家庭や事業所での需要をより細かく把握することができる様になる。さらに供給側もIoT機器を導入することにより、設備の異常検知やメンテナンスタイミングの特定もできるようになってくる。ここに天気や気温などの情報を組み合わせることにより、その日の需要予測ができるようになり、どこ発電所でいくら発電すれば良いのかなど、供給側の最適化を行う事ができるようになる。ここにメンテナンス情報を組み合わせれば、メンテナンスが必要な部分を迂回する形での送電まで含めた需給計画を立てられる。これはスマートグリッドを実現する上で重要な技術であり、これによって最適化することができれば、発電所を含む設備の効率的な運用が可能となり、それが運用コストの圧縮、そして電気料金体系の見直しにも繋げることができる。
さらに電力自由化により、大手電力会社はそれまでエリアを越境しての供給を目指している上、中小の発電・給電事業者が乱立してきてる。そのため、今後は同じエリアの家庭や事業所でであっても、複数の電力事業者が電力を提供することになる。また電力供給側には太陽光や風力などの自然エネルギーを利用した発電も増えて来ているが、需給のバランスを制御するのは人間では難しくなってくる。自社が供給するべき電力供給量と、エリアで必要な供給量とをしっかりと把握していくためにも、供給から消費まで、送電経路を含めてデータ化することで、最適化を進める必要がある。その最適化はAIを利用する必要がある。そして人を介さずに省力化することで低価格で安定した電力を供給できるようになり、それが電力業界の進んでいく道となるだろう。
まとめ〜安価で安定した電力を供給できる未来
今の電力業界は大きな変化の時を迎えている。自然エネルギー、特に発電量の不安定な太陽光や風力発電の導入、石油価格に影響を受ける火力発電の発電効率を最適化するための運用など、供給側のエネルギーミックス/電源構成が変わってきている。
しかも2016年4月の電力自由化により、同一地域であっても複数の電力事業者が電力を供給することになっている。すると、供給側もそれに合わせなければいけないが、その地域の需要をしっかりと把握しておかないと、つまり過剰供給したり供給量が不足したりすると、その地域に電力を供給している他の事業者に迷惑がかかってしまいかねない。
スマートメーターを導入し需要側のデータが取得できるようになることで、供給量を想定できるようになると同時に、最適な発電・送電計画を立てられるようになる。これができるようになると、エネルギーミックスの最適化を行い、送電網のスマートグリッド化と合わせることで、より安価でかつ安定した電力を供給できると考えられている。そしてそれができる電力事業者が、最終的に消費者に選ばれるようになるだろう。
<参考>
- ビッグデータと人工知能による電力設備診断(電中研TOPICS 2016.10 Vol.22)
https://criepi.denken.or.jp/research/topics/pdf/201610vol22.pdf - 関西電力、AIやIoTによる「早期異常検知システム」を開発、火力発電所の運用・保守を向上(新電力ネット)
https://pps-net.org/column/43401 - ビッグデータを分析しリアルタイムでGIS上に表示。米エクセロンとGEが取り組む送配電網の改革とは(電氣新聞2018年7月13日)
https://www.denkishimbun.com/sp/29928 - TYO、日本初AIとビッグデータを活用した電力管理を実現する「パネイル」と業務提携(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000024701.html - AIで省力化、電力料金を安価に 業界の常識に一石、パネイルのクラウド型基幹システム(SankeiBiz)
https://www.sankeibiz.jp/business/news/180727/bsl1807270500001-n1.htm - 中部電力のAIサービス開発秘話、エネルギーに人工知能をどう生かすか?(ITmedia スマートジャパン)
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1802/27/news060.html - 丸紅、電力小売事業においてAIを活用した市場分析モデルを導入(新電力ネット)
https://pps-net.org/column/55138
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