AIが食品業界にもたらす進化とは?活用事例を紹介

引き続き、食品業界でのAIの活用事例を確認していく。国内・海外問わずAIの食品業界への活用は他業種と比べて多くないが、その分参入の余地が残されているともいえよう。

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食品業界でAIを活用できる分野として、経営での意思決定の支援や品質管理、生産管理や在庫管理などが考えられることを確認してきた。そこで本稿では、食品業界でAIを活用した具体的な事例に立ち入りたい。

3つの事例から見て取れるのは、機械学習を実行するのに必要な「ビッグデータ」が扱いやすい点だろう。

AI(人工知能) 食品

事例1 キユーピー:品質管理

マヨネーズなどの調味料を販売する食品メーカーであるキユーピーだが、AIへの取り組みを積極的に行なっている企業といえるだろう。経済発展に欠かせないのはイノベーション(技術革新)であると最初に唱えたのはオーストリアの経済学者であるシュンペーターだが、新しい生産物を創出する技術としてAIはもってこいの存在だろう。事実キユーピーはAIによるイノベーションを強く意識、これにより企業価値を高めるよう努力しているという。

キユーピーがAIを導入する分野は、原料検査装置だ。ベビーフードで用いられるダイスポテトを選別するためにAIを活用する。食品工業にとって品質管理は衛生安全面で重要な地位を占めることは前回も述べたが、キユーピーはダイスポテトの品質管理をAIを活用し行なえないものか検討した。

従来は従業員がひとつひとつ目視で検査、品位の悪いダイスポテトを取り除いていた。しかし一日一ラインで100万個以上もの検査を実施するため、集中力が要求される過酷な作業だという。機械を導入しての自動化を試みていたものの、品位不良のパターンが多すぎて困難を極めたという。

そこでキユーピーはGoogleが開発したディープラーニングのライブラリ「Tensorflow」を導入、AIを活用したデジタルマーケティングなどを手掛けるブレインパッドとともにダイスポテトの良品検査を実施するアルゴリズムを開発したという。100万個以上の良品ポテト画像を学習させ、AIが良品と不良品とを選別できるようにした。その結果、検品効率が2倍に向上したという。

2016年初旬にAIを導入することを検討、その依頼をブレインパッドに通知したのはその年の夏だ。PoC(概念実証)などを経て、試作品が完成したのが翌年の2月で、18年の夏にようやく実用化に成功したという。

開発者のひとりである荻野武氏は、現場にとってやさしいシステムでなければならない点を強調する。ディープラーニングを代表とする機械学習の判断はヒトにとって検知しにくい「ブラックボックス」であることはよく知られるが、現場とヒアリングを何度も行い、実用化までこぎ着けたのだという。ヒトとAIとの協働作業が重要だと思わせる事例だろう。

事例2 NECと日本気象協会:在庫管理

働き方改革が叫ばれ作業の効率化が求められるが、効率化という点では食品業界もその限りではない。食品が消費者に効率よく供給されること、需要にあわせて食品の生産量もコントロールすることが肝要だ。

その一方で食品ロスの問題が社会問題となっている。政府広報オンラインによると、日本国内における年間の食品廃棄量は食料消費全体の3割に相当する約2,800万トンをも占める。そのうち売れ残りや消費期限が過ぎた食品、食べ残し等を含めると、約632万トンにもなるという。飢餓に苦しむ人々のための食品援助量(約320万トン)をはるかに超える「食品ロス」は深刻な問題だ。食品ロスの主な原因は、メーカーと販売需要予測のミスマッチによる。そのため企業としても、生産量をコントロールし、収益を上げることが課題となる。

日本気象協会は2014年から、「需要予測の精度向上による食品ロス先源及び省エネ物流プロジェクト」に取り組み、天気予報で物流を変えることを目的とする。プロジェクトへの参加団体は、Mizkanやキッコーマン、伊藤園といった食品メーカーはもちろん、ローソンやココカラファインヘルスケアといった小売業も名を連ねる。人工知能分野のサポートでも、国立情報研究所や早稲田大学など錚々たる顔ぶれだ。

NECと日本気象協会とが共同で研究・開発したのが、需要最適化サービスである。食品の需要予測には、天気や気温といった気象情報が不可欠だ。NECが開発したAI技術「NEC the WISE」を用い、日本気象協会が保有する気象データやデータ解析技術などを組み合わせ、需要予測や需給計画、生産計画はもちろんのこと、発注計画や在庫配置まで見据えたシステムを構築するという。

「NEC the WISE」には、「異種混合学習」と呼ばれるNECが開発したAIを技法が用いられている。ビッグデータにはさまざまなデータが混在するため、1つの法則でまとめ上げると、予想精度が落ちる場合があるという。そこでビッグデータをグループ化し、多数の規則性を機械学習により導出、分析するデータに応じた規則を自動で切り替えられるようにした。

また分析精度を高めるため、人口統計や交通量といった商品の販売に影響を与えるデータも組み込まれているという。

NECと日本気象協会が共同開発したシステムは食品だけでなく、さまざまな商品の需給予測に利用可能だとしている。

事例3 アリババ:生産管理

AIを食品産業に導入する点で日本よりも先んじているのが、中国だ。国務院が2017年7月に「次世代人工知能発展計画」を発布、2020年までにAIによる基幹産業の規模を1,500億円(約2兆5,500億円)にすることを目指すとしている。国家がAIに投資を行ない、官民が一体となっていわゆる「テクノロジー4.0」を推し進める。日本がAIへ投資する額を減らすのと対照的である。

世界時価総額ランキングを一瞥すればわかるように、アメリカと中国の企業で上位を占める。中国で最大の時価総額をもつ企業が、Eコマースを中心に手掛けるAlibabaだ。英語教師であった馬雲(ジャック=マー)が起業した企業は、孫正義率いるソフトバンクの支援を受けつつも、ついに約4500億ドルもの巨大組織へと成長した。

Alibabaの特徴は、とにかく最先端の科学技術を産業に取り入れることだろう。2017年10月には研究機関の「達磨院」の設立を発表、AIや量子コンピュータなどの最先端技術に1000億元(約1兆7,000億円)投資するという。

最先端技術を取り込むイノベーションにも、Alibabaは余念がない。AIキャッシュレス化が日本よりも進む中国では、AlipayといったQRコードをもとにした決済サービスが提供されているが、このAlipayを提供するのもAlibabaである。

食品業界へのテクノロジーの導入も著しい。本来パンや魚といった「生」の食品にバーコードを割り当てることはできないはずだが、Alibabaは何と泳ぐ魚にQRコードを割り当ててしまったのだ。これをもとに在庫管理すれば、効率的に行なえることは容易に想像できるであろう。

実を言うと、中国のEコマース企業でAIを積極的に取り入れているのは、業界第二位の京東だという。物流業界では、AlibabaはAIの導入については京東に後塵を拝していた。AlibabaがAIの導入を決めたのが、豚の管理である。

「ETブレイン(Evolutionary Technology Brain)」と呼ばれる、クラウドで使用可能なAIプラットフォームをAlibabaは開発した。交通量の改善や病気の診断等に用いられるシステムだが、農産業関連の投資を行なうTequ Grop(四川特駆集団)と提携、1,000万もの豚を画像認識により管理するという。具体的には、豚の体から特徴を抽出、それに基づき各豚を特定するという。データベース化された情報をもとに、豚の品種や年齢、体重などを管理する。情報は逐一記録され、どの豚が病気であるかなどが識別できるそうだ。

Tequ Groupによると、ETブレインにより生産量が大幅にアップと同時に死亡率も減少、10%も収益が増加したという。

ETブレインはさまざまな業種での使用可能で、今後更なる活用が期待される。

ビッグデータ次第で新規参入可能

以上、食品業界における品質管理や生産管理、在庫管理といった分野へのAIの活用事例を確認してきた。数は少ないものの、どの事例も機械学習に必要なビッグデータをうまく活用しているという印象を受ける。キユーピーやAlibabaの事例は画像認識を活用する。またNECと日本気象協会の事例は、気象データというビッグデータに着目する点で画期的だ。

企業の規模という面ではAlibabaは群を抜き、それに追随するのはなかなか困難であるかもしれない。逆に言うと、ビッグデータ次第では日本でも、食品業界もまたAIの活用により改善の余地があるといえるのかもしれない。

AI(人工知能) 食品


<参考>

  1. 『経済発展の理論』に描かれたイノベーションの5分類(ダイヤモンドオンライン)
    https://diamond.jp/articles/-/4057
  2. もったいない!食べられるのに捨てられる 「食品ロス」を減らそう(政府広報オンライン)
    https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201303/4.html
  3. NECと日本気象協会、食品ロス・廃棄の解決に向け、バリューチェーン全体で需給を最適化するビジネスで協業(NEC)
    https://jpn.nec.com/press/201802/20180228_01.html
  4. 「画像認識で検品改革 良品識別、効率2倍に」(日経コンピュータ 2018年5月24日)
  5. 異種混合学習技術(NEC)
    https://jpn.nec.com/press/201206/images/2202-01-01.pdf
  6. 世界時価総額ランキング(Think 180 Around)
    https://www.180.co.jp/world_etf_adr/adr/ranking.htm
  7. Artificial intelligence is being used to raise better pigs in China (Quartz)
    https://qz.com/1202142/alibaba-is-using-use-artificial-intelligence-to-help-raise-pigs/
  8. Alibaba Cloud to tackle food production and safety with AI (technode)
    https://technode.com/2018/06/07/alibaba-agriculture-ai/
  9. Alibaba launches AI-backed agricultural tool to boost income for China’s farmers (South China Morning Post)
    https://www.scmp.com/tech/china-tech/article/2149674/alibaba-launches-ai-backed-agricultural-tool-boost-income-chinas
  10. ET Brain (Alibaba)
    https://www.alibabacloud.com/et
  11. アリババがAIで農業改善、豚の画像認識など3分野(日経X Trend)
    https://trend.nikkeibp.co.jp/atcl/contents/technology/00004/00029/
  12. 中国EC大手の京東 無人化加速で狙う「ボーダーレスリテール」(日経X Trend)
    https://trend.nikkeibp.co.jp/atcl/contents/casestudy/00012/00061/
  13. 泳ぐ魚にQRコード、アリババ先進店舗を現地レポ(日経X Tech)
    https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/mag/nc/18/071000059/071000001/
  14. 「人工知能(AI)の基本的概念と食品会社における活用」(缶詰時報)
  15. 「AIを活用して食品ロスを減らす」(電気とガス 2018年5月号)
  16. 「天気予報を活用した返品・食品ロス削減の取り組み」(生活と環境 平成29年2月号)
  17. 「天気予報で物流を変える」(Material Flow 2017年2月号)
  18. 「官民一体でAIに賭ける中国」(経済月報 2018年6月号)
  19. 「中国のAI社会は「異形」か 個人データと利便性を取引」(Journalism 2018年7月号)
  20. 「Alibabaの拡大に見る「一帯一路」と中国のキャッシュレス化(InfoCom T&S World Trend Report 2018年2月号)