ゲームとAIとのつながりの歴史は古い。古くはチェス、最近では将棋や囲碁など、ゲームの分析が行われ、人工知能研究の一端を担う存在だった。
AIのゲームへの活用はボードゲームにとどまらない。そこでさまざまなジャンルのゲームに活用される「ゲームAI」について紹介する。
続きを読むゲームAIの仕組み
ゲームと関わりの深いAI
ゲームはルールが明確であり、強い人間のプレイヤーとの比較が容易なことから、AI研究のテーマになってきた。最初のデジタルコンピュータである「ENIAC」がアメリカで開発されたのは1946年だが、1950年代にはすでに最初のチェスプログラムが誕生している。1997年にはIBMが開発したディープブルーがチェスの世界チャンピオンだったガルリ・カスパロフを破り、それから19年経った2016年3月にはGoogleが開発したアルファ碁が囲碁の世界チャンピオンであるイ・セドルに勝利している。探索空間の大きさがチェスでは10の120乗で、囲碁が10の361乗で、コンピュータ囲碁が人間のレベルを超えるには10年かかるとみられていたものの、アルファ碁があっさりと乗り越えてしまったため、搭載されていたディープラーニング(深層学習)の実力が世間へと一気に浸透した。
多ジャンルのゲームに使用されるAI
AIの使用はボードゲームに限らず、デジタルゲームの世界での応用が数多くみられる。デジタルゲームは、人工知能(AI)はもちろん、グラフィックスや物理世界などが融合したものになっている。これらのシミュレーションを調整することで、ユーザーを楽しませるのが人工知能の役割である。
具体的に人工知能がシミュレーションするのは、「ゲーム世界」「キャラクターの知能」「キャラクターの身体」の3要素だ。ゲーム世界をシミュレーションするためには、物理世界やゲームのルールのシミュレーションが求められる。キャラクターの知能はキャラクターの意思決定を、キャラクターの身体は、身体の物理的挙動をシミュレーションする。これら3つの要素が相互作用し、ゲーム全体を構成する。
このようにシミュレーションされる要素が複雑化するとともに、ゲームAIもまた分岐していった。
3つのゲームAI
キャラクターAI
キャラクターAIとは、キャラクターの意思決定に用いられるAIを指す。キャラクターの知能は世界からの影響を受けて意思決定を行ない、知能と身体の状態を変化させる。たとえば、剣を敵に対して振り下ろすなど、大きな運動のイメージを決定して、剣の軌道など微調整が行われる。
ナビゲーションAI
ナビゲーションAIの役割は、地形を認識することである。キャラクターAIや後述するメタAIが地形の認識を必要とする際に、ナビゲーションAIが呼び出される。具体的には、地形から移動経路などを検索したり、地形の特徴からキャラクターの立ち位置を発見するのに用いられる。
メタAI
メタAIは、ゲーム全体を制御する人工知能である。大局的にみて、長時間にわたるゲームの進行プランを遂行する。たとえば、長時間のログデータや、大局のマップの分析などが行われ、ゲーム状況の認識が行われる。
様々なゲームAIの例
ゲームのジャンルはいくつかに分類され、ジャンルごとにAIの活用は変わってくる。
アクションゲームにおけるAI
アクションゲームとは、キャラクターの行動をボタンなどで直接操作し、ゲーム内の事象を制御する能力を競うゲームを指す。古くは1980年にアーケードで発売された「パックマン」だ。画面内のドットを食べながらも、モンスターとの駆け引きを楽しめるなど、人気を博した。
アクションゲームにおけるAIについて、この「パックマン」を通して説明しよう。実をいうと、パックマンは最初に誕生したゲームAIであるといわれている。パックマンにおいては、キャラクターAIとメタAIの使用が確認されている。パックマンの場合、キャラクターに相当するのが、モンスターの動きだ。パックマンの動きに応じて、モンスターの動きを決める。このアルゴリズムがキャラクターAIに相当する。またパックマンを追い詰めるようにモンスターが動くことで、プレイヤーが楽しめる難易度になるなど、ゲームの支配を行なっているので、メタAIの役割も果たしている。
ロールプレイングゲームにおけるAI
ロールプレイングゲームとは、参加者が選択したキャラクターを操作し、協力し合いながら、ゲームが用意した試練をこなして、ゴールを目指すゲームのことである。ロールプレイングゲームもまた複雑に進化しているため、AIの使用が欠かせない。たとえば、FINAL FANTASYにもAIがふんだんに活用されている。
FINAL FANTASYは1987年に発売されたロールプレイングゲームで、現在も続いている人気ゲームのひとつだ。2016年に発売された「FINAL FANTASY XV(以下、FF XV)」にも、AIが使用されている。FF XVにおけるメタAIは、ゲームステージ上の状態を観測しながら、キャラクターに指示を与えている。たとえば「イベントが始まるので特定の場所に集合せよ」といった適切な指示を、適切な相手に、適切なタイミングで命令し、全体をうまくコントロールする。
パックマン同様に、キャラクターAIも使用されている。ただしパックマンよりも複雑で、各キャラクターは身体と記憶を有する。キャラクタに備わった視覚、聴覚、衝撃力などを検出するセンサーから、情報を取得し、認識が形成される。この認識が記憶され、意思決定、つまり身体の運動を実現する。
さらにナビゲーションAIも使用されている。地形やキャラクターと地形の衝突により、環境情報は動的に変化する。そこで環境情報をナビゲーションAIによって解析し、キャラクターに正確な振舞いを行わせているのだ。
シミュレーションゲームにおけるAI
シミュレーションゲームとは、現実の体験を仮想的に行うゲームを指す。シミュレーションゲームで、AIが使用されるのは、敵の行動パターンである。理解しやすいよう、ストラテジーゲームとの対比で考えてみよう。ストラテジーゲームとは戦略シミュレーションゲームを指し、シミュレーションゲームのひとつである。
ストラテジーゲームとして、将棋や囲碁が挙げられる。これらのボードゲームにはルールが存在するが、最善な戦略は機械学習によって決定される。ただし一般のシミュレーションゲームの場合、キャラクターに属性が割り振られているため、プレイヤーよりもゲームを支配する影響力は強い。そのためストラテジーゲームほど、敵の行動パターンを決定するAIの支配力は大きい必要はないのだ。
AIが使われているゲームとは?
最新のデジタルゲームにおけるAIの使用例として、「逆転オセロニア」を取り上げてみたい。
「逆転オセロニア」とは?
逆転オセロニアは、リバーシ(オセロ)にトレーディングカードの要素を付け加えたゲームである。ルールの基礎はリバーシとほぼ同じだが、石にはキャラクターが備わっている点が異なっている。キャラクターのもつ属性によって逆転する要素が増え、結果としてゲームの不確実性が増す。そのため、通常のリバーシよりも戦略性の高いゲームになっている。
逆転オセロニアに用意されているキャラクターは、1,000種類以上存在する。キャラクターが強すぎるとゲームのバランスが崩れてしまうが、これだけキャラクターが存在するとキャラクターの調節も難しくなる。そこで逆転オセロニアを開発したDeNAではキャラクターを学習し、バランス調節を強化学習で行なっている。
強化学習とは?
強化学習は機械学習の一種である。ディープラーニング(深層学習)の場合、「教師つき学習」と呼ばれる学習方法が用いられる。囲碁などのボードゲームではAIが学習するために、プレイヤーによる棋譜が用いられてきた。
この教師つき学習という手法は正解がわかっている場合には有効だが、ゲームの場合どの手が正解なのかはっきりしないことが多い。とりわけ、キャラクターの数が多い逆転オセロニアの場合はなおさらである。そこで、プレイヤーの行動の結果に対し「報酬(利益)」を定めておき、将来にわたって獲得される報酬の合計(価値)を最大化するように学習を行なってゆく。この学習方法が強化学習である。
逆転オセロニアでは、キャラクターの特徴の獲得を自動化し、強化学習を使ってキャラクターの調整を行なっている。強化学習のビジネスでの成功例は少ないだけに、開発者らは今後の展開を期待している。
ゲームAIの勉強に最適な参考書とは
『実例で学ぶゲームAIプログラミング』はオライリーから2007年に販売を開始した書籍だ。先述のように、ゲームとAIとは切っても切れない関係で、AI研究は長年行われてきた。『実例で学ぶゲームAIプログラミング』では、シンプルなサッカーゲームとシューティングゲームを行なう能力をもつAIエージェントの設計が解説されている。それぞれのテクニックがどのように使われ、他と統合されているかが具体的に提示されているので、学習者によって理解しやすい。
AIの技術自体はここ10年で凄まじいスピードで発達しているが、ゲームへの応用となると、どうしても個々の事例の紹介をする百科事典になりやすい。だが『実例で学ぶゲームAIプログラミング』では、ゲームを固定してAIの技術が語られるので、体系的にゲームにおけるAIを学べると評価が高い。
まとめ
デジタルゲームの歴史は長く、ハードウェアの進化とともにゲームは複雑化した。このような複雑化したゲームを把握することは、人間にとって難しい。下手をすれば、ゲームのバランスが壊れてしまう。
この複雑化したゲームをすっきりさせるのがゲームAIの役割である。ゲームAIもまた多様化しているが、近年のAI技術の進化とともにますます需要が高まるであろう。
<参考>
- 遊び方(逆転オセロニア)
https://www.othellonia.com/howto/ - 強化学習をバランス調整に活用。『逆転オセロニア』が目指す、ゲーム開発の近未来(DeNA フルスイング)
https://fullswing.dena.com/archives/335 - “世界最古”にして現代ゲームAIの先駆。21世紀に『パックマン』が再評価される理由を、作者・岩谷徹氏×AI開発者・三宅陽一郎氏が解説(電ファミニコゲーマー)
https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/aitalk_miyaiwa - 「デジタルゲームにおける人工知能、シミュレーション、インタラクション」(『シミュレーション』Vol.36,No.4)
- 「デジタルゲームにおける可視化技術」(『可視化情報』2018年10月)
- 「大規模ゲームにおける人工知能」(『人工知能』2017年3月号)
- 「ゲームAIの原点『パックマン』はいかにして生み出されたのか?」(『人工知能』2019年1月号)
- 『最強囲碁AIアルファ碁解体新書』(大槻知史 著)
- 『実例で学ぶゲームAIプログラミング』(Mat Buckland 著、 松田晃一 訳)
- 『ゲーム情報学概論』(伊藤毅志 編著、 保木邦仁、 三宅陽一郎 共著)
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