スマートホームやAIマンションという言葉を聞いたことがあるだろうか。これはAI(人工知能)が人間の生活を全般的にサポートしてくれる住宅のことである。今、住宅内に設置されたスマートスピーカーからの情報や、IoT家電などのセンサー情報が次々と蓄積されることにより、住人にとって快適な環境というのが理解できるようになりつつある。今回はその将来を展望したい。
続きを読む家にAIはどのように活用されているのか
AI(人工知能)は企業内だけではなく、すでに家庭内にも入ってきている。先ず真っ先に思い浮かぶのはGoogle HomeやAmazon Alexaなどのスマートスピーカーではないだろうか。人間が話しかけることで内容を理解し、Amazonへの注文もできる上、対応している商品を連携させることで、話しかければ電気を消してくれたり、エアコンをONにしてくれたりする。
だが、これらはスマートスピーカーの特権ではない。白物家電を提供している大手メーカーはこぞってスマート家電の提供を開始している。例えば中国家電大手のハイアール社は以前から冷蔵庫とコンテンツを組み合わせ、レシピを冷蔵庫の扉に表示するというような利用の仕方を提案してきていた。2018年にはそれを更に進め、冷蔵庫にAlexaを内臓。食品のみならず日用品まで注文可能とした。
さらに「Magic Mirror」という製品は、衣類の整理を行うと同時に、シーンに応じたコーディネート提案まで行えるようにまでなっている。
ドイツの家電メーカーであるBosch社は、冷蔵庫を中心に「Home Connect」というコンセプトを積極的に提案している。家電にIoTの技術を投入し、スマートフォンからコントロールできるようにしているが、ここにもAmazonのAlexaが組み込まれるようになってきている。やはり、家電メーカーもAIを如何に商品に組み込み、AIがサポートする形で人間がより快適な生活を送ることができる仕組みづくりを考えていると言って良い。
もちろん単体でもAIを利用して効率的な運用をできるようにAIを活用する例もある。iROBOT社の展開する「ルンバ」は、家の中の空間認識を行うのにAIを用いているが、これは自動車の自動運転の開発にも用いられている地図作成などの空間認識技術である。
また、三菱電機のエアコン「霧ヶ峰」は2018年発売の新製品2機種にAIを搭載している。「ムーブアイmirA.I.(ミライ)」と呼ばれるAIは、設置された部屋の日射熱などを感知して部屋の温度を把握すると同時に、部屋の断熱性能についても分析を行っている。その情報を基に、室内の人物の体感温度が快適な温度になるよう、風量や設定温度を調整する。
それ以外にも、日本国内ではSHARPを始め、各家電メーカーがスマート家電開発を加速させている。白物家電については世界的に競争が激しく、スマート家電化は各メーカーが避けては通れない道となっている。このように家の中のスマート家電やスマートスピーカーとして、AIは目に付くところに存在している。
一方、目に付かない部分にもAIの活用は始まっている。例えば三菱電機は独自のAIである「Maisart(マイサート)」を利用し、スマートメーターで収集したデータを基に家電ごとの電力使用量を高精度で推定する「家電ごとの電気の使い方見える化技術」を開発した。住人が家電の使い方を再考するきっかけとなると同時に、買い換えを必要とする家電が出て来た場合に、その選定にも役立つ。
パナソニックが開発しているAI住宅とは
そもそもAI住宅の機能とはどのようなものだろう。業界では大きく分けると3つの機能があると言われている。それは「居住性」「防犯性」「危険予知」である。それぞれの機能について紹介しよう。
1つ目の居住性であるが、これはセンサーなどから得られる情報を使って住人の生活様式を分析し、住宅設備を住人にとって最も適した状態に調整するものをいう。例えばエアコンの温度や風量などの調整がその実例である。また先に紹介した三菱電機の例もこの一環と捉えることができる。
2つ目の防犯性は、防犯カメラの映像から顔認証を元にして、不審者であるかどうかを判別。その上で不審者である場合は自動で通報を行うなどする。
そして3つ目の危険予知は、大きなところでは気象情報や自治体の防災情報と連動した自然災害発生に対する警告から、小さなところではカギのかけ忘れなどまで、住宅に起こりうる危険を予測して住人に通知する。
これらを踏まえた上で、パナソニックはどのような取り組みをしているのかを紹介する。パナソニックは家電を開発・販売しているが、系列に住宅を扱うパナホームを持っているため、両社が共同で取り組んでいると考えて良い。
パナソニックは、AIを利用したスマートハウスについて、パナソニックセンター東京内に「Wonder Life-BOX」をいうショールームを展開している。
例えばエントランスは、外部との接点であると定義し、花粉やウィルス情報が提示されている。扉の解錠は顔認証で行い、両手が塞がっている状態でも自動で解錠できるようにすると同時に、事前に登録された人間しか入ることはできないためにセキュリティ面も担保されている。
玄関を入るとエアシャワーで、外部からの有害物質を遮断してくれる。特に花粉の時期には玄関で花粉をシャットアウトできるため、花粉症の人にはありがたい機能だろう。
またこれは住宅の設計次第ではあるが、玄関先に宅配ボックスを設置しておけば、外部から入れてもらった荷物を、家の中から取り出すことも可能となる。この宅配ボックスも注文ラベルや配送票を自動で読み取り、適切な温度管理ができるスマートロッカーとしている。
キッチンやリビングではスマートスピーカーと連動した各種スマート家電を用い、料理の時にはレシピのサポートを、ゆったりしたい時には照明やテレビなどの音量を住人の好みに応じて自動調整してくれる。
寝室では、質の良い睡眠が取れるように温度や湿度をコントロールしてくれるし、起床時間には柔らかな照明で爽やかな目覚めを提供してくれる。また道路や鉄道の運行状況などを天井に投影し、出かけるときに必要な情報を一式提供してくれる。
このように、まだ実現しているわけではないが、少なくとも将来の生活がどの様に変化していくのかを体験できるスペースを用意し、AIとの共存、そして日本政府の提唱するSociety5.0社会をわかりやすく提示してくれている。
人工知能の存在感を消すCASPAR.AI
もう一つ面白い存在なのが、このCASPAR.AIである。CASPARはIoTのセンサーを通じてどんどん自己学習してくれる。Amazon EchoやGoogle Homeのように自分で設定を行うのではなく、普通に生活をしていると、そのセンサーデータから学習を行い、自動的に精度を向上させていく。
CASPARはカメラだけでなく、温度・湿度・照度・モーション・紫外線・振動など6種の要素を1つのセンサーで捉える仕掛けを持っている。そしてそこから得られたデータを基に、自己学習していく。従って、「平日は朝8時にカーテンを開けるが、日曜日だけは9時に開ける」といったことも、照度センサーなどのデータを基に自動で学習してくれる。人間が設定を行う必要も無ければ、ボイスコマンドでAIに指示を出す必要も無くなってくる。
Society5.0が現実のものとなれば、このような住宅が標準になるだろう。海外ではすでに2000戸以上で導入されていると言われている。
AIマンションとは
このCASPARを搭載した住宅が日本でも展開されようとしている。投資用マンションの開発を手掛けるインヴァランス社は、AIマンションのモデルルームをつくり、実証実験を開始している。このマンションではCASPARのAIが自動的に住人の生活習慣を学習し、自動化を進めている。
同社によると、人間が自宅内で行う、電気を付ける、戸締まりをするといった行動は約90種類あるが、そのうち80の行動をCASPARが学習し、自動化するという。
もちろん全ての行動をCASPARの持つセンサーデータだけでは得られないため、スマートスピーカーによるボイスコマンドと合わせることで、精度を向上させている。逆に言えば、ボイスコマンドだけでは得られないクセをセンサー情報から読み取っているとも言えるため、これらは両輪でAIの学習を助けているとも言える。
これらのAIマンションは、米コンサルティングファームのA.T. カーニー社によると2020年には5兆円、2030年には40兆円規模に拡大するという。この流れは日本、中国が牽引するのではないかと考えられていることから、今後、日本でもAIマンションをはじめとするスマートハウスが数多く建設されるだろう。
まとめ
AI(人工知能)は人間が行う作業を自動化もしくはサポートする方向で進化を続けている。窓を開ける、扉を閉める、施錠するなどという単純作業については、どんどん自動化されていくだろう。また、献立を考えるなど、人間による作業や判断が必要な部分については、AIによるサポートが入り、より省力化した環境で快適な生活を送れるようになる。
ただし注意しないといけないのは、これらをAIに任せたときに、人間は何をすべきなのかを、しっかりと考えておくことだ、そうでなければ、人間はAIにすべてを任せて、同じ日々を繰り返すだけの存在になってしまうかもしれない。あくまでも快適に生活するためのサポートをAIは提供するのだということを、肝に銘じたい。
<参考>
- 人工知能がもたらす未来の住宅。パナソニックのAI住宅に注目!(満足度の高い家を建てるシンプルな方法【ハウスメーカーの選び方】)
https://new-home50.com/?p=676#i - 勝手に学習してくれる未来の家 -AIでIoTを制御するホームOS、CASPAR(キャスパー)-(CNET Japan)
https://japan.cnet.com/blog/kimura/2018/01/22/entry_30022906/ - AIマンションは人の行動の8割を自動化する(日経ビジネス)
https://business.nikkei.com/atcl/report/16/030800018/110100413/?P=1 - Alexa内蔵の冷蔵庫や、衣類に合わせてコースが変わる洗濯機など~IFAで見つけた最新家電たち(家電Watch)
https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/news/1144223.html - Alexa連携やキッチンロボット「Mykie」の現状は? 欧州スマート家電の雄・ボッシュの展示(家電Watch)
https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/news/1079116.html - 今すぐ使える!AI(人工知能)搭載製品、身近なものをご紹介(AIZINE)
https://aizine.ai/ai-product-0109/ - AIを活用し、家電ごとの電力使用量を高精度で推定する技術を開発(MONOist)
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1902/18/news039.html - パナソニックが打ち立てるAI活用の“方程式”(EETimes Japan)
https://eetimes.jp/ee/articles/1811/02/news088.html - AI住宅は未来の常識!? パナソニック「Wonder Life-BOX」で未来の暮らしを疑似体験(ちいき新聞web)
https://press.chiicomi.com/press/15453/ - craft ai
https://www.craft.ai/
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