AIで「なくなる仕事」を知れば「価値ある仕事」がみえてくる

AI(人工知能)の進化によって「なくなる仕事」を知ることは、「価値ある仕事とはなにか」を考えるきっかけになるだろう。AIに使われるのではなく、AIを使う道を探ろう。

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AI(人工知能)の議論をしているときに、ふと胸のうちに「AIがこれ以上進化したら自分の仕事を奪われるのではないか」という思いがよぎったことはないだろうか。AIは賢いうえに、自分で学ぶ機能を備えているので、仕事を続けるほどスキルが上がっていく。だから瞬く間に人より効率的に作業をこなすようになる。

しかし過去のどの文明の進化も経済発展も、人から多くの仕事を奪ってきた。建設機械は作業員の数を大幅に減らしたし、長崎県のハウステンボスの「変なホテル」はフロント業務をロボットにさせている。

ただ多くの人々は、仕事を奪われそうになると自分にしかできない付加価値を生み出し危機を乗り越えてきた。

仕事をAIに奪われることを憂うのではなく、なぜその仕事はAIに奪われてしまうのかと考えていくと、「価値ある仕事」がみえてくるかもしれない。

aiの画像

医療事務員と経理事務員はなぜなくなりそうなのか

野村総合研究所は2015年に、「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に~601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~」という論文を発表した。このなかでAIにとって代わられる100種の職業が明示されたので、マスコミが大々的に取り上げた。

そこでこの100種のなかからいくつか仕事を選び、

・なぜその仕事では、人はAIにかなわないのか

・ではその仕事に従事している人たちは何をしたらいいのか

を考えていく。

まずは医療事務員と経理事務員だ。この2つの仕事は、AIに置き換え可能な100種の職業に入ってしまった。

知識量ではAIにかなわない

医療事務と経理事務に共通しているのは、膨大な数のルールを覚え、そのルールとおりに金額を当てはめていく作業だ。

医療事務員は病院の収入源である診療報酬を確定させる仕事を担っている。医療事務員たちは、医師や看護師や診療放射線技師などの医療従事者が行った治療や医療行為を診療報酬という金額に置き換えて、患者本人や患者が加入している公的医療保険制度に請求する。

一見すると単純な作業にみえるが、医療は日進月歩で、文字通り毎日新しい技術や薬が生まれている。それが次々現場に投入されるので、医療事務員は最新医療に詳しくなければならない。ベテランの医療事務員になると、新人の医師や新人の看護師より医療の知識を有していることがある。

また厚生労働省は診療報酬のルールを頻繁に変更する。医療事務員は勤務が長くなっても勉強が欠かせない。

一方の経理事務は、会社のなかで起きている複雑な資金の流れを整理する仕事である。資金はいろいろな形に変わる。経理事務員は現金、株式、土地、材料、商品、サービス、給料などを金額換算して帳簿につけていく。しかも経理の「ルールブック」である会計基準はとても複雑だ。それを間違えると、税務署や証券取引等監視委員会などから調査を受けることになり、企業犯罪とマスコミに書き立てられることになる。

医療事務も経理事務も、病院経営や企業経営に欠かせない業務だが、膨大な量のルールや知識を覚えることは、もはや人間がAIに勝てる余地はない。さらにAIは、膨大な量の情報から法則をみつけだすことが得意だ。

進化した医療事務AIなら、医師たちが医療行為をパソコンに入力していけば、次々事務処理していくだろう。経理業務でも経理事務AIが完成すれば、現場の社員たちが、資金が動くたびにパソコンに入力するだけで、資金の仕分けをしてくれるようになるだろう。そのまま財務諸表を作成することも可能になるはずだ。

しかも経理事務AIは、子会社の利益を親会社の利益に計上するような不正を働かないし、イレギュラーな資金の流れも瞬時に見抜くことができるだろう。

監督官庁や捜査当局にとっては医療事務AIや経理事務AIのほうが、人による医療事務や経理事務より歓迎できるかもしれない。

aiの能力

では何をしたらいいか

ではAIが医療事務と経理事務の職場に導入される前に、医療事務員や経理事務員は何をすべきだろうか。

それはAIの事務処理能力を活用することだ。医療事務や経理事務からアウトプットされる情報は、経営者や管理職が経営戦略を打ち立てるうえで不可欠なものだ。

このアウトプットは、これまでは医療事務員や経理事務員がつくってきたが、AIがその仕事を肩代わりしてくれることになる。ならばAIが出したアウトプットを分析する仕事に、価値が生まれるはずだ。

経営戦略や事業戦略を描ける医療事務員や経理事務員は、AIと共存できるはずだ。

カメラ組立工、自動車組立工

AIに置き換わる100種の仕事には、カメラ組立工と自動車組立工も入っていた。両者は工場内で部品を組み立てる仕事という点で共通している。

しかも多くの工場内の作業がロボット化されているのに、カメラづくりと自動車づくりではロボットに代替できない作業が残っている。なぜならカメラと自動車を組み立てるには、職人技が欠かせないからだ。

単純作業の継続性と正確さではAIにかなわない

日本、アメリカ、ドイツ、中国、韓国などの工業先進国の産業界はいま、工場をいかに自動化させるかを競っている。つまり、人を工場から排除することができた国が「次代の世界の工場」になれるわけだ。

工場内の作業員をロボットに置き換えることができると、単純作業を24時間365日継続でき、しかもロボットは疲れ知らずなうえに間違えないので常に高品質な製品を製造できるようになる。

ロボットにAIの画像認識技術を組み込むと、それまでベテラン作業員の目でしか判別できなかった微妙な違いを、人間以上に確実に見分けることができるようになる。

しかもAI自動工場は、設備や機械の故障を予知する能力がある。例えばAIが作業員に「そろそろあのロボットが故障しそうなのでメンテナンスを行ったほうがよい」と提案するのだ。

つまり工場の主(あるじ)はAIで、人の作業員はAIやロボットのサポートに回ることになる。

人のカメラ組立工も人の自動車組立工も職人だ。複雑な形状の部品をつくったり100分の1ミリの作業をしたりしてメード・イン・ジャパン品質を維持してきた。しかしロボットがAIという頭脳を得て、関節の動きがより繊細かつシャープになれば、いずれ職人技に到達する日が訪れるだろう。

では何をしたらいいか

ではカメラ組立工や自動車組立工は、何をしたらいいのだろうか。

AIロボットの「教師」になればいいのである。

AIは学習して賢くなるから、学習しなければ賢くなれない。だからどれだけAIが進化しようと、AIに仕事を教える教師が必要になる。AIロボットをどのように動かせば最も効率的になるかは、人間が考えるしかない。

またAIロボットはいわば「なんでもできる」ようになるので、メーカー間の競争はAIロボットに「何をさせるか」がカギを握るようになるだろう。

例えばカメラの組み立て工場であれば、ミラーレス一眼カメラもビデオカメラも1本のラインでつくれるようになれば、生産性が上がる。ミラーレス一眼カメラとビデオカメラでは部品の大きさも組立工程も異なるので現代の作業ロボットでは同時に組み立てることはできない。しかしAIロボットなら、教師の教え方次第で可能になるかもしれない。

自動車工場も同じだ。例えばトヨタグループには、乗用車のトヨタと軽自動車のダイハツとトラックの日野があるが、軽自動車から乗用車、大型トラックまで1本のラインで製造できるようになれば生産性が驚異的に高まるかもしれない。

AIロボットの働かせ方を身につけた人は、自動工場のなかで存在感を示すことができるだろう。

まとめ~AIに負けない人間らしさ

AIによって消えるかもしれない仕事のなかに、行政事務も含まれていた。現在の行政事務員は法律を執行する人として社会に欠かせない存在だが、やはり事務作業はAI化されやすいのだ。しかも公務員の汚職はなかなかなくならないが、行政AIに賄賂は通用しない。

しかし行政の仕事は人命やプライバシーや生活インフラにかかわるものが多い。四角四面の仕事はこれまでも「お役所仕事」と呼ばれて批判されてきたが、行政AIはさらに融通が利かなくなる可能性がある。

つまり国民1人ひとりに寄り添う行政事務を行っている公務員はAI時代を生き残るのではないだろうか。

職場でAIと共存するには、人は人間らしさを追求することを忘れてはならないのかもしれない。


<参考>

  1. 日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に~601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~(野村総合研究所)
    https://www.nri.com/jp/news/2015/151202_1.aspx
  2. 人工知能で工場はどう変わるのか(日経XTECH)
    https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/070800054/062700030/
  3. AIはスマート工場でどこまで使えるか(日経XTECH)
    https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/062000114/00008/
  4. 人工知能(AI)ビジネスのリスク、共存できる社会へ(東京企業リスク研究会)
    https://www.arm.or.jp/pdf/resource/ronbun/2017/039_046RMi.pdf
  5. 経理がAIに乗っ取られる、は本当か? (1/4)(#SHFT)
    http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1804/25/news031.html
  6. 収賄罪(朝日新聞)
    https://www.asahi.com/topics/word/%E5%8F%8E%E8%B3%84%E7%BD%AA.html
  7. 証券取引等監視委員会委員長からのメッセージ(証券取引等監視委員会)
    https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2016/2016/20161213-1.htm
  8. トラック(HINO)
    http://www.hino.co.jp/products/index.html