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デジタルマーケティングでAIの活用成功を導くカギは?

デジタルマーケティングと従来の手法との大きな違いは、消費者の心理を理解する方法だろう。ビッグデータをAIで分析することによって、消費者のニーズを細かく知ることが可能になる。

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日本も広告業界の市場規模は6兆円を超える巨大産業だ。WEB上のデータを活用すると、従来では行なえなかったきめ細かいマーケティングが可能になることが、年々増加する要因のひとつである。「デジタルマーケティング」と呼ばれる新しい手法の実現には、WEB上を横断するビッグデータと、それを分析するAIが必須となる。そこで、デジタルマーケティングと従来の手法との違いや、デジタルマーケティングで AIの活用成功を導くカギについて述べたい。

人口知能_デジマ

マーケティングがAIを活用した手法にシフトする背景

伝統的マーケティングとその問題点

どれだけ魅力的な商品やサービスであったとしても、それが認知されなければ消費者に見向きもされない。企業をターゲットにしたBtoBにせよ、消費者を対象にしたBtoCにしろ、マーケティングが重要なのは述べるまでもないだろう。

伝統的なマーケティングで行なってきたのは、テレビや新聞、雑誌などを通じて、不特定多数の消費者との取引によって市場のシェアを増大させることである。「マスマーケティング」とも呼ばれるこの手法は、どれだけ多くの消費者に広告をリーチさせるのかが重要な要因であった。

ところが、消費者のニーズが多様化したために、市場が細分化されることになった。異なる消費者グループごとに、異なるメッセージを送るマーケティングへと変貌する。

Webの登場とマーケティング

Webが登場する以前はユーザ登録のハガキやFAXによって顧客を把握していたが、Webの登場により製品ごとのIDをWebに登録することが可能になった。ユーザのIDが紐付けされれば、企業で一括して顧客の購買状況を把握できる。

広い意味でのWebマーケティングにより、顧客の情報をデータベース化できるになった点は大きい。従来のマーケティング手法では、個人のニーズにあわせて製品やサービスを提供するのが困難であった。他方Webマーケティングでは、大量の顧客をターゲットにしつつも、個人のニーズに対応できるようになる。

マーケティングを一変させる「デジタルマーケティング」

マーケティングのデジタル化が叫ばれるようになったのは、2014年頃だという。外資系のマーケティングオートメーションツールが日本に上陸した時期に、マーケティング組織が再編される流れとなった。

では、デジタルマーケティングとはいかなる手法を指すのか。結論を先に述べると、誰もが認める「デジタルマーケティング」の定義は現状では存在しない。ただ、次の3つがデジタルマーケティングとして考えられている。

・オウンドメディア

・ペイドメディア

・アーンドメディア

オウンドメディアは自社で運営するウェブサイト、ペイドメディアはネット広告などの広告枠を購入すること、アーンドメディアとはFacebookなどのSNSを指す。どれか1つのデジタルメディアにターゲットを絞るのではなく、それぞれが相補的な関係にある。つまり、ペイドメディアが顧客に認知させるため、アーンドメディアは拡散させるため、そしてオウンドメディアは顧客との関係を構築するためと、各デジタルメディアが個別の役割をもっている。

Webマーケティングとデジタルマーケティングを同一視する識者もいるが、デジタルマーケティングという用語は、もう少し限定された意味で使用されることが多い。

デジタルマーケティングを構成する2つの要素

デジタルマーケティングを特徴づけるキーワードは2つだ。データに基づいて消費者のニーズや、消費者へのアプローチを考える「データドリブン」。もうひとつは、呼ばれる消費者と企業との接点をシームレスにつなぐ「オムニチャネル」だ。

つまりデジタルマーケティングとは、Web上のECサイトとリアルの店舗とを統合し、消費者の購買を円滑に行ない(「オムニチャネル」)、その一方で消費者のニーズなどのデータを集計しながら(「データドリブン」)マーケティングに活用することを指す。

デジタルマーケティングの外観を掴んだところで、順番に説明していこう。

まずはデータドリブンだが、マイケーティングでデータが重視されるのは今も昔も変わらない。従来のマーケティングでも、POSデータで購買データを取得していた。ところがPOSデータが取得するデータは、顧客のIDなどと紐付けされない。そのため、誰が購入したのかは不明である。他方デジタルマーケティングでは、消費者の名前や住所、購買履歴などが取得可能だ。それだけではない。ウェブサイトの滞在時間や、移動履歴など、どのような経路で商品購入に至ったのかまで、分析可能だ。

一方オムニチャネルは、消費者と企業との関係性を強める場だと位置づけられる。従来のマーケティングでは難しかった個々のニーズに応えるために、オムニチャネルを介して、消費者の理解を深めてゆく。デジタルマーケティングは単なるプロモーションではなく、企業と消費者との絆であるといえよう。

デジタルマーケティング_AI人工知能

どのようなマーケティング領域でAIが活用され始めているのか

上述した「マーケティングオートメーション」と呼ばれるマーケティング業務の自動化や、ユーザが所有するデバイスに最適な広告を配信する「クロスデバイスターゲッティング」などの分野でAIは活用されている。ユニークなところでは、AIを活用して広告のコピーを創り出すことも行われている。

デジタルマーケティングの構成要素の1つであるデータドリブンにおいても、AIを活用することが可能だ。Web上で紐付けされた消費者のデータが、AIで分析するための「ビッグデータ」に他ならない。

消費者の心理を理解することが重要

マーケティングでは、消費者を理解することが重要である。従来のマーケティングでは、POSデータによって消費者の行動を理解しようとしていた。ところが、消費者の心理までは理解できないという。仮説が偶然消費者の需要と一致することも起こりうる。POSデータだけでは、消費者のニーズを本当につかんでいたのか知りえない。

それではデジタルマーケティングの場合、消費者の心理をどのように理解するのか。消費者の行動データから推測するのは間違いない。重要なのはPOSデータと異なり、購買時以外の消費者の行動もWebデータから明らかになる点だ。GPSを搭載したスマートフォンをもっていれば消費者の行動は蓄積され、IoTに対応したスマート製品を使用しているならば消費者の使用した機器やその使用法まであらゆるデータが紐付けされる。POSデータと比べても、消費者の心理を理解するためのデータ量が桁違いであることは明らかだ。

とはいえ、消費者の心理を知るためには「仮説」が必要である。より精度の高い「仮説」であるほど、消費者のニーズと合致する。たとえば、RET(リアルタイム・エクスペリエンス・トラッキング)と呼ばれる、消費者の心理をリアルタイムで収集する手法が現在進行形で研究・開発されている。ヒューレットパッカードなど米国企業が採用する方法で、ブランドと接触した場所や好感度、それへの欲求などを逐一収集する。これにより、なぜ別の商品ではなくこの商品を選んだのか、本当に欲しい商品は何なのかまで、深いレベルで消費者の心理を理解できるという。

マーケティング領域でのAI活用成功のカギとは

従来のマーケティング手法では、使用頻度や購入態度などの心理変数を用いることで消費者の心理を理解しようとしていた。この手法は不特定多数の消費者を対象にするには好都合だが、消費者それぞれの心理が把握できない。デジタルマーケティングは、まったく逆のアプローチをとる。つまり消費者個人を理解したうえで、心理変数に相当するセグメンテーションを構築していく。この消費者の理解からうまくセグメンテーションを構築できるかが、デジタルマーケティングを成功させるカギである。セグメンテーションの構築にはAIが活用されることは述べるまでもないだろう。

AIにも死角がある

パターン認識など幅広い活用事例があるために、AIが万能であるかのように錯覚するかもしれないが、AIにも死角がある。1つめは、相関関係を見つけることはできるが、因果関係を導くことは不得手な点である。XとYとのあいだに相関があるからといって、2つのあいだに因果関係があるとはいえない。XとY以外の第3項目Zによって、XとYとのあいだにさも因果関係があるように錯覚する場合がある。

マーケティングを例にとれば、XとYが広告と売り上げに相当する。統計学でも因果関係を導けるかが長年の課題であり、それはAIにも当てはまる。

もう1点は、セグメンテーションを導くためのビッグデータが不足せざるを得ないという構造的問題である。消費者の違いや状況依存性など考慮すると、セグメントの数は増大する。そのため、セグメントを導出するのに必要なビッグデータも幾何級数的に増大するので、現状のデータだけでは追いつかない。

デジタルマーケティングのAIへの活用の可能性は広い

AIのビジネスへの活用事例は増加傾向にある。マーケティングもその1つで、デジタルマーケティングの進化によりその手法は従来よりも劇的に変化している。今回紹介したセグメンテーションの構築以外にも、クロスデバイスマッチングやマーケティングオートメーションなど多様な活用事例が存在する。今回取り上げた事例に限るとAI活用成功のカギはビッグデータからセグメンテーションの構築ができるかどうかであり、さまざまな企業が現在進行形で研究・開発に取り組んでいる状況だ。

<関連記事>

マーケティング領域でのAI活用事例3選


<参考>

  1. 営業とマーケティングの現場を“デジタル武装” BtoBデジタルマーケティング手法とは?(日経 xTECH Active
    https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atclact/activesp/17/112900058/
  2. 「Webマーケティング」(人工知能学会誌 24巻4号 山本晶)
  3. 「実践段階を迎えたデジタルマーケティング」(知的資産創造 2015年2月号)
  4. 「デジタルマーケティングにおけるビッグデータ・マイニングの検討」(駒澤大学経済学論集 第47巻第3号 中済光昭)
  5. 「マーケティングと人工知能(AI)」(マーケティング・サイエンス Vol.25 No.1)
  6. 「データは構想に従う」(Harvard Business Review 2014年5月号 鈴木敏文)
  7. 「顧客の反応をリアルタイムで収集する究極の方法」(Harvard Business Review 2013年10月号)
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