【この記事は約 7 分で読み終わります。】

顧客とのコミュニケーションを模索するJALとネスレの事例を紹介

AI(人工知能)を使ったマーケティングが始まっている。JALとネスレは顧客とのコミュニケーションを深めるためAIを使っている。

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する

AI(人工知能)を使ったマーケティングが始まっている。JALとネスレは顧客とのコミュニケーションを深めるためAIを使っている。

チャットボット

【AIマーケティング事例】顧客とのコミュニケーションを模索するJALとネス

消費者の心を読むマーケティングは、さすがのAI(人工知能)も苦手とするところである。しかしより正確なマーケティングを実施するには、大量のデータを集めて分析する必要がある。AIはデータ集めと集めたデータの分析が得意だ。

そこで従来のマーケティング手法を強化する狙いで、AIを活用する企業が現れ始めた。

今回紹介する日本航空(JAL)とネスレは、いずれも消費者とのコミュニケーションを拡大するためにAIを活用している。

JALは「マカナちゃん」でハワイ情報を提供

JALが展開している「マカナちゃん」はハワイ情報を提供するスマホアプリだが、通常の情報サイトと大きく異なるのは、ユーザーが知りたがっている情報を予測して表示するところだ。

マカナちゃんにはAIが搭載されていて、ユーザーが自身の情報を入力すると、そのユーザーが喜びそうなハワイ情報を探すのだ。

豊富な観光資源と多様化した消費者ニーズをマッチングする

JALの狙いはハワイ旅行に付加価値をつけることだ。日本人の海外旅行先として、ハワイは定番中の定番になっている。そのため旅行各社が提供するハワイ旅行は、どうしても似たような企画になってしまう。

しかし、それでも人々が飽きずにハワイを訪れるのは、ハワイの観光業が変化する観光客のニーズをとらえ観光資源を絶えずアップデートしているからだ。

例えば、テレビ番組などでよく紹介されるハワイは、大体はオアフ島だ。高級ホテルが立ち並び、美しいビーチがあり、グルメやショッピングを楽しむことができる。オアフ島はとても懐が深い観光地だが、それでも同じ人が3回も訪れれば飽きがくるだろう。

しかし旅行会社がオアフ島に飽きた人に、雄大な自然が広がり、閑静な雰囲気があり、珍しいマリンスポーツが楽しめるハワイ島をおすすめすれば、「次の海外旅行もハワイでいいかな」と思ってもらえる。

しかしここに、ハワイならではの課題が浮かび上がる。観光資源の開発がこれだけ進むと、ハワイ側が用意している観光資源と旅行者が求めるニーズのマッチングが難しくなる。

JALはこの課題解決にAIを使ったのである。

AIは入り組んだ関係を解きほぐしたり、混乱した関係性のなかから法則を見つけたりすることが得意だ。JALはハワイの観光資源と観光客のニーズのマッチングにAIを利用したわけである。

ハワイ旅行の課題をAIで解決

使い込むほど「あなたの好み」を的確に探せるようになる

マカナちゃんの機能の1つが、チャットボットだ。チャットは人と人がスマホ画面で会話をする機能だが、チャットボットは話し相手がAIを搭載したロボットになる。

マカナちゃんがユーザーに「ハワイのことを質問してね」と問いかけて、ユーザーが「どんなアクティビティがあるの?」と聞いたとする。するとAIは「このユーザーはグルメでも景勝地でもなく、アクティビティを求めている」と判断し、関連情報を画面に表示する。

マカナちゃんは、ユーザーが使い込むほど適切な提案ができるようになる。例えば、マカナちゃんを使い込んだユーザーが「ハワイのアクティビティを知りたい」と問いかけると、マカナちゃんは「あなたは早起きだから、早朝のアクティビティを紹介するね」と答えるようになる。ユーザーが朝型の人間であることを把握して、それに見合った情報を選ぶのだ。

マカナちゃんを「賢く」するのはユーザーだ。マカナちゃんが提供した情報について「参考になった」「参考にならなかった」のいずれかで評価することで、マカナちゃんが学習していく。

マカナちゃんは「写真」や「つぶやき」から学ぶこともできる

マカナちゃんを「賢く」する方法はまだある。ユーザーが、自身のスマホに撮りためてある写真をマカナちゃんに送信すると、マカナちゃんは「その人の傾向」を学ぶ。ゴルフのプレー中の写真を送れば、マカナちゃんはハワイのゴルフ場の情報を提供するようになる。オシャレに着飾った写真を送れば、ハワイのセレクトショップを紹介してくれる。

また、マカナちゃんには性格分析機能もある。フェイスブックやツイッターのアカウントを登録すると、過去の投稿内容を分析してユーザーの性格を「チャレンジャー」「慎重派」「リーダーシップ」「おっとり」「責任感が強い」など9項目で判断する。

この性格分析もハワイ情報の提供につなげている。

例えば、慎重派の度合いが強いユーザーに対してマカナちゃんは「慎重派のあなたは海外のルールやマナーをきっちり守るので安心できます。でもたまにはいつもと違う体験を楽しんでみてはいかがですか」といったアドバイスをするようになるのだ。

3つの機能を駆使してユーザーを知ろうとする

マカナちゃんに搭載されているのは、さまざまなAI技術のうち照会応答機能、性格分析機能、画像認識機能である。

人と話しているような自然な会話ができるチャットボットは、照会応答機能を使っている。照会応答機能は、ユーザーがたったいま使った単語と、事前に学習していたハワイに関する知識を照合して、適切な話し言葉(回答)をつくりあげる技術である。

性格分析機能は、まずは事前に特定の性格と特定の単語を「ひもづけ」しておく。そしてユーザーのフェイスブックやツイッターの文章をAIが読み込み、文章の中から性格に関係する単語をピックアップして、単語の使用頻度を数える。使用頻度が高いほど「その性格が色濃い」と判断するのである。

画像認機能は、ユーザーからすると特に意味を持たないスナップ写真からさまざまな情報を集めることができる。例えば写真のなかの顔を認識するだけでなく、「笑っている顔が多い」「女性の顔が多く含まれている」といったことも次々データ化していき、ユーザーの行動傾向のデータベースをつくっていくのである。

マカナちゃんはこの3つの機能を駆使して、ユーザーの全体像を把握していくのである。

ネスレはAIで問い合わせを増やす

ネスレといえばインスタントコーヒーが有名だが、そのほかにもキットカットなどの菓子類やペリエなどの飲料、マギー・コンソメスープなどの調味材料も手掛ける。

これだけ幅広い商品群を持っていると、マーケティングのターゲットが絞りにくくなる。もしくは部門ごとにマーケティングをしていかなければならなくなる。

部門ごとにマーケティングを展開すると、ターゲットを絞りやすくなるが、使わない情報も増えてくる。例えば、菓子類のマーケティングでは、「甘いものは食べない」と回答した人の情報は必要度が低くなる。

しかし「甘いものを食べない」人の嗜好は、甘みがない飲料であるペリエのマーケティングでは有用情報になるかもしれない。

このように考えると、部門ごとのマーケティングより、全社的なマーケティングのほうが有利になるかもしれない。

こうしたジレンマを解消しようと、ネスレは顧客とのコミュニケーションを増やしている。顧客の問い合わせを受けるネスレVOCセンターのコミュニケーター(コールセンター人員)を500人に増やしたところ、同センターへの問い合わせ件数は、10年前の年数万件から、年100万件に急増した。

顧客対応の15%を自動化

コミュニケーターの増員によって顧客との接点を増やすことに成功したネスレだが、新たな問題が生じた。それは日本経済に大きな影響を及ぼしている人手不足問題だ。

ネスレも、人員確保やスタッフのコミュニケーション能力の向上が課題になった。

そこで2014年ごろから、ネスレはAIの導入の検討を始めた。ネスレもチャットボットの利用に目をつけた。

というのもネスレは2013年から、人のスタッフによるチャット対応を行っていた。顧客からの質問とコミュニケーターたちの回答の記録があったので、これをAIの「教材」にすることができた。

ただ、実際にAIにチャットをさせると適切な回答ができないことが多かった。質問と回答のバリエーションが足りなかったのである。そこで有能な人間のコミュニケーターが質問と回答を追加した経緯がある。

ネスレは2016年11月、AIを使った1問1答形式のチャットシステムの運用を開始した。その9カ月後の2017年8月には、AIチャットシステムによる会話数が15万件に達した。これはネスレ受け付けている顧客からの問い合わせの15%を占める。

つまりネスレは、AIを活用することで顧客とのコミュニケーションを15%自動化できたわけである。これによりネスレは、1件当たりの「問い合わせ対応コスト」を40%も削減できた。AIチャット対応は増加傾向にあるので、コストダウンはさらに進む。

オーダー変更にAIを応用することで一般業務も軽減

ネスレのAI戦略のゴールは、AIチャットだけではなかった。ネスレは無料通話アプリLINEを使った「オーダー変更」サービスをスタートさせた。

ネスレはインスタントコーヒーの直販を行っている。ネスレが顧客に定期的にコーヒーを届けるサービスだが、顧客の要望が変わったときの対応が課題になっていた。そこでAIチャットで、配送頻度や届ける商品の変更を受け付ける「オーダー変更」サービスを導入したのである。

例えば顧客が、月2回の商品配送を月3回に増やしてほしいと考えたら、チャットで要望すれば配送頻度の変更が完了するのである。

さらにこの「オーダー変更」サービスは請求業務とつながっているので、配送頻度や商品を変更すると自動的に請求金額も変えてくれる。

まとめ~AIがマーケティングを変える

JALとネスレの事例は、AIが顧客との接点を増やすツールになることを示している。マーケティングでは、大まかに全体の流れをつかむことと、顧客1人ひとりと向き合うパーソナライズの2つの視点が欠かせない。マーケターによっては、全体像をつかむことが得意でも、個別分析が苦手な人もいるだろう。

しかしAIはビッグデータを分析することも得意だし、個人の性格や趣味などを事細かに分析することもできる。AIがマーケティングを変えていくことは間違いなさそうだ。


<参考>

  1. IBM Watson 活用例(IBM)
    https://www.ibm.com/watson/jp-ja/use-cases/?S_PKG=&cm_mmc=Search_Google-_-Watson+Core_Watson+Core+-+Platform-_-JP_JP-_-+AI+%E4%BA%8B%E4%BE%8B_Broad_&cm_mmca1=000020ZG&cm_mmca2=10000408&cm_mmca7=1009054&cm_mmca8=kwd-407197810956&cm_mmca9=c812215c-b61c-4a9d-9ecb-ce30ea1dd79d&cm_mmca10=255537743727&cm_mmca11=b&mkwid=c812215c-b61c-4a9d-9ecb-ce30ea1dd79d_949_3165
  2. Watson事例 — ハワイに関する情報なら、JALのマカナちゃんにお任せ!(IBM)
    https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/watson-jal-makana2/
  3. バーチャルアシスタント マカナちゃんが、ピッタリなハワイの旅をおススメめします(JAL)
    https://www.jal.co.jp/inter/makana/
  4. ネスレ日本が抱く、10年後のビジネスを見据えたAI戦略とは(IBM)
    https://public.dhe.ibm.com/common/ssi/ecm/wr/ja/wr112350jpja/watson-and-cloud-platform-watson-marketing-wr-article-wr112350jpja-20180409.pdf
シェア

役にたったらいいね!
してください

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する