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少量学習データソリューションを提供するAIベンチャーハカルスとは

スパースモデリングに活路あり! 少量学習データAIソリューションを提供するハカルスを紹介。

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ディープラーニングを利用するAI(人工知能)には、大量の学習データが必要であるというのが、これまでの常識である。しかしジャンルによってはデータを用意できない場合もある。ハカルスは、この問題を「スパースモデリング」技術で解消した。その概要を紹介する。

AIベンチャー_ハルカス

AIベンチャーのハカルスとは

株式会社ハカルスはヘルスケア関係のAIベンチャー企業として2014年に創業した。本拠地は京都市である。

ハカルスは法人向けに食事や運動の記録を取り、改善指導を行うアプリを提供する一方、ヘルスケアや医療に特化したAIを開発、提供している。しかしこのジャンルでは大量のデータを用意することが難しい場合があるため、少ないデータでも精度のよう解析を行う必要がある。

近年はこれをスパースモデリングという技術を使ってクリアしようという研究が数多く行われており、ハカルスはこれをいち早くビジネス分野に取り入れた日本の企業と言うことができる。ハカルスはこの技術を利用することで、ヘルスケア以外にも、ドローン映像の解析や、商業施設での人の流れを予想するといった解析を行い、ビジネスを行っている。

ハカルスのサービス詳細と活用事例

ハカルスは元々ヘルスケア関係を中心としたAI利用をサービスとして提供しているため、医療系の画像解析を中心にサービスを行っている。特に医療・ヘルスケア分野では、法人/団体向けに食事運動記録と改善指導を行うヘルスケアサービス「HACARUS Fit」を展開している。食事内容とその重さをアプリから送信すると、専門の栄養士が食事の改善指導をするというサービスである。これはサービスIDに紐付ける形でデータの収集・解析を行っているため、アプリの利用にはサービスIDをHACARUS導入機関などから取得する必要がある。

さらにこれをプラットフォーム化し、導入した企業が自らシステムを開発可能な「HACARUS Fit Platform」を2018年3月から提供している。これは「要望を迅速かつ低コストで満たすことのできるツール」であり、「ヘルスケアサービス開発で培ったハカルスの豊富な実績と知識」と、「人工知能キット HACARUS-Xとの連携で高度な解析と予測が可能」という、大きな3つの特徴を保有している。これにより、「医療の実証実験・リサーチのプロセスを効率化したい」などのニーズを満たすソフトウェアを自社で構築できるようになる。

その他、ハカルスではこの分野で培ったスパースモデリングという技術を基に、画像の高解像度化を他のジャンルにも提供している。その一つが、ドローンの空撮によって得られた建物の外壁画像データから、補修が必要な部分を検知するというサービスである。本来であれば丁寧に数多くの画像を撮影しなければならないが、スペースモデリングによって、数枚の画像から補修カ所を特定できるようにしている。

また、画像のみならず、人の行動予測にもスパースモデリングを応用している。商業施設などは定点カメラでデータを集め続けると、精度は高くなるがデータが膨大になりすぎるという問題が発生する。ハカルスはそれを少ないデータでも行動予測を行うのに利用できるようにしているのだ。

「スパースモデリング」のメカニズム

ここで利用されているスパースモデリングとは、どの様な技術であろうか。少ないデータから元に復元するというのがどういうことなのかを紹介しよう。

スパースモデリングは、何もないところから勝手にデータを生み出すようなしくみではない。従って、スパースモデリング技術さえあれば、魔法のようにデータができあがるわけではない。あくまでもデータが足りない場合、もしくは欠損している場合、解像度が足りない場合に、それを補う技術である。

この技術で重要なのは、不足している、もしくは欠損しているデータを補う方法である。実はスパース(Sparse)というのは「すかすか」「少量の」という意味である。スパースモデリングでは、この「すかすか」状態のデータは、本来はしっかりしたデータがあったのにもかかわらず、諸々の事情により「すかすか」になってしまっていると考える。例えば、しっかりとした解像度で撮影できれば映っていたはずのものが、解像度が足りないためにはっきりとは映らず、背景にそれが埋もれてしまっていると考えるのだ。

想像しやすくするために、画像を使って考えよう。例えば図1のような写真であれば、どこか一部が欠けたとしても回りの色に近しい色で塗ってしまえば、そう違和感のない状態に戻せるというのは理解しやすいのではないだろうか。逆を言えば、ファイルの容量を下げようと思えば、ある点の周辺の色がほぼ同じなのであれば、「このあたりは同じ色である」という形で情報を保存することで、本来の情報量よりも少ないデータで、同じレベルの画像を作成することができる。実はこの方法を取り入れているのがJPEG形式の画像ファイルである。

AI_画像

図1サンプル

音楽ファイルで言えば、人間が聞こえない周波数をカットしたり、大きな音の直後にある小さな音は人間の耳には聞こえないため、カットしてしまい「すかすか」化させている。それによってデータ量を小さくしているのだ。

スパースモデリングは、このJPEG画像や、小さくした音楽ファイルから、元の情報を復元しようという試みだと言っても良い。だが、元の状態を知らないまま復元を行うため、様々な状態でのデータが「復元データ」としてできあがる可能性がある。もちろん全ての復元データが正しいわけではない。従って、何らかの仮定を置くことで、復元データの内どれが本来の実データであるかを見極めることとなる。

低解像度であるということは、図2や図3のように、本来なら別々の画素として独立しているべき近隣画素の情報が一つに混ざり合った状態と言える。逆を言えば、含まれていない情報が混ざり込むことはないし、周辺の画素の情報しか混ざらないわけであるから、図2で言えば真紅やレモンイエローなどが混じる可能性はない。その上で、あるピクセルの画素を復元するのに、混ざったと考えられる範囲を変えながら、もっともらしい復元を行う。

AIベンチャー画像

右から順番に高画質から低画質になっている。

スパースモデリングでは、このように元のデータを復元する場合において何の意味も持たない情報を排除し、ありえると考えられる仮定をすることで正しいと考えられる情報を復元する。図3の場合、最も左のデータから復元するのは難しいが、真ん中のデータであれば、画面の下の方が暗く、右上エリアが最も明るい。そこから復元されうる一つの可能性が、最も右のデータである。もちろんこれが正しいかどうかはわからないが、仮定によってはこれが正しいということもあるだろう。少なくとも正しいデータに近い状態にはなっているであろう。

このように仮定を置いてスパースモデリングを行うことは、人間にとっても良い効果をもたらす。なぜならば、ビッグデータのように大量のデータから情報を引き出そうとすると、AIがどうしてそのような判断をしたのかがわかりにくいが、スパースモデリングを併用することにより、どの様な情報が重要であり、どの様な情報は重要ではないのかを仕分けられるからだ。これはAIの結論を理解する上でも役に立つのだ。

「スパースモデリング」の応用分野

スパースモデリングは画像のデータ欠損を修復する以外にも、応用されている。例えば天文学の世界では、夜にしか観測できない、さらには曇ったり雨が降ったりした日は観測ができないため、かなり取得できるデータが限られてしまう。しかし、ないものねだりをしても仕方がないので、天文学者は取得できたデータのみで、正しい情報を引き出すしかない。そこで、これまでの知見からあり得そうな(物理学的または天文学的)仮定をし、また観測機器の特性などを考慮してスパースモデリングを行っている。

また地球物理学、特に地震についても、観測点が限られていることから取得できるデータが「すかすか」になっているため、地震を引き起こした地球の内部構造を得られたデータから引き出すのにスパースモデリングを使用している。

さらに、2016年には5分に一回取得する携帯GPSのデータから、人間のリアルタイム行動予想を行う研究なども行われている。ハカルスでも似たようなサービスを行っているが、こちらのGPSのデータを利用するものは、タクシーの配車などへの応用が期待されている。

まとめ

株式会社ハカルスは、ヘルスケア部門を中心に「HACARUS Fit Platform」などを展開する企業である。そしてビッグデータを得にくいジャンルで利用できる「スパースモデリング」という技術を使い、少ないデータでもAIを活用できるように技術開発を行っている。

AIを活用しようとすると、どうしてもビッグデータとの相性であるとか、データの収集・蓄積をどのようにするのかという問題点に突き当たることがあるが、少量のデータでも活用出来るスパースモデリングを利用し、AIと上手く併存させてりようするというのは、今後発展する可能性がある。そういう意味では、ハカルスはこの分野を先導する企業となるのではないだろうか。


<参考>

  1. 株式会社ハカルス
    https://hacarus.com/ja/
  2. 技術トレンドが見える“イマ旬!”(NTT DATA)
    http://www.nttdata.com/jp/ja/insights/trend_keyword/sparse_modeling.html
  3. 大量データに頼らない:スパースモデリングによる情報抽出(NTT DATA)http://www.nttdata.com/jp/ja/insights/trend_keyword/2016081801.html
  4. スパースモデリング技術を基盤とするAIベンチャーハカルス社へ出資(大原薬品工業株式会社)
    http://www.ohara-ch.co.jp/corporate/news/2018/pdf/20180712_01_info.pdf
  5. Hacarus Fit(App Storeプレビュー)
    https://itunes.apple.com/jp/app/hacarus-fit/id1105200287?mt=8
  6. 今日から分かるスパースモデリングと深層学習(京都大学)
    http://www-adsys.sys.i.kyoto-u.ac.jp/mohzeki/Presentation/Tokyodat20160218_web.pdf
  7. スパースモデリング ~少量データから画像を復元~(IMACEL ACADEMY)
    https://lp-tech.net/articles/NOOzI
  8. スパースモデリング(Wikipedia)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0
  9. スパースモデリング入門(Linked in/SlideShare)
    https://www.slideshare.net/hideoterada5/ss-55178990
  10. スパースモデリング(Linked in/SlideShare)https://www.slideshare.net/harapon/ss-80936749
  11. 最適制御とスパースモデリングhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/essfr/10/3/10_176/_pdf/-char/ja
  12. 天文屋のための How to スパースモデリング
    https://home.hiroshima-u.ac.jp/uemuram/?page_id=234
  13. スパース推定における情報量規準
    http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/2018-09.pdf
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