建設現場での労働災害対策としてAI(人工知能)を利用するケースが増えている。
AIは人の動きを撮影した動画をから「何をしているか」がわかる。そこでAIに「こういう場所でこういう行動を起こすとこういう事故を起こしやすい」と教えると、建設作業員たちの行動の危険度を計算できるようになる。
安全対策AIは、危険行動と判断した作業員の情報を、安全管理の責任者に知らせる。責任者が作業員を注意すれば、事故を未然に防げるというわけである。
建設業界が「AI安全対策」を切望する背景と、実際の建設現場でのAI活用例を紹介する。
続きを読む建設業界が「AI安全対策」切望する理由
厚生労働省によると、2017年の建設現場での労災による死亡者数は323人で、前年の294人より1割近く増えている。
死亡事故の原因は多い順に墜落・転落、交通事故、崩壊・倒壊、はさまれ・巻き込まれ、となっている。
こうした悲惨な事故が建設現場で起きている背景には、空前の建設ラッシュがある。2020年の東京五輪特需だけでなく、リニアモーターカー建設や大阪万博、首都高速道などの修復工事、災害復興など、公共工事も民間工事も増えている。
しかも建設会社は慢性的な人手不足に陥っている。
工事の遅れを取り戻そうとしたり、ベテラン作業員が不足したりすることで、安全意識が低下して事故につながっている、との見方がある。
建設現場の安全は最早「人だけ」では守れない状況といえる。そこで最新の科学技術であるAIに白羽の矢が立ったわけである。
建設業界での「AI安全対策」
建設業界では小さな油断や気のゆるみが大きな事故を生む。例えば、建設現場での死亡事故原因1位の墜落・転落は、わずか1歩の間違いで起きることもある。
そこで建設業界ではKY活動を徹底している。KYとは危険予知の略である。
建設現場では「危険が顕在化」すると大事故になるので、危険を予知して「危険を潰す」必要があるからだ。KY活動は作業員の命に直結しているといっても過言ではない。
そこで建設業界のAI安全対策でもKYに重点を置いたものが多い。
AI安全対策の具体事例をみていこう。
労災リスクを予測するHAio
製造コンサルティングの株式会社平山(本社・東京都港区)は2019年7月、AIを使った労働災害防止支援サービス「HAio(ハイオ)」の提供を開始した。
ハイオは作業員の状態をAIが分析し、作業上のリスクを予測して職場長や本人に知らせるシステムである。ハイオは建設現場のような、小さな油断が大事故につながりかねない作業場での使用を想定している。
ハイオを導入した建設会社の作業員たちは、自身のスマホに専用のアプリをダウンロードする。そして作業をする前に、気分を入力したり簡単なテストに解答したりする。
建設会社では、作業員たちの性別や年齢、主な作業内容、残業時間、勤続年数、その日の気温、過去の事故の記録といったベースとなる情報をハイオに登録しておく。
ハイオのAIは、作業員たちの日々の入力と、ベースとなる情報から、その作業員のその日の作業の危険度を算出し、建設会社や本人にメールで知らせる。
ハイオが特定の作業員について「労災発生のリスクが高い」と判断すれば、建設会社はその作業員を休ませることで事故を予防できる。
NTTは遠隔地から安全を管理する
NTTアドバンステクノロジは、安全を管理する責任者が現場にいなくても、遠隔操作で作業員たちを見守ることができるAIシステムを開発した。
NTTの安全管理システムではまず、建設作業員たちにバイタルを測定するウェアラブル端末を身につけさせる。バイタルとは体温や脈拍や血圧などの健康指標のことである。
バイタルの数値はリアルタイムで遠隔地にいる安全管理者のパソコンに送信される。ウェアラブル端末には位置情報や加速度センサーも取り付けられているので、例えば作業員が現場で熱中症で倒れて階段を転落した、といった事故も瞬時に安全管理者が把握できる。
クアトロアイズは重機を強制停止する
大林組は2018年にクアトロアイズというAI安全管理システムを開発した。クアトロとは「4つの」という意味で、アイズは「複数の目」という意味だ。
クアトロアイズには4つの監視カメラ・レンズが取り付けられている。これを、ショベルカーなどの重機の「天井」に取り付ける。クアトロアイズは作業員たちのヘルメットの形状から「近くに人がいる」ことを認識することができる。
この認識にAIの画像認識機能を使っている。
そして重機の操縦者が、死角に入った人に気がつかず作業をしようとすると、クアトロアイズは強制的に重機を停止して安全を確保する。
クアトロアイズは導入コストの安さが売りだ。AIが作業員を「作業員である」と認識できるようになれば「どの作業員」が現場にいてもそれを認識できるようになる。
ヘルメットにICタグを貼り付けてセンサーで検知するより手間もコストもかからない。
非AIでKYするAISION
沖電気工業のAISIONはAIを使わない非AIタイプのITで建設現場の危険を見つけ出す。
例えばAISIONをクレーンに取り付けると、クレーンが吊り上げている荷物の下に人が通った場合、クレーンオペレーター(操縦者)に知らせることができる。
AISIONには画像センシングモジュールというセンサーが搭載されていて、これが「目」となって人をみつける。
まとめ~AIに「大目にみて」は通用しない
建設現場の高所でする作業員の全員が、そこから落ちたら大事故になることを知っている。しかも建設会社は事故を起こさないように安全策を講じている。
それでも事故が起きるのは、人はどうしても油断してしまうからである。――と、このようにいうと、作業員たちに大きな非があるように聞こえるかもしれないが、そうではない。
建設作業員たちが行ってしまう油断は、どの業界のどの労働者もやっている。しかし仕事によっては、いくら油断しても死亡しないどころか、かすり傷すら負わない。
人が自分の油断をゼロにすることは不可能である。そうであるならば、危険な仕事をしている建設作業員たちを、最新技術で守っていかなければならない。
AIは油断を見逃さない。
作業員が「これくらい大目にみてほしい」と感じても、AIは危険を検知したら警告したり管理者に通報したりする。
AIの「妥協なきKY」が作業員の安全を増やすことを期待したい。
<参考>
- 人工知能(AI)を活用した労働災害防止支援サービス「HAio」を7月16日提供開始(平山)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7781/tdnet/1727618/00.pdf - 作業員の安全管理サービス(NTTアドバンステクノロジ)
https://www.ntt-at.co.jp/product/datasol_024/ - 作業員の接近を検知して建設重機との接触を防止する安全装置「クアトロアイズ」を開発しました(大林組)
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20180725_1.html - 建設業界の労働災害の防止に貢献する、映像IoTを使った対策法(沖電気工業)
https://www.oki.com/jp/iot/doc/2019/19vol-01.html
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