AI研究に力を入れるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)。各企業ともWeb上に送受信されるビッグデータを保有し、それらは宝の山をもたらしている。
とりわけSNS上のビッグデータは膨大で、その分析にはAIが不可欠だ。そこでSNSのユーザー数を最も抱えるFacebookが実施するAIの取り組みを確認していこう。
続きを読むSNSとAIの相性について
Web上でユーザー同士のつながりを生むSNS
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とは、Web上で社会的なネットワークを構築するサービスを指す。インターネット黎明期にはE-mailのような手段でしか個人同士がつながりをもてなかったが、SNSの登場によりユーザー同士が簡単に連絡可能になり、Web上のソーシャルコミュニティの形成に寄与した。現在では、FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSが普及し、そのアカウントを多くのユーザーが利用する。
とりわけFacebookは、普及しているSNSのなかでも最大規模のサービスである。マーク・ザッカーバーグ氏がハーバード大学在学中に学生が交流を図るためのサービスとして、Facebookが開発された。その後Facebookは世界最大のSNSへと発展し、現在約15億人のユーザーを抱えている。
SNSの特徴は、言語や音声、画像などの情報の受信や発信が主である。これらのデータは、人間には処理しきれないほど莫大な量に達している。このようなビッグデータを処理するポテンシャルをもつのが、AI(人工知能)である。
SNSに送受信されるビッグデータを操るAI
AIが隆盛を極めるようになった一因は、人間では処理しきれない量のデータを効率よく捌けるからだろう。2012年には画像認識のコンテストで、AIの代表格であるディープラーニングが圧倒的なスコアで優勝した。画像に含まれる膨大なデータを入力し、機械学習することで、人間には気づきにくい法則性が発見できる。画像認識のほかにも、音声認識や言語処理など、パターンを発見することにディープラーニングは長けている。つまり、AIを活用すれば、SNSで流通するビッグデータが効率よく処理されるのだ。
事実、SNSなどインターネット上に流れるテキスト情報をもとに、株価などの金融指標の予測の研究が盛んになっている。AIを活用した株価予測として、株価の変動を時系列解析によって予測する手法が研究・開発されているが、Twitter等のSNSでの投稿から投資者心理などの予測が行われている。つまりSNSを流通するビッグデータを使えば、AIを活用しマネタイズが可能になるのだ。
AIをふんだんに活用するFacebook
Facebookに限らず、SNSはAIなしでは存在しえない。SNSに表示される投稿には、不適切なものやスパムが含まれるのが原因である。SNSの投稿だけでも莫大なデータ量があるため、それをフィルタリングするためにはAIによる機械的な処理が不可欠である。
FacebookはAIの研究機関として「Facebook AI Research(FAIR)」を創設した。AIの研究者集団であるFAIRの使命は、AIの最先端技術を研究し、社会全体のAI技術の底上げを図ることだという。FAIRの研究成果はオープンソースで公開されるなど、利益を追い求めず視野の広い取り組みをFacebookは行なっている。
人工知能をInstagramの投稿とハッシュタグで使って訓練
FacebookのAIへの取り組みの歴史
Facebookはかなり以前から、AIを駆使したデータマイニングに着手していた。たとえばあるユーザーのフレンドリストに載っている友人の顔写真を画像解析し、それを氏名とひも付けしていたという。このような人物特定により、次回新しい写真が公開されると、システムがその写真を画像解析し、自動で誰が映っているかが表示できる。ただしこの顔認識機能は2012年夏ごろに、欧州の規制当局によってクレームがつき、全世界で停止された。だが水面下では、Facebookは同サービスを改良し復活に向けた取り組みを続けていた。
Instagramを使った画像解析の実験
Facebookは2018年に、画像解析の実験を実施した。Facebookが実験に用いた手法は、「転移学習」と呼ばれる機械学習の一種である。転移学習とは、ある領域で学習させたモデルを別の領域に適応させる技術を指す。少ないデータで高精度の学習結果が得られることから、転移学習が注目されている。Facebookが実施した実験では、Instagramの画像で訓練したモデルを別のタスクに適応し、微調整が可能になるという。
画像解析の実験場となったのが、Facebookが買収した人気SNSのInstagramだ。Instagramに投稿された35億枚の写真と、ユーザーが付けた17,000件のタグを使って、画像分類アルゴリズムを訓練したというのだ。「猫」や「車のタイヤ」、「クリスマスの靴下」といった1,000のカテゴリーに画像を分類させたところ、85.4パーセントという高い正答率が得られた。Googleが2018年初頭に実施した同様の実験での正答率は83.1パーセントであり、Facebookの結果はこれを上回っている。
不適切な写真をAIが監視
Facebookでは、コミュニティの安全性を確保するために、AIを活用している。その代表的なのが、コンテンツ・フィルタリングだ。Facebookには1日10億回もの写真が投稿されるが、これらにはポルノや犯罪、暴力に関するものが含まれている。FacebookはAIを活用して、投稿が不適切であるかを判別している。
コンテンツ・フィルタリングに類した試みとして、自殺をほのめかす投稿やフェイクニュースの検出も行なっている。2016年のアメリカ大統領選挙のときに、ロシアがFacebookにフェイクニュースを大量に拡散させたと伝わるが、いまやフェイクニュースは世論に大きな影響を及ぼす。このような不適切な投稿を取り除くために必要になるのが、AIである。またフェイクニュースの検出ではないが、自殺をほのめかす投稿について検出する機能も2017年に開始した。自殺の意思を示す可能性が高い投稿やライブストリームだけでなく、「大丈夫?」などいった投稿へのコメントも自殺の兆候としてFacebookは把握する。これにより、見逃されていたかもしれない動画を特定できた事例もあったという。
ルーモス(Lumos)
もともとFacebookは傘下にInstagramを置くなど膨大な写真データを保持するため、画像認識系のAIにアドバンテージがあった。Facebookはさらに、検索機能にAIの画像認識技術を追加し、検索機能を大幅にアップしたシステムを開発した。それが「Lumos(ルーモス)」だ。
写真を検索するために従来活用されていたのが「タグ」である。写真の説明として「旅行」「楽しい」「海外」などのタグをユーザーは投稿の際に付ける。このようなタグが写真になければ、キーワード検索は従来行なえなかった。他方Lumosでは、タグのない場合でも、自由なキーワードで目当ての写真や動画が検索可能になる。
視覚障害者用に開発されたLumos
Lumosは元来、視覚障害者のためにFacebookに投稿された写真を知らせる目的で開発されたシステムだ。「オートマチックオルタナティブテキスト(ATT)」と呼ばれる視覚障害者がFacebookにログインすると、ニュースフィードを読み上げる機能にLumosは採用されていた。
写真に映った物体や内容までLumosが把握
Lumosでは、Facebookに投稿される写真にどのような物体が映っているかが、ディープラーニングによって自動的にカテゴリー別に振り分けられる。写真内にどのような対象が映っているかだけでなく、どのような内容が込められているかまで、Lumosは把握できるという。たとえば「楽器を演奏する人」のような複雑なキーワードを使っても、自動的に該当する画像が検索できる。
ただしLumosはアメリカのみのサービスで、日本では利用できない。今後は多言語対応するだけでなく、動画への適用も検討しているという。
まとめ
Facebookの売り上げの99パーセントは、モバイルからの広告収入だ。売り上げの7割強hは欧米だが、利用者の7割はアジアだという。そのため、利用者が多いが収益に結び付いていないアジアや新興国のマネタイズが、Facebookの課題である。
Facebookのもつ情報は宝の山であり、それをAIによって有効活用される可能性が開かれている。今後は、マネタイズの手段の模索とAIとのリンクが期待されるだろう。
<参考>
- 転移学習とは(フリエン)
https://furien.jp/columns/344/ - フェイスブックの人工知能は、Instagramの投稿とハッシュタグで賢くなる(WIRED)
https://wired.jp/2018/05/12/instagram-photos-training-facebooks-ai/ - フェイスブックのAIがぶち当たった「限界」(東洋経済オンライン)
https://toyokeizai.net/articles/-/205816 - Facebookが画像検索にAIを導入で大幅機能アップ!(grape)
https://grapee.jp/294647 - FacebookはAIなしに存在しない(日経ビジネス)
https://business.nikkei.com/atcl/report/16/030800018/122600442/ - Facebookが写真に映る人間の感情・内容を読み取る人工知能「Lumos」を開発
https://roboteer-tokyo.com/archives/7847 - Facebook、自殺を示唆する投稿をAIで検知へ(CNET)
https://japan.cnet.com/article/35111034/ - 「経済情報に関心をもつSNSユーザの投稿内容に基づく株価騰落予測モデルの構築」(『知識ベースシステム研究会』No.108)
- 『徹底研究!!GAFA』
- 『クラウドからAIへ』(小林雅一 著)
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