【この記事は約 7 分で読み終わります。】

西野教授のAIは「新たな“視る”世界」を切り拓く~京都大学と京大オリジナルの取り組み

京都大学の知見を活用した京都大学100%出資のコンサルティング会社「京大オリジナル株式会社」と「京都大学情報学研究科知能情報専攻」が主催するAI講座の講師で、AI研究の第一人者の西野恒・京大教授の「新たな“視る”世界」を紹介する。

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する

京大オリジナル株式会社をご存じだろうか。京都大学の100%子会社で、京大の知見を使って企業などにコンサルティングサービスを提供している会社である。

この記事では、京大情報学研究科知能情報専攻の教授(知能情報学)であり、AI(人工知能)研究の第一人者で、京大オリジナルと京都大学情報学研究科主催の人工知能講座の講師でもある西野恒氏のAI画像認識技術について紹介する。

AIの画像認識はすでに、群衆のなかから特定の人物をみつけ、製造工場で不良品を検知する能力を身につけている。西野氏のAIの画像認識はさらに、人の外見から心を推測したり、物質の性質を予測したりすることを目指している。ただ見るだけではなく、知覚として「視る」というその「新たな“視る”世界」をのぞいてみよう。

またAIビジネスに乗り出している企業は、京大オリジナルと京都大学情報学研究科主催のAI講座によって西野氏の研究にアクセスすることができる。

京大オリジナルの狙いも紹介する。

京都大学AIセミナー

京大オリジナルとは

京大オリジナルは2018年6月に設立されたばかりの会社で、本社は京都市にある。東京都千代田区にも拠点を置いている。資本金は5,000万円。主な事業は産学連携のためのコンサルティングと研修・講習サービスである。

産学官連携や大学発ベンチャーなど、大学の知を経済活動に活かす動きは定着した感があり、京大オリジナルも基本的には同じ流れを汲む。

京大オリジナルは、京都大学の研究成果を活用し、「ビジネスの種」を企業に提供して対価を得る。そして京大オリジナルは、利益の一部を京都大学に還元し、研究環境の整備に活用する。

京大オリジナルは特許以外の権利化されていない研究も含めた、京都大学約3000名が持つ「知」を整理し、産業界や社会とつなぎ、企業の経営課題や社会課題に対して価値を提供する。新たな産学連携の形を模索する会社である。

「人を視る」「物を視る」「よりよく見る」とは

西野氏は、「人を視る」「物を視る」「よりよく見る」ことをAIにさせようとしている。

冒頭でも紹介したが、AIの画像や物体を識別する能力はすでに、一部では人間の能力を超えている。例えば数万人がいる空港のなかで、サングラスにマスクをした指名手配犯を見つけることも、今のAIなら可能である。

では西野氏は、これだけ優れたAIの画像認識能力を、どのようにパワーアップしようとしているのだろうか。

西野教授について

西野氏は東大・情報科学専攻博士課程を修了した理学博士で、ドレクセル大学(アメリカ)教授や国立情報学研究所・客員教授などを歴任してきた。

現在の研究テーマはコンピュータビジョンである。コンピュータビジョンを一言で説明するなら、コンピュータの視覚である。

西野氏が行っているのは、コンピュータビジョン、すなわちコンピュータに知能的な視覚を与えるための理論的基盤とその実装、ならびに、そこから得られる知見の人間の視覚機能の解明への応用に関する研究である。主に機械学習や光学を道具とし、単純に画像や映像を効率的に消費するための手段にとどまらない、ただ見るだけではなく、知覚として「視る」ためのコンピュータビジョンの実現を目指している。

それでは次に、西野氏が何をどのように「視(見)ようとしているのか」紹介する。

人を視る

人の見た目(外観)にはどのような情報が隠されているだろうか。少なくとも、性別、身長、体重、ファッションなどは誰でもすぐに推測できる。

そしてこうした外見的属性は、現代のAIでも識別することができる。

しかし人の見た目には外見的属性以外の情報も含まれている。

例えば、こちらをにらみつけながら右腕を振り上げてこぶしを握っていれば、そこには「怒っている」「殴ろうとしている」といった、今の感情の情報や次の行動を予測させる情報が含まれている。

人の見た目から感情情報を読み取り次の行動を予測することが、西野氏の考える、人を視ることである。

西野氏は、人混みの動画を分析し、そのなかの人々がどのように動くのかを予測する研究に取り組んでいる。そして今、「人々が何を見て、何を意図するのか」や「何を意図すると、このように動くのか」などを見た目から理解できるようにしたいと思っている。

物を視る

なぜ人間は「透明な板」を見ただけで、ガラスなのかプラスチックなのかわかるのだろうか。また、アスファルトを見ただけで硬いと認識し、雨上がりの舗装されていない泥道を見ただけでぬかるんでいる、とわかるのはなぜだろうか。

もしくは、自動車を見ただけで、バンパーはボディより柔らかいと、わかるのはなぜだろうか。

それは人の視覚には素材を認識する能力があるからである。

西野氏は観察対象の物体が放つ光の状態や、反射特性、物体形状などから、コンピュータにも「物を視る」力を搭載しようとしている。

コンピュータが物体を「視ただけで」物理的及びセマンティックな情報を予測できるようになるわけである。

よりよく見る

AIの研究開発では、人の能力をコンピュータで再現できないか、というアプローチが取られることが多い。

例えば、世界で最も難解なボードゲームである囲碁で勝利する人間の能力を、AIで再現できないか、といったようにアプローチである。

例えば、人間のドライバーは、周囲の環境を見てその視覚情報を駆使して安全運転を行う。自動運転車の開発者たちは、AIに人と同じように注意して運転させようとしている。

しかし西野氏の「よりよく見る」研究は、人間の見え方にこだわらない「見方」を追求している。

人間は両目を使って、可視光範囲内で見ているが、単にこのような撮像系に限られる必要はない。なぜならコンピュータの「見方」は、人の見え方に限定される必要はないからだ。より豊かな視覚情報を得るための、情報処理が一体化された新たな撮像システム(コンピュテーショナルフォトグラフィ)も有効である。西野氏は、近赤外光と光の散乱に着目して「新たな見方」を追求している。泳いでいる魚などの水中の物体の実時間3次元撮像や、半透明物体の内部における光の逐次伝搬の撮像もその例である。

 京大オリジナルの講座とは

西野氏が研究している「3つの視(見)る」ことは、IT企業や電子機器メーカー、AI開発企業などがつくっている製品やソフトウェアにブレークスルー(革新的解決策)をもたらすかもしれない。

そこで京大オリジナルでは、京都大学情報学研究科知能情報専攻とともに、企業のビジネスパーソンたちが気軽に簡単に西野氏の知に接触できる機会をつくっている。

そのひとつが2019年9月から行われる「『人を知る』人工知能講座」である。数十年に渡る知能情報専攻の最先端の研究内容に基づいた「人を知る」人工知能にまつわる講義と演習を提供する講座である。

講座の開講に先んじて行われた「東京オフィス・京都アカデミアフォーラム 『人を知る』人工知能プレ講座」では、午前10時から午後16時まで、西野氏を含む9人のAI専門家が講義を行い、多くの企業が参加したそうだ。産業界も、その動向を気にかけている証であると言える。

プレ講座では、西野氏は「コンピュータで視る」について30分ほど話をした。その他のテーマと講師は以下のとおりは以下のとおり。

「コンピュータで言葉を理解する」黒橋禎夫氏

「コンピュータで聴く」河原達也、吉井和佳氏

「脳から心を読む」神谷之康氏

「AIでひとの心を知る」熊田孝恒氏

「会話からコモングラウンドへ」西田豊明氏

「構造でデータを探る」山本章博氏

「機械学習~学習する人工知能」鹿島久嗣氏

この日の全体テーマは、「AIと人の知能との関わりを理解して、企業がどのように『人を知るAI』を活用していくか」だった。

企業のAIニーズに対して京大のAIシーズやAIソリューションを提供しようという趣旨である。

9月から始まる本講座では、プレ講座では触れられなかった最先端研究、研究分野の動向も含めて、なかなか普段は触れられない貴重な情報が提供される予定である。

まとめ~米中に追いつき追い越すために

AIの実用化分野では、アメリカがトップを走り、中国が猛追し、日本が引きなされつつあるといった構図が定着しつつある。このままでは日本は、万年3位に甘んじることになりかねない。

一方でAIの基礎研究分野では、京大を始め日本勢が貢献している。

したがって、AIの実用化やAIを活用したビジネスモデルの構築を急ぐ企業は、基礎研究の知見を短時間で実用レベルに変換していく必要がある。そのためには最先端の研究にアクセスしなければならないだろう。

京大オリジナル、京都大学が、西野氏をはじめとする「京大のAIの知」にアクセスできる機会を設けていることは、AI企業にとってはビジネスチャンスといえる。今回登壇する教員は、色々なタイムスパンでの研究、10年から数年先を見据えた長期的視点に立った基礎研究から、来年にでも実装ができて世に出せるかもしれない応用技術にいたるまで、社会適用につなげていこうという意向も高い。 今回の講座をきっかけとして先の技術を一緒に作り出していく産学連携を促進していくことが日本のAIのレベルの向上には大きな意味をなすといえるであろう。

京大オリジナルの佐々木剛史社長は「大学の基礎研究が産業界の発展に寄与し、その果実により大学の研究力が強化され、さらなる産業界の発展へと繋がっていく、そのような好循環を生み出す推進力となる」と述べている。

京大オリジナルは、京大経済圏の好循環をつくろうとしている。したがって企業がこれに「乗れば」自社の経済圏を好循環させることができるかもしれない。

(肩書は2019年7月現在)

<参考>

  1. 「人を知る」人工知能講座(京大オリジナル株式会社)
    https://www.kyodai-original.co.jp/jinkouchinou/about.html
  2. 京大オリジナル株式会社(京大オリジナル株式会社)
    https://www.kyodai-original.co.jp/
  3. 会社概要(京大オリジナル株式会社)
    https://www.kyodai-original.co.jp/?page_id=65
  4. 西野恒Nishino, Ko(京都大学教育研究活動データベース)
    https://kyouindb.iimc.kyoto-u.ac.jp/j/pY3mQ
  5. コンピュータで視る(西野恒)
    http://www.ist.i.kyoto-u.ac.jp/content/tokyolectures/TokyoPre19_IST10.pdf
  6. コンピュータビジョン分野(京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻)
    http://vision.ist.i.kyoto-u.ac.jp/  
  7. 「人を知る」人工知能 プレ講座(京都大学)
    http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/events_news/department/sankangaku/events/2018/190125_1635.html
  8. 大学の「知恵を力に」(京大オリジナル)
    https://www.kyodai-original.co.jp/?page_id=117
シェア

役にたったらいいね!
してください

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する