AI(人工知能)の初学者が関連情報や資料を集め始めると、機械学習(マシンラーニング)とディープラーニング(深層学習)という言葉を頻繁に目にすることになるだろう。両方とも「学習」と付いているうえに、両方とも似たシチュエーションで使われている。
したがって両者を意識的に区別しないと、機械学習もディープラーニングも「なんとなく同じ言葉」と理解してしまうことになる。
それではAIを正確に把握することができない。
この記事では、機械学習とディープラーニングは、何が同じで何が違うのかを明らかにする。
続きを読むディープラーニングは機械学習の一種で機械学習はAIの一種
AI、機械学習、ディープラーニングの3つの概念を一気に理解するには、次の2つの概念図が役立つだろう。
まず概念図Aであるが、ここからは1)機械学習はAIの一種であり、2)ディープラーニングは機械学習の一種であることがわかる。
そのため、AI関連の記事や資料を読み込むとき、ディープラーニングという言葉を機械学習やAIに置き換えても意味が通じることがある。また、機械学習という言葉をAIに置き換えても意味が通じる。
しかし、記事のAIという言葉を、機械学習やディープラーニングに置き換えると、間違った文章になってしまうことがある。
この3つの言葉は「AI」と「機械学習とディープラーニング」にわけるとよい。AI=動物、機械学習=ネコ科、ディープラーニング=ライオンと置き換えてみよう。動物は、植物以外の生物のことなので、とても大きな単語である。しかしネコ科となると、かなり対象物が絞られてくる。ライオンにまで対象を絞れば、アフリカにいる最強の肉食動物のみを指すことになる。
次に概念図Bであるが、これは3つの言葉がいつ現れたのかを示したものだ。最初に世の中に現れたのはAIである。AIは当初、「機械が人のように考えたり話したりすることは可能なのだろうか」という夢の技術として提唱された。このときはまだ、どのような技術を開発すればAIがつくれるのかわかっていなかった。
そしてAIをつくる技術として機械学習が提唱されるようになった。そして機械学習の研究開発が進むにしたがって、機械学習でしかAIはつくれないだろうという機運が高まり、AI研究といえば機械学習研究のことを指すようになった。
ところが機械学習の研究が頓挫してしまう。なかなかブレークスルー(革新的な解決)することができなかったからである。
そこに登場したのが、ディープラーニングである。ディープラーニングを搭載したコンピュータは、ようやくAIコンピュータと呼ぶにふさわしいものになった。
今日、人々を驚かし、人々を便利にしているAIには、ディープラーニングが搭載されている。
次の章に進む前に,豆知識をひとつ。AI関連の記事や資料には「機械学習とディープラーニング」が頻出する傾向にある。一方で、「マシンラーニングと深層学習」はあまり使われない。本稿でもそのトレンドを取り入れて、マシンラーニングを機械学習と表記して、深層学習をディープラーニングと記している。
それでは次に、機械学習とディープラーニングについて、それぞれ別々に深く解説していく。
機械学習は「やらせる」のではなく「学ばせる」
機械学習は、コンピュータに仕事をさせる手段のひとつである。コンピュータに仕事をさせる手段にはソフトウェアもあるが、機械学習はそれとは異なる方法でコンピュータを動かす。
企業や家庭にある非AI型のコンピュータであるパソコンは、ソフトがないと仕事をしない。ウィンドウズが搭載されたパソコンで文字を書くにはワードというソフトを起動させなければならない。
そしてソフト型のコンピュータは、事前にプログラミングした内容の仕事しかしない。したがってソフト型のコンピュータは、ソフトを開発した者の能力や技術を超えることはない。
一方の機械学習は、コンピュータに学ばせることで、仕事をさせる。
例えば上司が部下に仕事を教えたとする。部下からするとそれは学習になる。もしその部下に、与えられた仕事を終わらせれば、定時より早く帰ってよいといえば、部下は上司が教えたやり方より効率的なやり方を開発しようとするだろう。
機械学習はこれができる。機械学習は開発した人間の能力を超えることができる。
機械学習には、教師あり学習、教師なし学習、強化学習の3種類がある。
教師あり学習では、コンピュータに正解とデータを読み込ませる。するとコンピュータは、データのなかから正解をみつけることができるようになる。犬の写真を「犬である」と教えてコンピュータに読み込ませると、そのコンピュータは猫の写真をみて「犬ではない」と答えられるようになる。
教師なし学習では、コンピュータにデータしか渡さない。それでもコンピュータはデータのなかから法則を読み取って正解を導き出す。例えば、さまざまな種類の動物の写真を大量に読み込ませると、動物の種類ごとにわけることができるようになる。
強化学習になると、データすら与えないでよい。例えば、道を外れたらマイナス10点、ゴールにたどり着いたら100点と設定して、より多くの点数を獲得するよう指示すると、コンピュータは最短ルートを探し出す。
ディープラーニングは「人のように」思考させる
ディープラーニングは、機械学習のブレークスルーである。つまり、機械学習の考え方だけではどうしても実行できなかったタスク(仕事)でも、ディープラーニング型機械学習なら難なくやり遂げることができる。
ディープラーニングの開発者は、人の脳と神経の仕組みに着目した。
神経は情報集めと命令伝達の仕事を担い、脳は判断と命令の仕事を担っている。例えば、腕に針が刺さると、痛みの情報が神経を通じて脳に届く。すると脳は、このまま被害を受け続けると命に危険が及ぶので針から遠ざからなければならないと判断する。そして、針から遠ざかれという命令を出す。その命令は再び神経を通じて腕の筋肉に伝わり、腕が動いて針から遠ざかることができる。
しかし鍼灸師に針治療を受けているときにこの行動を取ったら、大変なことになる。そこで脳は「針治療のときの針による刺激は我慢しなければならない」と判断・命令する。
このように脳と神経の働きは単純ではなく、複雑になっている。
この複雑な状態を「脳と神経の多層構造」と呼び、ディープラーニングではこれを模している。
AIの功績として最も有名なのは、囲碁の世界トッププロを破ったことだろう。このAIは「アルファ碁」という。
なぜアルファ碁が有名になったのかというと、囲碁は地球上のボードゲームのなかで最も難しいといわれていたからである。つまり最良の手は、人間にしか編み出せないと考えられていた。
ところがアルファ碁は、世界トッププロを完膚なきまで打ちのめした。富士通総研によると、アルファ碁の登場により、ルールが決められた知的ゲームで人間がAIに勝つことはもうないという。
アルファ碁は、16万局分の棋譜と3,000万盤面を学習してその実力を身につけた。トッププロでもそれだけの量を学習するには何百年もかかる。これだけの学習ができたのは、ディープラーニングのたまものである。
まとめ~ディープラーニングの次は?
AIを実現するために機械学習が生まれ、機械学習を効率化させるためにディープラーニングが誕生した。すると「ディープラーニングの次に来るものは何か」という疑問がわくだろう。
例えば富士通は、ディープラーニングや機械学習の限界を超えるために、トポロジカルデータアナリシス(TDA)という技術を研究している。
ディープラーニングや機械学習の限界とは、統計的な解析手法を使っていることだ。つまりいくら大量にデータを集めても、そのなかに統計学の知見でとらえきれないデータが含まれていると、期待した結果が得られない。例えば調査対象がカオス(混沌)に陥っていればデータもカオス状態なので、AIに分析させてもカオス的な答えしか出てこない。
そこでTDAでは「データの内容」ではなく「データの形」を捕らえることで、詳細な情報を把握する。
ディープラーニングは人の脳と神経を模したものだが、必ずしもAIを人間のようにする必要はない。例えばジェット機は鳥のように羽をバタバタさせて飛んでいるわけではない。したがって、仕事が完成するのであれば、人間のように考えるAIでも、人間とはまったく異なる方法で答えをみつけるAIでも構わない。
機械学習やディープラーニングでもこれだけ社会を変えたのだから、次のAI技術への期待は高まるばかりである。
<参考>
- 人工知能、機械学習、ディープラーニングの違いとは(NVIDIA)
https://blogs.nvidia.co.jp/2016/08/09/whats-difference-artificial-intelligence-machine-learning-deep-learning-ai/ - Deep Learning概説 ―AIの核となる機械学習技術の最先端―(富士通ジャーナル)
https://blog.global.fujitsu.com/jp/2018-11-29/01/ - トポロジカルデータアナリシスと時系列データ解析への応用(富士通)
https://www.fujitsu.com/jp/documents/about/resources/publications/magazine/backnumber/vol69-4/paper15.pdf
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