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見えにくく評価が難しい「人とのつながり」を可視化する。信用が「分散保存」される時代の新しい営業とは?

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前半では冨田さんがセールスフォース・ドットコムに入社するまでに歩んできた人生を伺いました。後半は、現在の部署に一人で立ち上げた「スタートアップ戦略部」の仕事について詳しくお聞きします。数値化しにくく見えにくい「人とのゆるいつながり」こそが、仕事を生む決定的な要因になると語る冨田さん。いったいどのようにつながりを「可視化」し、営業に活かしているのでしょうか?

※2017年末現在の情報です。

プロフィール
冨田阿里(とみた・あんり)
冨田阿里(とみた・あんり)
2012年インテリジェンス入社。大阪にてメーカーの採用支援を経験後、ベンチャー企業担当を希望し、東京へ転勤。2016年セールスフォース・ドットコムにインサイドセールスとして入社。2017年7月にスタートアップ戦略部立ち上げ。

角勝(すみ・まさる)
角勝(すみ・まさる)
大学で歴史を学んだ後、大阪市に入職。在職中にイノベーション創出を支援する施設「大阪イノベーションハブ」の設立・運営に携わったのちに2015年3月大阪市を退職。各地でオープンイノベーションの支援、ハッカソンの企画運営を行っている。

「スタートアップ戦略部」を一人で立ち上げ

角:セールスフォース・ドットコムという会社で働いてみて、組織の空気はどんな感じですか。

冨田:自分のやりたいことがあれば、基本的に何でもできる環境ですね。社員の社外活動も盛んで、スカッシュ部を立ち上げる社員がいたり、大学院で講義をする役員がいたり、NPOを立ち上げて社内外の多くの人を巻き込んで就活支援をしていたりする人なんかもいます。「ボランティア休暇」も年間56時間与えられていて、有給とは別に休むことができます。副業も基本的にオーケーです。

角:本業にプラスアルファで、自分の楽しいことができるんだ。いい会社だなあ。

冨田:ただ、うちはフォーブスが選ぶ「もっとも革新的な企業」に7年連続で選ばれているんですが、日本法人は「外資系IT企業」というイメージを持たれることが多くて、ベンチャー気質の人は多くないんですね。

角:確かにセールスフォース・ドットコムの社員さんには、どちらかというと「バリバリ仕事ができる丸の内エリート」みたいなイメージがありますね。

冨田:そうなんです。それで、先程の話の続きですが、「スタートアップ戦略部」という部署を立ち上げて、現在は私一人でその部をやらせてもらっています。セールスフォース・ドットコムにはベンチャーと3つの接点があって、一つはお客様、一つは投資、もう一つがアライアンスと言って、BtoB版のAppストアのようなものでSalesforceと同一プラットフォームで勤怠管理やクラウド会計などの製品が売れるんです。 外部に働きかけるのと同時に、社内の人にもベンチャーマインドや革新的な気概を持ってもらい「革新的な企業」であり続けるために、社員向けに起業家を呼ぶイベントも企画しています。

角:人材紹介会社のときの人脈と経験がそこで生きてきますね。伊藤羊一さんも、その勉強会に呼ばれたとお聞きしました。冨田さん主催の勉強会には、他にもベンチャー界のすごい人たちがたくさん来てますよね。ちなみにスタートアップ戦略部の営業目標についてお聞きしたいんですが、目標数値や上司の評価基準は明確になっているんですか?


冨田:もともとインサイドセールス本部の評価基準が、「営業の商談にどれだけ貢献したか」なんですね。「商談を何件作れたか」「その商談がどれぐらいの金額の受注につながったか」が指標で、私の仕事もそれに基づいた評価です。giveの精神が大事だと思っているので、まずはこちらが役に立つコンテンツを提供すれば、その指標は自動的に達成するのではないかと考えました。また、勉強会をきっかけとして、実際に商談が何件生まれたかをトラッキングしています。VC(ベンチャーキャピタル)の方に勉強会を実施して欲しいと言われることも多く、私が話すだけではなく、社内のスペシャリトを登壇させて頂いています。VCさんなど沢山のベンチャーと関わる知人には「こういうコンテンツが提供できます」と伝えておき、自分でもフェイスブックで勉強会の情報を拡散しています。するとそれを見た人が私の投稿にコメントをくれたり「うちでも勉強会をやってほしい」といった問い合わせが来たりするんです。その情報をSalesforceに残し、最初の指標を達成しています。

角:おお、フェイスブックのコメントもですか! そういう細かいつながりを全部トラッキングするのって、たいへんじゃないですか?

冨田:はい(笑)、でも、それができるのがSalesforceです。どのイベントに来た、どこで出会った、ウェブサイトで資料請求してくれた、といった情報をタグ付けして、いつでも取り出せるように管理しています。

角:僕もその仕組みほしいな(笑)。自分のフェイスブックのコメントとか、つながりとか、ぜんぜん把握できていません。

「自腹」でもイベントや勉強会に行く意味

冨田:ある人が「このイベントに来た」という記録を残しておくことが、後に営業につながることって本当によくあるんですね。イベントが終わった後で、向こうから「営業さんを紹介して欲しい」と言われることもよくあります。それと最近は、自分主催でイベントをやるより、誰かが企画した勉強会やイベントに呼んでもらうことに力を入れています。そのほうが、良いつながりができると感じるんですよね。

角:そうそう! 僕も大阪市の職員時代にまったく同じことを感じてました。自分で企画したイベントって、結局、自分の周りの人プラスアルファしか来ないので、あまり人脈が広がらない。でも誰か知らない人が「角を呼んでみよう」と誘ってくれたイベントに行くと、それまでの人脈とは全く違うつながりができるんですよね。だから僕は、「イベントに呼ばれたら絶対に断らない」と決めていました。石巻とか岐阜とかいろんな場所に行きましたが、そこにたまたま来ていた東京の人と仲良くなると、その人が東京に戻ってから、また別の会合に呼んでくれたりするんです。

冨田:大阪市の職員時代からそういう活動を積極的にされていたんですね。そのときの交通費や宿泊費などの経費はどうされてたんですか?

角:公務員は民間から謝礼をもらってはいけないので、基本的に自腹です(笑)。行政主催の場合は旅費ぐらいはもらえるケースもありましたが、遠いところはわざわざ休みを取って行ってましたね。でも遠くまで行って、壇上から「自腹で来てまーす」というと「おおっ」というどよめきが起こるんですよ(笑)。その瞬間に「こいつ本気やな」と思ってもらえるんですね。そこに価値を感じてましたね。

冨田:わかります! 私も人材会社時代には、有給をとって自腹でビジネスカンファレンスに行ってました。2年目のときは朝7時から新宿でやっていた「モーニングピッチ」という勉強会に1年間顔を出していたんですが、そこで伊藤羊一さんと出会ったんです。周りは錚々たる人たちばかりで、入社2年目の女性がいるような場ではなかったこともあり、物珍しさで顔を覚えてもらいました(笑)。

角:イベントや勉強会の参加者のトラッキングが大きな仕事につながるって、すごく面白いですね。フィラメントのお客さんにも大企業のなかで新しい部署を作って、「何か新規ビジネスを始めよう」という方がけっこういるんですが、そういう方がイベントを開催したり、あるいは自分でカンファレンスに顔を出して人脈につなげようとすると、社内的には「あいつ遊んでるんじゃないか」と思われるケースがけっこうあるんですよ。

冨田:IT系の大きなカンファレンスは、エントリーするだけで15万円ぐらいかかることもありますし、参加費用として往復の交通費・宿泊費、その間に会社が払う給料を考えると、けっこうな金額になりますからね。

角:「イベントジャンキー」みたいに見られて、上司からは「あいつは仕事もせずに、外のイベントばかり顔を出してる」みたいに思われがちなんです。それで上司がレポートを書かせたりするんだけれど、結局、書いたレポートを誰も読まない(笑)。

冨田:わかります、そうなると意味のない仕事ばかり増えて、地獄ですよね。


角:確かにイベントに行くことだけが目的化している人もいるんだけれど、そこで出会った人脈や、得たアイディアが新規事業につながることも、本当によくあるんですよね。前述のような「負の連鎖」をやめるためにも、冨田さんが今セールスフォース・ドットコムで実践しているトラッキングの試みは、多くの人にすごく参考になると思います。人のつながりって今までの人事総務的な観点からすると、評価のための基準にはなかなかならなかった。それは数値化するのが難しいことが理由ですが、大きな仕事が成立するためには、人と人とのつながりとか、信頼関係が欠かせません。まさにSalesforceが体現する、お客さんとずっとつきあう、つながりを成果とする営業が、これからますます大切になるだろうと思うんですよね。

「信用が分散保存されている」のが今の時代

冨田:勉強会もイベントも、短期的に見たら商談にまったく繋がらずに終わった、ということもあります。でも、私が土日に無給で勉強会をしたり、お客様のところに行きたいと思うのは、そうすることで「誰かが見ていてくれるだろう」と思うからです。忙しい社長がSalesforceを活用できていなくて、私に相談して、上手く使えるようになったら、その会社のためにもなりますし、私自身の信用も上がると思って(笑)。

角:そういう「見えない評判」って本当に大事ですよ。最近レノボ・ジャパンの社長である留目真伸さんと対談させていただいたんですが、それまで一回しかご挨拶したことがなかったんです。それで「なぜ対談を受けてくださったんですか?」とお聞きしたら、「角さんのフェイスブックを見ていたら、人となりがよくわかりました。今、世の中はビットコインのブロックチェーンのように、その人に関する情報が分散保存されているんです。そのつながりを見れば、その人が信頼できる人かどうかわかります」と言われたんですね。なるほどなあ、と思うと同時に、社長の仕事でめちゃくちゃ忙しいだろうに、そんな細かくフェイスブックまで見ているんだなあ、と思って少し驚きましたね。

冨田:じつは私も先週、留目さんにお会いしたところです。まさにフェイスブックを通じてだと思いますが、私の最近の仕事についてもご存知いただいていて、とても驚きました。

角:そういう情報って分散保存されているがゆえに、見に行くのもたいへんで面倒くさい。それがSalesforceで、いつでも簡単に確認できるようになれば、いろんな会社にとって新しい営業戦略が見えてきますし、人事や総務にとっても新しい評価のKPIになる可能性がありますよね。イベントにばかり行っている社員も、「こいつ、普段遊んでると思いきや、土日も自腹で仕事をしているんだな」と思ってもらえるようになるかもしれない(笑)。個人だけでなく、個々のイベントや会合の価値の「見える化」もできそうです。「つながりの価値評価をする人事システム」は、次の時代に来る気がしますね。もしかしたら、冨田さんがベンチャーを立ち上げてもいいかもしれません(笑)。最後に、これから目指している目標を教えてください。

冨田:そうですね…。男性は何かしらのゴールを設定して、そこに行くために逆算して仕事をするタイプの人が多いと思うんです。でも、私にはそういう明確なゴールはなくて、いつも人と会うときは「次に会った時に成長したなーと思って貰えるかな?」と考えています。毎日、夜ベッドに入る前に、「今日は昨日より成長できたかな」と考えるんですが、そう思える仕事がしたいですね。やっぱり、幸せを感じるのは、に「ありがとう」と言われたときです。私が仕事でやったことで、相手の行動が変わったり、良い方向に変化が生まれたときがいちばん嬉しいので、今後もそういう活動を続けていこうと思います。

角:今日の対談で、冨田さんの仕事にかける思いがとてもよくわかりました。ますますのご活躍を! ありがとうございました! 

ライター:大越 裕(team PASCAL)


<注意事項>
この記事は株式会社フィラメントより許可を得て転載しております。

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