近年、AI(人工知能)は、ビジネスの分野でも次々と利用されるようになってきた。チャットボットや人間の顔認証技術などの進歩により、これまで人間が行ってきた仕事をAIが代替するようになってきている。
そして「シンギュラリティ」や「2045年問題」が人間に与える影響や、その時代に人間が何をするべきなのかは、今から考えておく必要がある。今回はAIが普通にある未来を考えてみよう。
続きを読む人工知能が得意なこととは
AI(人工知能)の第3次ブームが盛り上がり、毎日のように「AI」という単語を耳にするようになった。それに伴い、ビジネス分野でのAI活用が進み、新たな商品やサービスが次々と生み出されている。また、家庭にもAIスピーカーを始め、AIを活用したサービスはどんどん入ってきている。こうなってくると、AIは何でもできると考えがちだし、実際に一般の人々によるAIに対する認識も「AIは人間にできる事はなんでもできてしまう」というものだろう。
だが、決してそういうわけではない。そのことはAIの研究・開発に携わっている者であれば、身にしみてわかっているだろう。実際問題として、少なくとも今のAIには人間と同じ事はできない。まだまだ人間の方が得意な分野は数多く存在している。
しかし一方で、人間よりもAIの方が得意にしている部分があるのも事実である。それはコンピュータが得意としている部分と重なる。様々なデータを大量に記憶し、それを基礎にして判断を下す部分である。
第2世代のAIまでは、人間が判断のルールを記述することで開発しようとしていたが、これでは少数例や例外まで含めて全てのルールを記述することが難しく、上手く行かなかった。例えば写真の中から「猫」を探そうとすると、猫は正面を向いている場合、横向きの場合など、様々な角度から見るとどうなるのかどうなるか教える必要がある。また三毛猫やキジトラなどの体毛の種類、長毛種などの毛の長さ、ケガをしている場合の様子など、教えるべき事が多岐にわたってしまい、とてもではないがルールは記述できなかったのだ。
第3世代のAIがそれまでとは異なるのは、ディープラーニングによってAIが多くのデータから自分でルールを見つけ出せるようになったからである。例えば第2世代では実現できなかった画像の中から「猫」を探し出すAIも完成している。これにはWeb上に多くのデータがアップロードされるようになり、AIを学習させるためのデジタルデータを大量に入手するコストが大幅に下がったことが大きな影響を与えている。
つまり、大量のデータが手に入り、その中から特徴を抜き出せるようなものは第3世代AIが得意とするところとなる。画像認識によって個人を識別することは「猫」の延長上にあるため得意とされている。また音声認識によって文字をテキスト化し、そのデータをもってネット上から必要なデータを探して来ることや、ネットショップで商品の購入を行うことなどもできる様になってきた。
色々な仕事がAIに取って代わられる
このように、AIが学習するためのデータが大量に存在し、そこからなんらかの特徴をもって分類するような仕事、手順のルール化が簡単な仕事はAIが得意とするところである。従って、マニュアル通りに行えば誰でもでき、すでにデジタルデータが大量に存在している仕事は、基本的にAIに取って代わられると考えて良い。主に単純作業に分類されるような仕事だとも言える。
特に2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏が出した「雇用の未来(THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?)」で挙げられた702の仕事の内、取って代わられる可能性が高いとされた職種は深刻だと言えるだろう。彼は「知覚と操作」「創造性」「社会性」がどの程度必要とされる仕事であるかを702の仕事について評価し、それぞれがどの程度コンピュータ(ここではAI)に代替可能であるかを調べた。その結果としてレジ係や電話販売員、集金人、レストランの案内係などはAIや、AIを搭載したロボットに置き換えられると考えたのだ。
重要なのは、全ての仕事が取って代わられるわけではないという点だ。例えば代替されにくい職業として挙げられたのは「介護福祉士」「学校教員」「スポーツインストラクター」「心理カウンセラー」「振付師」などである。これは専門性もさる事ながら、対人関係が大変重要な要素になっている仕事であることがわかる。つまり、対面する相手によってやり方を変えなければならない仕事については、社会性や創造性が重要な要素となり、その仕事は代替されにくいわけだ。
2045年問題とは
とはいえ、これは現在の状況であるし、オズボーン氏が書いた論文も今後10~20年で消える可能性の高い仕事を出しているに過ぎない。知っての通り、コンピュータやAIの進化は速く、次々と今までは「コンピュータには難しいだろう」と考えられている領域の仕事を人間から奪いつつある。
その先の世界として世間を騒がせているのは、2005年にアメリカの発明家であるレイ・カールワイツ氏が「シンギュラリティは近い(The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology)」の中で発表した「シンギュラリティ(Technological Singularity)」にまつわる「2045年問題」だろう。
「シンギュラリティ」とは「特異点」と訳される。AIについて使われる場合は「技術的特異点」という翻訳をされることが多い。この技術的特異点とは、人間よりも優れたAIが誕生し、そのAIが自分を上回る能力をもったAIを自ら設計・開発することで、加速度的にAIが賢くなり、人間には想像もつかないような超AIとも呼べる存在が生み出されるようになる時点を指す。
今の進歩スピードから考えると21世紀中盤から22世紀には技術的特異点がやって来るとされているが、カールワイツ氏は自身が提唱する「収穫加速の法則(The Law of Accelerating Returns)」を適用することで、2045年に訪れるとした。この説が有力視されるようになり「2045年問題」と呼ばれているわけである。実際、2015年にNHKで放送された「NEXT WORLD 私たちの未来」でも「2045年問題」は取り上げられていたので、読者の中にも観ていた人もいるだろう。
一方、AIの開発者からは「2045年問題」を疑問視する声も多く聞かれる。近年において「2045年問題」がクローズアップされたのは2012年にディープラーニング技術が爆発的に普及し、2016年にはビジネス分野で利用され始めたためである。しかし、ディープラーニングはあくまでも情報の統計処理技術として人間の脳の構造を単純化したニューラル・ネットワークを使っているだけである。つまり単純な統計処理レベルでしかないのであるから、これが進化したところで、処理能力の面で人間を上回ったとしても、人間の創造性等まで含めて上回るのは難しいというのがその論旨である。
ただし、この議論には大きな問題点がある。そもそも「人間を上回る」というのはどういうことなのか、が明確に定義されていない。人間の脳も、もしかしたら単純に統計処理をしているだけかもしれないわけで、もしそうだとするとAIの処理能力がいずれ上回ることは間違いない。だが、今のところ人間の脳が単なる統計処理装置であるかどうかはわからないし、そもそも証明する方法がない。人間の持つ社会性や創造性が統計処理の延長上にあるのか、それとも別の要素があるのかもわからないのだ。つまり「人間を上回る」には「人間とはどういうものか」が明確にならなければならないが、そこがわからないままなのである。ここは脳科学研究が大きく発展しない限り、結論が出ない。
AIに支配させる可能性はあるのか
では、もう一つよく話題に上る「AIに支配される未来」というのは来るのだろうか。これは映画「マトリックス」などでもテーマになっていた。「NEXT WORLD 私たちの未来」や「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」、アニメにもなった「BEATLESS」でも、「AIによる提案を無条件に受け入れる」、「場合によっては提案を承認する」だけになった人間社会というのが描かれていた。
確かに今でもAIはかなり優秀になったと感じる。今後RPA(Robotic Process Automation)やロボットと組み合わさることで、単純作業に分類される仕事の大部分を奪っていくことは間違いない。そしてなにかを判断する上で、短時間で必要な情報を正確に出してくれるのであれば、その作業は人間のアドバイザーからAIに変わっていくことは間違いないだろう。つまり人間よりもAIを信用するというのは大いにありえる未来なのである。
そこではAIがその日の天気から着ていく服を選び、渋滞情報などから最適な通学・通勤ルートを割り出し、人間はそれに従うという生活を送るかも知れない。面倒な単純作業はAIが担ってくれ、人間はやりたいことだけに注力できる様になっているかも知れない。それは大変便利で、快適な生活なのかも知れない。
だからといって、全ての判断をAI任せにして良いかどうかは別で、それこそ人間次第とも言える。まずはAIが人間よりも優れた能力を見せつける部分から受け入れられていく事は間違いない。だが、人間の社会の運用全てをAIに委ねてしまうことは危険だ。自動運転車の開発現場でも議論になっている
「道路に飛び出してきた歩行者を轢いてでも搭乗者の安全を優先するか、それとも搭乗者が死ぬことになっても歩行者を守るのか」
という、人間でも判断に困る状況をAIにどう判断させるのかという問題が良い例だ。迂闊に全てを任せると「BEATLESS」でも描かれていた「必要な人間」と「不要な人間」との峻別をAIに握らせることにもつながりかねない。人間は人間にしかできないことや、人間にしかできない判断基準を持つべきなのだろう。
まとめ
AI(人工知能)は、人間とは異なる。高度な統計処理が可能なコンピュータプログラムと言っても良い。だが、そうであるがゆえに、ルールが明確に決まっている仕事や、マニュアルが完備されていて、それに従えば誰にでもできる仕事や作業はAIに取って代わられるようになる。そういう仕事はすべてAIに任せてしまい、人間はもっと社会的で創造的な仕事に回っていくことができるようになるだろう。
一方、AIはどんどん進化し、2045年にはAI自身が自分よりも優秀なAIを作るという、技術的特異点(シンギュラリティ)がやって来るかも知れない。その時、全ての仕事や判断をAIに任せてしまうのか、それとも人間が最終承認を与えない限り実行させないようにするのかは、「人間がやるべき事」を人間自身がしっかりと見つけられるかにかかっている。人間は人間のことをもっとよく知る必要があるのだ。
<参考>
- AI(人工知能)の普及で未来に起こる3つの危険性(AIZINE)
https://aizine.ai/mirai-ai0404/ - 2045年人類に居場所はあるのか。人工知能AIが人間の仕事を奪い、ロボットが世界を支配する時代が来る!?(THINK FUTURE)
http://miraie-future.net/feature/ai2045/ - 人工知能が苦手なこと、人と共存する未来の姿–研究者から見たAIとは(CNET Japan)
https://japan.cnet.com/article/35115616/ - オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」(週刊現代)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/40925 - 2045年AIが人間を超える!シンギュラリティという最悪の未来(AIZINE)
https://aizine.ai/ai-singularity-0812/ - AI(人工知能)でなくなる仕事の特徴となくならない仕事の特徴(AIZINE)
https://aizine.ai/ai-job-0914/ - ネクストワールド 私たちの未来 第1回 未来はどこまで予測できるのか
https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20150103 - THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?
- Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne, September 17, 2013
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