あなたはもうAIに監視されている

AI(人工知能)は人々の監視を、簡単、確実に行う。新しい監視社会はもう始まっている。不正が発覚しやすくなる一方で、日常生活が脅かされる可能性もある。

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AI(人工知能)は人を見分けることができる。

AIは人が書いた文章の内容をほぼ理解できる。

AIはいろいろなものに搭載することができる。

AIはコンピュータやインターネットやITと相性がよい。

AIのこれだけの能力を結集すれば、人々を監視することは容易だ。AIが電子メールの文面からテロ行動を予測して、AI監視カメラが数万人が行き交う空港のなかで容疑者を特定し、そのまま警察に自動で知らせることも可能だ。

一般市民としては悪い者を摘発してくるAIは歓迎できる。ただ自分はAIに監視されたくないと感じるのではないだろうか。法律に違反することではないが秘めておきたいことは誰もが持っている。

しかし顧客の購買動機を知りたい企業にとって、顧客の心を推測することができるAI監視は大きなビジネスチャンスだ。

行き過ぎた監視行動には規制がかかるだろうが、AI監視の拡大は避けられないのではないだろうか。

AI(人口知能) 監視 効率化 

社会は監視を必要としている

AI監視技術をみる前に、社会監視について考えてみたい。社会監視は悪人を捕まえることや企業の宣伝活用に使われるだけではなく、人々の要求でもある。人々は「監視されたくない」と思う一方で、「監視していてほしい」と思っているのだ。

例えばタクシーの車内の監視カメラ。業務中、常にカメラが回っていては、ドライバーは大きなストレスを抱えるだろう。しかしタクシーの車内監視カメラが暴力客を特定し逮捕につながった事例がある。監視はタクシー運転手の安全を守り正義に寄与するのだ。

高速道路などの道路に設置された無数の監視カメラは渋滞の状況や土砂崩れ被害の様子などをリアルタイムで教えてくれる。作業員は現場の様子を十分把握してから対策に乗り出すことができるので、短時間で対応できる。

そして最近、道路の監視カメラは予想外の威力を発揮して注目されている。あおり運転や無謀運転などの実態を把握し、事故の解明の一助になっている。しかも道路の監視カメラは車内を克明に撮影するわけではないので、大多数の善良な一般ドライバーのプライバシーはほとんど侵害しない。

コンビニのレジで買った商品や年齢や性別などのデータを収集させても、来店客はまったく気にしない。その情報でよりよい商品が開発され、コンビニの商品棚が充実するからだ。

このように人々は、警察や行政機関や企業などが監視強化に乗り出していることを拒否しないどころか、歓迎することすらある。

しかしAIの監視能力は、想像をはるかに超えるものとなるだろう。従来の監視社会が「見られている」レベルだとしたら、AI監視社会は「探られている」レベルになる。

談合防止策としてAIで社員のメールを監視する

ゼネコン大手のO社が2017年12月、リニア中央新幹線の工事で不正な受注調整をしていたことを認めた。この談合事件を受けてO社は、社員のメールを社内の監査部門がチェックすると発表した。そしてその作業にAIを活用するという。

談合とは、本来は競合すべき複数のライバル企業が裏で結託し、価格を調整したり仕事の割り当てを決めたりする行為だ。力を持つ企業が談合をすると、消費者は不当に高い製品やサービスを買わされることになり、社会正義に反するため談合は経済犯罪である。

O社はAIによるメール監視の具体的な方法を公表していないが、日本経済新聞の記事によると大体次のような内容と考えられている。

まずはAIに、過去の談合事件や秘密漏洩事件で使われたメールの文章を読ませ学習させる。そのAIを組み込んだシステムを、会社のメール機能をコントロールしているサーバーにつなげる。するとAIは社員たちが送受信したメールを逐一読み始める。

もちろん談合を目論む者たちは、メールのなかで「談合をしましょう」とか「事実をもみ消してください」といった露骨な言葉は使わない。そこでAIは、社員のメールの相手が同業他社かどうかに注目する。談合は同業他社と行うからだ。

そしてメールに文面に「久しぶりにゴルフに行きませんか」とあれば、AIは「定期的に会っている」「ゴルフはあやしい」といったように疑う。

AIはすべてのメールに対してこうした「疑いの目」をもって読み込み、談合が疑われる度合いをゼロから1万点までの点数で評価する。

談合が疑われる度合いの点数が高いメールがみつかると、社内のコンプライアンス担当者がその社員を調査する。

AIによるメール監視はすでに他社でも導入されている。実際にAIメール監視を使った社内調査に関わった弁護士は、このシステムのメリットを次のように挙げている。

・膨大なメール資料を弁護士たち調査チームが読み込まなくて済む

・調査チームは疑わしい関係者へのヒアリングに集中できる

・効率的な調査が行える

電話や密談での悪事の打ち合わせは証拠が残りにくいが、メールは文面だけでなく送受信者の特定が容易で送受信の日時も残るので、証拠能力が高い。そのため調査が効率化するだけでなく、問題の解決にも役立つ。

AI(人工知能) 効率化

AIチップを組み込むだけでAI監視カメラにバージョンアップする

理化学研究所が保有するスーパーコンピュータ「京(けい)」は、鉄骨造り地上6階、地下1階の建物内に鎮座している。計算機筐体(きょうたい、コンピュータが入った箱)は864台を数え、それらをつなぐケーブルは1,000km以上になる。

AIを搭載していなくても、この規模である。このことから、コンピュータの能力を上げようとすれば大きくしなければならないことがわかる。

AIチップはコインの上に乗るほど小さい

そのため多くの人は、「AIは相当賢いので、相当ぎょうぎょうしいシステムが必要に違いない」と思っているかもしれない。そのような人が、AIチップを見たら驚くだろう。

グーグルが開発したAIチップ「エッジTPU」は、アメリカの1セント硬貨の上に、重ねないで6枚のせることができる。

AIチップの小ささは、監視社会を構築するのにとても都合がよい。

現代のAI監視カメラ」は、6万人の群衆のなかから1人の容疑者を特定できるほど優れている。しかしすでに街中に配置された監視カメラは非AIであり、その数は膨大だ。これらをどのようにしてAI監視カメラに切り替えていったらいいのだろうか。

そこで活躍するのがAIチップである。

AIチップは硬貨に乗るほど小型化されているので、既存の非AI監視カメラの本体の空きスペースに埋め込むことができる。

そこで関連企業は、非AI監視カメラにAIチップを接続する技術の開発を急いでいる。非AI監視カメラを簡単にAI監視カメラにバージョンアップできる時代が、間もなくやってくるわけだ。

AI監視カメラのある社会とは

現行の非AI監視カメラがすべてAI監視カメラになれば、誰がどこに何時間何分何秒滞在したか把握することができる。

子供がどこで誰と遊んでいるかもわかるし、飼い犬を散歩させるアルバイトがきちんと指定された公園に行き犬がしたウンチを拾っているかどうかもわかる。

企業なら例えば、渋谷や原宿の小型店がひしめく繁華街で、20代前半の女性がどの店に集まっているかが、正確かつリアルタイムで把握できる。そうなれば「販促活動を1時間後に実施する」といったゲリラ的なPRも可能だ。

グーグルやアマゾン、LINEなどが販売しているスマートスピーカーにAI監視カメラをオプションで付けることもできるようになるだろう。スマートスピーカーは小さいので置き場所に困らないから、家や社内のいたるところに置くことができる。もちろんスマートスピーカーはネットに接続しているので、音声と同時にAI監視カメラからの画像情報を、遠隔地に送ることができる。

スノーデン事件が珍しくなくなる?

このように、AIチップを使って既存の設備を簡単にAI監視カメラにすることができれば、戸外にいようが建物のなかにいようが、AIの追跡から誰も逃れることはできない。

2013年にアメリカで起きたスノーデン事件を覚えているだろうか。米国家安全保障局(NSA)が、要人から一般市民まで、世界のありとあらゆる人々の電子メールを集めていたことを、元NSA契約社員のエドワード・スノーデン氏が暴露したのである。

この事件では「アメリカがとんでもないことをしている」ことがわかっただけでなく、「そんなことができる」ということもわかった。NSAはグーグル、アップル、フェイスブック、ヤフー、日本企業などにアクセスしていた。

しかし世界のすべの監視カメラがAI化すれば、その情報収集能力はNSAに肉迫するのではないだろうか。2012年の時点ですでに、日本には300万台の監視カメラがあった。イギリスには2014年時点で590万台あったとされる。

また監視カメラのAI化は、監視カメラ1台1台が「知能に似た能力」を持つことを意味する。すでにアメリカのクアルコム社のAI監視カメラは、店内の客を監視しながら、ある客が特定の商品を手に取ったら、今度はその商品を追跡することができる。

しかもそのAI監視カメラはクラウドに接続しなくても作動するという。つまり限りなく「自律稼働」に近い「目」になるわけだ。

まとめ~メリットのために「見られる」ことを我慢する社会?

談合などの企業犯罪もテロ事件も、社会から撲滅しなければならない。

AIは社会を正義に導く大きな武器になる。

しかしAI監視は、ピンポイントでターゲットを狙うのではなく、投網のように一網打尽にしようとする。その投網のなかに、多くの無関係の一般市民が入ってしまう。

市民は社会の安全と引き換えに「見られる」被害を我慢しなければならないのだろうか。


<参考>

  1. 社員メール、AIがみてる 単語や文脈から不正発見(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33991740Z00C18A8TJQ000/
  2. 進化したAIによって、監視カメラが「世界」を認識できる時代がやってきた(WIRED)
    https://wired.jp/2018/05/01/cameras-know-what-theyre-seeing/
  3. 「京」を支える施設(理化学研究所)
    http://www.r-ccs.riken.jp/jp/k/facility.html
  4. 推論処理をGPUの25倍に高速化(TELESCOPE Magazine)
    https://www.tel.co.jp/museum/magazine/015/report02_02/02.html
  5. グーグル、エッジ向け深層学習チップ外販(日経×TECH)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33477460X20C18A7000000/
  6. 大林組、4社談合認める リニア工事、公取委に申告(共同通信)
    https://this.kiji.is/315645516254069857?c=39546741839462401
  7. 「スノーデン事件」って何?/米個人情報収集を暴露(THE PAGE)
    https://thepage.jp/detail/20130718-00010002-wordleaf
  8. 防犯カメラ、日本に300万台 捜査にどう役立つの?(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXNZO43502310X00C12A7EL1P00/