AI(人工知能)の領域で、自然言語処理の技術が脚光を浴びている。自然言語とは日本語や英語など、人が使う言語のことである。コンピュータ言語しか理解しないコンピュータに、自然言語を理解させるのが自然言語処理である。
また、コンピュータが自然言語処理能力を獲得すると、コンピュータの出した答えを自然言語で出力できるようになるので、すぐに人が理解できるようになる。
自然言語処理開発の究極の目標は、人とコンピュータの会話である。
研究者たちは、人間と流暢に話すドラえもんの会話スキルの獲得を目指している。スターウォーズの金ぴかロボットのC-3POは、600万を超す宇宙言語を解するが、これも自然言語処理の究極の姿のひとつである。
ただこれらのロボットができるのは、遠い将来である。
では近い将来には、自然言語処理で何ができるようになるのだろうか。
続きを読む自然言語処理とは
自然言語処理とAIはとても近い関係にある。AIが実用レベルで語られるようになったのは2010年代に入ってのことだが、自然言語処理の研究・開発はそれよりも長い歴史を持つ。
AIが「使えるレベル」にまで成長したので、自然言語処理にも応用できるようになった。
自然言語処理の研究でやろうとしてもできなかったことが、AIの登場で可能になり開発が飛躍的に進んだのである。
自然言語処理の仕組みと原理
自然言語処理の仕組みを理解するには、自然言語とコンピュータ言語の構造の違いを知っておく必要がある。
コンピュータ言語には、1文にひとつの意味しかない。ひとつの文が2つ以上の意味を持つことはないし、似ている2つの文があってもそれは違う意味を持つ。
例えば「4-8÷2」という文には、「0」という意味しかない。そして「(4-8)÷2」という文は先ほどの文と似ているが「-2」という意味になってしまう。
一方で自然言語は、1文が複数の意味を持つことがあるし、異なる2つの文が同じ意味を持つこともある。
「大きなリボンをつけた女の子」には「大きなリボンがあり、それをつけた女の子」という意味と「リボンをつけた大柄な女の子」という2つの意味がある。
そして「怠け者のキリギリス」と「働き者のアリ」は、まったく異なる文だが、アリとキリギリスの話を知っている人は「怠け者のキリギリス」と聞いただけで「アリのようにしっかり働かなければならない」とイメージする。したがって自然言語では(ここでは日本語では)「怠け者のキリギリス」と「働き者のアリ」は同じ意味になることがある。
AIが自然言語処理をパワーアップする
コンピュータが「大きなリボンをつけた女の子」を「リボンをつけた大柄な女の子」としか理解できないと、誤訳になりかねない。
また母親が子供に「怠け者のキリギリスのようになっちゃうよ」と叱っている言葉を、コンピュータが「母親が子供に怠け者のキリギリスになれと推奨している」と理解してしまうと、話が違ってきてしまう。
「『大きなリボンがあり、それをつけた女の子』と理解することもできるのではないか」と推測したり、「母親は子供に『アリのようにしっかり働きなさい』とアドバイスしているのではないか」と理解したりするには、AIの力が必要になる。
AIが行うのは文脈解析と意味解析である。
人が「大きなリボンをつけた女の子」という文を読んだとき、大抵は「大きなリボンがあり、それをつけた女の子」と理解する。それは、人生のなかで「大きなリボンがあり、それをつけた女の子」のほうが、「リボンをつけた大柄な女の子」より多く見かけるからだ。
AIも、世の中のさまざまな女の子とリボンに関する文章を読み込むことで、「大きなリボンをつけた女の子」という文は「大きなリボンがあり、それをつけた女の子」と理解すべきだろうと推測することができるようになる。
これが文脈解析である。
また、昆虫の生態と昔話の両方を学習したAIなら、キリギリスという単語を検知したら、「アリとキリギリス」に出てくる怠け者と、草むらのなかにいる小さな昆虫の、2つの意味を想起する。そして文脈解析を使いながら、キリギリスの意味を解析するのである。
自然言語処理の4つのできること
それでは次に、自然言語処理でできることをみていこう。
ここでは機械翻訳、対話システム、記事の執筆、予測変換の4つを紹介する。
できること1「機械翻訳」
「あなたは自然言語処理技術の飛躍的な進歩を、グーグル翻訳を使うことで実感できるだろう。」
この文章を、以下のURLのグーグル翻訳で英訳してみると、こうなる。
「You will see a dramatic advance in natural language processing technology using Google Translate.」
まったく違和感のない英文である。
そして特筆すべきは、グーグル翻訳がすでに、日本語の「自然言語処理」がAI用語の「natural language processing」であることを知っていることだ。
グーグル翻訳で「natural language processing」を和訳すると、もちろん「自然言語処理」と出てくる。
グーグル翻訳の頭脳は、AIの知識を獲得している。
さらに、先ほどグーグル翻訳がつくった英文「You will see a dramatic advance in natural language processing technology using Google Translate.」を、グーグル翻訳で和訳してみる。
このようになった。
「Google翻訳を使用した自然言語処理技術の劇的な進歩が見られます。」
これにもまったく違和感はない。グーグル翻訳は「日本語→英訳→和訳」を見事に成し遂げた。
日本語ではしばしば「あなたは~するだろう」が省略されるが、グーグル翻訳はそのことも理解してあえて「You will」の部分を訳出ししていない。
グーグル翻訳のこれだけの自然言語処理技術を無料で使えるのは、驚異的なことといってよい。
できること2「対話システム」
自然言語処理の対話システムで知られるのは、アマゾンのスマートスピーカー「アレクサ」だろう。人との会話にかなり近づいていることを体験できる。
アレクサができることは、人のユーザーが指示するアプリを立ち上げることだ。
アレクサはインターネットでアマゾンのクラウドにつながっていて、アレクサが「聞いた」人のユーザーの音声はクラウドに送られテキストに変換される。
自然言語処理技術はそのテキストからユーザーが求めるアプリを推測し、約3万種のアプリのなかから最も適したものをユーザーに提示する。
例えば人のユーザーがアレクサに「アレクサ、今何時?」と問いかければ、アレクサは時計アプリを探し、そこから時刻を読み取り、自然言語処理技術によって「今20時41分です」と答える。
できること3「記事の執筆」
中部経済新聞は2016年に、AIが書いた記事を朝刊に掲載して話題になった。記事の内容は、中部経済新聞の70年の歴史を振り返るというもの。
まずはAIに膨大な量の中部経済新聞の過去の記事を読み込ませて、記事の文体や文章のトーンを学ばせた。これで「らしい」記事が書けるようになった。
そして、中部経済新聞の歴史に関わる内容を学習させ「70年史」の記事が完成した。
その記事の書き出し部分を紹介する。
「中部経済新聞」は昭和二十一年十一月一日、焦土とかした市街地にはなお瓦嘩の山がうず高く残る名古屋市内で創刊いたしました。価値観の大転換が迫られる中で、中部の産業経済が大きく立ち上がるためのオピニオンリダーとして経済新聞を発行する大きな目標を掲げての創刊だった。
当時は、どこへ行くにももっぱら2本の足が頼り。だいいち、名刺を出しても相手はけげんな顔つきで対応し、こちらは取材の前に、本紙創刊の趣旨と中部経済圏とのつながりを一席ぶつことがお決まりのコースであった。 引用:https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1611/04/news097.html |
見事な記事である。
この記事は文章に破綻がないだけでなく、意味のある情報が盛り込まれている。
自然言語処理はすでに、「意味が通じる文」を書くだけでなく、「有益な文」すら作成できるようになっている。
できること4「予測変換」
「対象、対称、対照」や「収める、修める、納める、治める」は、日本人でも使い分けに悩むことがある。自然言語処理技術が進化すると、もう「たいしょう」と「おさめる」で悩むことはなくなる。
自然言語処理技術のひとつにリカレント・ニューラルネットワークという技術があるが、これは文脈から変換する語を予測することができるからだ。
まとめ~自然言語処理こそ驚異のAIをつくる
AIのすごさがよくわからない、という人はまだいる。特に、AIとスーパーコンピュータの違いを理解することは難しい。
AIをコンピュータの進化形と理解すると、AIを見失う。AIのすごさを知っている人は、AIは人間に近付いていると理解している。
自然言語処理の進化が一定レベルに達すると、恐らく多くの人が一瞬でAIのすごさを理解できるようになるだろう。なぜならそれは、あのドラえもんだからだ。
のび太「ドラえもん、助けてくれよ」
ドラえもん「なんだい、またジャイアンにいじめられたのかい」
のび太とドラえもんのおなじみの会話だが、ドラえもんは、のび太のSOSをジャイアンの暴力によるものであると推測できている。まさに自然言語処理の正常進化版である。
<参考>
- 【事例付き】自然言語処理とは!仕組みやライブラリを解説(TECH ACADEMY)
https://techacademy.jp/magazine/17184#sec2 - 米AmazonのAI研究者が来日したので、Alexaの仕組みについて聞いてみた①(きまぐれAI新聞)
https://aishinbun.com/talk/20180416/1337/ - 日本の新聞社も「AI記者」採用!? AIが書いた記事、中部経済新聞の紙面に(AI+)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1611/04/news097.html - AIが電通報の記事を書いた~中部経済新聞のプロジェクトに見る「AIの未来」~(電通報)
https://dentsu-ho.com/articles/4875 - スマートフォンの文字入力がこれまでより賢く楽に!AIを使った予測変換が登場!(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000012777.htm
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