「AI(人工知能)がよくわからない」という人は、AIの解説文に出てくる用語が持つ概念を想像できないことが多い。それはある意味、仕方がないことかもしれない。
AIはこれまでとはまったく異なる手法で世の中の作業を動かしたり世の中を便利にしようとしたりしているので、AI用語はあまり使われてこなかった。
例えば「機械学習のアルゴリズムはデータの中からパターンを探す手助けをする」と聞いた途端に、初学者は「機械学習って? アルゴリズムって? パターンって?」となるだろう。
ただ、専門用語を使わず、平易な言葉やなじみのある言葉でAI用語を解説することはできる。今回は「機械学習」という用語についてやさしく解説する。
コンピュータが学ぶとは
機械学習とは、機械が自分で学ぶことである。機械というと目覚まし時計も機械だが、機械学習の機械とはコンピュータのことである。
ではコンピュータが学ぶとはどういうことだろうか。
普通の電気炊飯器は学ばない
いま一般の人が普通に知っているコンピュータは、学ばない。例えば電気炊飯器にもコンピュータが組み込まれているが、電気炊飯器はご飯の炊き方を学ばない。
しかし現代の電気炊飯器のコンピュータはとても賢く、コメの状態や温度などを検知して、最もふっくらした状態のご飯をつくることができる。これは電気炊飯器の開発者が電気炊飯器のコンピュータに「こうやって炊くように」と指示したからである。
開発者が指示することを、プログラミングという。開発者は、ご飯が最もふっくらする条件を割り出し、それをプログラムという「コンピュータ言語」に書き換える。
そのプログラムを電気炊飯器のコンピュータに入力すると、電気炊飯器は開発者のレシピ通りご飯を炊くのである。
コンピュータ言語とは、コンピュータが理解できる言語である。コンピュータに「最初は弱火で、煮立ってきたら強火にして…」と日本語で説明しても理解できない。ところが日本語をコンピュータ言語に翻訳してコンピュータに入力すると、コンピュータは、最初は弱火で調理して、煮立ってきたら強火にするのである。
機械学習を獲得した電気炊飯器ならパンも焼ける
では、電気炊飯器のコンピュータに機械学習の機能を搭載するとどうなるのかというと、電気炊飯器が考えるようになる。
ご飯もパンも、「穀物」を原料にして「水」と「熱」を加えてつくる点では同じだ。ということは、コメという穀物に水と熱を加えてご飯をつくる電気炊飯器でも、小麦粉からパンがつくれるかもしれない。
そこで機械学習を獲得した電気炊飯器に、「パンとは何か」「小麦粉とは何か」「小麦粉と水をどうすればパンになるのか」ということを教えると、電気炊飯器の機能を使って「工夫」や「模索」を始める。
そして十分に学習が進んだ段階で電気炊飯器に小麦粉と水を入れてフタをすると、見事にパンができあがる。
――これが、究極の機械学習の姿である。
無限の記憶と無限のパターン化で予測する
人は経験を通して学習する。経験の中には本を読んだり、体験したりすることが含まれる。
しかしコンピュータは、本の内容を記憶することは得意だが、体験はできない。
これだけではコンピュータの負け、人間の勝ちである。
ところがコンピュータは、ほぼ無限大に情報を記憶することができる。その記憶量は、すでに人智を超えている。
機械学習はコンピュータのこの記憶力を使って、膨大なデータを解析する。解析を繰り返すうちに、コンピュータはあるパターンを発見する。これを機械学習に繰り返させると、コンピュータが獲得するパターンの数は、ほぼ無限大になる。
コンピュータがここまで進化すると、人が機械学習コンピュータに「Aに似たパターンとは?」と尋ねると、一定の答えを出せるようになる。
これは「コンピュータが洞察をした」ことになる。
これまでの常識では、洞察は人間だけができ、動物や機械には無理だとされていた。しかし機械学習は洞察をするのである。だから機械学習は「すごい」と言われるのだ。
アメリカの政策が渋谷のマンション価格にどう影響するか
例えば次のような問題があったとする。
アメリカ大統領が保護主義的な貿易政策を決め、そのとき日本の政局が混乱していて、中東の原油が値上がりして、地球の気温が0.5度上昇したときに、東京・品川のマンションの価格は値上がりするだろうか、値下がりするだろうか。
これは人間でも予測することはできる。しかしとても時間がかかる。なぜなら、アメリカの保護主義政策が世界経済に与える影響を調べ、日本の政治の歴史を調べ、中東の原油価格を決める要因を調べていかなければならないからだ。
しかし機械学習コンピュータに100年分のアメリカの政策史や、1,000年分の地球温暖化データや50年分の東京の地価の推移などを教えれば、瞬時に答えを出せる。
なぜなら機械学習なら、アメリカの政策と中東の原油価格を関連づけることも得意だからだ。
教師を持つコンピュータと教師を持たないコンピュータ
機械学習の学習方法には「教師あり学習」と「教師なし学習」がある。どちらが優秀でどちらが劣っているわけではなく、両者は得意な仕事が違う。
教師あり学習は心臓発作を予測するときに役立つ
教師あり学習をマスターしたコンピュータは、証拠に基づいて予測を行う。人が教師ありコンピュータに「このデータの場合、こういう回答になる」と教えていく。コンピュータがその教えを学習すると、次の別のデータを渡されたときに答えが出せるようになる。
「パターンを覚え込ませて、それにそって答えているだけなのではないか」と感じるかもしれないが、実はそれが「すごいこと」なのである。
例えば、新人医師が見抜けなかった患者の心臓発作の兆候を、ベテラン医師が見つけたとする。この場合、ベテラン医師は「すごい」といえる。
しかしベテラン医師が行ったことは、これまでの豊富な経験と深い知識と検査結果から、この患者の状態に似たパターンを思い出し「心臓発作が起きるかもしれない」と予測した「だけ」である。
ほぼ無限のパターンを覚え、あるシチュエーションに似たパターンを引き出してくる能力は、教師あり機械学習コンピュータの大きな能力である。教師ありコンピュータの領域では、心臓発作予測に関する研究も進んでいる。
教師なし学習は詩をつくることができる
教師なし学習は、膨大なデータの中に眠っている、人が気がつかなかったパターンを見つけ出すことが得意だ。
例えば教師なし学習コンピュータは、詩をつくることができる。
ありとあらゆる詩を教師なし学習コンピュータに覚え込ませると、コンピュータ自身が「詩とはこういうものだ」と一定の答えを出す。
その上で教師なしコンピュータに「入学式、カレーライス、バス通学の3つのお題で、300字で日本語の詩をつくれ」と命じると、詩をつくる。
そしてここが重要なのだが、教師なしコンピュータがなぜその詩をつくったのかは、教師なしコンピュータの開発者でもわからない。
教師なし学習は、人間が答えを持っていないときに役立つ。「コンピュータならどのような答えを出すだろうか」と頼りにすることができる。例えば株価予測などは、教師なし学習コンピュータの領域である。
まとめ~機械といっても歯車が回っているわけではない
「機械仕掛け」と聞くと、日本人なら歯車が回って何かが大きく動き出すイメージを持つかもしれない。
また「学習」と聞くと、子供が机に向かって参考書と格闘している姿を思い浮かべる。
だからその2つの単語をつなげた「機械学習」という言葉は、とてもアナログに感じる。しかし機械学習の実態は、歯車からから程遠い存在の最先端の技術である。
<関連記事>
人工知能を実現する機械学習とは【5分で完全理解】
<参考>
- 機械学習とは?これだけは知っておきたい3つのこと(MathWorks)
https://jp.mathworks.com/discovery/machine-learning.html#%E6%A9%9F%E6%A2%B0%E5%AD%A6%E7%BF%92%E3%81%AE%E4%BB%95%E7%B5%84%E3%81%BF%E3%81%A8%E3%81%AF - TensorFlow(LSTM)で株価予想 ~ 株予想その1 ~(Qiita)
https://qiita.com/tsunaki/items/a5f3f975a31dc45fc9c9 - 機械学習で株価は予測できるのか!?(ストックドッグ)
http://www.stockdog.work/entry/2016/11/30/225830 - 機械学習(sas)
https://www.sas.com/ja_jp/insights/analytics/machine-learning.html - 「機械学習」と「ディープラーニング」は何が違うのか?(MUFG)
https://innovation.mufg.jp/detail/id=93 - アルゴリズムってなんでしょか(国立情報学研究所准教授宇野毅明)http://research.nii.ac.jp/~uno/algo_3.htm
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