マーケティングは顧客の心を読まなければならないので、AI(人工知能)には難しいといわれていた時期もあった。しかしAIを使ったマーケティングは確実に実績をあげている。
なぜか。
もちろんAI開発が進み、マーケティングをこなせる優秀なAIが誕生したこともある。しかしそれよりも重要な要素は、買い物がデジタル化したことだ。ネット通販などのEコマースや、ネット店舗とリアル店舗を融合したオムニチャネル化は、デジタルで制御されている。
買い物がデジタル化されると、消費者動向を数値化できるようになる。つまり消費者の心を数字に置き換えることができるようになった。数字にさえしてしまえば、あとはAIに分析させることができる。
マーケティングのAI化はどこまで進んでいるのだろうか。AIがマーケティングに向いている理由を解明するとともに、実用事例を紹介していく。
続きを読むマーケティングに活用されるデータとは
AIマーケティングで使うデータは、人間のマーケターが使うデータと変わらない。客の年齢や性別や住所などの属性、アンケート結果などの意向、購入履歴やサイトアクセス履歴などの行動が主要なデータになる。
AIマーケティングと人間のマーケターが同じデータを使うのであれば、人の心の動きを察知できる人間のほうに分がありそうだ。
マーケティングの対象となる市場が小さく、データ量が少なく、さらに顧客数や見込み客数が小規模な場合、人間のマーケターのほうが圧倒的に有利だろう。
例えば個人が洋服とファッションアイテムのセレクトショップを開いていたり、レストランを数軒経営している規模のビジネスであれば、オーナーや店長やベテラン店員のほうがAIより早く確実に顧客ニーズをつかむことができる。
ではAIマーケティングが活躍できる領域はどこにあるのだろうか。
マーケティングとAIは相性がよい
AIマーケティングと人間のマーケターの差は、データ量が増えるごとに開いていく。また、解析の複雑さが増すことでも、AIマーケティングの優位性は高まる。
大手企業などはすでに通常のデータ量をはるかに上回る量のビッグデータを入手して、それを統計学的な手法を用いて分析している。
したがってマーケティングにコンピュータやインターネットなどのITは欠かせないツールになっている。
では、通常のITだけでは足りず、AIが必要になるのはどのようなシーンなのだろうか。
非AIコンピュータを使ったマーケティング
AIを搭載していないITを使ったマーケティングにはMAやCRMがある。
AIを使わなくても、マーケティングオートメーション(MA)の技術を使えば、マーケティングの各プロセスのアクションを自動化できる。例えば、セミナーの参加者から入手したメールアドレスに、自動で定期的に案内メールを送る仕組みなどがそれに該当する。
また、顧客管理システム(CRM、カスタマーリレーションシップマネジメント)という仕組みもある。これは先ほど紹介したマーケティングの3大情報である属性、意向、行動をデータ化して、顧客へのアプローチを実施するときの資料にする手法だ。CRMによって全方向性なマーケティングや漏れのないマーケティングができる。
MAやCRMの限界
個人経営のセレクトショップのオーナーは、いわばMAやCRMを自分で行っているようなものだ。ビジネスの規模が大きくなるとオーナー1人では手に負えなくなるので、ITを使って省力化効率化大規模化していく、という段取りを踏むことになる。
このとき問題になるのが、ITマーケティングでは、セレクトショップ・オーナーほどきめ細かな対応ができないことだ。
また、消費者のほうもMAやCRMによるアプローチにうすうす勘づいている。ネット通販でものを買った後に販促メールが届いても「購入時にメールアドレスを登録したのでこういった販促メールが届くのだろう」と思うだけで、そのまま削除されてしまう。
MAやCRMは当初「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる」戦略で成功を収めることができた。しかし最近は「下手な鉄砲、数撃っても当たらない」という現象が起き始めているのだ。マーケティングを外注しているクライアント企業も、MAやCRMの効果を疑い始めている。
セレクトショップ・オーナーのきめ細かさをMAやCRMに盛り込むために、AIが必要になったわけである。
AIマーケティングは高効率と好成績の両方を目指す
AIを使えば、顧客データを分析することで、顧客が購入に至るまでの行動パターンをみつけることができる。顧客の行動パターンがわかれば、マーケターは先回りしてPRをしかけることができるようになる。
AIを使えば「上手な鉄砲、数撃たなくても当たる」ようになるのだ。AIマーケティングは高効率と好成績の両方を目指している。
それでは次章で、AIマーケティングの実例をみていく。
SENSYのAIマーケティング
センシー(SENSY)株式会社(本社・東京都渋谷区)が開発したAIシステム「センシー」は、顧客1人ひとりの属性や購買履歴をもとに、顧客1人ひとりに対してマーケティングが行える。同社では「100万人のお客様に100万通りの提案をする」とPRしている。
センシーによるマーケティングの概要はこうだ。
例えば、ある洋服店が100人のリピーター客にダイレクトメール(DM)を送ろうとしていたとする。リピーター客なのでその洋服店からのDMは原則、歓迎される。しかし100人が必要とする洋服情報を郵便物のDMにすべて盛り込むことはできないので、どうしても特集を組んでDMを制作することになる。そうなると、ある客にとっては求めない情報が掲載されていることになり、別の客にとっては求める情報が載っていないことになる。
そこでセンシーに100人のリピーター客の嗜好性を分析させ、客を分類する。そうすればその分類ごとにDMを企画して郵送することができる。こうすることでDMに対するリアクションの率を向上させることができる。
この手法はDMだけでなく、カタログやチラシ、電子メール便、Eコマース、アプリ、Web広告にも応用できる。
センシーに独自開発した「予測モジュール」が搭載されている。センシーは、購入者予測、デザイン反応予測、コーディネートレコメンド、購買周期予測、購買アイテム予測、広告反応予測などを行い、顧客の感性を次々数値化していく。
予測モジュールにこれだけの種類があるので、クライアント企業が望むAIマーケティングができる。
センシーの独自性は、AIをマーケティングに使っているだけでなく、データ収集を工夫していることにある。
三越伊勢丹のAIマーケティング
センシーをいち早く導入したのが、百貨店の三越伊勢丹ホールディングスで、婦人服売り場にセンシーを搭載したタブレットを設置した。来店客がそのタブレットに自分の嗜好を入力すると、三越伊勢丹が扱っている商品のなかからおすすめの服が表示される。
センシーのAIの「教師」は、女性ファッション誌でモデルのコーディネートをしている人気スタイリストたちだ。つまりセンシー・タブレットには、スタイリストの感性が移植されているのである。
客はデパートの洋服売り場にいながら、ファッションの第一線で活躍しているスタイリストからアドバイスを受けられるのである。
メガネのJINSのAIマーケティング
ファッショナブルで値ごろ感のあるメガネを販売して急成長しているジンズ(JINS)は、メガネの似合い度を判定するAIを開発した。AIの「教師」になったのは、約3,000人の自社スタッフである。
その仕組みはこうだ。
ジンズは200種類のメガネを数百人につけてもらい、約6万枚の「メガネ顔」の写真を撮影した。その写真をクラウド上にアップして、同社の300店の計3,000人のスタッフに似合う・似合わないの評価をしてもらった。
そして6万枚の写真と似合う・似合わない評価結果の2つのデータをAIに学習させた。
客にメガネを試着してもらい、その「メガネ顔」をAIに評価させる。するとAIは例えば「マッチ度65%」といったように、メガネ似合い度を数値化する。
マッチ度の数字は、客のメガネ選びの参考になる。客が自分の好みで選んだメガネが、AI判定でも高いマッチ度を示せば、客の購買意欲は高まる。
「店員は売ろうとしてなんでも『似合う』と言う」と疑っている客に対しても、AIのマッチ度点数を示すことができれば、おすすめに説得性が生まれる。
まとめ~さらに進化すると考えると楽しみ
AIは、セレクトショップ・オーナーのきめ細かな顧客対応とITマーケティングのスケールメリットの両方を備えた優秀なマーケターになりうることがわかった。
AIがまだ発展途上の技術であり、今後さらに進化することを考えると、AIマーケティングへの期待はさらに膨らむ。「顧客を手に取るように理解できる」時代が到来するのだろうか。
<参考>
- AIのマーケティング活用の「可能性と限界」& AI検討のチェック項目
https://genesiscom.jp/ai-possibility/ - SENSY Marketing Brainとは
https://sensy.ai/sensy-mb-1 - Sensy
https://sensy.ai/company - 三越伊勢丹、AI×プロ、コーデ提案、スタイリスト連携、好み入力。
https://messe.nikkei.co.jp/js/i/news/132956.html - JINS BRAIN
https://brain.jins.com/about/
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